最新記事
語学

アプリより効果的!? テレビで英語学習がおすすめな理由

Learn Languages From TV

2023年10月31日(火)21時59分
スチュアート・ウェブ(カナダ・ウェスタン大学応用言語学教授)、エルケ・ピータズ(ベルギー・ルーベン大学応用言語学准教授)
リモコン

MAURICIO GRAIKI/SHUTTERSTOCK

<新しいツールばかりがもてはやされているけれど、古いメディアだって工夫次第で外国語の学習に活用できる>

コロナ禍で大学や語学学校が閉鎖になった頃、外国語学習者は新しい勉強法を見つける必要があった。そこで応用言語学者が注目したのが、英語を学ぶためにテレビを頻繁に見るという古くて新しい方法だ。

調査によれば、外国語のテレビ番組を見ることで、語学を学ぶモチベーションを高められる。国際的なプロスポーツの世界でも、多くの選手や監督が外国語の上達にテレビが大いに役立ったと語っている。

これまでテレビが語学学習に果たす役割は、意外にもそれほど評価されていなかった。

だが私たちの研究で、学習者はテレビを通じて新しい単語やフレーズを学んでおり、その学習量は読書からの学習に匹敵する可能性があることが示された。さらに最近は、テレビを見ることで理解力や発音、文法の力を高められることを示す証拠も増えている。

外国語のテレビ番組をよく見る学習者は、読解やリスニング、語彙力に優れている傾向があることも明らかになっている。これは小学生から大学生に至る学習者だけでなく、まだ英語教育を受けていない幼い子供にも当てはまる。

また、2つの言語を話す子供たちを対象にした研究によれば、テレビ視聴には熟達度の低いほうの言語の語彙力を高める効果があるという。

多言語主義を推進するEUの欧州委員会が外国語の習得とテレビなどの字幕使用の関係について行った調査によると、外国語のテレビ番組や映画を字幕で放映する国や地域(スウェーデンやデンマーク、ベルギー北部のオランダ語圏など)では、吹き替えで放映することが多い国(フランスやドイツなど)よりも外国語の習得が進みやすく、学習へのモチベーションも高かった。

4つの戦略で効果を上げる

テレビ番組を見るだけで外国語の習得に役立つという研究もあるが、初級の学習者は番組内容を理解するのが難しいだろう。難易度に応じて選びやすい絵本や書籍のほうが言語教育でよく使われるのは、そのためかもしれない。

テレビの効果を最大限に高め、学習者がテレビを介して学び続けるにはどうすればいいか。ここでは4点を挙げたい。

まず、第2言語でテレビを見る目的は、第1言語と同じであるべきだ。それは情報を得ることと、楽しむこと。全ての単語やフレーズ、文章を理解する必要はない。学習者が「もっと見たい」と思えるくらいまで理解できれば十分。言葉に触れる機会が増えるにつれて、理解力は向上していく。

第2に、頻繁なテレビ視聴を学習の中心にすること。インプットから得られる効果は往々にして非常に小さいが、その回数が増えれば効果が蓄積されて意味あるものになる。

つまり、テレビを1時間見ただけでは得られるものは少なくても、その1時間が積み重なれば差が出てくるということだ。テレビを手当たり次第に見るのは、外国語の習得には非常に効果的だ。

第3に、初級者は番組の内容を理解するのが難しいため、学習をサポートする方法を考えること。例えば、最初は母語の字幕付きで、次に第2言語の字幕で、そして最後に字幕なしで見るという段階を踏めば、理解力を高めることができるだろう。

1つのエピソードを繰り返し見るのもいい。同じ番組を何度も見ると理解が深まり、外国語学習にプラスになるという研究結果がある。1本の映画を繰り返し見た子供たちが、新しい単語やフレーズを身に付けていることに気付く親も多いだろう。

最後の戦略は、1つの番組を第1話から順に見ること。互いに関係のないドラマを何本も見るより、作品を絞って順を追って見るほうが、登場人物やストーリーを深く理解できる。使われている語彙の範囲が狭くなる点も、外国語学習には効果的だ。

独学で外国語を学ぶ方法はほかにもたくさんある。オンラインアプリの練習問題をやってもいいし、ビデオゲームで遊ぶのもいい。

語彙を増やすには、どんな形でもいいから自分が楽しめる方法で外国語に触れることだ。外国語のテレビ番組を頻繁に見れば、大量のインプットを浴びられる。

テレビを楽しみながら外国語も身に付くなら、まさに一石二鳥だ。

The Conversation

Stuart Webb, Professor of Applied Linguistics, Western University and Elke Peters, Associate professor, Research group Language, Education, & Society, KU Leuven

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

20240903issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月3日号(8月27日発売)は「日本と世界の不動産大変動」特集。高騰する日本の不動産市場の未来は?/海外不動産投資のメリット・デメリット/世界各国の不動産「最新事情」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

8月東京都区部消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.

ビジネス

ティッセンクルップ鉄鋼子会社、経営首脳陣がそろって

ビジネス

エヌビディア株6%安、業績予想に失望感もAIブーム

ビジネス

オープンAI、チャットGPT週間利用者2億人超 昨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本と世界の不動産大変動
特集:日本と世界の不動産大変動
2024年9月 3日号(8/27発売)

もはや普通の所得では家が買えない──日本でも世界でも不動産が激変の時を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 2
    Number_iの3人は「めっちゃバランスがいい」──デビュー曲から作詞を担当するラッパーPecoriが明かすメンバーの関係性
  • 3
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_iにはめちゃくちゃ可能性を感じている」
  • 4
    小池都知事は「震災時の朝鮮人虐殺」を認める「メッ…
  • 5
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 6
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 7
    不動産大手への集中が招いた中国バブル崩壊
  • 8
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙…
  • 9
    【全国1万人調査】金融資産「1億円以上」3%、株式投…
  • 10
    日本列島を北上か、「ライブ進路予想図」で台風10号…
  • 1
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじい攻撃」で燃え続けるロシアの弾薬庫を捉えた映像が話題に
  • 2
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 3
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...クラスター弾が「補給路」を完全破壊する映像
  • 4
    ドードー絶滅から300年後、真実に迫る...誤解に終止…
  • 5
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
  • 6
    ロシア本土を直接攻撃する国産新兵器をウクライナが…
  • 7
    「砂糖の代用品」が心臓発作と脳卒中のリスクを高め…
  • 8
    黒澤映画の傑作『七人の侍』公開70周年の今、全米で…
  • 9
    誰も指摘できない? 兵士の訓練を視察したプーチンの…
  • 10
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 5
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 8
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 9
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 10
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中