最新記事
ドラマ

あの『推定無罪』をアップデート...34年前の「白人男性の迫害妄想」系映画とは何が違う?

Updating “Presumed Innocent”

2024年7月4日(木)14時34分
ローラ・ミラー(コラムニスト)
ジェイク・ギレンホール演じるラスティ・サビッチ

検事補のラスティ(中)は元不倫相手の殺人容疑で裁かれる立場に APPLE TV+

<原作小説を再解釈したジェイク・ギレンホール主演のアップルTVプラス版。時間制限に縛られないドラマ形式のおかげで、より多くの伏線やひねりが盛り込まれている(作品レビュー)>

ハリウッドではやりの「白人男性の迫害妄想」系映画の1つ──米作家スコット・トゥローのベストセラー小説を、アラン・J・パクラ監督が映画化した法廷ミステリー『推定無罪』は1990年の公開当時、そんな印象を与えた。

こうしたトレンドの「顔」だったのが、俳優マイケル・ダグラスだ。『危険な情事』(87年)で一夜の遊びのつもりだった相手にストーキングされ、『ディスクロージャー』(94年)で上司の女性からセクハラを受け、『氷の微笑』(92年)ではセクシーな連続殺人犯に脅かされる白人男性を演じていた。


ハリソン・フォードが主演した『推定無罪』は、より評判が高く上品だったが、前提となる設定は当時ならでは。

だから、有名プロデューサーのデービッド・ケリーが原作小説をアップルTVプラスのドラマとして新たに映像化するという決断は、それ自体がミステリーだった(6月12日から配信開始)。

原作も映画版も、ヒットしただけの理由があるのは確かだ。トゥロー作品の多くと同じく、物語はスイス製腕時計のように乱れなく進み、主人公のシカゴの地方検事補ラスティ・サビッチ(ジェイク・ギレンホール)を無慈悲なペンチのように締め付けていく。

その発端は、ラスティの同僚キャロリン・ポルヒーマス(レナーテ・レインスベ)が無残な他殺体で発見された事件だ。上司である地方検事レイモンド・ホーガン(ビル・キャンプ)は、ラスティが捜査を担当するよう主張する。

地方検事職の選挙が迫るなか、ホーガンは対立候補のニコ・デラ・ガーディア(O・T・ファグベンル)相手に苦戦中。仲間を襲った犯罪にも揺るがない姿勢をアピールするため、最優秀の部下を捜査に起用する必要があった。

最初のうち、ラスティはためらうが、自分以外の選択肢は才能で劣るトミー・モルト(ピーター・サースガード)だ。ラスティは会議で「私はトミーより優秀だ」と断言する。モルトの目に恨みが宿ることに気付かないまま......。

この人選の問題は、ラスティがキャロリンと不倫関係にあったことだ(2人は事件の数カ月前に別れていたが)。

ホーガンが選挙で敗れた後、デラ・ガーディアとモルトはラスティに攻撃の矛先を向ける。事件直前、キャロリンに執拗に連絡していたことが判明し、ラスティは殺人容疑で裁判にかけられる。

より時間に制限がないドラマ形式のおかげで、本作はより多くの偽の伏線やひねりを盛り込むことができている。さらに、物語の根底にある意味合いがアップデートされ、キャストも多様化している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ヨルダン川西岸で大規模作戦 10人死亡

ワールド

ロシア、米国の記者ら92人を入国禁止 「偽情報」拡

ワールド

イスラエル中銀、金利4.50%に据え置き 年内引き

ワールド

ウクライナ、制圧ロシア領「一定期間」維持 反撃困難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本と世界の不動産大変動
特集:日本と世界の不動産大変動
2024年9月 3日号(8/27発売)

もはや普通の所得では家が買えない──日本でも世界でも不動産が激変の時を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 2
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_iにはめちゃくちゃ可能性を感じている」
  • 3
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじい攻撃」で燃え続けるロシアの弾薬庫を捉えた映像が話題に
  • 4
    越境攻撃で東部ドネツクの前線に穴?ロシア軍が要衝…
  • 5
    【クイズ】中国で1番売れている日本車を作っているメ…
  • 6
    【新展開】町長が実は中国人だった?...フィリピンを…
  • 7
    HSBCが熱い視線を注ぐ「準富裕層」とは
  • 8
    1カ月で17.1%へ...中国「統計手法を変えたのに」若…
  • 9
    「カジュアルな装い」で歩くエムラタが、通りすがり…
  • 10
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
  • 1
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじい攻撃」で燃え続けるロシアの弾薬庫を捉えた映像が話題に
  • 2
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...クラスター弾が「補給路」を完全破壊する映像
  • 3
    ドードー絶滅から300年後、真実に迫る...誤解に終止符を打つ最新研究
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    ロシア本土を直接攻撃する国産新兵器をウクライナが…
  • 6
    「砂糖の代用品」が心臓発作と脳卒中のリスクを高め…
  • 7
    黒澤映画の傑作『七人の侍』公開70周年の今、全米で…
  • 8
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 9
    誰も指摘できない? 兵士の訓練を視察したプーチンの…
  • 10
    <南シナ海>中国の違法な軍事拠点を守る世界最大の…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 5
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 8
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 9
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 10
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中