パルスジェット
パルスジェット(pulse jet) は、間欠燃焼型のジェットエンジンである。単純な構造のため、簡素で効率の良い熱供給源として給湯器などに応用されている。かつてはミサイルや航空機の推進装置として実用化されたこともあった。
構造が単純なため、少々のDIYの知識がある人なら、ホームセンターで売っている材料で基本構造を簡単に製造することが出来る[1][2]。
燃焼速度が音速を超えて爆轟を形成する場合、パルスデトネーションエンジンと呼ばれ、燃焼過程が等容・断熱的であるために高効率を達成できるとして、近年注目を浴びている。
構造
一般的な構造では吸気口の前にシャッターがあり、吸気後、シャッターが閉じて燃焼ガスを後方から噴射する。吸気口は狭く、燃焼室が広がっており、ノズルが狭くなっているのが必須の構成要素である。この形状には、爆発の衝撃波が燃焼室後部で反射して吸気を圧縮する作用があり、これは2ストロークエンジンのチャンバーと同様の原理である。チャンバーの場合は反射した衝撃波は掃気ポートを経由して、シリンダーまで押し戻される。しかしパルスジェットエンジンの場合、反射した衝撃波が吸気口付近に到達して吸気が圧縮された時点で(吸気に燃料を噴射された混合気が)爆発する。シャッターの役割は爆発時の圧力を前に吹きこぼさず有効に活用することと、飛行機などに使用した場合、シャッターが閉じている時はシャッター前方で吸気が若干圧縮されることである。このため推力を犠牲にすればシャッター無しでも動作は可能である。
エンジン全体がU字型をした、シャッターの無いバルブレスパルスジェットエンジンもある。一種の流体素子である。
歴史
最初のパルスジェットエンジンはスウェーデン人のマーティン・ウィベリ (Martin Wiberg, 1826-1905) によって考案されたが、彼の業績の下では商業的に成功したものは無い。
第二次世界大戦時、ドイツのV-1ミサイル、ドイツ空軍の試作機メッサーシュミット Me328に使用された。V-1に採用されたパルスジェットエンジンは、構造が簡単な為、大量生産に適していた。しかしターボジェットエンジンに比べると圧縮率が低いため、燃費の割に推力が低く、またシャッターを閉じている間はエンジンそのものが非常に大きな空気抵抗源となるため、性能が低かった。V-1は当時のレシプロ機よりも遅い速度しか出せなかっため、イギリス空軍のレシプロ戦闘機に容易に迎撃されている。
ガスタービンを使用したジェットエンジンが「キーン・ゴーーー」という音を発するのに対し、パルスジェットエンジンは「バンバンバン・ブィィーーーー」という非常に独特の、チャンバー付き2ストロークレシプロエンジンをごく低回転で回したような音を発して飛行する。イメージとしては、F1マシンの様なレーシングカーがこの音に近く、空高くけたたましく響かせ飛行するV-1ミサイルは、まるでサイレンでも鳴らしているかのように聞こえ、当時のロンドンっ子達を恐怖のどん底に陥れた。
応用例
最近ではエンジンとしてではなく、簡素で効率の良い熱供給源として給湯器やフライ揚げ機[3]に使用されている。具体的には、パルスジェットエンジンの排気を細管に導入して水や油を暖める仕組みである。このような用途では、「パルス燃焼器」または「パルス燃焼バーナー」と呼ばれることが多い。
パルスジェットエンジンは、混合気が圧縮されて爆発するため通常の燃焼よりも効率が良い。また、排気に圧力があるので送風機が不要であり、パルスジェットエンジン自体の構造の簡便性と相まって、非常に簡素な構成となる。同様に熱効率の良さを利用して、フロンガス等の熱分解にも研究が進められている。
外部リンク
- ^ 個人製作のパルスジェットエンジン(YouTube個人映像より)
- ^ パルスジェットエンジンの製作
- ^ フライ揚げ機への応用(パロマ)