コラム:AIブームに陰りか、膨大な投資が実を結ばない恐れも

コラム:AIブームに陰りか、膨大な投資が実を結ばない恐れも
 7月17日、人工知能(AI)ブームはついに陰りが出てきたかもしれない。写真はAIのイメージ。2023年6月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)
[オーランド(米フロリダ州) 17日 ロイター] - 人工知能(AI)ブームはついに陰りが出てきたかもしれない。
もしそうであるなら、株式市場で最近見られるようになった巨大ハイテク企業から小型株に資金が移動する動きは急加速する可能性がある。問題は、これらの出遅れ銘柄の堅調さが市場全体を支えるのか、それともAI関連銘柄の売りが株価指数をマイナス圏に沈ませてしまうかだ。
第2・四半期の決算発表シーズンでハイテク企業から好調な業績や楽観的な見通しが示されれば、AIと半導体に絡む全ての株に対する強気論が再燃するだろう。
だが既に跳ね上がっている期待値に届かなければ、S&P総合500種(.SPX), opens new tabにおけるウエートの3割強、年初来上昇率のおよそ3分の2を占めてきた超大型7銘柄「マグニフィセント・セブン」は、大きなリスクにさらされる。
米大統領選共和党候補のトランプ前大統領が返り咲けば、米中貿易戦争がエスカレートする恐れがあることも、全体として米国に拠点を置く小型株に追い風となる。投資家はその光景を垣間見ることもできた。
12日の市場では、半導体大手エヌビディア(NVDA.O), opens new tabを含めたマグニフィセント・セブンの上場投資信託(ETF)の下落率が4.4%と、昨年4月の立ち上げ以降で最大の下げを記録。対照的に小型株で構成するラッセル2000(.RUT), opens new tabは、リスク調整後の1日の上昇率が過去最大となり、ナスダック総合に対するアウトパフォームの度合いも過去3番目の大きさだったことが、バンク・オブ・アメリカの分析から分かる。
10日に発表された米消費者物価指数(CPI)が予想外に鈍化して以来、ラッセル2000は10%上がったが、マグニフィセント・セブンのETFとニューヨーク証券取引所の「FANG+(ファングプラス)指数」はいずれも5%余り下落。S&P総合500種もマイナスになっている。
ここで浮上するのは、裸の王様の寓話に出てくる本当は存在しない「新しい服」のように、AIブームも実体がないのではないかという疑問だ。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授は5月、以前に記したAIの経済効果に関する専門的な論文を簡潔にまとめた「AIの誇大広告を信じるな」というコラムを発表。AI技術が向こう10年でもたらす生産性押し上げ効果は全体でも0.53%、年間ベースではわずか0.05%にとどまるとの推計を示している。
アセモグル氏が今後10年で予想する生産性と国内総生産(GDP)の押し上げ効果それぞれ約0.5%と1%は、ゴールドマン・サックスのエコノミストチームがはじき出した約9%と6%に比べてかなり低い。
<費用対効果>
アセモグル氏の知見は、ゴールドマンが6月25日に公表したAIの経済効果を巡る肯定派と懐疑派の意見を分類したノートに含まれている。
ゴールドマンのエコノミストチームの中で、グローバル株式調査責任者のジム・コベッロ氏は他の同僚よりもずっと懐疑的。今後数年でデータセンターや電力施設、アプリなどのAI関連インフラに1兆ドル超が投資されると認めつつも、重要な問題はその投資が有効かどうかだという。
コベッロ氏は「低賃金労働を極めて高いコストの技術で置き換えるというのは、私がハイテク業界の動きを注視してきた30年間に起きたこれまでの技術移行とは基本的には対極にある」と語る。
同氏によると、AIをインターネット創世記と比べるのも間違っている。インターネットは誕生間もない時期からコストが低い技術であり、電子商取引を通じて実店舗などが抱えていた高コストの構造を改革する上で役に立った。
また同氏は、スマートフォンにGPSを組み込む例を挙げ、2000年代初頭には、これを広く展開するためのテクノロジーは存在していなかったが、「ロードマップ」は存在していたし、他のテクノロジーが最終的にどのようなものを提供できるかというロードマップも、最初からあったと説明する。
そしてAIにこうしたケースが該当するかと言えば「生成AIの登場から18カ月を経ても、コスト(削減)効果は言うまでもなく、本当に革新的なアプリは1つも見つかっていない」と主張した。
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<潮目変わるか>
コベッロ氏はウォール街でAIを巡る熱狂にはっきり異を唱える数少ない専門家だが、今週になってブリッジウォーター元幹部でアンリミテッド・ファンズの最高経営責任者(CEO)を務めるボブ・エリオット氏が援軍として現れた。
エリオット氏の見立てでは、最も楽観的なシナリオに沿ったとしても、S&P総合500種企業が増大するAI関連投資と経済に幅広く浸透する生産性の向上によって得られるメリットは、ささやかだという。
このシナリオによると、S&P総合500種全企業によって32年までに合計1兆3000億ドルがAI向けに投資される結果、売上高伸び率は4%から6.5%前後に切り上がる。32年までにこれらの企業が得る増益額はおよそ6500億ドル、名目ベースで25%前後の伸びとみている。
8年先までの利益を予想する難しさを無視するとしても、S&P総合500種の時価総額は現在より10兆ドル程度増える計算だ。
エリオット氏は「これはかなり限定的な効果で、ゲームチェンジャーではない。恐らくは昨年夏のAIブームでもう全面的に織り込まれた公算が大きい」と述べた。
投資家もゆっくりとこうした意見に同調しつつあるのではないか。バンク・オブ・アメリカが実施した7月の機関投資家調査では、AIブームをバブルとみなす割合が5月から5ポイント増えて43%に達し、バブルではないと答えた割合は50%強から45%に減った。
ただ市場の地合いを最も大きく変えるのは株価であり、これだけ買いが集中してきたAIブームがもはや潮時になったと投資家が納得するには、今までよりもずっと大きな相場の反落が必要になるだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie