人気ミュージシャンたちが猛反発、レコード会社のTikTok戦略にNo! 

ホールジーやFKAツイッグス、フローレンス・ウェルチなどの人気ミュージシャンたちが、レコード会社のTikTokを使ったプロモーション活動に猛反発。新作リリースや創作活動の邪魔をしていると抗議し、物議を巻き起こしている。
Image may contain Halsey Clothing Apparel Human Person Lingerie Underwear and Fashion
iHeartRadio Music Awardsに出席したホールジー。2022年3月22日、米ロサンゼルスで。Courtesy of Emma McIntyre via Getty Images.

いまやTikTokは、音楽業界にとってなくてならない存在だ。2022年に入ってもその人気は増すばかりで、今年最もダウンロードされたアプリと言われている。そんななか、多くのアーティストたちが、レコード会社にプロモーションの手段として、TikTok動画のバイラル化を強要されたと訴えている。

TikTok動画のバイラル化がリリースの条件

5月22日(米現地時間)、ホールジーは新曲リリースのプロモーションとして、TikTokを使うよう強要してきたレコード会社のやり方に抗議するTikTok動画を投稿した。

TikTok content

This content can also be viewed on the site it originates from.

自身の曲が流れる無言動画のなかで、ホールジーは「今すぐにリリースしたい新曲があるのに、所属レーベルがそれを許してくれません」とメッセージを表示。キャリア8年で、1億6500万枚以上を売り上げた実績に触れ、「TikTokで曲をバイラル化させない限り、リリースさせてくれないのです」と、マーケティングに重きを置くレコード会社のやり方に苦言を呈した。

ホールジーの数日前には、FKAツイッグスも同様の不満をぶちまけていた。すでに削除されたTikTok動画で彼女は、「所属レーベルが欲しいのはTikTok動画だけのようです。私は努力がまだ足りないと言われました」と綴った。

『DAZED』によると、FKAツイッグスのTikTokでの存在感はここ数週間で著しく高まっているものの、楽曲に関する投稿は減ったという。そのかわりに増えたのが、TikTokアプリを開くと最初に表示されるFor Youページ(レコメンドページ)に上がってくるような、音質の悪い動画投稿。楽曲やライブパフォーマンスを丹念に作り上げるアーティストの動画としては、少し異質なアプローチといえるだろう。

業界のTikTok戦略に不満を持つミュージシャンがもうひとりいる。イギリス出身のシンガーソングライター、フローレンス・ウェルチだ。3月22日(現地時間)、ウェルチは「所属レーベルが簡単なTikTok動画を投稿するよう私に懇願してきました。はい、どうぞ。誰か助けて」というキャプションとともに、アカペラ動画を投稿していた。この動画がきっかけで彼女のアカペラ動画の人気に火がつき、後日ウェルチは「裏目に出てしまいました」とキャプションを付けて、もうひとつのアカペラ動画を投稿している。

いっぽう、同様の不満をにおわせる動画を投稿したチャーリーXCXは、数日後に無表情なセルフィーとともに「冗談のつもりで嘘をついてしまいました」とツイートし、前言を撤回した。

なかには、こうした一連の不満動画さえも、レコード会社に強要されて投稿したバイラル動画だと勘ぐる陰謀論者もいる。このような意見に対し、ホールジーは所属レーベルとのミーティングを録音したと思われる音声をTikTokに投稿した。さらにツイッターで、「TikTok自体に文句があるわけではありません。私はすでにTikTokをやっていましたから!」と反論。そのうえで、「レーベルから再生回数や拡散数が一定数に達しない場合は、新曲はリリースできないと言われました」と暴露し、怒りをあらわにした。

ベテラン・新人問わず、影響を及ぼすTikTok

音楽業界のTikTok依存については、以前アデルも言及していた。昨年11月に公開されたゼイン・ロウによるインタビューで、アデルは最新アルバム『30』の制作中にレコード会社から、ティーンの関心をひくためにTikTok用の楽曲を作るよう迫られていたことを告白している。その際アデルは、自身の年齢層にあった曲作りをすべきだとレコード会社を説き伏せたというが、アデルのような関係をレコード会社と維持できるアーティストはごくひと握りだ。

レコード会社のTikTok戦略は、新進気鋭のアーティストたちの創作活動にも影響を及ぼしている。ラスベガスを拠点に活動するシンガーソングライターのシジー・ロケットもそのひとり。レコード会社から人気ミュージシャンへの楽曲提供の依頼ばかり舞い込み、いっこうに自身のソロプロジェクトが進展しないことに、ツイッターで不満をもらしている。その理由は、「TikTokのフォロワー数が足りないこと」だ。

ミュージシャンでありプロデューサーのSaluteは、問題はTikTokではなく音楽業界の慣習にあると分析する。「業界が芸術に対する姿勢を変えない限り、たとえTikTokがなくなったとしても問題はなくならないと思います」とツイートしている。

RCAレコードのヴァル・ペンサは『Variety』に対し、「マーケティングはエンターテインメントとは切っても切れない存在です。音楽に親しみを持ってもらうという意味で、TikTokはかつてクラブで行われていたプロモーションと何ら変わらないのですから」と話している。

ファンがいち早く情報を知り、アーティストたちが何を発信するか。TikTokがその両側面で大きな影響をもたらしているのは明らかだ。

From: GQ US Adapted by Etsuko Yoshikawa