My Favorite Movie

『ロッキー』──あの映画をもう一度

ボクサー映画一本、と言われたら、やっぱりコレ。
『ロッキー』──あの映画をもう一度

ボクサー映画一本、と言われたら、やっぱりコレ。

文:石原 隆(フジテレビジョン・ドラマ制作担当局長)

Rocky (1976)Directed by John G. Avildsen Shown from left: Sylvester Stallone (as Rocky Balboa), Carl Weathers

フジテレビに入社してドラマ制作を担当し始めたのは、今から25年ほど前のことです。初めて担当したのは「スケバン刑事」というドラマでした。右も左もわからない僕に、いろいろな先輩がいろいろなアドバイスをしてくれました。役にたつアドバイスもあれば、納得のいかないものもありました。

でも、なにせ初めての経験なので、多くは貴重なものだったと記憶しています。数ある助言のなかで、いまでも強く記憶に残っているものの一つに、こういうのがありました。

「詐欺師とトランペット吹きとボクサーが主役のドラマは当たらない」

この3つの職業(詐欺師は正確には職業ではありませんが)に一体どのような共通点があるのか当時も今も僕にはまったくわかりません。このアドバイスをしてくれた方はかなりベテランのプロデューサーだったので、きっと長い経験からこの深遠な真理にたどり着いたのでしょう。

しかし、僕は不思議に感じました。

トランペット吹きはともかくとして、詐欺師とボクサーを主人公にした、すくなくとも劇場映画の傑作はたくさんあるではないか。そして、詳しくは知らないが、それらを主人公にした映画のいくつかは興行的にもヒットしたと聞いたこともある。

詐欺師の映画で僕が好きなのは『ペテン師とサギ師 だまされてリビエラ』とか『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ペーパー・ムーン』も一応主人公は詐欺師ですね。でもトドメはやはり『スティング』でしょう。

一方、ボクサーものですが、こちらは数え上げたらキリがないほど名作がたくさんあります。ちなみに2007年にAFI(アメリカ映画協会)が選んだ「アメリカ映画ベスト100」では4位に『レイジング・ブル』が入ってました。1位『市民ケーン』、2位『ゴッドファーザー』、3位『カサブランカ』の次ですからね。ものすごい評価です。

Rocky (1976)Directed by John G. Avildsen Shown from left: Talia Shire, Sylvester Stallone (as Rocky Balboa)

しかし、ボクサー映画一本、と言われたら、僕はやっぱり『ロッキー』をあげるでしょう。あまりにも有名なこの映画を僕は高校生の時に観ました。その印象は、なんてストレートなストーリーなんだ、というものでした。後に知ったことですが、この企画は主演のシルベスター・スタローン自身によって制作プロダクションに持ち込まれました。

彼は当時、売れない役者でポルノ映画に出たり、オーディションを受けては落ちたり、ヤクザの用心棒まがいの仕事をしたりと、まさに映画の中のロッキーそのもののような生活をしていたそうです。ロッキーが「15ラウンド終わってまだリングに立っていたら、ただのチンピラでないことが証明できる」と言ったように、この映画を成功させればどん底から這い上がることができる、と考えていたことでしょう。

ストレートな物語の中に観客を惹きつけて離さない何かがあるとすれば、スタローン自身のスピリットがロッキーに乗り移っていたからかもしれません。

当初、プロダクション側はポール・ニューマンやアル・パチーノのようなビッグ・スターをロッキー役に考えていたようですが、企画を持ち込んだスタローンは最後まで譲らなかったそうです。

3年後、今度はスタローン自身が監督を務めた『ロッキー2』が公開されました。

たまたま、地元の名画座で「ロッキー・フェスティバル」なるものをやっており、僕は「2」を観ていなかったので出かけていきました。要するに『ロッキー』と『ロッキー2』の2本立てをやってるというだけなんですけど。朝一の回に劇場に入り、座席に座り、暗くなって、緞帳が開き、上映が始まりました。すると、朝一の回なのに、なんと『ロッキー2』が始まったのです。僕はパート1を観ていたので問題ないのですが、満員の劇場の中には両方初めての人も沢山いたはずです。いきなり『ロッキー2』から見せるフェスティバルどうなの? と思いながら「2」を観させていただいたのをよく憶えています。

僕は「スケバン刑事」以降、たくさんのドラマの担当をしました。あの先輩の助言は正しかったのか、未だ証明されていません。僕自身は一本だけボクサーを扱ったドラマを担当しました。視聴率的には成功したとは言えない番組でしたが、今でも最も好きな作品のひとつです。