ひとり時間が自分に自信をくれる。TikTok発のトレンド“ソロデート”とは?

スマートフォンをオフにし、ソロ活の時間を意識的にとる人たちが増えているという。TikTokでも、ひとりで映画やディナー、旅を楽しむ姿を投稿するハッシュタグ#solodateが注目されている。セルフケアの最新トレンドを英版『GQ』が取材した。
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Alexander Spatari

数年前、転職する前にできた仕事と仕事の間のタイミングに、私は初めて(そして今のところ唯一の)一人旅をした。カフェ読書をし、美術館を訪れ、好きな曲を聴きながら街を散策する。ゆっくりとリラックスした週末を伊ヴェネツィアで過ごしたのだ。旅行を終え帰宅すると、自分の中に“ひとりであること”の自信のようなものを感じた。もっといろいろなことをひとりで楽しめそうな気がしたのだ。映画をひとりで見て、ランチをひとりで食べ、ワークショップにもひとりで申し込んでみた。ソロ活をやればやるほど、自分自身との結びつきが深まり、どんどん自信がついた。独りよがりでカッコつけているように聞こえるかもしれない。でも、本当にそうなのだ。

「ソロ活」や「おひとりさま」という言葉はよく耳にするが、TikTokでは「ソロデート」というコンセプトが流行しつつある。ハッシュタグ#solodateは、すでに再生2億回を超えている。ソロデート動画の多くが「これをきっかけにソロデートしてみて!」「ソロデートはベストなデート」と語り、ひとりで出かけることの素晴らしさを熱弁している。ソロデート動画にはパターンがあり、ユーザーのソロデート(映画や買い物、美術館、レストランなど)に密着するというものが多い。BGMもあれば、「自分を知る唯一の方法は自分と時間を過ごし、自分が本当は何が好きなのかを考えてみること」などのナレーションが入っているものもある。

ネットにおけるソロデートのトレンドは、セルフケア(自分がストレスを感じていることに気づき、それに対処すること)が注目された流れもあるが、最も大きいのは、ジュリア・キャメロンの著書『ずっとやりたかったことを、やりなさい』(原題:The Artist’s Way)がTikTokで流行っている影響もあるだろう。キャメロンは、本の中でクリエイティビティを強化、または再燃させるために、アーティストにひとりで“アーティスト・デート”をすることをすすめている。これによって、アーティストはイマジネーションとインスピレーションが補われ、満たされるのだとキャメロンは語っている。一般の人のソロデートも、その人が“自分であること”への自信を補ってくれる行動なのだと言っていいのかもしれない。

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ソロデートを“瞑想”として日々の予定に組み込む

「自分自身との関係を重要視することによって、人生には学べることがあります」。そう語るのは、社会学者で性心理療法士のジョーダン・ディクソン。「自分とロマンティックな時間を過ごすことで、うちなる自分を見つめ、より結びつきを強める助けとなります」

ソロデートは、流行する「TikTokセラピー」のひとつの形であり、「愛着理論」がネットで新しく生まれ変わったものだと、ディクソンは考えているという。自分の愛着スタイル(不安タイプ、回避タイプ、無秩序タイプなど)が、自分への信頼度や、他者との関係にどれほど影響を与えているのかを読み解いていくことで、自分に自信がつき、気持ちが安定していく。ひとりで時間を過ごすこと、つまりソロ活に居心地のよさを感じるようになることは、その初めの一歩となる。「より深いところで自分を認め、理解していくことによって、自分が必要とするものや思うことを他者に投影するのではなく、他者をありのままに受け入れられるようになります」

イギリス中部のダービー出身の22歳、タマンナ・カウルがソロデートを始めたのも、ディクソンが説明したような考えがあったからだ。カウルのソロデートは、“瞑想の時間”として日々のスケジュールに組み込まれている。2021年、1年間を誰とも付き合わずシングルで過ごすという目標を、カウルはたてた。英版『GQ』の取材に、カウルはこう語ってくれた。「自分のことを深く見つめ、理解し、本当の自分でいられるようになりたいと思いました。だから、誰かと付き合ったり、“誰かのための自分”でいたりするのは、やめようと思ったんです」

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カウルは週に一度、夕焼けをひとりで眺める「ミニソロデート」を行う。そして、月に一度は「ソロデートデー」として、さまざまなアクティビティにひとりで挑戦する。ソロデート中は、スマートフォンを見ないのが彼女のルールだ。「自分自身に完全に向きあえる状態にしておかないと、つい、ほかに意識が向いてしまいます。(ソロデートの時間は)日々の細々したことはすべてオフにして、自分と向き合うチャンスの時です。デートのあとは、いつも幸福感と愛情にたっぷり満たされた気持ちになります」

TikTokのハッシュタグ#solodateを見ていると、セルフケアムーブメントと同じく、投稿している人の多くは女性である。「男性は、セルフケアをほかの方法で表現していると思います、たとえば、ゲームをするとか」。そう語るのは、イギリス南部ボーンマス在住の男性、25歳のコリン・アルフレッドだ。彼は、先日ひとりで映画を見に行ったソロデート動画をアップ。「男性の中には(ソロデートは)男らしくないと考え、投稿しない人もいるかもしれません。僕自身はまったくそうは思いませんけどね。自分ひとりで楽しく自信を持っていられる。これほどパワフルなことはないと思いませんか?」

アルフレッドには、カウルのようなソロデートの定期スケジュールはない。ただ、数カ月に一度程度の割合で、多忙な予定から抜け出し、ひとりの時間を作るようにしているという。「ひとりで楽しく時を過ごすのは満足度が高いです。バーンアウト予防にもなるし、肩の荷をおろすチャンスにもなります」

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“ロマンティック”を恋愛に限定せず、拡大解釈

イギリス東部のリンカンに最近引っ越したという29歳のスティーヴン・マッケルは、2週に一度のソロデートが新しい街を散策するのに最適だという。マッケルのソロデートには映画や食事が多いが、今計画しているのはレイジルーム(施設内のものを好きに壊してもいいという破壊系エンタメ)でのソロデートだ。「べつに怒りが溜まっているというわけではなくて、ひとりデートには最高の計画だと思うので、行ってみたいなと」

人の輪の中にいることが時に苦痛に感じるというマッケルには、ソロデートが最高の休息になるのだそう。「僕は、もともと出かけるのが面倒くさいと思うインドア派なんです。なのでソロデートは僕にとって最高のセルフケアですね。他人のことばかり気になって、自分のことはほっておきがち。いっぽう、ソロデートは、自分の幸せやメンタルだけを考え、自分のためだけに動くことができます」

Ippei Naoi

自己投資の時間を大切にするのは、これまでさんざんメディアや社会が吹聴してきた“恋愛関係に全コミットすべき”という考えに変化をもたらすだろう。「ロマンティックという言葉を恋愛関係に限定せず、意味を拡大して解釈していけばいいと思います」とディクソンは言う。「その拡大された解釈には、恋人とのロマンティックな時間と同じレベルでソロロマンスも含まれます」

セルフラブ、自己愛というものを完璧にマスターするのは容易ではない。定期的なソロデート以上のものが必要になるだろう。ただ、ひとりの時間を楽しみ、自分を深く知ろうとすることは正しい一歩だ。たとえ、自分を心からは愛せないという結論に至ったとしても、理解しようとした満足感は残るだろう。

From: British GQ Adapted by Soko


バーンアウト
限界まで働いて疲れたなら、休息を取って自分をいたわろう。