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なぜ、多年生穀物は重要なのか?

内田 義崇
多年生穀物であるカーンザは、一年生穀物よりも長い期間、その農地に根差し続ける。その選択によって、多年生農業の農地は、草原のような生態系が構成されていく。 Photo: Amy Kumler

エネルギーを大量投入して生物多様性を喪失してしまう近代農業。その解決策として注目される多年生穀物は、毎年耕す必要が無く、環境を再生する食料生産の鍵を握っている。

私たち北海道大学とパタゴニア日本支社は、2022年から日本国内での多年生穀物カーンザの生育試験を開始した。なぜ、カーンザや多年生穀物が期待され、注目を集めるのだろうか。壮大で多年なビジョンを実現するための手段として世に現れたカーンザ。このポテンシャルをお伝えしたい。

食料生産と地球規模の課題

化石燃料由来エネルギー大量投入型の食料生産
近い将来、地球の人口は100億を超えると予想されている。そんな中、私たち人類が「どのように栽培された、何を食べるか」は極めて大きな問題だ。人類はこれまで、作物を育てる技術を進歩させ、効率化することでこの人口増加に伴う食料需要の増加に対応してきた。例えば、作物を育てるには通常、作期ごとに毎回畑を耕して整地し、種や肥料を撒き、雑草や害虫防除のために薬品を散布するといった多くの作業が行われている。これらの行程は、古来は人力あるいは家畜が担っていた。近代はその大部分が機械化やプラスチックマルチなどの資材利用、つまり化石燃料由来エネルギーを使うことで効率化され、発展を遂げた。食料確保目的の食料生産効率化と引き換えに、大量の化石燃料由来エネルギーに依存している。

生物多様性とその生態系機能の損失
さらに、作物を効率よく大量生産しようとするあまり、近代農業は地球環境を大きく変化させた。元々その土地に存在していた湿地や森林、草原といった多様な生態系を画一化し、一地域で同じ作物を効率的に生産すれば、短期的には低コストで食料が生産できる。さらに、その作物を加工する工場や流通システムも地域に集約、大規模化させることで、食料生産は世界的に効率化の道を歩んできた。特に人間のエネルギー源として必須である穀物(小麦など)はこのような方法により世界中で生産されている。品種開発と改良を重ね、作物の生育に足りない栄養素は外部から肥料で足し、降雨が十分でなければ灌漑施設を設けて灌漑するといった工業的な生産がおこなわれている。

このような食料生産方法は近年広く行われているが、現在、多くの根本的な問題を生み出している。熱帯雨林など貴重な生き物の生育場所であっても、作物生産に適していると判断されれば農地に転換され、種の絶滅を引き起こしてしまう場合も多い。また単一作物生産によって農地や周辺の生態系が画一化され、これまでそれほど大きな問題ではなかった病害や害虫による被害が顕著になり、農薬などのさらなる利用に繋がっているのはよく知られている。このように生産効率を重視した農法は、その農業地帯の生物多様性などへ悪影響を与えていることがわかっている。

一方で、農地やその周りの生物の生息環境を保全しながら農業を営むと、生物間のバランスが取れ、特定の害虫による被害が減ったり、化学肥料を減らしても生産性が維持できたりすることがわかってきている。近年の農業生産方法を見直し、自然生態系を模した自然に則した農法や、生物多様性保全型農業が注目を集めているのはこういった実利的な理由からである。

米国の〈ランド・インスティテュート〉は、近代の破壊的な慣行農業に代わる農法の開発に取り組む科学的根拠に基づいた研究機関であり、多年生穀物と複数の植物を一緒に育てるポリカルチャーをその解決策として発展させることを使命としている。そのひとつがカーンザだ。 Photo: Amy Kumler
打開策として期待される多年生農業とその穀物

干ばつや集中豪雨などの水循環の変化や、気候変動が進む中、エネルギーを大量投入して生物多様性やその生態系機能を喪失してしまう食料生産方法から緊急に脱出しなければ、持続的に食糧が生産できない可能性がある。では、どのような代替案と解決手段が考えられるだろうか。

打開策として大きく期待される一つの手段が「多年生穀物」である。多年生穀物とは、毎年植え替えることなく栽培でき、二年以上生存する穀物種である。例えば、ぶどうやナッツなどは一度植えると毎年決まった季節に収穫することができる多年生作物だ。通常の米や小麦は「一年生」穀物で、土を耕して整え、種を撒き、残渣をすき込むといった化石由来燃料エネルギーが必要な作業が毎年ある。一方で、多年生穀物はこうした作業が省略または省力化できる。もし、米や小麦など我々が主食とする穀物を多年生化して栽培し、生産することができれば、化石燃料由来エネルギーを大量に投入せずとも人類が必要な食料を生産できる可能性がある。

さらに、多年生穀物の普及は、生態系の多様な機能、いわゆる自然の恵みが最大限発揮される穀物生産方法へと進化できる可能性を秘めている。一年生作物を育てるためには、多くの場合、毎シーズン耕すことが必要となる。耕すことは、土壌生物の生息環境を大きく物理的にかく乱し、生態系のバランスを崩している可能性があるのだ。しかし他方で、毎年耕されることのない草原などでは、土の表面に年中さまざまな植物が生い茂ることで昆虫などの動物も多く、そして、土の中にも根が絶え間なく張り巡り、その根の周辺には微生物が繁茂し、ミミズなどの生き物が多く生息する。このような生と死のサイクルの中で、多様な生物が調和しながら栄養素や水分を保持したり循環させたりしている。そのため、多くの場合、草原など自然生態系は、外からの肥料などに依存せず高い生産性を維持し多様な生命を育んでいるのである。

このように環境負荷が極めて低く成立している草原などの自然生態系を参考に、もっと農地を活用できる穀物生産方法があるだろう。その一つの手段として、多年生穀物の広がりに期待している。多年生穀物の認知が広まりつつある近年、より多くの人が食料生産と環境の繋がりに興味を持つようになっている。例えば、毎年耕し種を植えなおす必要が無いことを関心の入り口として、土壌がなぜ保全されるのか、どのようなプロセスで土壌に炭素が貯まっていくのか、健全な土壌とはどのようなものなのか、などが注目されてきている。農業や土壌が備える自然の役割に気づけば、世界の食料生産が持続型を超え、環境再生型として変革する可能性がある。もちろん多年生穀物だけではなく、食料生産が完全に持続的になるためには、自然に則した農業のさらなる発展や、食文化、生産者・消費者双方の価値観の変容といった、世界規模のパラダイムシフトが求められている。そして、何よりもまず、「そのような歩みを進める必要がある」という認知を広げることが重要だ。

製品化され世界で広がりつつある多年生穀物

実際に多年生穀物を基本とした食料生産はどれほど現実的なのか。例えば多年生「米」に関しては雲南大学のHu博士らが栽培に成功したことを、2023年のNature誌に詳細に報告している。2021年の段階で一万五千ヘクタールを超える面積で多年生米は栽培されており、毎年米を植えなおす従来の栽培方法に比べて平均六割の労働力削減に成功している。

また、多年生穀物で小麦に似た種であるカーンザは多年生穀物として最も成功している品種である。カーンザについては、主生産国の米国では、2022年時点の栽培面積が約二千三百ヘクタールに達している。一方、カーンザの実の平均収量は、一年生小麦の一割ほどと依然として低い水準にあり、栽培条件や年次間での変動もまだ大きい。これらの課題を解決するためには、育種・栽培学的な研究がより一層必須であり、米国の〈ランド・インスティテュート〉が中心となって世界各国の研究機関と協働して研究・開発を続けている。これまでの育種的改良により、約1.5倍の平均収量増加が報告されており、カーンザの収量性の向上はこれから益々進んでいくと考えられている。このような選択肢が生み出されたことで、私たちは多年な未来ビジョンに新たな期待を描くことができる。

土壌のなかを私たちが目視することは難しいが、カーンザは長い根系を有していることがその特徴の1つだ。より長い年月を農地土壌に根差し続けるため、根っこのバイオマス量が多く、それによって窒素や水の利用効率が高まり、炭素貯留も期待される。研究はまだまだこれから盛んになっていくだろう。 Photo: Amy Kumler
未来に根ざす多年生穀物の役割

〈ランド・インスティテュート〉は、肥料や農薬のような投入物の必要性を最小化し、生態系機能を最大限活用した農業の確立に向けて、広く研究を進めている。例えば、多年生マメ科植物(アルファルファ)を多年生穀物のカーンザと一緒に栽培する間作の研究では、マメ科植物が固定する窒素によって、肥料無しでもカーンザの収量が確保できる成果が期待されている。多年生植物の組み合わせで農地を構築できれば、人の介入を減らせるとともに、多年生作物自身が生態系を築いて自律的に農業生産を行なってくれるという未来を描くことができる。そのため、米や麦だけではなく、他の穀物や作物の多年生化に向けた研究も今後進んでいくだろう。

多年生穀物を広げるための大きな課題の1つが、単位面積当たりの収量性の低さだ。しかし、長年かけて品種開発・改良されてきた従来の一年性穀物に比べれば、カーンザの品種改良に費やされた年月はまだとても浅い。そのため、これから特性を活かしながら収量性を高めていきたいところだ。世界では一人あたりの農地面積が減少しつつある現代、どのように穀物の量を確保し、分配するかという点も極めて重要であり、このことが多年生穀物の広がりを左右する鍵となる。少しずつではあるが、研究レベルでのカーンザ生育調査が世界各地で行われている。日本においても北米やヨーロッパ諸国に遅れを取りながら我々グループが調査を開始した。異なる環境でカーンザがどのように生育するのかがわかれば、育種や営農方法に関する基礎データが蓄積され、持続的に収量を確保する方法の確立やその特性を活かした活用アイディアの創出にもつながってくる。

パタゴニア日本支社と北海道大学は、多年生穀物「カーンザ」の生育試験を開始。北海道内(場所は秘匿)において越冬し結実することを確認できた。多年化した2年目は植物体がより大きくなり、1年目よりも2年目の方が好調な印象を受けている。写真は1年目のカーンザ。 Photo: パタゴニア日本支社

さらに、カーンザは小麦とは異なる風味を持つため、このような今まで食べられてこなかった穀物が市民社会に受け入れられていくためには、環境面や栽培研究だけではなく社会的、文化的、経済的な観点からの取り組みも必要となるだろう。また、このようなポテンシャルと意義のある長期的な歩みに理解を示し、関心を持ち、支援してくれる人々が増えてくれることは重要であり、多年な未来ビジョンを描けるような社会受容も益々重要になってくる。

カーンザはすでに商業的な利用が進んでいる。パタゴニアではビールやパスタの原料の一部として利用されている。 Photo: Amy Kumler

農業が環境に与える影響を軽減しながら食料生産を維持することは、人類がこの地球上で今後も暮らしていくために必須であり、この挑戦には私たちがこれまで歩んできた発展方向とは異なる方向性への軌道改正が求められる。そのなかで、多年生穀物が特徴的な役割を果たすことは間違いないだろう。人々が多年生穀物やその農業システムが向かおうとするその先に興味を持ち、その取り組みの背景やビジョンを理解し、この挑戦を後押しすることでこの重要な農業のパラダイムシフトは徐々に現実味を帯びてくるだろう。

【注意事項】
種の譲渡や試験栽培圃場の見学に関する要望・質問には対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

本共同研究は、カーンザを管理する〈ランド・インスティテュート〉、パタゴニアおよび北海道大学による研究契約に基づき、本研究目的に限定して適切かつ厳重にカーンザを管理して行われています。

なお現在、カーンザの種は、世界中で絶対量が限られており、〈ランド・インスティテュート〉の管理監督のもと、北米地域以外に置いては特別に関係性の深い協力ブランドおよびそのパートナー研究者らによる試験目的での研究利用に限定して提供されています。

上記の理由から、日本国内においてパタゴニアおよび北海道大学からカーンザの種を提供することはできず、試験栽培圃場の見学のご希望やご質問に対応致しかねますこと、ご理解ください。

また、〈ランド・インスティテュート〉への問い合わせもお控えいただきますようお願いいたします。
内田 義崇
北海道大学大学院農学研究院准教授。北海道・幌加内町生まれ。長野、九州、東京、ブラジルなどで育つ。 2009年ニュージーランドのリンカーン大学農業科学部で牛の放牧と環境負荷の関係を研究し、博士課程を修了。つくばの研究所で土に棲む微生物の研究をし、2013年から北海道大学へ。 北海道大学大学院農学研究院に環境生命地球化学研究室を立ち上げ、現在は准教授としてこの研究室を運営している。第21回日本農学進歩賞受賞。