FASHION / NEWS

ディオールのショーは「女性」のステレオタイプを打ち壊す反抗的な精神を表明【2024年春夏 パリ速報】

ステレオタイプな女性像に疑問を投じるビデオインスタレーションを背景に発表されたディオール(DIOR)2024年春夏コレクション。パリシックなフェミニニティをダークに脱構築し反逆的な精神を込めた。

9月26日(現地時間)、ディオール(DIOR)の2024年春夏コレクションのショーが開催された。会場であるチュイルリー庭園は、数十メートル先まで地面が見えないほどの人の数。セレブリティは大勢のガードマンに守られながら通過し、彼ら彼女らを写真におさめようとするファンやフォトグラファーが集まる中、ジャーナリスト陣は入り口までたどり着くのに四苦八苦。ディオールのファッションショーは単なるコレクション発表の場ではなく、それ以上のものであることを表している。

会場の中に入ると、客席を囲む巨大スクリーンとランウェイにフューシャピンクとイエローのストライプが覆われていた。コレクションはポップな夏がテーマになるかと思いきや、予想に反してダークカラーを中心としたパリシックなワードローブが打ち出された。

ファーストルックはミステリアスな雰囲気が漂うブラックレースのマキシドレス。マリア・グラツィア・キウリは、フェミニニティに新しい視点を加えることを探求したという。

ショーが始まると「I AM NOT ONLY A MOTHER WIFE DAUGHTER I AM A WOMAN(私は母であり、妻であり、娘であるだけでははない。一人の女性である)」のスローガンや、完璧な主婦を演じる60年代の広告がスクリーンに映し出された。この「NOT HER」と題されたビデオインスタレーションは、イタリア人アーティストのエレナ・ベラントーニが今回のために制作したもの。ポップな色彩の中で、固定的な「女性らしさ」へ反抗する新興のアクティビズムを感じさせる空間を作り上げた。

アイコニックな「バージャケット」は、バックルベルトで締めることで、スポーティーでマスキュリンな魅力がプラスされた。破れ、傷、焦げ跡などグランジを思わせる要素は、固定的な絵画の表現方法に新しさを生み出したイタリアのアーティスト、アルベルト・ブッリの作品にインスピレーションを得たもの。

ミリタリーやワークウェアを再構築したラインナップは知的な印象を与えている。キウリはデニムを「現代女性の戦闘服の一部」と言わんばかりに定番にしているが、今季は色褪せたルーズなシルエットのジーンズが登場。1948年発表のフェミニンなオートクチュールドレスを着想としたアシンメトリーなオフワンショルダーのシャツと組み合わされている。

女性が多面的であるように、インスピレーションも多岐にわたる。ムッシュ・ディオールの人生において重要な役割を果たした女性占い師にオマージュを捧げ、タロットの世界で「新たな始まり」を告げる太陽のモチーフがプリントや刺繍で登場。さらに、権力に反発する魔女に魅了されたキウリは、薬草のモチーフや蜘蛛の巣を思わせるセンシュアルなレースのドレスもラインナップに加えた。

さらに、ディオールのメリージェーンは、ロマンティックなパールを飾った複数のストラップが施され、古代ローマ時代に戦士たちが履いていたグラディエーターサンダルのようにも見えてくる。フェミニンで多様なワードローブは共通して強い意志が表れている。

このコレクションから感じられるように、グローバルブランドを率いるキウリの使命は、単に美しい服を作ることだけではない。2016年のデビューコレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちは皆、フェミニストであるべき)」Tシャツが証明するように、服を通して女性が自らの価値に気づく手助けをすることが信条にある。

インスピレーション溢れるメッセージを通して女性に力を与え、さらに女性が日常の中で袖を通したくなる魅力的なワードローブを提案するのは簡単なことではないが、それを同時に可能にしてみせるのがキウリの真骨頂だ。

※ディオール(DIOR) 2024年春夏コレクションをすべて見る。

Photos: GoRunway.com Text: Maki Saijo