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がんになって初めて分かったこと。ビューティー・エディターが綴る約1年9カ月の闘病記

生涯で罹患する確率は50%以上という非常にメジャーな病気である、がん。実際に罹患し、闘病を経験した60代のビューティー・エディターが、自身の体験から学んだこと、思うこと、そして伝えたいことを赤裸々に書き下ろす。※がん告知を受けたときのエピソードを綴る前編はこちら。

がんになって初めてわかったことがある。それは、いかにがんという病について知らなかったかということ。そしてもう一つ、自分が抱くがん治療のイメージが古いものだったことだ。がん=不治の病というイメージがいつ刷り込まれたかわからないが、現実には治療法も大いに進化。部位やステージ、個々のがんの特性によって異なるだろうが、がんになったからといって必ず死ぬというわけではない。私はネットなども多用、正しい情報と知識を得るよう心がけた。疑問点は事前に整理してメモ書き。診察時の限られた時間の中で、取材の要領で医師に質問。治療に関しての不安や疑問を解消するようにした。

Photo: olli1973/123rf

さて、乳がんの治療。それはサブタイプによって大きく左右される。がん細胞の表面にあるホルモン受容体やタンパク質などにより、乳がんは5つのサブタイプに分類されるのだけれど、タイプごとに治療法も異なるとされている。私のタイプはルミナルBという診断。2023年3月に部分切除手術を行い、その結果で化学療法など詳しく検討することになった。

手術後、約1カ月経って切除した組織や細胞を詳細に検査する病理検査の結果が出る。がんの性質や悪性度、広がりなどを知ることができる病理診断により、その後の治療が決まってくる。そして4月。予想だにしない衝撃的な内容を医師に告げられた。針生検での検査結果と異なり、サブタイプは「トリプルネガティブ」。しかも増殖スピードも早く悪性度も高いという最悪の結果だった。トリプルにネガティブって、聞いただけでいかにも状況が悪そうな名称だが、治療法も抗がん剤一択。また部分切除ではがん細胞の散らばりを取りきれていない懸念もあり、まずは抗がん剤投与の後、再度全切除手術を受けざるを得なくなった。正直、自覚症状はまったくなかったし、手術後の回復も早かった。なのに「なんだ、この顛末は!」と落胆と畏れ、怒りが湧き上がる。

とはいえ、嘆いていても前には進まない。連休明けから2週間ごとに抗がん剤投与(点滴)をスタートし、4コース(4回)続けた後に、薬剤を変えてさらに4コース。計4カ月にわたる治療がスタートする。結構過酷なレジメン(薬剤の用量や用法、期間などの治療計画)だったが、「トリプルネガティブ攻略」としては仕方ない。吐き気などの副作用も心配だったが、脱毛も必至。だったらその前にバッサリとショートにし、人生初に近いショートヘアを体験しておこうと美容院へ。ハイライトまで入れて、しばしそのスタイルを楽しむことにした。

我ながら意外だったのだが、一旦開き直るとポジティブに楽しむことを追求するタイプらしい。気が重い通院を少しでも明るくするためにはファッションを楽しんだ。新しいトップスを購入したら、「ボトムは何を合わせようか? 足元はお気に入りのシルバーのサンダルを合わせよう!」とあれこれコーディネイトを考える。ウィッグの準備も楽しみながら。明るめの髪色のウィッグを何点か購入して備える。とはいえ、抗がん剤を始めて2、3週間。シャンプーのたびに抜け毛が増え、お風呂場の排水溝に髪がこんもり山盛りになった情景はトラウマになりそうだったけれど。

かくして、貧血などの副作用に悩まされた抗がん剤の治療も終了。10月にはいよいよ全摘手術のために入院。これもいっそ、ホテルステイの気分で過ごそうと入院中のスキンケア計画を立てる。とっておきの美容液クリームをスターアイテムとして、洗顔料やローションなど何を持っていくかと計画。このあたりはビューティ・エディターという仕事柄、得意な分野だ。8泊9日の入院。手術当日はもちろん安静だが、翌朝には起き上がれ、食事もすぐに普通食となった。

〈左〉退院後は毎日欠かさずウォーキングに励んだ。 〈右〉とっておきのスキンケアアイテムを8泊9日の入院のお供に。

今回も手術の1カ月後には病理検査の結果がわかる。ドキドキと不安を抱えながら通院すると、切除した部位にがん細胞はまったく見当たらなかったと担当医が! 抗がん剤の成果なのだろう、「ああ、頑張った甲斐があった」と、このときばかりは心の中で快哉を叫んだ。その後には念のためにと放射線治療(15分×25日の通院治療)が待ち構えていたが、「そのくらいなんでもないさ、通勤するつもりでウォーキング時間を増やして体力アップに繋げてやる!」と強気になれた。

実は乳がん治療中、私を励ましてくれていた大学時代のクラスメイトが、自分も検査を受けようと決意。その結果、図らずも初期の乳がんが発覚。同じ病院で治療することとなった。これはまったくの偶然だが、それだけ多くの女性ががんにかかる可能性があることの証左でもある。つまり「検査が大切」ということ。発見が早ければ早いほど、完治の可能性も高いのだから「?」と思ったら臆さずに検査を受ける。がん治療には何かと費用もかかるから、がん保険などの生命保険も大いに役立った。若い人であっても是非加入をすすめたいところだ。

気のおけない仲間とのティータイムは至福のひととき。

リビングに絶やさず飾る生花が暮らしに癒しと華やぎを添えてくれる。

2023年12月ですべての治療は終了。発見から一年。定期的な検査&診察は今後も続くが、体力も戻って元気に毎日を過ごしている。現在の私のモットーは「自分を機嫌よくキープする」こと。家の中には生花を絶やさずに飾り、友人や知り合いと会って楽しい時間を過ごす。どんどん体を動かして、そしてビューティー・エディターとして以前のように働く! それが今、一番の目標だ。

Text: Midori Kurihara Editor: Rieko Kosai