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医療DX妨げるカネ・ヒトの課題 -「国主導で規格化を」の声も

医療DX実態調査、医師522人から回答

前回コラムでは、医療機関の設備投資需要が盛り上がっている現状を紹介した。

 

今後力を入れる分野として、医療DX化に不可欠な「情報システム・ソフトウェア」を挙げる声が目立ったが、医療現場はDXをどの程度理解し、どのような課題を抱えているのか。日経リサーチは日経BP運営の「日経メディカルOnline」に登録する医師を対象に調査を実施し、522人から回答を得た。

 

回答結果では、医療DXの重要性は十分理解されているが、予算とIT専門人材の不足がネックになり、積極的な推進には至っていないことがわかった。国が主導でDX化を推進することを望む声も聞かれた。

いまだ半数の医療機関が「導入予定無い」「わからない」

まず、医療DX化について理解しているかを聞いた。

 

「理解している」との回答は9.2%。「ある程度理解している」(45.4%)を加えて、半数をわずかに超えた。医療DX重要性については、全体の9割近くが認識しているが、現状で「積極的に取り組んでいる」と回答した医療機関は6.1%。「少しは取り組んでいる」という消極的な回答が約半数を占めた。

 

導入状況についても「導入する予定はない」(27.1%)「わからない」(21.4%)で約半数を占め、「導入したが、十分活用できていない」との回答も7.2%あった。「導入しており、活用できている」との回答は10.9%にとどまった。

 

DX1

 

DX2

 

導入効果感じているのは「キャッシュレス決済」のみ?

「活用できている」と回答した医療機関に具体的な製品を聞いてみた。

 

「キャッシュレス決済」の評価が高く、39.8%の医療機関が導入効果を実感している。一方、その他の製品で活用できている医療機関は、5~12%程度にとどまる。

 

「電子処方箋」や「オンライン予約・受付システム」は、業務効率化に直結する製品として導入を予定している医療機関が多い。しかし実際に導入している医療機関で導入効果を感じているのはそれぞれ8.6%、10.9%にとどまっている。

 

DX3

 

今後のDX化の予算化の姿勢については、「やや積極的に予算取りする」との回答が35.1%で最も多く、「積極的に予算取りする」との回答と合わせると、半数弱の医療機関が増額の意向を示した。「これまでと同等」の回答は26.4%だった。

 

導入しても活用できない製品・サービスが多いとすれば、資金力のない医療機関がDX予算を増やすという判断はしにくい。それでも半数近くが予算増額の意向を示した背景には、少子高齢化の進展、医療従事者の慢性的な不足という深刻な経営環境がある。DX推進以外に道がないということだろう。

 

DX4

 

DX化を進める上での課題について聞くと、やはり「予算不足」との回答が最も多く、67.8%に上った。続いて「IT専門人材の不足」で58.4%。専門人材を雇用する余裕のある医療機関はごく一握りで、多くの病院は院内で育成する時間的な余裕さえない。

 

「現場からの反対意見」がDX化推進の課題だとした医療機関も一定数あったのも気になる。DX関連のテクノロジーそのものが発展途上にあり、患者の安全・安心を最も気を遣う医療現場で導入を疑問視する声があってもおかしくない。

 

DX5

 


国への要望を自由記述で回答してもらった。多くは、補助金制度の拡充やDXを進めた医療機関に対する優遇政策など、予算不足を補うための財政的な支援を求める声だった。「異なるメーカーの製品の互換性確保」「システムの統一化」といった産業界への要望も目立った。

 

今回の調査で集まった医師の声を総合すると、こんな「叫び」になるのだろう。「国がイニシアチブをとって産業界を束ね、標準化を進めなければDX化は進まない。進まなければ働き方改革の弊害との間で、医療従事者がさらに疲弊する」――。まさに最悪のシナリオを、多くの医師たちは現実のものとして感じているのだ。

国への要望

全国統一したシステムの供給

私立・一般病院

DX化による診療報酬

私立・一般病院

国内で標準化を国主導で進めること。業者に丸投げしない事。関係団体・企業でコンソーシアムを作って国家プロジェクトとしてプラットフォームをしっかり作ってすすめること

私立・一般病院

個人情報保護法の柔軟な運営の基準

国立・公立病院

もっと職員のIT基礎能力とシステムセキュリティの能力向上を

国立・公立病院

ガイドラインやモデルの作成

国立・公立病院

メーカーに互換性を持たせるように義務化すること

大学病院

資金的な援助や、効率化などに積極的に取り組んでいる病院への評価

大学病院

 

 

今回の調査で最も興味深いのは、「十分活用できている」DX関連製品が少ないということだ。最大の理由は、医療機関側のIT人材の不足だろうが、「使い勝手の良い製品が少ない」と医療現場があきらめているかもしれない。要は、医療機器・システム関連企業は「作り手本意」のプロダクトアウトの姿勢が強いと感じているのかもしれない。


それでも「医療DXは不可欠」と医療界は認識し、関連製品の需要拡大傾向が続く。仮に医療現場の要望にあるような補助金制度の創設や国主導のシステム規格化などの動きが進めば、中小規模の医療機関にもDXが進む可能性がある。国主導の規格化が進む場合、その流れのイニシアチブを握れる企業とは、医療機関から「使い勝手の良い製品を作る企業」との評価を勝ち取った企業だ。個々の企業の実力が試されることになる。


すでに多くの企業は医療現場に通い、「使い手本意」のマーケットインの開発を推進しているのだろう。しかし、その成果を医療機関は感じていない。なぜ医療現場は先端商品に満足できないのか。根本的なところから現場の要望を聞き、開発体制に活かす必要があるのではないか。

 

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