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Sunday, January 2, 2022

2022年、明けましておめでとうございます!

大みそかからお正月にかけてNYCは比較的温暖で大助かり。12月後半、Vermontの山奥に自主トレ(何それ?)に行った際はさすがに冷えてたけど、NYCは日中はコートなしでもOK。SOHOのピザ・ジョイントの外で美味しいペパロニを夢見て20分とか並んで順番待つ(住んでる人はどこか分かるね?)のも全く苦にならないいい感じの年末年始となりました。

一応、お正月は自分でお雑煮とか作るんだけど、海外に居ると日本だったら当たり前の食材が手に入り難かったりして困ることがある。三つ葉は何とか手に入るけど、今年はユズの調達に出遅れてしまった。この2つなしではお雑煮にならない。例年、個別にラップされた若干色の悪いユズを12月後半に日系スーパーで調達していたけど、今年はVermont修行から戻ったら既にどこも売り切れ。そこでLexと47にあるマーケットの野菜売り場の方の貴重な助言で見つけることができたのが、冷凍のきざみ生ユズ皮。既にお雑煮にのせるサイズに刻んであって香りもまあまあで合格。しおれ気味の本当のユズより良かったかもね。日本って、ユズだけでなく、かぼす、すだち、とか柑橘系が充実してる。こっちだとレモンかライムだもんね。

2020年3月にコロナ感染の増加に伴う医療機関への負荷を抑える(「Flatten the curve」)みたいな趣旨で数週間だけ、っていう話しで始まった米国のWork from Home。突然「明日からしばらくオフィスは立ち入り禁止」ってなった日を境に、時の流れに対する感覚が麻痺して、2021年も一体全体長かったんだか、あっという間だったんだか、よく分からないSurrealな時を過ごす結果となった。Work from Homeの環境は数週間ではなく、結局2年近く続いた挙句にこのまま定着しそう。まあ、ビジネストリップ、ミーティング、会食とかが普通にできるようになってるんで、普段の時間の多くをWork from Homeで使えるのは効率的でWelcome。以前からLocation Freeだった僕的には大きな違いはないけど、そんなワークスタイルがよりオフィシャルになった感じ。オフィスに行きたい人は行ってもいいのでこのスタイルが暫く続くんだろう。

米国社会全体を見ていても、South Dakota、Florida、Texasみたいな比較的個人の判断や自由を尊重する州知事下では当初から州政府や官僚による強制的、かつ気まぐれとも言える制限は最小限だったけど、州政府や官僚が州民の箸の上げ下ろしにまで介入するCaliforniaやNew Yorkのような左翼州でも、さすがに以前よりバランス感覚のある現実的な政策にシフトしつつあり好感が持てる。あのファウチですらCDCの自主検疫期間短縮に関して、ロックダウンや長期にわたる隔離措置の弊害、すなわち経済・雇用面、国民のメンタルヘルス、コロナ以外の疾病対策、ドラッグやアルコール依存、子供たちの教育、とかへの影響も考えないといけない、と発言してた。2020年にそんな発言しようもんなら「Disinformation」として徹底糾弾されたんだろうけど、まあNever too lateだから一応評価してあげないとね。

なんだかんだ言って複数の効果的なワクチンを超スピードで開発し、なし崩し的に街もオープンし、世界の他の国との比較で行くと米国はまだ自由だったんだろうね。それもこれも「Privateセクター」の頑張りのお陰で、政府やポリティシャン、官僚が役に立っている例は少ない。ワクチン開発を後押ししたオペレーション・ワープ・スピード位だろうか。治療薬も徐々にマーケットに出てきてるし、2022年はコロナのVariantとかが次々出現してもそれほど大きなニュースにはならない世界になっているだろう。

それにしても個人の自由を尊重するFloridaの成功は、以前から民主党左翼議員、メインストリームメディア、ソーシャルメディアにとっては目の上のタンコブみたいな存在で中傷が絶えないけど、そんな左翼議員も散会になると真っ先にFloridaに飛んで(カーボン使って?)、普段糾弾しているその自由を謳歌したりするんだから、ポリティシャンたちの偽善ぶりは相変わらずで笑える。厚顔無恥じゃないと務まらないよね。

2021~22年のタックスワールド

さてさて肝心の(?)タックスはどんな感じでしょうか。半分予想通り、財政規律のないバイデン・アジェンダは暗礁に乗り上げ、Built Back Better(「BBB」)は少なくともオリジナル案は頓挫。15%の会計利益ベースのAMTとかコンプライアンス負荷は凄まじいものがあっただろうから、一回落ち着いてリセットするのがいいだろう。

BBBは、Leveragedスピン規制、無価値の株式損計上を含むGranite Trust的なプランに対する規制、Inversion規制、株式Buyback規制、とかCorporate Transactionにも結構な影響があっただろうから、これらの法制化がとりあえず一旦消えたのは複雑な検討が減って一安心。特にLeveragedスピンは、スピンする資産の税務簿価の制限を気にすることなく、スピンされる法人の長期負債を使用してスピンする側がLeverageを低下させることができるので、キャピタルストラクチャーのAlignmentには有益な手法。スピンする側が非課税で法人資産を時価現金相当を対価に法人外に出しているように見えるので、General Utilities撤廃原則に反するってことで目の敵にされることがあるけど、別の見方をすれば、もともと一つの法人内またはグループ内だった2つの事業やDivisionに関して各々の最適なキャピタルストラクチャーを採択したり、正確にDebtを配賦しているケースは少なく、単純に親会社にDebtやNoteが集中しているケースが大半だろう。

スピンの際には、各々の事業にかかわるキャピタルストラクチャーを最適化する必要があるので、スピンされる側の長期Noteでスピンする側の負債を返済したりする。IRSのルーリング・ポリシー的にも、基本的にはスピンする側とされる側のトータルでDebtが増加していなければ、スピンする側が実際にDebtをExchangeしても、投資銀行が仲介したとしても、非課税スピンの枠の中で達成できる、としていたのもまさしくキャピタルストラクチャーの最適化なのか、実質資産譲渡なのかの区別をするため。BBBではこれを禁止することになっていた。

TCJA系の財務省規則は、出る出るっていう前触ればかりで、政権の交代を機にかなり滞ってたけど、BBBの沈没でリソースに余裕が出たせいか、FTCの大型最終規則が年末ぎりぎりに公表された。ず~と待ってて今年中に最初のトランチが出ると言われてたPTEPの規則はどうなったんでしょうか。PTEP超楽しみにしてんだけどね。FTC最終規則は、規則草案でDSTを想定ターゲットとしていたJurisdictional Nexus要件をAttribution要件と名を変えて採択。

OECDもようやくピラー2のIIRとUTPRの詳細を公表するに至った。こんな複雑かつ新たな制度、どれだけの国が実際に施行できるのか不思議だけどね。その結果想定される歳入増の金額と企業側の負荷が不均衡。BBBが暗礁に乗り上げてGILTIの国別計算とかも一旦白紙撤回になっているけど、どうするんでしょうか。

ということで2022年のタックス・ワールドも目を離せない。今年もよろしくお願いします。

Saturday, July 17, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (4)

前回は、60%ルール(60%以上80%未満)に抵触してExpatriated Entityという汚名を着せられるとどういうことが起こるか、っていう点に触れた。このExpatriated Entityだけど、なってしまうと、Section 7874で規定される元祖インバージョン規制以外にも次々と悪いことが起こる。今日は60%ルールに抵触すると、他にどんな副作用があるか、って言う点に関して。60%ルールの恐ろしさを理解した後に、60%テストそのもののメカニズムに移りたい。

BEATへの影響

BEATミニマム税の計算は通常課税所得にBase Erosion Benefitを加算するところから始まるけど、このBase Erosion BenefitっていうのはBase Erosion Paymentに基づいて計上される償却を含むDeductionだ。Base Erosion Paymentには税務上、COGSに計上される支払いは含まれないのが原則。以前のポスティング「COGSとSHIELD」で触れた通り、議会にCOGSを否認する法的な権限は憲法上存在しないと考えられるからだ。

ところが、この点に関してBase Erosion Paymentを規定しているBEATの法律には面白い特例がある。2017年11月10日以降に米国法人がインバージョンして60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人およびそのグローバルグループのメンバーに対する支出は仮にCOGS等のReductionに当たる金額でもBase Erosion Paymentとする、というものだ。え~、「COGSとSHIELD」で触れた通りドラッグディーラーにもCOGSは認めないといけないはずなんで、これを認めないってことはExpatriated Entityってドラッグディーラー以下の取り扱いってこと?凄い。

Transition Taxへの影響

また、今では8年間の割賦払いも半分ほど終わる頃なんで記憶が薄れてきている2017年税制改正時の国外子会社の留保所得一括課税、Transition Taxに関してもExpatriated Entityのみを対象とした厳しい追加措置が規定されている。Transition Taxは、2017年税制改正時に従来のワールドワイド課税制度からGILTI+Sub F+245Aの世界に移行するため、CFCの定義を拡大した10%以上基準のSpecified Foreign Corporation(「SFC」)の原則2017年12月末日に存在する1987年以降の留保所得に一括課税するというもの。旧法下での課税なんでそのままだと35%の法人税率になるんだけど、SFCの現預金の残高次第で8%~15.5%の範囲で低実効税率で課税されるようにできていた。で、GILTIが50%想定控除を通じて10.5%の実効税率になるのと同様に、Transition Tax計算も一旦留保所得を全額合算した後、35%掛けてターゲットの実効税率となるよう逆算して算定する「Participation Exemption」想定控除の計上を通じて低税率課税を達成していた。

で、Transition Taxの対象となる米国株主が2017年税制改正が可決した2017年12月22日から10年以内に60%ルールでExpatriated Entityになると、Expatriated Entityになった課税年度にもともとのTransition Tax計算時に適用したParticipation Exemption想定控除に35%掛けた金額が追加法人税として課せられ、さらに当法人税には税額控除が認められないという懲罰的に規定が設けられている。Participation Exemption想定控除に35%を掛けた金額をもともとのTransition Taxに加算すると、留保所得が計35%の実効税率で課税される結果となる。10年間の縛りだから、2027年12月21日までにインバージョンしてExpatriated Entityになるケースが対象。時は経つのは早いからもうチョッとの我慢?

適格配当除外

そしてもうひとつ、個人が法人から受け取る配当は大概においてキャピタルゲイン優遇税率で課税される。Qualified Dividend Income(「QDI」)規定だ。このQDI、外国法人から受け取る配当ばかりでなく、条約締結国の米国外法人からの配当も含まれるんだけど、2017年の税制改正が可決された2017年12月22日の翌日以降に60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人から受け取る配当はQDI非適格になってしまう。

ということで、なかなか奥が深いけど、次回はいよいよ60%テストのメカニズムに関して。

Friday, July 9, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (3)

前回は、初期「Naked」インバージョンに対抗するため、株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulationsが制定された経緯等に触れた。その後、インバージョンすると企業価値が増大するんで、株主に課税する位ではインバージョン抑止効果はないことが判明する。マーケットは正直だよね。また、株主課税を規定しても、株主グループの中には課税関係を気にしないタイプ、例えばTax-Exempt、パススルーのファンド、いずれにしても換金して課税される覚悟のArbitrager、とかも多い。さらにキャピタルゲイン税率が低くなってからは、通常の個人株主のキャピタルゲイン課税に対する抵抗も低下傾向にあったといえる。

この点はインバージョンに限らず、2000年代前半からのM&A一般に見られる面白い傾向で、2003年以降、上場企業のM&A時に敢えて課税取引としてストラクチャーするケースが多くなったように感じる。しかも買収対価が全額現金だったら課税でも当然だけど、Reverse Sub Mergerで対価の70%が株式でストラクチャーされてたりするのを見るとビックリ。80%だったら非課税なのに。もちろん80%Equityでも現金Boot部分はGainがあれば課税だけど、70%EquityだったらEquity部分も含めて全額課税だからね。課税取引にすると確かに株式の簿価はステップアップするけど、株主に税金払わせてステップアップさせるかな、って不思議。もちろん多くの株主が含み損を抱えていると予想される場合には議決権のない株式とかを利用して敢えて課税取引にするようなストラクチャーも考えられる。金融危機の際に見られたパターン。含み損をトリガーさせる作戦は異常事態が発生しているケースに限定されるんで、一般的な観測としてはマーケットにおける株主レベルの譲渡益課税に対する許容度はどんどん高くなってきたって言えるのは確か。ここに来てバイデン政権は連邦だけでキャピタルゲイン43.4%(オバマケア付加税込)に増税する提案をしてるけど、そんなことなったらディール・ストラクチャーへのインパクトは大きい。2003年以降20年弱続いたトレンドはリバースする可能性大だ。マーケットが税率とか、特別な税率に適格となる所得のタイプの変更に敏感に反応する点はキャピタルマーケットの先進性を物語っている。

インバージョンに関しては、株主課税だけでは上場企業のインバージョンに歯止めが効かないという経験から、2004年に法人レベルの課税強化を規定したSection 7874が制定される。ブッシュ政権のAJCAだ。今日ではインバージョン規制法というとまずはSection 7874を思い浮かべるケースがが多い。ちなみにグリーンブックでバイデン政権が強化しようとしているのもSection 7874だ。

60%ルール

Section 7874は、インバージョン企業(「Expatriated Entity」)の課税所得はインバージョンから10年間を含む課税年度において、「インバージョン譲渡益」額を下回ることは認められない、という規定で始まる。この規定は後述する持分テストが60%~80%となる場合に適用される。

ここで言う10年間は細かく言うと、Expatriated Entityの米国資産が初めて米国外に移管されたと取り扱われる日の翌日からカウントされ、資産移管が終了した日から10年後に終わる。で、しかもその判定で決まる10年+の期間を一日でも含む課税年度はインバージョン規制に引っ掛かるという仕組み。全資産が一発で移管される場合には期間の決定は比較的分かり易いけどね。

で、インバージョン譲渡益っていうのは、Expatriated Entityによる株式その他の資産(棚卸資産除く)を米国外関連者へ譲渡して発生する譲渡益およびライセンス所得を意味する。米国外関連者は50%超の直接・間接の資本関係にある者、また米国移転価格税制で関連者となる者、とされる。米国の移転価格税制上の関連者は必ずも資本関係だけで決定されないのはみんなも知っているよね。特にActing in Concertとかのケース。

インバージョン譲渡益に対する課税強化は、インバージョンの話しの冒頭に触れたインバージョンした後にCFCその他の資産を米国傘下から外すPMIに網を掛けようとするもので、これらの所得には繰越欠損金や同じ課税年度に生じる他の損失との相殺が認められない。また、インバージョン取引自体が資産譲渡を通じて行われる場合には、その譲渡益そのものがインバージョン譲渡益と取り扱われる。さらにインバージョン譲渡益に対する課税から生じる法人税には税額控除は認められない。例外は外国税額控除なんだけど、インバージョン譲渡益は米国内源泉所得と取り扱うとしているので枠がない。

例えば、米国企業Xが株式交換を通じて米国外企業Yに買収され、Xの旧株主が買収後Yの株式の60%以上80%未満を所有するとする。その後のPMIでX傘下にあるCFCの一社FSがYにIPを譲渡して100の譲渡益を認識して、FS所在国で20の法人税を支払ったとする。米国内外の簿価の差異や為替その他の実務的な問題はここでは一旦全て無視するとして、FSが認識する譲渡益80がSub FになってXはCFC課税に基づき80を合算するものとする。FTCを取ろうとXは80のSub Fにみなし配当グロスアップ(Section 78)の20を加算して合計100の合算が生じることになる。ここまでは普通の税法の話しと同じ。

で、インバージョン規制のSection 7874的に考えると、Expatriated EntityはX。その後の取引で実際に譲渡益を認識するのはFSだけど、FSが米国外関連者Yに対する資産譲渡から認識する譲渡益がXの手でSub F合算課税になるので、Expatriated Entityが認識するインバージョン譲渡益となり、グロスアップ20を含む100がインバージョン譲渡益と取り扱われる。結果としてXはNOLとか税額控除で100に対する課税を減額することができない。もちろんだけど、Xが直接FS株式をYに譲渡するケースも同様。

なかなか痛いところを突いてるし、多国籍企業の行動パターンを観察した上で良く考えられた規定だ。次回はどんな時に米国法人がExpatriated Entity扱いされるか、っていう話しに移りたい。

Sunday, July 4, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (2)

前回はグリーンブック増税案でインバージョン願望が再編することから、そんな動きを牽制するため、グリーンブック自体がインバージョン規制法の厳格化を提案している、っていう点に触れた。

株主課税と法人レベルの2つの異なるインバージョン規制法

以前にも何回か触れたことがあるけど、米国におけるインバージョン規制法は大別すると2つ。ひとつは90年代に制定された株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulations。インバージョンは適格組織再編を通じて実行されるんで、そのままだと当事者全員に非課税で(旧)米国親会社の上に米国外親会社を配置することができる。McDermottやHelen of Troyに代表される初期型の「Naked」インバージョンは独り芝居というか自作自演のM&Aでバミューダ法人グループに生まれ変わるっていう、第三者の外国法人を伴わないインバージョンだったから、ダブルダミーとかじゃなくて単純にReverse Sub Mergerというメカニクスを通じて実質株式交換になる。組織再編少しでもカジッたことある人だったら初級シロベルトで「… by reason of the application of (a)(2)(E)」って常套適用だな、って分かるだろうし、この手の再編に使用されるMerger SubはTransitoryだし、独りインバージョンする際にはBootは必要ないだろうから大概においてB型再編にも適格になることが多い、っていうのも中級前半のオレンジベルトで分かるはず。

インバージョン株主課税

Helen of Troyまで10年間くらいNakedインバージョンは続いたけど、これを問題視した財務省は94 年にNoticeを公表し、96年にインバージョン規制規則を最終化している。仮に適格組織再編になる場合も、米国株主が外国法人と株式交換する場合には、複数の要件を充たさないと株主レベルで含み益課税が起こる、っていう仕組みで、Helen of Troy Regulationsとして知られている規定だ。もともと、Section 367法文自体では、例外規定が適用されなければ株主課税が生じるんだけど、大本の暫定規則、87年のNoticeその他はフォーカスが5%株主で、それらも大概のケースでGRAを締結すれば課税されないような規定になっていたものを、上場企業がインバージョンしていく点に懸念を示して課税強化している。

米国法人の方が大きい再編はインバージョン?

Helen of Troy Regulationsの要件は実際には細かくて複雑で、時間があれば次回以降どこかで詳細触れてみたいけど、敢えて乱暴に言えば外国法人が少なくとも米国法人と同価値でないと株主レベルで課税が生じるというもの。財務省の感覚では米国株主が過半数の持分を受け取るってことは、インバージョン懸念大ということ。このHelen of Troy Regulationsの過半数持分に対する懸念部分は、なんと30年の時を超えて2021年のグリーンブックに繋がっていくんで覚えておいてね。

Helen of Troy Regulationsの株式持分部分テストは米国人株主だけを見るんで、単純な時価比較では答えがでないこともあるけど、別の要件となる3年間のATBテストは時価ベースだから、かなり狭義な例外を除くとこちらは外国法人が少なくとも同規模じゃないと株主課税が生じることになる。

インバージョンとスピン

結構よくあるパターンだけど、スピンした法人を同じプラン下で買収法人と合併させたりする場合、Helen of Troy Regulationsとは関係のないスピンオフ側の規定で、スピンCoの株主が50%超の持分を継続しないとスピンする側の法人レベルで法人課税が起こる。97年のAnti-Morris Trust法だ。Helen of Troy とAnti-Morris Trustでは持分テストが逆方向なんで、このスピンオフ後に米国外法人と合併とかすると、通常はどっちかの法律で課税されてしまう。Anti-Morris Trustだけなら本来法人レベルだけの課税だけど、Helen of Troy Regulationsは株主レベル。更にややこしいのは、Helen of Troy Regulationsで株主レベルで課税が生じる場合に下手するとスピンオフのDevice規定に抵触(?)するっていう懸念がある。Deviceの趣旨的には変だけどね。そんなことになろうもんなら、そもそもAnti-Morris Trust規制に至る以前にスピンオフ自体が不適格になる。ということはスピンする側の法人レベルだけでなく、株主レベルでも課税。ヤヤコシ過ぎるね。ちなみにAnti-Morris TrustはMorris Trustっていう判例にかかわるもので、独禁法(Anti-Trust)とは全然関係ないからね。一応。

でもAnti-Morris TrustとHelen of Troy Regulationsでは持分継続の数え方が異なるんで、例えば米国人だけを見るのか、とかオーバーラップをどう考えるのか、とかの規定の差異をうまくつくことで、双方で非課税にするような離れ業を見事にやってのけたケースがあるらしい。凄いね。EYのワシントン事務所のスピンオフグループとかM&A分野で著名な法律事務所とかが双方の条文を徹底的に理解し、株主の構成を丹念に分析した結果なんだろう。

クライスラー・メルセデス「対等」合併の意味

Helen of Troy Regulationsに関しては、1998年のクライスラーとメルセデスの「対等」合併への適用が有名。クライスラーとメルセデスの合併は僕が2007年当時ブログを書き始めたころに触れた。South BayのPCH沿いにあるスタバでポスティングした日がまるで昨日のことのようだ。この合併、「対応」合併って散々宣伝されていたのは、Helen of Troy Regulationsで米国株主が課税されないように、っていう意味が結構あったんだろうね。個別通達でいろいろなRepがあってなかなか生々しいけど、争点となったのは株主の持分継続ではなく、ATBの方。合併用に組成されるドイツの持株会社が、メルセデス株式の80%を取得できるのか、すなわちメルセデスが適格子会社になるか、とか、投資資産の取り扱いとかにかかわる例外規定の適用とかにかかわるルーリングで、あくまでATBのSubstantiality要件を充たすという点にお墨付きをもらったものだけど、Repを読むと組織再編全体の様子が良く分かる。

期せずしてHelen of Troy Regulationsに興奮して、株主レベルの課税にかなり入りこんでしまったけど、次回はインバージョン規制法の本丸Section 7874について。

Saturday, July 3, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン

ということで今回からインバージョン。

インバージョンに関しては多国籍企業と議会・財務省のいたちごっこの歴史を5~6年ほど前にかなり詳細に特集したことがある。インバージョンは「上下逆さにする」っていうような意味だけど、Corporate Structureのインバージョンもまさしくその通りで、米国を頂点する多国籍企業が、グループ形態をひっくり返して米国外の親会社を頂点とするグループに生まれ変わり、PMIで従来は米国傘下にあったCFCを米国から外して新米国外親会社に付け替えるという再編だ。それって日本の多国籍企業のストラクチャーじゃん、って思うかもしれないけど、まさしくその通り。人もうらやむ米国外インバウンド・ストラクチャーを生まれながらにして備えているのが日本企業だ。ただ、もちろん、日本も高税率だから米国から日本にインバージョンする法人はない。スタートアップ系の日本企業がたまに米国法人を頂点とする米国企業に生まれ変わりたい、という相談を受けることがあるんだけど、それは飛んで火にいる夏の虫だ。法人設立国を米国にしないでも、米国上場その他やりたいことはできるはず。

で、なぜ米国多国籍企業がそこまでしないといけないかっていうと、米国法人税制の使い勝手が悪く、米国親会社が頂点にあってその傘下にCFCを所有するストラクチャーが国際的に不利だからだ。2017年の税制改正前は、法人税率が連邦だけで35%にのぼり、CFCの所得は分配時(またはSub F課税時)に35%で法人税対象(FTCはあり)というワールドワイド課税だったので、米国多国籍企業のインバージョン願望は強かった。企業側がインバージョンをしたくなるのは米国を困らせようと思ってではなく、単純にグローバルでヨーロッパやアジア企業と競争して勝ち残るため。

2016年のオバマ政権末期には次々大企業がインバージョンしていくトレンドを阻止するため、複数の厳しい財務省規則が策定されている。後で詳解したいと思うけどインバージョン規制法の対象になって国籍離脱法人と認定されるかどうかの判断時には、米国法人の株主が再編後の外国法人にどれだけの持分を継続して所有しているか、っていう持分比率(「Ownership Fraction」)の算定が最重要。2016年当時の規則の多くはこの持分比率計算時に分母に加味できる持分を制限したりして、結果としてより容易に持分比率が60%とか80%になるように策定されていた。

2017年の税制改正で法人税率が21%に下がり、従来のワールドワイド課税に代わり、GILTIが導入された。Section 245Aの国外配当100%控除でテリトリアル課税になるかのように見えたんだけど、GILTI導入で10.5%の低税率とは言えDeferralが不可能という、実態としては以前よりも厳しいワールドワイド課税制度になった。とは言え、GILTIはFDIIと対で、米国多国籍企業が米国外事業を米国から直接行っても、CFC経由で行っても課税関係はニュートラルになったし、なんと言っても税率が普通(?)のレベルになったし、国籍離脱法人のレッテルを張られるとTransition Tax、BEAT等に関して悪いことが起こることもあり、大型インバージョンはすっかりと姿を消していた。インバージョン対策は、規制を厳しくするより米国法人税を国際的に普通のレベルにする方が実効性が高い、っていうのが良く分かる。

バイデン政権増税案でインバージョン願望再燃

グリーンブックは、Blow-by-Blowでこれでもかって感じの増税案パレードになってる点は以前のポスティングで触れたけど、特にGILTIに関して、税率を倍の21%にし、ルーティン所得免除を撤廃した上で国別計算っていうのはグローバル事業を展開する米国多国籍企業へのダメージは大きい。2017年以降、鳴りを潜めていたインバージョン願望が復活するのは当然で、その懸念は他でもないバイデン政権自身が一番よく認識している。米国企業に不利ってことを知った上での増税案ってことなんだろうけど、その対策として他国にも増税させて相対的な悪影響を緩和しようとOECDに近づいているし、さらにインバージョン規制法をよりタイトにしてインバージョンの達成がより困難となるような提案をしている

SHIELDのSHIはインバージョン規制

世間ではSWORD(矛)と揶揄されるSHIELD(盾)は、BEATの代わりになるUTPR部分が注目を集めがちだけど、SHIELDのSHIはStop Harmful Inversionの略。インバージョンにかかわるグリーンブック増税案を理解するには、現状のインバージョン規制法の基本メカニズムを紐解いておく必要がある。ということで次回はインバージョン規制法の基本的な考え方について。

Wednesday, June 23, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD(続)

前回は合衆国憲法とCOGSの複雑な間柄を100年以上の歴史を紐解いて解説した。議会がCOGSを否認する税法を可決できないことから、BEAT適用時には重要な検討になってるけど、今回はそんな制限下、財務省がどんな裏技でSHIELDをCOGSに適用しようとしているかに関して。

って、週末にアップさせる予定だったんだけど、ここまで書いたところでショッキングなニュースを聞いて考え込んでしまってて、チョッと遅くなってしまった。そのニュースとは他でもない、Peter Jacksonの新Let It Beこと「Get Back」の映画の話し。Seville Rowのアップルビル屋上の40分に上るフルライブを含む新映像が8月末に劇場公開ということで2年以上前にこの企画の話しを聞いた時は、生きててよかった!ってブログに書いた位、僕がず~っと待ち焦がれているアレだ。

もともと2020年に劇場公開されるはずだったんだけど、Peter Jackson本人がロックダウン制約が激しい国の一つニュージーランドに居たので、おそらく本人身動きが取れず、公開は2021年8月に延期になっていた。まあ、2020年はどこも映画館クローズしてたんで、まあいいか、って思ってとりあえず、ロビンソン・クルーソーのように日記を付けて日にちを数えて待っていた(何それ?)。ところが週末のニュースでは、結局8月の公開が11月に遅れるばかりでなく、公開は劇場ではなくディズニープラスでストリーミングされるってことになったらしい。大きなスクリーン、しかも今日日の質の高い音響でアップルビル屋上のフルライブというイメージだっただけに大ショック。唯一グッドニュースと言えば、3日間使って計6時間の映像を見せてくれるそうだ。6時間のExtended Versionはディズニープラスでもなんでもいいんだけど、希望としては平行して劇場版も用意して欲しかった。プラス・マイナスで考えるとどうしてもネットマイナス。それにしてもPeter JacksonのGet Back、紆余曲折あり過ぎ。同時に公開されるって言ってた元祖Let It Beのリマスター・バージョンの話しもどうなっちゃたんだろうね。酷い話し。

酷い話しと言えば、今日の本題のSHIELD。前回のポスティングで触れた通り、合衆国憲法上、連邦政府はCOGSを否認することは認められないと考えられている。それでは、ってことでSHIELDはこの点に関して、大胆な迂回策を提案している。

グリーンブックの説明によると、米国法人、米国事業に従事する支店、の米国外関連者への支出は全額SHIELDの対象にする!って力強く宣言し、そのような支出が税法上、DeductionとなるケースではDeductionは当然全額否認するとし、他のケース、例えばCOGS、に関しては、他のDeductionを代わりに否認するとしている。しかも、代わりに生贄となるDeductionは必ずしも関連者に対して支払うものに限定しないそうだ。

何それ?って感じだけど、グリーンブックの説明を鵜呑みにするのであれば、米国外関連者への支出が税務上、COGSに区分される場合、そのCOGSでGross Incomeを算定する課税年度において、同額のDeductionを代わりに否認する、ってことのよう。COGSに入って来るんで対象となる可能性のある支出は、仕入ればかりでなく、製造ノウハウ等のロイヤルティとか他の間接費用のうち税法上、Section 471で、COGSに区分されるものを含む。

代わりにDeductionを差し出しなさい、って言われても、たくさんのDeductionがある中、何を否認するんだろうか。クロスボーダー支出である必要はないように見え、国内で普通に大家さんに払ってるオフィスの賃貸とかがSHIELDで否認されてしまうのかな。それともPro-Rataで全項目に配賦するのかな、それともコントラDeductionとして一本で加算調整とか。どんな方法にしても妙な話しだ。実態はCOGSを否認しているんで、こんな子供だましみたいな迂回策で本来違憲な行為を合憲にすり替えられるのかな。実に不思議。

このSHIELD、15%とか21%のミニマム税を課していない国に対する懲罰的な規定なんで、SHIELD(盾)とは名ばかりでSWORD(矛)という名前にした方がいいんじゃない、って揶揄されている。

ちなみについさっき(NYC時間23日夕方)、両党議員の中庸路線の超党派議員が調整していたインフラ法案の大枠にホワイトアルバム、じゃなくてホワイトハウスが合意したっていうニュースを聞いた。それが本当だったら増税はないはず。または、あっても最小限で済むはず。となると、違憲紛いのCOGS否認SHIELDもお蔵入りかもね。米国にそそのかされてOECDとかG7も21%だの15%だのと散々かき回され、結局、米国議会が何もしなかったらピラー2とかどうなっちゃんだろうね。

次回はインバージョン!楽しみにしててね。

Sunday, June 6, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD

前回は、米国法人から支払いを受ける側の実効税率が高くても、財務諸表連結グループ内のどこかに実効税率がミニマム税率より低い主体があると、その主体の税引前利益がグループ全体の利益に占める%分、米国法人の支払いは損金不算入になるっていうグリーンブックのSHIELD提案に触れた。直観的にピンと来ない規則だ。SHIELD恐るべし。

今日は、もうひとつグリーンブックのSHIELD提案で興味深いCOGSの取り扱いについて。BEATでもCOGSに計上できればBase Erosion Benefitにはならなかった。一見単純な話しなんだけど、その背景は複雑だ。

税法上のCOGS

COGSの話しをする際、最初に理解しておかないといけない最重要ポイントは、税法上、総収入から差し引くCOGSという金額は、物を再販したり、製造したりする棚卸資産のみに関係するっていう点。経済的にCOGS同様と思われる項目でも、税法上の要件を充たさないとCOGSにならない。例えば、実質、販売と同じだけど、棚卸資産をリースっていう形で買い手に提供して売上を計上しているとする。税務上、リース扱いされているとすると、資産の再販ではないから、資産の償却費用とか経済的にはCOGSみたいなもんだけど、税法上はCOGSではなく、Below-the-Lineの費用(Deduction)になる。

で、ここからはCOGSにまつわるDeepな話し。普段だったらDeep Purpleが云々って話しで思い切り脱線する場面だけど、COGSの話し長くなりそうなんで、今日はいきなり本題に入りたい。みんな安心した?

COGSとアメリカ合衆国憲法

アメリカ合衆国憲法上、1913年に修正第16条が追加されるまで連邦政府にはIncome Taxを徴収する権利はなかった。わずか百年ちょっと前の話しだ。変な修正入れないでいておいてくれれば良かったのに、って思っても後の祭り。連邦政府は肥大化し、国民の生活の細部に亘り干渉が激しい。

で、この修正第16条だけど、原文は「The Congress shall have power to lay and collect taxes on incomes, from whatever source derived, without apportionment among the several States, and without regard to any census or enumeration.」というもので、今日の話しのキーとなる部分は「taxes on incomes」の部分。修正第16条で議会に課税権が与えられているのは「Income」に対するもので、Gross Receipt、すなわち総収入ではない。

ここからがややこしいけど、ここで言う「Income」は、法体系的に税法上の「Gross Income」を意味すると解釈されている。Gross Incomeの税法上の定義は総収入からCOGSを差し引いた金額。通常のTaxable Income、すなわち課税所得、はGross Incomeから更にDeductionをマイナスして計算する。このことからも、COGSはDeductionではないことが分かる。COGS以外にも保険会社が支払う再保険料は、グロスの保険料収入から差し引いてGross Incomeに至るんでテクニカルにはDeductionではない。BEATで再保険料に関して特記されてるのはこの理由。

Deductionは議会の思いやり?

修正第16条に基づく議会の課税権はIncomeに対するものだけど、このIncomeはGross Incomeを意味するんで、Deductionはなくても憲法違反ではない。言い換えると、納税者がDeductionを取る内在的な権利は憲法的に存在せず、あくまでも、議会の「善意」「思いやり」に基づき、税法上認められる項目のみがDeductionとなる。この点は100年以上の数多い判例から明らか。ということは多くの費用をマイナスできてるのは議会の思いやりなんだね。ありがとう議会さん!って感謝して申告書作らないといけない。

Deductionは議会の思いやりに基づく裁量だとすると、Deductionをそもそも最初から認めなかったり、政策的に特定の活動に関して、他の活動だったら認められるDeductionを否認したりすることができる。もちろん憲法の他の条項、Equal Protection等に準拠する範囲でだけど。

分かり易い例は、ドラッグディーラーが得る所得に対する課税。修正第16条の「・・・from whatever source derived」っていう表現からも分かる通り、課税所得が合法的に稼得されたのかどうかは税務上は関係なく、不法行為から得る所得も含まれる。連邦議会がドラッグの濫用を規制するために制定しているControlled Substance Act(規制物質法)は、各ドラッグの濫用リスクや医学的な効用とかに基づき各ドラッグをダメなものから順にスケジュール IからVまで分類している。まるでsection 1060のPPAみたい。

Billion Dollar WhaleのJho LowがIMDBスキャンダルで横領した$5Bの一部でプロダクションがファイナンスされてたことが分かって後からチョッとケチがついたけど、デカプリオのThe Wolf of Wall Streetの中で、NYC郊外のLong IslandかどこかのJordan Belfortの豪邸ビーチハウスのパーティーシーン、映画ではJordanが初めてNaomiに会ったシーンで、ドラッグでハイになってるJordanやDannyたちがシューズメーカーのSteven MaddenのIPOをアンダーライトする計画を話すシーンがある。その中で、彼ら愛用のドラッグ「Quaaludes (methaqualone)はスケジュール Iになってる」って言う下りがあるけど、あれは連邦Controlled Substance Actに基づく分類の話しだ。スケジュール Iだからもちろん連邦合法のドラッグではない。

で、税法ではスケジュールIとIIに区分されるドラッグを取り扱う事業からの課税所得算定時には、Deductionは一切認めない、っていう懲罰的条文がある。ちなみに大麻はスケジュールIに分類される。近年、州法で大麻が解禁されていってるけど、ここの連邦法とのかかわりはそれだけでも専門家として食べていけるくらい複雑な領域。

で、ドラッグ・ディーラーに対してDeductionを認めない、って言う際に、議会が否認できるのは上の修正第16条の縛りの関係で、あくまでもBelow-the-LineのDeduction止まり。ドラッグを仕入れるコスト、すなわちCOGSを否認する権限は憲法的に議会にはないと考えられていて、議会の立法過程の記録条も、そのためDeductionのみを否認すると明記されている。仮にCOGSを否認するような条文を可決しても、それで過大な税金を払うようにな立場に追い込まれるドラッグディーラーに訴えられて裁判で負ける可能性大。憲法上、連邦政府が所得税・法人税として課税できるのはあくまでも「Income」であって、総収入ではないからだ。Schedule IやIIドラッグディーラーの申告書上、議会が好むと好まざるにかかわらず、COGSは堂々と計上可能だ。

でも、ドラッグディーラーなんてそもそも申告なんてしないじゃん、って思うかもしれないけど、必ずしもそうではない。州が大麻の「医学的な」使用を認め始め、近年のトレンドとしては娯楽目的でもOKっていう州が続出する中、正式なビジネスとして運営されている大麻業者も多くあり、それらの業者は申告書を提出しているし、法務や税務のアドバイザーもしっかり雇ってる。ドラッグディーラーにかかわる連邦法と州税のかかわり、司法省の管轄範囲とかと混ざって、ドラッグディーラーの課税関係に関しても訴訟があったりする。そこで開示されている情報を見ると、年商$25M(100円換算で25億円)規模で、複数年で売り上げが$100Mを超えてるそれなりの規模の事業活動だったりする。まあ、訴訟で公になっている記録を見るまでもなく、ロビイストやポリティシャンたちがあれだけハッスルしているっていうことは、結構なお金が絡んでるってことは想像に難くないはず。

また、更にドラッグを不法に取り扱ってる、っていう犯罪を立証するより、税法で攻めた方が容易に犯罪を立証できるケースもあるんで、そういう意味で厳しい規定が設けられてる側面もある。禁酒法時代のアル・カポネだね。スカーフェイス。

COGSがラッキーなケース

ちなみに通常の納税者にとっては、COGSよりもDeductionの方がありがたい。Deductionは期間費用だからAll-Eventテストさえクリアできれば、発生した課税年度に費用化できる一方、COGSになって、期末在庫に資産計上された状態で残ってると、税効果・換金メリットが遅くなる。

ドラッグディーラーの場合は逆で、Deductionになると何も取れない一方、支出をCOGSって名付ければ時間差はあるかもしれないけど控除が認められる。だったら、なんでもかんでもCOGSにしちゃえばいいじゃん、って思うだろうし、極限までCOGSにして法廷で争うケースもある。ただ、どの支出を棚卸資産に計上できるか、っていうのはオプションではなく、税法の規定に基づかないといけないんで自ずと限界がある。その際、税法上は2つの重要な条文が関係してくる。従来から存在するsection 471と1986年の税制改正で追加されたsection 263Aだ。263Aだけでもそればっかりやっている専門チームがDCに居るほどの複雑な分野で、UNICAPは僕の専門エリアではないんで、深くコメントするつもりはないけど、471はどちらかというとGAAPっぽい規定。263Aはプラスで、GAAP上は期間費用としてBelow-the-Lineで処理することが求められるタイプの間接費用を資産計上させようとする条文。

COGSに関して、憲法上、議会が認めないといけない控除は471部分と考えていいだろう。263Aは、そもそも控除が認められない費用に関して棚卸資産への資産計上という名を借りて間接的に控除するようなアプローチをその条文の中で禁じている。分かり易い例は接待交際費。接待交際費は原則50%しか損金算入できないけど、仕入業者を接待したので、仕入れにかかわる間接費用とか言って、263Aで資産計上した上、COGSとして100%費用化することは認められない。263Aで資産計上できるのは50%部分だけだ。一方、471でカバーされる項目は全額マイナスを認めないといけない。例えば工場の製造現場の電気代とかは263Aを使用するまでもなく元々471でCOGSだから、仮に何らかの理由で電気代を否認する条文があったとしても、認めないといけない。ドラッグディーラーとsection 263AのUNICAPとかあんまり似合わないっていうか、イメージ的にピンと来ないかもしれないけど、当事者にとっては重要な区別。

BEATを恐れる多国籍企業はドラッグディーラー?

で、BEATの算定をする際に加算が求められる項目を、議会がわざわざDeductionに限定しているのは上のような憲法上の懸念が大きい。BEATでは、例外的にDeductionではないにもかかわらず再保険料はBase Erosion Benefitと取り扱うと規定している。この特記がなければ、再保険料はDeductionではないので、Base Erosion Benefitにはなり得ないからだ。

また、BEATでは、外国法人傘下になった米国法人に関して、インバージョン規制法に抵触するケースでは、インバージョン後に米国外グループ関連者に行う支払いに関しては、Deductionでなくても、すなわちCOGSを含むGross Incomeを算定する前の控除でも、Base Erosion Benefitとして取り扱うと規定している。インバージョン規定で米国資産を取得したと取り扱われる外国法人が米国法人と取り扱われるケースはこの限りではない。インバージョンしたことにならないからそれはそうだよね、って感じ。

再保険にしても、インバージョンにしても、COGSとかGross Incomeを算定する前の支出を否認するアプローチは、憲法違反ではっていう論点はあり得るだろう。この点に関して法廷でチャレンジがあったという話しは聞いていない。インバージョンはTCJA以降SPAC以外の局面ではあんまり聞かなかったしね。

で、保険業やインバージョン企業でないケースで、米国外関連者への支出はDeductionだとBase Erosion Benefitになるけど、COGSだったらそうならないってことだったら、納税者としてはドラッグディーラーと同じで、どれだけ多くの米国外関連者への支出を税法上COGSと取り扱うことが可能か、っていう極限を追及することになる。ドラッグディーラーと同じで471だったら問題ないだろうけど、263Aのコストはどうなんだろうね。

このCOGSを否認できない、っていう憲法上の制約はBEATを語る際の過小包括問題のPoster Child的な存在。そこで登場するのがSHIELD。たかがCOGS、されでCOGSで超長くなってきたし、慣れないAccounting Method系の話しだったんでここで休憩。SHIELDによる驚くべきCOGSの取り扱いは次回。

Saturday, June 5, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(3) モーニング・アフター・恐るべきSHIELD

前回と前々回、グリーンブックの中でも圧倒的に関心が高い2つの規定、SHIELDとGILTIに触れた。早くインバージョンの話しに移りたい衝動を抑えて、SHIELDとGILTIに関して一夜明けた感想を共有しておきたい。

Blow-by-Blowの増税案

グリーンブックは増税案に次ぐ増税案で、どれだけ法人や富裕層からもっと税金を取らないといかないか、っていうナラティブをBlow by Blowで炸裂させてくれていて気絶するほど悩ましい。

Blow by Blowって言でばJeff Beck。BBA解散後、間違えてストーンズに加入かって言われたものの、どう考えてもサウンド的に和合しないって気づいたみたいで、Blow by Blowっていう歌なしのAll Instrumentalアルバム作成に至る。旧友Max Middletonと組みなおし、「あの」George Martinがプロデュース。Jeff BeckとMax Middletonって、チャーと佐藤準みたい。BBAは二枚組のライブが傑作だけど、あれってLive in Japanで実は日本だけで発売されてたんだってね。あんないいアルバムを聴くことができて僕たち日本の子供はラッキーでした。

BBAのライブでJeff’s Boogieを初めて知ってコピーした人とか、オープニングのSuperstition聴いてトーキング・モジュレーター欲しくなった人は多いのでは。僕はお小遣いが限られてたんで、他にもっと優先順位の高いフランジャーとか欲しかったからさすがにトーキング・モデュレーターには投資できなかったけどね。トーキング・モジュレーターは使いすぎると頭おかしくなるとか都市伝説もあったし。Jeff’s Boogieは周りの子たちもみんな競ってコピーしてて、前半の6連符が8回続く速弾き(当時の中学生的な感覚では)の部分の弾き方に関して僕たちの間では意見が割れていた。一弦から始まって開放弦を利用している派(僕でした)、とわざわざ3弦だか4弦だかから開放弦を使わない根性派、の2つのキャンプがあり喧々囂々だった。当時は動画がないから音から推測するしかなかったからね。それが反って上達を早めたり微妙な音色に注意を払うクセをつけてくれたと思うけどね。

で、BBA解散後のBlow by Blowは一転してフュージョン。最初の曲だった「You Know What I Mean」の9thで始まるイントロ格好よかったよね。難しくないけど、あれ弾けるとただのロックギタリストでは終わらずに(何それ?)フュージョンも知っているような感じを醸し出せたし。Blow by Blowに続いて発売されたWiredも同じ路線。Led BootsとかBlue Windとか、WiredってJan HammerのMoogの貢献が大きい。その後、何回か武道館にJeff Beck見に行ったけど、Jan Hammerが居た記憶はない。多分。ということはFreeway Jamのライブじゃなかった、ってことなんだよね。初めて動くJeff Beckを見て最初に感じたのはピッキングの際に右手があんまり動かないというか、凄くソフトに速弾きするんだな、っていう点。ギターってネックの弦を抑える左手に目が行きがちだけど(もちろんヘンドリックスみたいな左利きの人は逆)、上手なギタリストは実は右手のピッキングのテクニックで差を付けてることが多い。Jan Hammerはいなかったけど、一回はベースのStanley Clarkeと一緒だった。彼のアルバムからもSchool Daysとかやってくれたりして、最高だったね。School Daysって、NYCやMDRとか、South DakotaのI90とか、どこで聴こうと今でもなぜか第三京浜がフラッシュバックしてくるんだよね。懐かしいね。港北インターとか。

Blow-by-Blow攻撃後のモーニング・アフターと財務省のフォロー説明

で、また脱線してるけど、グリーンブックでBlow by Blowの攻撃を受け、頭がくらくらして、そんなモーニング・アフターな状態で再度、SHIELDとGILTIにかかわる部分を読み直したりしていた。特にSHIELDは前回の特集時に触れた通り、説明の一部がシックリ来てなかった。そんな中、タイムリーに財務省の国際租税副次官補のホセが複数の業界団体の会合で財務省の考えを補足説明してくれて、不明だった点が少し明らかになると同時にまだまだ不確実な部分が多い点を再認識。

ホセは数か月前までEYのNational Taxで同僚(って言うと格好いいけど、彼は重鎮)で、東京にも一緒に来てくれて銀座で串揚げ食べたりしてたんで懐かしい。ちなみに串揚げ食べるために出張したんではなく、ミーティング等に数日明け暮れてA Hard Day’s Night的に最後打ち上げたという経緯なので念の為(笑)。ホセはクロスボーダー課税の表裏の全てを知り尽くしているような人。もともと以前もEYから財務省に転籍し、その後、EYの国際税務に戻ってきてた経緯がある。その意味ではマージー・ロリンソンみたいな経歴で、ホセはマージーの弟子だ。

ホセは、EY在籍中、クロスボーダー課税に関して比較的アグレッシブなポジションをサポートしてくれてたけど、グリーンブックの説明をしているホセは、財務省のキャパでの発言なんで、立ち位置が逆になってて面白い。米国財務省、AgencyであるIRSのChief Counsel Office、また議会の歳入委員会や財政委員会のスタッフ、たちは結構な比率で法律事務所、Big 4会計事務所の経験者だったり、官民を行ったり来たりしてる人たち。なんで、お互いに手の内は見え見えで、それが逆に実務レベルに即した規則や法律の策定、合法的なプラニングの構築に繋がってる。こういうキャリアパスは日本では余り一般的ではない、って聞くけど、政府・民間の双方に有益なストラクチャーなんで、もっとあってもいいんじゃないかな。

で、モーニング・アフター的なクラクラした状態でSHIELDとGILTIに関していくつか追加コメント。

BEATの反省から生まれた(?)SHIELD

BEATはそのメカニカルな適用から、BEATって言う名称から想定される効果を十分に発揮していないし、BEATに基づく歳入も期待外れっていう反省があるそうだ。仕入れや、ロイヤルティー等の費用が棚卸資産に資産計上されるとBEAT対象でなくなるという過小包摂、支払い相手国が高税率でもBEATになる過大包摂、ミニマム税という計算メカニズムを採択していることから低収益の納税者や課税年度に被害が大きいという弊害、などの問題が指摘されている。

さらにBEATの負担はインバウンド企業ではなく、米国多国籍企業に重い点も問題視されているそう。でも、これは要は広範なBase Erosionプラニングに(合法的に)従事してるのが米国多国籍企業だから、デザイン的にそうならざるを得ないだろう。さらに、TCJAで法人税率が下がり、親会社所在国との税率差が少なくなって、Section 163(j)とかも変更され、インバウンド企業的に派手に米国からBase Erosionするニーズが低下したし、そもそも日本企業みたいに米国の法人税率が高いからイコールBase Erosion、っていう風に考えない国の企業もあるからね。ただ、財務省的にはもっとインバウンド企業を取り締まらないといけない、ってことなんだろうか。法人税率のアップも負担は外国株主みたいな下りもあったし、選挙権のない者たちを懲らしめるっていうナラティブが受け入れやすいのは分かるけど。ふと思い出してみると、確かにBEATって2017年のTCJAが可決された際のCodifyされる前の法文では「Inbound Transaction」っていうタイトル下に存在してたね。

SHIELD下の損金不算入

SHIELDは財務諸表の連結グループに含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバルミニマム税率、例えば15%、に至らない場合、その関連者に対する支払いを損金不算入にするというもの。仮に特定グローバルミニマム税を15%と仮定して、実効税率が14.9%だったら、その国への支払いは全額損金不算入になる。0.1%だけ違反しているんで、支払いの150分の1が損金不算入になる訳ではない。一方、実効税率が15%だったら全額損金OK。典型的なCliff Effect。

これだけ読むとSHIELDの世界では、支払い先となる関連者がグローバルミニマム税率に至る実効税率になっていればそれでセーフに聞こえる。「だったら日本親会社へのロイヤルティーはOKだな・・・」と。ここは実は「ところがどっこい」で、SHIELDの酷さが炸裂する部分。

高税率国に支払っても一部損金不算入?

グリーンブックのSHIELDの説明には一読しただけでは「はっ?」って思う部分が二か所ある。COGSにかかわる部分(後述)と財務諸表連結グループ内に低税率国に属するメンバーが存在するケースにかかわる部分だ。

グリーンブックでは、米国法人がグループ内の低税率国にある関連者に支払いを行ってる「全額アウト」なケースに加え、仮に支払いの受け手が高税率国にある関連者の場合でも、グループ内の他の関連者が低税率の場合には、支払いの一部を損金不算入すると規定している。最初意味が分かんない感はあったんだけど、直接の受け手がどれだけ高税率でも、グループ内に低税率の主体が世界のどこかに存在する場合、グループの税引前利益に占める低税率国の割合相当部分を損金不算入にするとしている。

え~、何それ、間違いじゃないの、って思うけど、そうではなく、そのような設計らしい。財務省としては、グループ全体の税引前利益およびグループ内に存在する低税率対象利益を各々合算プールとして捉え、米国外への支払いは直接的には高税率国に支払っていても、グループ内に低税率関連者が存在する限り、その分は損金不算入にするという理解で間違いないらしい。そんなんだったらグループ全体の実効税率がミニマム税率かどうかで判断してくれたらいいと思うんだけど、そうではなく低税率の主体が一つでもあれば、そこで認識される税引前利益が全体に占める%分は、間接的なBase Erosionとなるらしい。受け手で30%とかで課税されていても。不思議なアプローチだけど税金取る側っていうのはそんな風に考えるんだね。

例えば日本企業の米国子会社が日本親会社から商品を仕入れたり、ロイヤルティーを支払ったりして、日本親会社は余裕で15%を超えてるとする。米国子会社とは一切取引がない香港子会社の実効税率が14%だったとして、香港子会社で計上される税引前利益が連結グループの5%を占めてるとすると、仕入代金およびロイヤルティーのうち5%が損金不算入(?)になるということらしい。

ということは申告時には、直接的な支払いのあるなしにかかわらず財務諸表連結グループ内に存在する関連者所在国の実効税率を全て特定しないといけないってことだよね。日本がIIRを導入して、IIRに基づくトップアップ課税も、CFCの税率に加味してくれるんだったら大概において低税率に抵触するケースはなくなるはずだけど、ピラー2と米国の規則の法人税の特定の仕方とかに差異があるとややこしさこの上なさそう。ピラー2ではUTPRはIIRのバックストップだけど、SHIELDも明確にそうしてくれないとコンプライアンスが立ちいかない。

SHIELD目的の各国実効税率

SHIELD目的の実効税率は各国の表面税率ではないから、いろんな国でその国の税法上のNOLがあったり、R&Dクレジットがあったりその他の事情で期せずして実効税率がグローバルミニマム税率を下回ることもあるだろう。そもそも、どうやって実効税率を算定するのか、っていうメカニズム次第だけど、実効税率を単年で判断する場合、ある課税年度の支払いは全額損金不算入、翌年は全額損金OK、というような状況が十分にあり得る。過去には全く別の件で、60か月平均して実効税率を計算してはどうか、という平準化策が盛り込まれてた提案もあったけど実現してない。

米国税法のSHIELD目的で、外国の財務諸表ベースの所得と外国法人税を基に実効税率を算定する作業は複雑で負担は大きい。外国法人税は、既にFTC目的で各所得にどうやって紐付けるのか、2020年に規則が最終化されてるけど、その規則は珍しく外国現地の税法を加味して各所得項目に法人税を紐付けて行く手法を取っているので、50か国にCFCや関連会社があると、50の税法にある程度明るくないと法人税の配賦もできないことになる。

SHIELDとCOGS

そしてもう一つ、グリーンブックでは複雑怪奇な表現で説明されているCOGSに区分される関連者への支払いのSHIELD上の取り扱いに関しては次のポスティングで。ここは面白いので楽しみにね!

Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Saturday, May 29, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(1) SHIELD

米国財務省は予想通り、2021年5月28日、メモリアルデーWeekendだって言うのに$6Tに上る歳出を披露したホワイトハウス予算案と同時に、バイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」を公表した。グリーンブックって言うとリサイクルした紙を使った本みたいだけど、米国税務の世界では行政府が議会に「こんな税制改正はどう?」って提案する目的で作成する資料のこと。正式には「General Explanation of the Administration's Revenue Proposals」と呼ばれる。ちなみにブルーブックって言うと、一般的には中古車の価格査定資料に聞こえるけど、米国税務の世界では可決された法案にかかわる議会の説明資料。こちらの正式名称は単に「General Explanation」で Joint Committee on Taxationが作成する。ブルーブックは立法の背景を知る貴重な資料ではあるけど、立法された直後に作成されるので正確には議会の立法過程の意図を反映しているとは言えない。

で、バイデン増税案はまだまだ今後どのような議論を経ることになるか不明なので、グリーンブックはあくまでもバイデン政権の「夢リスト(Wish List)」の状態。ただ、議会の民主党議員も方向的にはバイデン政権と同調しているので、参考になる面白い読み物だ。

これでもか、って感じの増税案攻め

グリーンブックで解説されている増税案そのものは既に「Made in America Tax Plan」とか「American Families Plan」で公開されているものと同じ。別に高を括ってたつもりはないんだけど、こうして改めてまとめて解説されると、次々に議論される増税案に圧倒される。キャピタルゲイン増税に至っては駆け込みで資産譲渡とかされないように、American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用って提案されていたり、左翼政権が樹立されるというのはこういうことなんだな、って再認識。

法人税に関しては、2022年1月1日以降に開始する課税年度から28%への引き上げ、という既定路線で驚きはない。暦年以外のFiscal Yearの法人に関しては混合税率を適用、って明記されてる。Section 15、昔のSection 21、があるから言うまでもないだろうけど、わざわざ言っているところがしつこい。日本企業は3月決算が多いけど、ということは2022年3月期は21%と28%を加重平均して22.73%の税率となる。これは所得認識が12月以前でも1月以降でも関係ない。つまりもしかしたら知らないうちに既に増税になってるかもしれないってことだ。知らない間にキャピタルゲインが23.8%から40.8%(グリーンブックではオバマケア付加税の3.8%を考慮してか、キャピタルゲイン税率を所得税最高税率の39.7%ではなく37%としている)になってたよりマシだけどね。5月に株式譲渡してしまった納税者は手取りがいきない20%も減っちゃうんだろうか。

法人税増税に関しては、なぜか実際に最終的に重荷を負担するのは主に外国人投資家で、米国人には負担は少ない、と。しかも外国人投資家は株式譲渡時の不動産持分法人株式でなければ、キャピタルゲインに課税されないんで当然、というような説明だ。どう考えても、米国法人税率引き上げの影響は企業そのもの、従業員、そして米国人株主に与えるインパクトの方が大きいように思われ、なんか巧みな弁舌で人を煙に巻いてる感じがある。

増税案の詳細で面白い点はいくつかあるけど、やはりSHIELDとGILTIが筆頭にくるかな。っていうことで今日はまずSHIELDから。

SHIELD全容初登場!

SHIELDに関しては財務省が既にMade in America Tax Planにかかわる詳細説明をした際に概要を公開しているけど、グリーンブックでは更に深堀りされている。結構複雑。前回公開されている内容に関しては「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」を参照して欲しい。ちなみにSHIELDは「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments 」の略。無理やりSHIELDになるように作った感じが炸裂しててダサい名前。「Low-Tax Developments」ね。

で、SHIELDは「効果のない」BEATに代わって鳴り物入りで登場しているBase Erosion対策規定の一つだけど、概念的にはOECDのピラー2で提案されているUndertaxed Payment Rule(UTPR)そのものだ。BEATは、米国Aggregateグループベースで計算される過去3年間の売上が$500M以上でBase Erosion%が3%以上の法人が適用対象だったけど、SHIELDは連結財務諸表の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップが対象。米国税法の判断時には、法的な定義がカチッとしている税務上の金額を元にすることが多いけど、財務諸表ベースっていうのがOECDチックだ。

SHIELDでは、連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率がグローバルミニマム税率より低い場合に、この米国外関連者に対する支払いを損金不算入にするっていうもの。グローバルミニマム税率はOECDのピラー2で国際合意される税率に合わせるってことだけど、ピラー2合意前にSHIELDを導入される場合には、ピラー2合意が成立するまではGILTI税率を代用するとしている。ということは当面21%。

BEATと違って支払全額が損金不算入?

グリーンブックのSHIELD部分は表現が分かり難く、一読しただけではどの金額をいつ加算処理させられるのかピンと来ない。途中からCostがどうのこうのとか、税法で規定されていない一般用語で説明されてたり、急にunrelated partyに対する支払いも対象とか書かれていたりして混乱するんだけど、読み直してみてビックリ。

SHIELDで損金算入が制限される金額はBEATの「Deduction」を元に判断する「Base Erosion Benefit」とは大きく異なるようだ。すなわち損金不算入の対象は「支払い」そのもののように説明されている。すなわちSHIELDに抵触する支払いは発生時に「全額」損金不算入になるっていうこと。例えば、発生時に全額費用処理される項目がSHIELDに抵触する場合は分かり易くて、支払い=費用=損金を加算調整する。これは分かり易い一方、COGS等で一部でも損金処理が繰り延べられたり資産計上される項目に関する取り扱いは難しい。

グリーンブックの説明は、損金処理が支出より遅れて認識されるようなケースでも、支払いが発生した課税年度に、支払全額を加算調整する、と読めなくもない。例えば、低税率国の関連会社から100仕入れして、70は期中の売上原価となり、30は期末在庫に資産計上されている場合、SHIELDではその期に費用化されている70だけでなく、30も加えた100全額を加算処理するようなシステムとしたいのかも。結果として、その期だけ見ると30は非関連者への支出も損金不算入となる。翌期以降に2回目のSHIELDの影響はないから、長期的には100が否認されているという意味で調整されるんだけど、各期の費用計上とリンクしないとなるとチョッと変な規定。または、単にCOGSとかに計上される金額はテクニカルにはDeductionじゃないけど、他のDeductionを減額する、すなわち結果として第三者への支払いを減額するという意味なんだろうか。書き方が悪過ぎて分かり難い。また、支払いにはBEAT同様、Deduction項目だけでなく、テクニカルにはReductionに当たる再保険料を含むとされている。ただ、COGSにも適用があるのだから対象がDeductionに限定されてないことは言うまでもなく明らか。

さらに、支払い先の米国外関連者の実効税率が全体でグローバルミニマム税率以上でも、他の関連者にミニマム税率に至らない実効税率の対象となっている法人なんかがあると、支出のうち相当部分を損金不算入にするって書いてあるように見える。何それって感じで計算や事実確認の負担が高そう。

う~ん、結構 凄いね。次回はグリーンブックに見るGILTI増税に関して。

Monday, May 24, 2021

バイデン政権キャピタルゲイン増税案

前々回「バイデン政権増税案: 今度は個人所得税」でAmerican Families Planで提案されている個人に対する諸々の恩典拡充に触れた。

今日はそのAmerican Families Planの個人所得税増税案に関して。他のプラン同様、バイデン政権の提案は富裕層がフェアなシェアの所得税を支払っていないというナラティブから始まる。米国ハイテク企業が多くの市場国でフェアなシェアの法人税を支払っていないっていうことでOECDのBEPS 2.0が議論されてきたけど、何がフェアと感じるかは客観的な尺度がないので、結局どれだけ払ってもフェアなシェアに至ってない、って言われるとそれまで。Can’t Get Enoughの世界だよね。

Can’t Get EnoughっていえばBad Company! Bad CompanyはPaul Rodgers率いるシンプルだけどいい感じのブリティッシュロックバンドだった。マネージャーはZeppelinと同じPeter Grant。Peter GrantはZeppelinのMSGライブ映画「The Song Remains the Same」の最初にギャングみたいな役で登場してて凄い迫力だったから覚えてる人も多いのでは。Bad Companyのギター、Mick Ralphsは、いかにもギブソン・レスポールって感じの甘く歪んだ音でロックギターの王道を行く存在だった。ブラックモアとかに比べるとはるかにコピーし易かったけど、それでも格好よく汎用性が高いフレーズを学ぶことができた。Can’t Get EnoughはデビューアルバムのA面(ビニールのA面です)一曲目。ドラマーのSimon Kirkがドラムスティックで「One Two, One Two Three」ってカウントして「Four」のところは「ドタ」ってバスドラとスネアで入り、コードC、B♭、Fってなんてことない単純なイントロなんだけど、やたら格好いいんだよね。バッキングではFの部分にSus4でB♭の音がちらついてて、これ以上単純にならないよね、っていうくらいストレートなロックだ。

日本の学校で英語習い始めの頃だったんで、「Bad Company」ってどういう意味?とか友達と話してて、Badは分かったんだけど英和辞典(笑)とか引いてCompanyは会社とか出てきて、「ダメな会社っていう意味なんだぜ」とか言ってた時代が懐かしい。今、Bad Companyって聞いたらもちろん「悪い仲間」っていうか、逆に言えば一緒につるみたくなるようなチョッと不良っぽい奴ら、みたいなイメージが伝わってくるけどね。ロックバンドだからさすがに会社じゃないよね(苦笑)。デビューアルバムのジャケットは「Bad Co」ってデザインされてて、そんなことから僕たちは「バッドコ」って呼んでた。う~ん、いいね。久しぶりにバッドコのGood Lovin' Gone Badでもブラストしたくなってきました。

で、どこまで払っても所得税が「Can’t Get Enough」なのは取る側の感覚だと思うけど、ニューヨーク州、特にNYC、とかカリフォルニア州とか大きな政府の民主党が君臨している地域に住んでて収入が増えてくると実効税率が平気で50%程度になったりする。それでもフェアではないんだろうか。データによると、米国は所得額トップ1%の人が総所得の20%程度を稼いでいるそうだけど、その同じ1%層が連邦所得税全体の実に40%を負担しているそうだ。かなりの負担率だけど、これを更に増やそうというもの。バイデン政権的には1%で40%を負担していても未だ足りないっていうことで、バイデン自ら「法人や所得額トップ1%にそろそろフェアなシェアを支払わせる時が来た」と議会に演説していた。

で、個人所得税の増税は具体的にはまず2017年のTCJAで37%に引き下げられたトップ累進課税を元の39.6%に戻すというもの。選挙活動中の公約通り年収40万ドル未満の家族には増税はないっていう点を強調するため、バイデンがプレスで「年収が40万ドルない家族は1セントも税金は支払う必要はない!」って宣言してしまい、チョッと意味違うんじゃないとか話題になってた。この39.6%って純粋に所得税部分で、自営業とかだとプラスで15%以上の自営業税(SECA)が課せられる。従業員のFICAに当たるけど自営業の場合は雇用者負担分も自己負担なんで倍額となる。すなわち連邦だけで軽く50%を超えることになる。

ちなみにTCJAで税率そのものは確かに少し引き下げられたものの、州税その他の控除が厳しく制限されることになったので、結局増税に近いケースも多かった。地方税が高いカリフォルニア州やニューヨーク州、特にNYCなんかの居住者はその悪影響で実質減税効果は帳消しになっていた。このBase Broadening部分はそのままで税率だけ元に戻されると以前よりももっと負担が重くなる。

次にキャピタルゲイン課税。キャピタルゲインは給与等の通常所得と異なり最高20%の特別税率の対象となる。正確にはオバマケア税が3.8%加算されるんで23.8%だ。この税率は長期キャピタルゲインと大概の配当に適用される。で、バイデン政権増税案では、$1M超の所得がある納税者(夫婦は合算ベース)に適用されるキャピタルゲインおよび適格配当税率を20%(オバマケア付加税+3.8%)から通常税率の39.6%(同じく+3.8%)に引き上げるというもの。通常の所得と異なり、投資所得は3.8%のオバマケア付加税の対象となる点はそのままなんで、実質43.4%と割高になる。

フロリダ、テキサス、サウスダコタとか所得税がないハッピーな州に住んでれば43.4%で勘弁してもらえるけど、ニューヨーク州とかカリフォルニア州に住んでると凄いことになる。カリフォルニア州は12.3%がトップ税率と公表されているけど、実は所得が$1Mを超えると1%付加税がキックインしてくるので13.3%。ニューヨーク州もマンハッタンとかブルックリンを含む5つのBorough(行政区)内だと同じく13%近い。ということは連邦と合算で実に56%程度の税金となる。いよいよBlack Hillsに拠点を移さないと(?)。夏は最高だけど冬寒そうだからやっぱりフロリダのビーチシティかテキサスのオースティンとかが普通のチョイスかな。Musk大先生も居るしね。

キャピタルゲインは通常、リスクマネーを投じた結果得られる所得なんで、得られるかどうか分からないし、投資が紙くずになることもある。キャピタルロスは、通常事業からの損失と異なり、個人に与えられる$3,000という「ささやか」な規模の損失計上枠を除き、キャピタルゲインとしか相殺できない。そんな果実が50%超の課税に晒されるとなると、リスクが恩典との比較で合わないケースもあるだろう。所得が$1Mの部分も曲者で、通常は$1Mレベルの所得に至らない個人事業主とかが、事業を譲渡したりするとその課税年度だけ所得が$1Mを超えて長年の蓄積に基づく手取りが大きく減額することもあり得る。上場企業の株式じゃないんで、分割払いに基づく譲渡益認識は可能だけど、税金以外の面で余り好まれないだろう。

キャピタルゲイン増税案は今後の審議でどうなるか分かんないけど、増税リスクがある限り、早めにキャピタルゲインを実現させて益出しを試みる納税者が増えるだろう。また仮に法制化されると、簡単にはキャピタルゲインは実現させたくないので、Deferral戦略の検討が重要視される。例えば、上場企業がForward Cash Mergerなんてしようもんなら、法人レベルでバイデン税率の28%に加え州税が掛かる。仮に州実効税率を5%とするとそこで既に33%だから、個人株主にみなし分配される金額は67。そこに56%とかのキャピタルゲイン税率が適用されると手取りは30弱という惨状。100の価値がある事業を譲渡して30の手取り、すなわち実に70%の実効税率となる。これは税金と言う名の大きな政府による資産没収に近い(?)。ウォールストリートジャーナルは、米国のキャピタルゲイン税は中国との比較でも倍以上になり、今後のリスクマネーに基づく自由な投資やイノベーションの障害になるのでは、と警鐘を鳴らしていた。バイデンは「America is back」って言うけど、実は「America is gone?」。

2003年以降のM&AのDealストラクチャーはキャピタルゲインや配当の税率が下がったことで以前とは大きく変わっていて、課税取引に対する抵抗が下がってたけど、それが逆行し、適格組織再編を通じたDealが好まれるようになることが考えられる。ただ、これはケースバイケースかもしれない。というのも、株主の多くが州の退職基金や、その他通常の非課税組織だったりすると税率は関係ない。PEファンドとかも基本パススルーなんで、税金は投資家レベルの話しでファンドの成績に税負担は影響しない。それどころか税金を支払うためのDistributionはキャッシュフロー的には投資家に対するリターンになるから、タイミング的にIRRが上がったりする。またアービトラージみたいな戦略を取る株主は、短期的にキャッシュ化するのでどっちにしても通常所得税率で課税される。ファンド経由で影響力のある個人株主たちが存在すると、課税取引は難しいかもね。いずれにしても、2003年以降定着していた、個人投資家が課税されても気にしないような戦略は取り難くなる状況が出てくるのは間違いないだろう。

また$1Mという所得レベルで明暗が分かれるとすると、際どいケースでは何とか全体の所得を$999,999にしよう、っていう分かり易いプランも横行することになる。BEATの3%みたいだね。$1Mいくかいかないかで大違いだからね。ちなみに$1Mをどこで判断するのか、すなわち、Gross Receiptなのか、Gross Incomeなのか、AGIなのか、課税所得なのか、等は現時点では不明。

また、キャピタルゲイン増税案と関連する提案に、含み益が$1M超の被相続人が死亡時に所有する資産に税務簿価の時価ステップアップを認めないというものがある。相続人が過去の簿価を引き継ぐっていう手法もあり得るけど、有力視されているのは、死亡時にみなし譲渡益をキャピタルゲインとして課税するという方法。被相続人は死亡しているので、Estate(遺産)が所得を認識するんだろうけど、このキャピタルゲインに対して56%とかで課税され、場合によっては更に遺産税の対象となったりすると、流動性の低い個人事業主の事業を相続するようなケースでは壊滅的な影響があり得る。一層のこと、事業を引き継がずに慈善団体に寄付する?

次回もキャピタルゲイン増税案絡みの話しの続きで、ファンド・スポンサーが得るキャリーの取り扱い、および$50万を超える事業用不動産譲渡益に対する買替え特例の撤廃に関して。

Friday, May 21, 2021

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。

相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案

米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。

そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。

米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。

ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。

で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?

米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?

Wednesday, May 5, 2021

バイデン政権増税案: 今度は個人所得税

それにしても凄まじいお金の使いぶりだ。3月のAmerican Rescue Plan(コロナ対策)、American Jobs Plan(インフラ)、American Families Plan(社会保障)を合計すると何と$6Tの歳出。

$6Tって巨額過ぎてピンと来ないんで、どうやって肌感覚で理解するべきか苦労するけど、例えばこれを10年かけて使うとすると、今後10年間毎日、1,650億円使うことができる計算になる。10年間毎日。こんなお金を使うべきかどうかは、金額の規模そのものもそうだけど、使い道もよく考えないといけない。DCのポリティシャンたちにこんな巨額のお金を渡し、それを賢く、かつ透明性高く、規律をもって使えるか、っていう点だ。既に可決済みのコロナ対策American Rescue Planを見る限りどうだろうか。$2Tのうち実際に市民に直接的に恩典があるのは10%程度。他はコロナに関係あるものないもの、民主党とコネがある団体、セクター、財政規律に欠けてコロナと関係なくもともと財政が逼迫してた州の救済、等盛りだくさん。結局のところ民間企業と異なり業績管理とか株主とかSECとかない訳だから、無駄が多く、透明性には欠け、またそもそもDCのポリティシャンにクリエイティビティとか期待できないし、もっと民間の力を活用した方がいいのでは、って思ってしまう。社会政策で最低限必要な部分は政府、それ以外は民間ってして、ポリティシャンはPrivateセクターが余計な規制や過度な税金で苦労せずに創造力を最大限発揮できるような環境を整えて欲しい。

American Families Plan

先日公表された個人所得税増税案を含むAmerican Families Plan。ファミリープランね。歳出側としてはPre-Schoolや短大の無償化を始めサンタさん、じゃなくてサンダース大統領の政策の多くが具現化されている。ゴメン、大統領はバイデンでした。きちんと運用してくれるのであれば国民に対する投資なので悪いお金の使い方ではない。無駄使いや財源の当てのない公務員年金プランとか、財政規律のない州政府の救済とか、余り有益でない規制を増やしてそれを監督するための組織費用とか、に比べれば国民の教育や健康維持に税金を使うのは払う側として納得感が高い。その際、恩典を受ける側の責任というか、どの程度、短大で頑張る必要があるのか、とか、そんな資金を受け取る学校側の体制が十分か、等の付随議論も忘れずに徹底して欲しい。ホワイトハウス案ではそこは未定。

税額控除拡充案

税金って言っても歳出側に属する策だけど、税額控除を拡充させようという提案。そのうちいくつかはコロナ対策American Rescue Planで既に時限立法された規定を恒久化しようというもの。政府を肥大化させる際の常套手段と言えるけど、まずはクライシスを演出し、国民がビビったところで時限立法。そして後日、恒久化という流れだ。失業保険にしてもそうだけど、もちろんもらう側は長期に亘りもらえる方がありがたいのは当たり前。問題はより多くの国民が政府の支援に頼り始めるってことが貧古層からの脱出や、総合的に国民の健全な生活に繋がるのか、っていう問題。勤労意欲への影響や雇用を必要とする事業主、特に個人事業主、の求人や人件費への影響。これらの施策はデータ的には必ずしも効果的ではないようだし、そもそもせっかく個人が自由を謳歌できる米国で、実質政府に食べさせてもらっているような状況になると、管理される側としての独立性が失われるよね。このバランスをどう考えるかは最終的には各国民が投票と言う行為を通じて参政し決定されていく。

で、恒久化や改訂が提案されているのは、子女税額控除、扶養家族介護税額控除、低所得者勤労税額控除。子女税額控除に関しては元々コロナ前は$2,000だったんだけど、6歳以上の子に関しては$3,000に、6歳未満のケースは$ 3,600への引き上げられていて、これらを恒久化。さらに子女税額控除額が算出税額を上回る場合に差額を現金還付する還付方式の税額控除に変更するとしている。

次に13歳未満の子女および一定要件を充たす他の扶養家族にかかわる保育や介護費用の50%税額控除額の上限額を$4,000に拡大恒久化。$4,000は対象者が1名の場合で、2名以上の場合は$8,000が上限となる。3人いても$12,000にはならない点に注意。

さらに低所得勤労税額控除の適応対象を子女のいない勤労者にも拡大するという新規定を提案している。

ちなみにこれらの恩典はもちろんだけど所得制限がある。

増税案

一方で巨額の歳出をファイナンスする側の増税案内容は大概においてバイデン選挙活動中の提案に準じるもの。とは言え、改めてキャピタルゲインが連邦所得税だけで43.4%にしないとフェアではないと言われるとM&Aとかのストラクチャリングを考え直さなきゃ、って思うけどね。キャピタルゲイン増税を含むバイデン政権個人所得税増税案に関しては次回詳しく。

Monday, May 3, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(3)

前回はBEPS 2.0の米国新提案のうち、ピラー1に触れた、米国の提案はセクターを問わず機械的に$20Bの売上、利益率のみでAmount Aの適用対象者を決めようっていう「Comprehensive Scoping」。

クロスボーダー課税新秩序を自国のルールや利益に合致させようっていう急な登場を見て、なんかホワイトアルバムに入っているSexy Sadieの歌詞を連想してしまって前回はその話しでチョッと長くなったね。ホワイトアルバムは、SGT PepperやAbbey Roadにはないライブ感というか、プロダクションっぽくないところというか、コマーシャル的な制限やプレッシャーを全く感じずにアーティストとしての可能性を好き放題追及しているっていう意味で、一番好きなアルバムっていうファンも多いのでは?個人的にはビートルズに関してはどのアルバムも全部各々味があって甲乙付け難い。UKデビューのPlease Please Meだって今聴いても斬新。

ホワイトアルバムはチョッと前に50年記念の超デラックスバージョンが出てて、大量のアウトトラックが正式公開されてるけど、アルバムバージョンとの比較においてメンバーが和気あいあいと各々の作品を形作っていっている感じが印象的だった。ホワイトアルバムセッションの直後のLet it Beセッションも含め、あの頃ってバンド内がバラバラだったイメージが定着してたけど、ホワイトアルバムのアウトトラック、50周年記念のAbbey Roadのアウトトラック、Peter Jacksonの新Let it Be (「Get Back」)等で実はそんなことはなかったっていう話しになりつつある今日この頃。確かにバラバラじゃあんな凄い作品次々できないよね。Peter JacksonのGet Backは一年遅れでこの夏8月27日公開予定。Get Back公開前に倒産して二度と開かないのでは?、って心配されたNYCの映画館もいつの間にかオープンしてるし、大きなスクリーンといい音で見るの楽しみ。何と言ってもRooftopがフルに入ってるってことだし。

ホワイトアルバムはSexy Sadieの他にも名曲満載。John Lennonの作品としてはDear Prudence、Glass Onion、Happiness is a Warm Gun、I’m so Tired、Julia、Yeah Blues、Everybody’s Got Something to Hide except Me and My Monkey (小さい頃、この曲のタイトル長すぎて覚えられなかったな)、Cry Baby Cry、Good Night(ボーカルはRingo Starr)とか緩急自在な逸作がギッシリ。Paul McCartneyももちろん絶好調でBack in the USSR、Ob-La-Di Ob-La-Da、Martha My Dear、Blackbird、I will、Mother Nature’s Sonとか全部いいね。Martha My DearはPaul McCartneyが当時飼っていた愛犬の Sheepdogを歌ったものだけど、英国っぽいいい曲だよね。ピアノのイントロ気持ちよくて、一応小さい頃バイエルの黄色本までは頑張ったんで、小学校の頃、耳で聴いて練習したもんだ。キーがE♭なんで黒鍵が多くて難しめ。Paul McCartneyがこの曲のピアノは自分の曲の中でも右手と左手が一緒じゃないから難しいって言ってたけど本当だ。ホワイトアルバム直後のLet it Beセッション前半、Twickenham StudioでPaul McCartneyがMartha My Dearのピアノを一人で延々と弾き続けてる海賊音源があるけど、その後ろでJohn Lennonが誰か、もしかしたらアシスタントのMal Evans(?)と、George Harrisonがバンドから出て行ってしまった頃みたいで(数日後に復帰)、帰ってこなかったらどうするかみたいな生々しい話しをしているのが聞こえてくる。John Lennon曰く「Georgeがバンド辞めたんだったら、辞めたんだから仕方ないじゃん」みたいなことを言い、「その時は(Eric)Claptonに入ってもらおう」とか言ってて凄い。何年も後にPaul McCartneyがソロで来日した際の武道館(?)のリハーサルの一部でMartha My Dearの前奏一部を弾いている音源もネットに出回っている。

Martha My Dearね。ピアノのイントロ途中のA♭Maj9の和音の美しいこと。その直後B♭7やA♭に続いていくところとか聴いてると明日にでもAbbey RoadのあるSt John’s Woodに引っ越してしまいたい気分。South Dakota、Florida、Texasと迷うけどね(全然違うけどね、この4か所)。でも、Martha My Dearがレコーディングされたのは実はAbbey Roadではなく、SOHO(ロンドン)のTrident Studio。当時Abbey Roadの機材は4トラックだったらしいんだけど、Trident Studioは8トラックあったのが理由。ちなみにHey Judeの録音もTrident。もちろん物好きの僕としては訪ねて行ったことあるんだけど青いマーク以外は跡形もなくてチョッとガッカリだった。まあ、Twinckenham行った時と同じでそこの空気据えただけで幸せって感じ。気のせいか独特のVibeがあるSOHOの裏道。

Martha My Dearは、ピアノ、ボーカル、ドラム、ベース全部Paul McCartneyで、真ん中に出てくるギターはA♭Maj9の裏ピックのリズム感がてっきりJohn Lennonかと思っていたらGeorge Harrisonだそう。ストリングとブラスのオーバーダブはもちろん他でもないSir. George Martinの手によるものだけど、50周年バージョンにはストリングとブラスがないNakedバージョンが入っていてそれはそれでライブっぽくていい。後からオーバーダブしたPaul McCartneyのベースも格好いいけど、Nakedバージョンはベースも入ってない、ボーカルもユニゾンのオーバーダブが加えられる前のバージョンだ。Paul McCartneyが左利きだからって訳じゃないだろうけど、ベースがなくてもピアノの低音が効いててかなり格好いい。なんかこの左手、HendrixのCrosstown Trafficのドスの効いたピアノの低音みたい。う~ん、いいね。ワクチンも打ったしロンドンは検疫とかなしで入れてくれるようになったかな。

ごめん。何の話しだっけ?Comprehensive Scopingだよね。

そして正当化は続く

イエレン長官のComprehensive Scoping自賛はその後もしばらく続いて結構しつこい。既にプレゼン済みの話しと同じだけど、別のスライドでAmount Aの適用を特定のセクターに限定するのは恣意的かつ差別的、世界トップ100社はグローバル市場から最も恩恵を受け無形資産を活用している輩たちだから課税対象として不足はなく、ピラー1対応コンプライアンス負荷に耐えうるリソースを有するので標的として申し分ないという。法を執行する各国税務当局にとっても100社にフォーカスすることで負担が減る。

そして、Comprehensive Scopingはピラー1が抱える一番の問題であるセクターの特定およびセグメント化の問題を不要にするという簡素化及び確実性を提供する。更に前回も触れた通り、歳入を同じレベルに保ちながら適用対象を100未満にできる。これらの施策で、グローバル課税システムに不要な負荷を強いる弊害を取り除き、ピラー1成功のチャンスを最大限化できる、としている。

Comprehensive Scoping対象企業とクロスボーダープラニング

Comprehensive Scopingは売上と利益率のみで機械的に上から100社選択する。まずは売上基準で「ふるい」に掛け、そのステップで引っ掛からなければその時点でGame Overだから多国籍企業がそれ以上Amount Aの心配する必要はない。売上基準の金額は明記されてないけど、口頭で$20Bを考えていると伝えたと報道されている。次に、勝者(敗者?)決定戦の利益率基準。イエレン長官曰く、この決勝戦で抽出される企業は、世界でも有数の収益力を誇る企業となることから、そのことをもって無形資産を活用しているに違いなく、阿漕なクロスボーダープラニングへの関与が最も怪しまれる対象である、と決めつけている。

バイデン政権の財務省高官は法人や富裕層に厳しい、というか憎悪すら感じられる表現が他の資料にも見られるけど、中でもトップ100社だからBase Erosionの総本山ということなのだろうか。米国企業だけの話しだったらまだしも、他国の大企業の税カルチャーとか分かってんのかな。どちらかというと、Comprehensive Scopingにしてしまうと、そもそもアクション1からの流れでピラー1のポリシー目的はなんだったのかっていう部分がより分かんなくなるけど、100社としてもそれらの企業が無形資産を駆使してクロスボーダープラニングに関与している連中だから、っていう推定事実認定をしてしまい、であればデジタル企業に対する新秩序っていう目的に適ってるね、っていう納得感を与えるためのコメントなような気がする。

Comprehensive Scopingで終わりではないAmount A設計

Comprehensive Scopingで対象100社を機械的にバッサリ抽出してもそれでAmount Aの難解ステップが終わる訳ではない。そこからも迷路は続く。プレゼンでも、誰に超過利益をばらまくのかを決めるNexus、セグメンテーション(?)、係争防止・解決、他の要素、の検討をする必要があると続いているけど、単にBullet Pointsで羅列されているだけでそれ以上の深堀はない。Nexusに関しては「プラスファクター」を設けることで不要な混乱を招いているとし、発展途上国がピラー1の課税に参加できるようなNexus定量基準に弾力的に対応する用意があるとだけしている。Comprehensive Scopingが導入されると、セグメンテーションの問題はなくなるはずなんで、なんでここでセグメンテーションの話しを蒸し返してるんだか不明だけど、セグメント計算は複雑とした上で、Comprehensive Scopingを採択したらその必要はなくなるとしつこく説いている。

係争防止・解決はピラー1合意の成果として米国は重要視しているとし、課税の確実性が担保されないピラー1はあり得ず、必然的に拘束力を持つ係争防止および解決手続きが不可欠としている。これは言うが易しで、一つの国の中での係争と異なり、最終的にどんな形で法制の効果が及ばない他国に「拘束力」を適用するのか。国内であれば理論的には法廷侮辱罪に基づく罰金・収監や判決で確定した債務の徴収にかかわる資産差し押さえ、とか策があるけど、「そんな決定は紙切れ」とかって言う国が出てきたらどうするのか。軍隊派遣する?まさかね。また、100社のために特別なパネルをセットアップしたりするんだろうか。いろんなポジションが増えて雇用にはいいかもね(苦笑)。でも、そんな大げさなパネルが必要になるってことをもってして設計に問題があるとも言えるのでは?

他にも、売上源泉地をどうやって決めるのか、税引前利益の算定、利益率基準に満たないケースの複数年度に亘る調整、超過利益配賦法、二重課税の排除、事務手続き、施行、等の問題が羅列されている。

DST

最後に、ピラー1の国際合意時に各国が取り下げることになる「関連する一方的な課税措置」の正確な定義を煮詰める必要があるとしている。それはそうで、せっかくピラー1に国際合意しても、各国のDSTと共存ではただ単に追加の税金が増えるだけ。正確に定義した上で、各国税務当局による取り下げ順守を確実にしないといけないとしている。関連する一方的な課税措置かどうかの判断基準の例として、条約と関係なく適用されるか、法的または結果として差別的な制度か、Amount Aとは別の課税権を構築しているか、を挙げている。イエレン長官のプレゼンはここで突如終わる。Abbey RoadのA面最後のI Want Youみたいに。

パラダイムシフトのピラー1

この提案を見るとAmount Aにアクション1から議論されてきたデジタル企業への課税法という色はなくなり、理由は問わず、儲かっている大手からは税金を国際的に取るという歳入フォーカスの制度に変わろうとしている。まあ、米国はずっとデジタル経済をリングフェンスしてはいけないって言ってきてたんで、Comprehensive Scopingだったら確かにリングフェンスはない。また、Amount Aのフォーカスは、物理的な存在を伴わなくても市場国から得ることができる無形資産から生じる超過利益だけど、一定サイズで利益率が高いことをもって無形資産の超過利益があるという推定事実認定になっている。もともとGILTIがそのアプローチに近かったけど、バイデン政権案では超過利益ではなく、CFCの所得は全てGILTI課税と提案されている点と不整合で皮肉。それにしてもComprehensive Scopingになると、金融はAmount A対象になるんだろうね。

Amount Bはどこに?

ところで、米国財務省が言うところのピラー1って、イコールAmount Aのことみたいなんだよね。実はイエレン長官のプレゼン自体にAmount Aって用語は一回も使用されてなくて、ピラー1って言及し続けている。その割に、内容的にはAmount Aの話ししか出てこない。Amount Bだって立派なピラー1の一部だったと思うんだけど、全く言及されてない点は興味深い。Amount Bの運命は不明だけど、米国案ではAmount Bは廃案かもね。まあ、Amount Bは所詮ALPの世界の話しに準じてるし、あんな単純な規定に関して各国がスコープで揉めたり、%にレンジを儲けるとかセクター別の%にするとか、そんなんだったら確実性を担保する目的も達成できないし、一層のことなくてもいいかもね。もともとピラー1の目的だった新たな課税権や利益配賦とは一切関係ないしね。

まだまだ残る不明点

この前のポスティングでも触れたけど、利益率基準の%は決まってない。10%っていうのは既存のOECDブループリント案だったらいくらの超過利益が認識されるか、っていうターゲット金額を算定するためだけに使われている。ブループリントに基づくインパクトアセスメントでは、10%の利益率基準だと、780社が抽出され、総計で$500Bの超過利益(Amount Aではない)を認識できると試算されてた訳だから、米国案で100社でこれを達成しようというからには一社当たりが負担するAmount A対象額は算数的にもっと大きくなるはずだよね。もしかして毎年変動するっていうか、利益率%ではなく、$500Bになるように調整するのかな。なんか変だね。お小遣いのバジット立てるときに、1000円あるからランチは700円に抑えておやつに300円回すか、っていう方向ではなく、ランチは1,200円で、おやつはお茶とケーキのセットで1,000円、ついでに帰りにアイス買うからプラス100円。ってことはお小遣いは2,300円下さい、っていう感じ?全然違うって?そうかな。

ところで、米国ピラー1提案が冒頭で宣言してる「結果として米国企業に差別的な適用となる制度には絶対反対・・」って部分だけど、ADS・CFBの代わりにComprehensive Scopingにして売上基準や利益率基準を適用しても、結局のところトップ100社は不均等に米国になるんじゃないだろうか。サイズだけ見ると中国企業も結構な数ランクインするだろうけど利益率の部分で結局大半は米国?最終的にAmount Aの対象となる企業数に米国企業が占める割合はADS・CFBのケースと大差ないんじゃないかな、ってチョッと不思議なんだけど、産業ミックスが変わり、金融とかも入ると超過利益の金額はそのままでも再配賦される金額のインパクトは小さくなるんだろうか。それくらい、チャッカリ裏で計算した上で提案してそうだよね。

それにしてもこんなの米国議会通るのかな。OECDをさんざん煽って結局議会で法律通らなかったら顰蹙。Sexy Sadieどころじゃなくて「They're going to crucify me」(?)。

Sunday, April 25, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(2)

アメリカはSexy Sadie?

前回のポスティング「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」では、自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下する懸念から世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと米国が急激にOECDにラブコール(って言うと可愛いけど実態はほとんど強要?)を送っている点、ブループリントとは若干異なる米国新提案でBEPS 2.0が息を吹き返している点、主役はピラー2になっている点、等に触れた。

最後の最後に登場して、みんなをTurn Onさせるなんて米国ってまるでSexy Sadie。Sexy Sadieはビートルズのホワイトハウス、じゃなくてホワイトアルバム(正確なタイトルは「The Beatles」)っていう2枚組アルバムの2枚目のA面(やっぱりVinyl時代のアルバム構成が頭から離れない)に入っているJohn Lennon作の名曲。ビートルズファンなら知っていると思うけど、インドのマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーっていうヒンズー教系超越瞑想(TM)の伝道師(?)というか活動家に対するJohn Lennonの幻滅を歌にしたもの。もともと無名だったマハリシは熱心に地道な活動を続けてたみたいだけど、相当な野心家だったようで世界に教えを普及させようと考え、米国に進出。サイケデリックっぽいトレンドと相性が合い、ビートルズのGeorge Harrisonの目に留まり、ストーンズその他のセレブがマハリシのカンファレンスに参加するようになる。

ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインが自宅ロンドンのChapel Streetで急死してしまった際、ビートルズが英国のウェールズでマハリシの10日集中カンファレンスに参加してる最中だったんで、このカンファレンスはより知られることになる。John Lennonの当時の配偶者であるシンシアがロンドンの(ウェールズ行だから多分)Euston駅で大勢のファンやセキュリティーに阻まれてホームに辿り着くことができず一人列車に乗り遅れたっていう話しも有名。その後、John Lennonとの当時の距離感を象徴する出来事だったとシンシアは回想している。その後も、ビートルズはヒマラヤ山脈のマハリシのカンファレンスに参加したりして、その間にたくさんの曲ができてホワイトアルバムに収められることになるけど(Dear Prudenceとか、Bangalow Billとか)、Sexy Sadieは、精神的に超越してるはずのマハリシの本性と言うか、性癖とか商業的な成功(要はお金)を追及する姿に幻滅したJohn Lennonがヒマラヤから突然帰る決定をした際に書いた曲。最初は曲のタイトルもマハリシそのものだったらしいけど、もしアルバムに入れるんだったら歌詞を変えるようにっていうGeorge Harrisonの要請で歌詞に手直しが加えられている。ただ、名前がマハリシからSexy Sadieになっているだけで言いたいことは同じ。「Sexy Sadie, what have you done? You made a fool of everyone」って始まって、「Sexy Sadie, you broke the rules. You laid it down for all to see」とか「One sunny day, the world was waiting for a lover. She came along to turn on everyone. She's the greatest of them all」って繋がっていく。世界一のペテン師というか、偽善者というレッテルを張っているようなイメージ。実際に何があったかは諸説あるけど、マハリシが相当やり手のビジネスマンだったのは確か。偽善者ね。そんなこと言ったら今の世の中、ポリティシャンの多くはSexy Sadieだよね(苦笑)。Baby You’re Rich ManとかでもみられるJohn Lennonの社会観が良く出てていいね。

で、世界がBEPS 2.0の国際合意を目指してああでもないこうでもないってさんざん時間を使っていたところ、急に登場してきたアメリカをSexy Sadieに置き換えて聴いてみるとピッタリ。最近(?)ではホワイトアルバムとか知らない人も多いだろけど。歌詞はその後も「Oh how did you know. The world was waiting just for you?」 「However big you think you are」「We gave her everything we owned just to sit at her table」「Just a smile would lighten everything」「She's the latest and the greatest of them all」とRelentlessに続いていく。

ブループリントのままでなぜピラー1は国際合意困難?

前回のポスティングで、米国新提案では、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税制度が不可欠、っていう切り口で脇役のようにピラー1が最後に登場してくる点に触れた。この位置関係は面白くて、もともとBEPS 2.0は経済のデジタル化に対応できるクロスボーダー課税の新秩序合意を主たる目的としていたと理解していて、その主人公はピラー1で、ピラー2はその後「残された課題」、それが具体的に何なのかっていう点は別としても、に対処する脇役っぽいイメージがあった。立場が逆転しているみたいで皮肉というか面白い。

米国のピラー1新提案は、ピラー2との比較で、推進というよりは牽制に近い。各論に入る前に「米国企業に不公平な結果となる制度はいかなるものでも容認しない」と太字で言い放っている。そんなこと言っても、たまたま現状ではピラー1が解決しようと試みてるデジタル化の進んだ大手ハイテク企業の利益の源泉はほとんど米国企業だから、結果として米国企業に負担が重くなるのは最初から分かっていて、そうでないようにするってことはピラー1の目的から根本的に見直す必要が生じる、ってことになる。で、その通り、根本的に見直しが必要となったと言っても過言ではない提案内容に至るんだけどね。

まず、米国によるピラー1の現状分析だけど、ブループリントでOECDもいろいろと頑張ってるのは分かるけど、設計が複雑過ぎて国際合意に漕ぎつけようとする際の大きな障害になっているとしている。これはBEPS 2.0全般にその通りだと思う。140ヵ国が皆インプリメンテーションできる制度でないと現実味がない。また、推定される歳入規模との比較で複雑さが不均等だと指摘し、ブループリントの提案内容のままでは費用対効果が悪いとしている。したがって簡素化が必要と。

複雑さの諸悪の根源は?

簡素化の必要性は、僕も以前から国際合意の大前提だと繰り返し言ってきたんで米国の言う通りだと思うけど、じゃどうすんの?ってところで登場してくるSadie、じゃなくて米国の代替案がチョッとお手盛りっぽい。すなわち、ブループリントの複雑性や困難の諸悪の根源は、「Amount Aの適用対象者をどのセクターとするのか」っていうスコープ部分としている。ADSだのCFBだの、恣意的に適用対象セクターを決めるアプローチは実践困難かつ係争の源で、またポリシー的な正当性や規律に欠けるとバッサリ。

つまり、ADSだのCFBって言う部分こそが国際合意を妨げている主原因だということ。CFBって米国、しかもバイデン政権の前身となるオバマ政権が言い始めたんじゃなかったっけ、って他国は反応するだろうけど、そこはSadieなので仕方がない。確かに企業グループの活動にスコープ内外の活動が含まれる場合、セグメンテーションとかかなり恣意的になる問題は多い。ただ、CFBは置いておくとして、もともとBEPS 2.0って、ADSに対処するために世界で新秩序合意を目指していたんじゃなかったっけ。デジタル化に伴い物理的な存在がなくてもユーザーがたくさんいれば儲けることができる、そして実際に儲けてるハイテク企業に対してユーザー国に新課税権を与えるっていうのが一番のポリシー目的だったのでは?それが無くなると単に儲かっている大手企業の利益を多くの国で分けましょう、って感じの制度になってしまうし、ADS以外のセクターはユーザー国にもともと物理的な存在があるケースが大半なんじゃないかな。

Comprehensive Scoping

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。Comprehensive Scopingでは、適用法人の判断は原則、機械的に売上と利益率のみに基づくとし、結果として選択される対象企業数を100未満に抑えるべきと定量的な適用結果数を指導基準(?)として提示している。あれだけ苦労して世界中で100社なんだね。

このアプローチだと、対象法人数が100社未満に収まるよう基準を「逆算」することになる。米国は「産業やビジネスモデルには関係なく」としつこいけど、もし(=「if any」)特定の産業を除外するんだったら、解決不能レベルの適用困難さ、根本的な政策不整合、とか規律のある規定で超例外的に判断する必要があると付け加えている。以前から言われている資源採取とかの特殊産業にかかわるもののことだろうか。

100社未満でも歳入は維持

で、Comprehensive Scopingで適用対象企業グループ数を100未満としても、ブループリントやOECDのインパクトアセスメントで想定している最低限の歳入は確保する、として中立性を強調している。要はComprehensive Scopingに変えても、ADSやCFBアプローチと比較して損得ないようにするということ。これは少なくとも超過利益額の話しのように聞こえる。対象からハイテク企業が少なくなると、再配賦の対象となる所得のうち、現時点で課税されていないNowhere所得の比率が下がるようなことはないんだろうか。

具体的には、現状のブループリント案に基づきCbCR基準の750Mユーロベースで対象企業グループを絞ると2,300社となり、そこから仮に超過利益の認定基準を10%の利益率と低めにおいても780社のみが対象で、そこから生まれる超過利益総額は$500B弱と表示している。これはインパクトアセスメントのデータに基づくんでOECDの試算。$500Bは超過利益総額だから、Amount Aはそのうちの「Upper Portion」が対象。仮に20%部分とすると$100B。これに税率、例えば20%掛けると$20B。Amount Aは再配賦なので、どこかで既に認識されてる所得。したがって$20Bまるまるプラスの歳入となる訳ではない。もちろんバミューダとかケイマン諸島に眠っている所得はまるまる歳入増に繋がるけどね。でも、こう考えていくとAmount Aの歳入効果って結構小さい話し。バイデン政権のコロナ対策やらインフラ、そして4月28日に公表予定の社会保障系の歳出案は、合わせると$5T(Bではない)超だから、だったらバイデン政権の予算に盛り込んでOECDに$20B($5T全体の僅か0.4%)渡してDST廃止してみんなで分けてもらった方が早いんじゃない、って言う規模感だ。ちなみに$5Tって日本のGDPだからね。凄い歳出規模。この国既に借金多いけど大丈夫かな。ドルが準備通貨のうちはいいのかもしれないけど。ドルも下がり気味で、インフレも実はじわじわと来てる感じ。

利益率10%

で、この10%という利益率だけど、ターゲットの歳入をどこかのレベルに仮置きして試算する際に、10%に基づく現状ブループリント案下のインパクトを流用して議論しているだけで、米国提案が10%利益率基準と言うことではない。売上基準は口頭で$20Bと表明されたと報道されている一方、利益率に対する具体的なコメントはなかったそうだ。ただ、データがあれば、$20Bの売上で、最終的に100社未満で超過利益総額を$500Bとすればターゲットとなる利益率は逆算可能。

今まで「うちはADSじゃないし」とか「多分、CFBにも当たらないだろう」とか安心していた日本企業のも再考が求められる状態だ。まあ、$20Bの売上は大きいから、それでも適用は限定的かもしれないけど、21%のグローバルミニマム税の方は適用数は圧倒的に多いだろうからピラー2は心配だろう。いずれにしても、米国曰く「Bottom Line」、すなわち結論は、Comprehensive Scopingが実行容易でかつ考え方としても最も規律があるとのことだ。CFBとか結局何だったんでしょうか。

ということで、次回はもう少しComprehensive Scopingを続けてみる。急にその気になって登場し、自分のルールで世界を席巻しようとするSadieこと米国が、思惑通りスマイル一つで世界をLightenしてくれるのかな。

Monday, April 19, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案

息を吹き返すBEPS 2.0

米国とOECDがここ一か月ほど急激に接近している。バイデン政権下で米国が多国主義に戻ろうとする動きは想定通りだけど、ブループリントで提案されているピラー1と2は共に規定が複雑過ぎてとても実行可能に見えず、米国とOECDが意気投合したくらいでは140ヵ国の国際合意は難しいのではと考えていた。ところがここに来て、ブループリントより簡素化した内容の米国新提案でBEPS 2.0は急ピッチに息を吹き返している。OECDとしては2021年10月のG20会議まで何らかの国際合意を取り付けてメンツを保ちたいところ。

世界中を増税に追い込み相対的な競争力低下を回避

バイデン増税案による法人税28%、そしてGILTI21%、しかもルーティン所得免除撤廃に加え国別バスケット導入、は米国多国籍企業にとってかなりの重荷となる。特にグローバル所得を毎期21%、さらにFTCの制度次第だけど実際には26.5%、プラス州税で30%超の課税となるとかなりのゲームチェンジャー。これを米国が単独で実行すると当然、相対的に米国企業の競争力は低下し、米国企業のM&Aで外国企業が有利になり、さらにスタートアップを米国法人として組成するデメリットが増える、など余りいいことはない。そこでBEPS 2.0のピラー2が便利な存在となる。

イエレン長官によるOECD Steering Groupへのプレゼン内容

プレスで報道されている通り、イエレン長官(おそらくキム・クロージング一派が草稿)が4月8日にOECDのSteering Group of IF Meetingというバーチャルイベントで、BEPS 2.0 にかかわるバイデン政権のスタンスに関するスライド・プレゼンテーションを行った。地味な青地の表紙に中身は白地で役所っぽさがいい。スライドの各ページの右下でマージンもなく「The Department of the Treasury」1789年と記された紋章が付いて重厚さを醸し出している。1789年というと憲法草稿から2年後だね。Founding Fathersがタイムマシーンにお願いして今の米国のガバナンスを見たらどう反応するだろうか、って考えることも多い。

ピラー2でキックオフ

で、米国のプレゼンが面白いのはピラー2から始まっている点。1と2っていうピラーがあって2つ共カバーするんだったら普通は1から始めそうなものだけど、はやる気持ちを抑えることができなかったのかも。何と言っても自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下しないよう世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと急激にOECDに接近しているからで、これはもちろんピラー2の世界の話し。

冒頭で米国は法人税率の「Race to the bottom」に終止符を打ち、各国が協力してもっと公正な成長、イノベーション、そして繁栄を達成できるようなクロスボーダー課税制度を確立したいと希望している、と宣言し、ピラー2はいいフレームワークなので、この素晴らしいプルジェクトを「強固に」実現させたいとしている。この強固という部分は、噂されている12%とか12.5%では生温い、というニュアンスが含まれていて迫力満点。

米国はピラー2で合意される「強固な」グローバルミニマム税に準じて国内法を整備する準備があるとのこと。このコメントはチョッと違和感を禁じ得ず、ピラー2に合わせる用意があるんだったら、GILTIも12%とかにして、人件費とか償却とかカーブアウト、そして更に日本企業のようなインバウンド企業に関してはIIRのストラクチャー通りGILTI対象から除外してくれたらいい。実際にはそうではなくて、米国がピラー2とか関係なくGILTI強化をうたっていて、ピラー2をそれに合致させることで、だまし船のように目を閉じて開けてみたら、米国をピラー2に引き込むはずが、ピラー2が米国に引き込まれてしまう結果となっている。アレ~、帆を持ってたと思ったら船の先っぽ!

ここでまた法人税がGDPに占める割合を21世紀に相応しい(?)レベルに戻すと、ホワイトハウス案や財務省補足説明で展開されている法人税・GDP比の論点が浮上している。パススルーが多い、米国ではこの比較は余り的を得てないように感じる点に関しては前回と前々回のポスティングを参照して欲しい。そして世界の税務当局が皆で手を繋いで大企業に対する課税を強化しましょう、と続き、そのために米国はBEATも廃案し、UTPRに準じるシステムを導入し、他国に「Strong」なミニマム税を導入するよう勧める(というかプレッシャーを掛ける?)制度に協力すると恩を売っている。Level Playing Fieldとする時が来た、と。カルテルみたいでチョッと怖いけどね。

そして、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税が不可欠、としてうまくピラー1にセグウェイ(「Segway」じゃなくて「Segue」の方だからね)。安定したクロスボーダー課税の構築には、拡散する一方的なDSTを止めて撤廃する必要がある、と何のことはないまた米国の都合が前面に出ている。ピラー1とピラー2はクロスボーダー課税の安定と言うポリティクス以上の(崇高な目的で?)リンクされているのだ、とまるで今まではピラー2の登場は1に合意させるためのポリティクスと言わんばかりだ。でも、それ一理あるっていうか、本当だったかもね。

最後にピラー1も

おまけ(?)のように付いているピラー1に関しても、ブループリントで提示されているワークを完成させないといけないという宣言から始まる。でもピラー2と比べると、チョッと勢いがなくて、設計が複雑過ぎてこのままでは国際合意は難しいという認識。で、なんのことはない、そこで登場するのが「特に対象者をどのセクターにするのかっていうスコープが複雑過ぎて・・・」となる。アレ~、デジタル課税がなんか怪しい方向。そしていきなりフォントが太字になり「米国企業に不利になるような結果を生み出す制度は絶対容認不可」と思い切り力強く告知している。さすが。来たね。ADSの終焉が。

Comprehensive ScopingでADSに引導

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。この内容は面白いので次回。

Friday, April 9, 2021

財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明

昨日、上院財政委員会によるクロスボーダー課税改正案フレームワークに触れたけど、今度は財務省がホワイトハウスFact Sheetで提案された「The Made in America Tax Plan」の補足説明を公表した。

立法府の財政委員会と異なり、財務省はホワイトハウスと同じく行政府に属するだけに案自体はホワイトハウスのFact Sheetに記載されていたものを踏襲している。っていうか、方向は逆で、財務省のインプットに基づきホワイトハウス案が策定というか取りまとめられた訳なんで規定内容は同一。財務省の補足説明は、実際の規定の説明よりも、いかにTCJAで大企業がラッキーし、一般市民は窮地に陥り、オフショア化が加速したか、っていう民主党のナラティブに多くのページを割いている。これはホワイトハウス案や昨日特集した財政委員会フレームワークと共通のメッセージだ。

法人税歳入の各国比較

財務省の補足説明では、ホワイトハウス案同様、法人税率引き上げが正当っていう理由のひとつに、GDP比で米国の法人税歳入は他国より低いっていう指摘が数か所に出てくるけど、他国はCheck-the-Boxとかパススルー主体の活用が米国ほど普及してない点、環境が異なるんじゃないかな。米国では上場企業を除き、基本、ビジネスはパススルーなんで事業所得でも歳入は個人所得税って形で認識されるケースが他国より多いはず。TCJAの法人税率の引き下げ、199Aの使い勝手が思ったほど良くない点、で定量分析のバランスは若干シフトしたとは言え、同族企業とかがC Corporationというストラクチャーを採択するのはかなり稀。以前は買収時に必ずC Corporationに転換させてPEファンドだって、今ではポートフォリオカンパニーの多くをパススルーのまま所有することが普通になっている。敢えて言えば、ストックオプションとかのEquity報酬の設計を考えるとC Corporationの方がいいことがあるんで、一部のセクターではそれが理由で二重課税覚悟でC Corporationってストラクチャーでスタートアップすることはあるにはあるけどね。パススルーのProfits InterestをEquity報酬に使うこともテクニカルには問題ないけど、規則がややこしいし、従業員にW-2とは別にK-1とか出すと受け取った方は「何これ?」ってなって大混乱必至なんで確かにEquity報酬だけのことを考えるとC Corporationに一日の長があると言える。

ちなみに米国の法人(C Corporation)数は170万社と言われている(Tax Foundation調べ)。一方パススルー主体(S Corporation含む)は740万社、個人事業主2,300万人。個人事業主っていうと伝統的なSole Proprietor、フリーランサーとかギグワーカーを想像するかもしれないけど、DREを通じて事業を展開している個人単独オーナー(Community Property(夫婦共有財産)制度の州では夫妻2人オーナーのケースも可)を含むから結構な規模のケースもあり得る。日本の法人数は国税庁のデータによると約270万と米国より100万社多い。日本の個人事業主の数は明確ではないみたいだけど、YouTuberとかサイドでお小遣い稼いでるようなケースまで含むとフリーランサーが1,000万人程度と言われている(ランサーズ調べ)。

絶対額では米国の法人税歳入は$280B、パススルー経由の所得に対する最終オーナー課税を含む個人所得税が$1,900B程度。給与税(厚生年金や国民年金、老齢者医療保険等の社会保障税トータル)が$1,300Bだ。日本の財務省データによると日本の法人税歳入はザックリ10兆円。所得税は19兆円だ。100円換算で法人税$100Bなんで、主体数の割に米国法人税歳入は悪くない気がする。

これらの数字を見ても、ホワイトハウス案が法人税増税を正当化する一つの理由としているデータ、「法人税」歳入がGDPに占める割合の他国との比較、は実際のところ比較可能性が低いと思われる。前々回の「バイデン政権下のタックスポリシー(10) ホワイトハウス ・インフラ増税案「Fact Sheet」公表(2)」で、CTBのヒストリーとかチラッと触れたんでそちらも参照して欲しい。

財務省の補足説明にはOECD加盟国の法人税歳入のGDP比ランキングが載ってるんだけど、一等賞はなんとルクセンブルク。法人税歳入がGDPの6%を占める。確か法人税率17%程度なんだけどね。僅差で2位に付けるノルウェーも法人税率は22%。米国が21%から28%に引き上げる理由としては説得力に欠ける感じ。そもそもルクセンブルクもノルウェーも米国と経済環境違い過ぎるしね。ちなみに日本は6位。最下位はギリシャで%が表示されてないように見える。法人税は普通にあるはずだからGDPとかのデータがなくて計算できないのかな。まさかね。米国は36ヵ国中33位に位置しビリから4番目。

またイエレン長官が他国にメッセージ発信しているのと同期する形で、自国が世界一レベルの法人高税率に復活するに当たり、「Race to the bottom」を避けて法人税率を高止まりさせないといけないと他国を牽制している。OECD加盟国の平均法人税率は1980年には45%だったものが、2000年には32.2%、現在では23.3%まで凋落していると嘆いてるけど、まさかみんなで結託して45%レベルに戻そうって訳じゃないよね。23%を「Bottom」な異常値とみるか、VAT等も組み合わせて正常なレベルと見るかは解釈によるけど、経済のグローバル化やデジタル化に伴い、法人税っていう制度自体が経済実態に馴染まなくて限界に近くなってしまい、そんな制度下でグローバル課税ルールをあれこれ変えても所詮は時間稼ぎに過ぎないことを認識し、米国も少なくとも使用地ベースのVAT導入、欲を言えば2017年の税制改正前にUC Berkeleyの経済学者が押していた斬新なDBCFT的な抜本的な新制度の導入を真剣に考えるべきだろう。そうすればグローバルで真の「Leadership」を発揮できるし、Base Erosion とかInversionの懸念も大概において払拭される。

で、具体的な税制内容に関して、財務省の補足説明には、ホワイトハウス案に関して面白い追加説明がいくつかあるのでそれらの点に関してまとめておく。

BEATはSHIELDに

BEATは撤廃し、代わりにStopping Harmful Inversions and Ending Low-tax Developments、略して「SHIELD」を導入するとしている。BEAT、GloBEとかSHIELDとかバンド名みたいで名前はいかしてる。ただ、Low-tax Developmentsってチョッと無理やりSHIELDにした感がありあり。僕だったら「Sheer Heart Innovation and Extremely Lean Discipline」とかにしたかも。意味をなしてないって?確かに。

SHIELDは概念的にはピラー2のUTPR。国外関連者に支払う費用のうち、支払先の国でグローバルミニマム税率以上の法人税が課されない場合には、損金不算入とするというもの。トリガー税率は今後合意する「Strong」なグローバルミニマム税率としてるけど、グローバルミニマム税率に合意する前にSHIELDを導入する場合には、GILTI税率を参照するとしている。っていうことは21%。そんな国いっぱいあるだろうし、CFCに費用支払ってSHIELDで28%の損金効果が否認され、その上それがTested IncomeでフローアップしてきてGILTIで21%課税だとすると、100の費用支払って実効税率49%?算数おかしいかな。

SHIELDのBase Erosion にかかわる説明で面白いのは、「外国」法人がタックスヘイブンに所得を迂回させているのでSHIELDが必要と記載している点。外国法人より米国法人が激しくBase Erosion しているのは2008年に財務省自らが取りまとめたレポートで明らかになっていたはず。同じ外国法人でも昔米国法人だったInversion法人は派手にBase Erosion に従事しているっていう結果も出ていた。

で、これがSHIELDのELD部分だとすると、次はSHIの部分。すなわち米国税法がTCJA前の著しく不利なものに逆戻りしてしまうと、米国法人では国際競争に勝てないということで国籍離脱のInversionが横行するのでは、っていう懸念に予め釘をさすためInversion規制強化。

Inversion規制強化

そう。Inversionです。オバマ政権末期のフラッシュバック。現状Section 367と並ぶInversion規定であるSection 7874はブッシュ政権の2004年のJobs Actで法律になってるけど、これを行政府の権限で徹底的にタイトにしたのがオバマ政権時代の財務省。ファイザーがアイルランドに国籍離脱するDealがサインされた後に、ファイザーのDeal阻止のためと言ってもいい規則を慌てて策定し、ファイザーのDealはClosingしなかった。確か税制規則が余りに不利に変更された展開をもってMAC条項をトリガーしてBreak-up Feeとかなしで契約解消したんじゃなかったかな。section 367やsection 7874のIncome Taxに加えてInversionする法人幹部のEquity報酬にはペナルティ課税が適用されることもある。7874と同時に法律化された4985だね!Jobs Act懐かしい。2004年だから17年前だ。最終化された時、南カリフォルニアのLa Cienegaドライブしてて、慌ててToys"R"Us(もうなくなっちゃったんでちまたでは「Toys"were"Us」なんて言われて気の毒)のパーキングロットに入ってアラートをドラフトしたのが昨日のことのようだ。2017年TCJA可決時は確かニューヨークのChelseaに居て、またしても慌ててChelsea Pierのスケートリンクでアラートドラフトしたような。もしかしたらロンドンのシティーでこちらも慌ててPret a Mangerに飛び込んでドラフトしたんだったかも。シティーは上院可決の時だったかもね。民主党増税が可決する時間は果たしてどこにいるでしょうか。寒くなる前だったらSouth DakotaのBlack Hills辺りか、東の州境のSioux FallsとかMindをFreeにしてくれる場所で書けるといいな~、って今から楽しみ。

Section 7874を乱暴なほど簡素化して言うと、外国法人による買収・合併その他の取引後、ターゲット米国法人の旧株主が継続して外国法人の80%以上の持分を所有していると, 外国法人の本拠地で買収後のグループ事業の25%以上(人件費、資産、グロス所得ベース)が従事されてないと、Inversionして米国外親会社グループの一員になったつもりでも、米国税法上は買収側の外国法人が米国法人になるって取り扱うっていう規定。会社法上は外国法人だからDual Residentとかなって条約使えないとかややこしいし、外国法人が米国法人に生まれ変わる際の課税関係も複雑。また、持分継続が80%には至らないまでも60%以上だと米国税務上も晴れて米国外親会社グループの一子会社にはなれるけど、その後10年間に亘り、米国法人やその下のCFCが認識する譲渡益、Sub F所得等で構成されるInversion Gainに関してNOLとかの特定の属性使用が認められず米国で課税対象になる、っていうもの。Section 7874導入前はこの手の組織再編や「買収」は自作自演のもので、究極の株主構成とか変わらない単独Investionが多く実行されていた。Section 7874で、もともと米国外のどこか一国、しかもある程度低税率な国、で主たる事業に従事してたVirgin MediaやTim Hortonsケースみたいな特殊例を除くと、少なくとも誰か結構サイズの大きい別の法人や投資家が絡まないとInvestionできなくなったんだけど、その基準を法律以上に「がんじがらめ」に締め付けたのが上述のオバマ政権時代の財務省規則だ。未だに行政府による越権行為と見る者も絶えない。

で、財務省の補足説明によると、バイデン増税案下では、Section 7874のみなし米国法人規定をトリガーする持分継続基準を80%から50%に引き下げるっていうもの。TCJA以降、勝負は60%になるかどうかだったから、80%からいきなり50%とは思い切り下がるね。余りに下がり過ぎて違う法律みたい。株主レベルのInversion規制に当たるSection 367と同じレベル。また、仮に持分的にInversionに成功しても、管理・支配が米国に残っているとみなされると、その場合も米国税法上は米国法人と取り扱うとしている。この管理支配基準は以前から提案されては消え、を繰り返しているので果たして議会は取り上げるか疑問。

それにしてもInversionはもう絶滅種に指定されたに等しいかなって思ってたけど、最近Inversionをまた耳にするようになったのはSPACのストラクチャリング。SPACは上場時点で米国内外どちらのターゲットと最終的にDe-SPACするか不明なので、米国企業としかDe-SPACしないって決めてるSPACは別として、上場時点ではケイマン諸島に設立されるケースが多い。その後、ターゲットが米国法人の場合は、そのままDe-SPACすると持分Fraction計算次第でInversionになることがあるんで、SPAC自体をDomesticationさせるしかない。InboundのFだ。逆に万一、米国内事業のみをターゲットにするつもりでSPACをデラウェア州とかに設立してて、後から外国法人とDe-SPACするような事態になると、米国法人がトップに来るのは得策ではない、っていうかバイデン増税が実現したら不合理極まりないので、SPACをOutbound Fかなんかで外国法人に生まれ変わらせよう、ってことになるけど、その行為自体がInversionになり兼ねない。ということで、最初からSPACをデラウェア州法人にしたりするのはチョッと勇気がいる。見方によっては向こう見ず?この手の取引、仮にSection 7874のInversion規定を克服できたとしても、株主レベルのSection 367課税や上場で得た資金をDe-SPACまで信託に眠らせてる期間にかかわるPFICの問題とか、多くの複雑な問題を伴う。CarryみたいなスポンサーのクラスB株式の課税関係とか個人所得税側の問題もかなり面白い。PEファンドのスポンサーが、共通のノウハウは流用できるとは言え、投資概念的に全く異なるSPACに積極的なのは、実質Carryを1061の縛りなく受け取れるっていう旨味に魅かれているんだろう。SPACは相当前からあるけど、コロナ禍の2020年に急に息を吹き返した面白いBlind Pool的なストラクチャーで、Inversionその他の課税検討事項が満載なExcitingなトピックなんでいつか特集してみたい。

SPACが急激に件数を伸ばし、ほこりをかぶっていたInversion規定を再度復習する機会が増える一方、製薬会社とかがアイルランドにInversionするとか「伝統的な」InversionはTCJA以降、ほとんど聞かない。SPACのInversionってSHIELDが網を掛けようとしているBase Erosion のG線上のアリア、じゃなくて延長線上のInversionとはチョッと異なる感じだけどね。

ただ、共通する問題としてはあんまり米国法人税制度を不利なものに戻し、かつInversionも不可能に近くしてしまうと、最初から米国には法人を設立しないのがベストっていう単純な結果になる。北風ビュンビュン吹かせてコートを飛ばす作戦は過去の例からいたちごっこに陥るように見えるし、北風がいくら凄くても旅人が来なければコートも飛ばせない。大手米国外企業が米国法人を買収する際の有利不利にも少なからず影響があり得る。自ら吹かす北風がバイデン政権が目指す「アメリカの投資促進」の向かい風になって自分たちのコートが飛んじゃわないといいけどね。

Inversionは学術的には面白い規定なので5年ほど前にナンと「23回」のポスティングに亘り特集したことがあるから、JOHN LENNON/PLASTIC ONO BANDのThe Ultimate Collection Deluxe Box Setをプリオーダーしようかどうか迷ってる人はまずInversionのDeluxe Box Setの「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)」シリーズに目を通してみて欲しい(?)。

SHIELDはあくまで行政府の提案であり、昨日触れた財政委員会フレームワークでは代わりにBEAT強化がうたわれているんでまだまだ最終的な方向は未定。グローバルミニマム税強化をOECDやIF各国に強制したいがために、ピラー2の実現可能性に配慮し評判の悪いBEATをUTPR化しようとしているのかもしれないけど、BEPS 2.0への協調体制にかかわる議会側の反応も現時点ではまだはっきりしない。共和党下院議員は財務省に現状の説明を求める書簡を送ったりしてるようだけど。

税引前利益15%ミニマム税

財務諸表の税引前利益に対する15%ミニマム税はバイデン選挙活動中からの提案だけど、財務省は対象を税引前利益$2B以上(100円換算で2,000億円)の法人に限定するとしてホワイトハウス案を緩和している。 税引前利益が$2B以上の米国法人は約200社あり、バイデン政権の増税案を加味した後で、うち45社が15%ミニマム税の対象になるという試算結果が共有されている。これらの「Sky-High」的な利益を認識する法人にフォーカスすることにしたそうだ。

Sky-High、いいね。さすがに僕もまだ子供だったけど、UKのJigsawっていうグループがその昔、大ヒットさせた曲の名前と同じだ。ファルセット・ボーカルにエコーが掛かって神秘的に始まり、それがサビでメジャーになって一気にクライマックス、みたいな気持ちいい曲でした。あの頃のUKって、まだビートルズがそのうち再結成するんじゃないかみたいな甘い夢を見ながら、再結成の日が来るまではポスト・ビートルズが誰かっていう探索下、ビートルズのサイケデリック的な部分を継承したPink Floydみたいなバンドと並び、ビートルズの歌ものっぽい部分に触発されたポップグループが登場しては消え、みたいな時代。Pilotとかもそうだけど、Jigsawも曲調はそんなノリ。もちろん当時は音しか聴いたことなかったけど、今では簡単に動いてる姿を見ることができる。大概のケースで音から想像してたイメージが壊れるんで見ない方が子供の頃の夢をキープできる。Jigsawもそうで、「Sky-High~」のコーラス部分でメンバー全員がのけ反ったりしてて凄い。結局のところビートルズを超えるどころか、どの存在も足元にも及ばなかったし、ビートルズ自体の再結成もなかったね。ビートルズってもちろんArtisticな価値も凄いけど、4人揃ってカッコいい珍しいバンドだったよね。家の応接間にある家具みたいな(笑)ステレオでよくいろんな曲聴いたな。何枚もレコード買うお小遣いなかったからHey Judeのシングルとか数枚しかなくて、毎日繰り返し同じレコード聴いたり、友達のお兄さんが持ってた「LP」をカセットにダビングしてもらってテープが伸びるほど聴いたり、FM東京でトップ10聴いたり。応接間のステレオ、当時一瞬だけ流行ってた4チャンネルのステレオだったような…。

ちなみに後から見る動画で、逆に動く姿を見て評価が高まったのはJimi Hendrix。レコードで聞くHendrixって、Bold as Loveに入っている曲のバッキングのギターとか、Cry Babyの使い方とかマネできないな~って思ってたけど、伝説ギタリストと言われる理由が今一つ良く理解できてなかった。ロンドンでクリームのステージに飛び入りして神様クラプトンが「ブっ飛んだ(Blown Away)」ていう話しは東京で普通に生活している子供達にも伝わってきてたんだけど、なぜそこまでの存在なのかチョッと不思議だった。ところが、映画館や厚生年金ホールでWoodstockとかモントレーPop Festivalの映画(インターネットなかったんで)を見てビックリ。超人+天才っていうのはああいう人のことを言うんだなって納得。特にモントレーはアメリカデビューで(Hendrixはシアトル出身だけど、アメリカでは最初ヒットせず先にロンドンでチャス・チャンドラーに発掘されマーキーとかで有名になり、SGT Pepper前後の金字塔時代のビートルズとかも見に来ていたという話し)、ロンドンのライブハウスでやってたんであろう頃の勢いが炸裂してて、文字通りブッ飛んでしまった。それからしばらくRock Me Baby (後年のLover Man)のイントロを(グレコの)ストラトでコピーようと試みたけど、結局、子供の僕には一年経っても全然できなかった。Blackmoreとかってテクニカルだけど時間かければコピーできる一方、Hendrixだけはマネできなかった。今落ち着いて見てみると6弦がどうしてあんなに唸ってるか分かる気がしてきたけどね。この歳でHendrixコピーしてもチョッとね(苦笑)。

で、Sky-High増税大賞受賞の栄誉に輝く法人は上述の通り45社。補足説明では、15%ミニマム税に抵触するSky-High法人の一社当りの平均追加法人税は毎年$300Mっていう試算結果が出てるんで、プラスの歳入はSky-High合計で$13.5B。法人税歳入総額が$280Bだから、この増収は大きい。想定されるFTCの金額とか公のデータでは分からないんで45社の申告書とか見たんだろうか。歳入増はSky-Highだけど対象法人数は極端に少なくてRock-Bottom。上で触れた通り米国の法人(C Corporation)数は170万社で、そのうち45社だからほとんどゼロ%に近い。身元も割れてるだろうから、狙い撃ちで、そんな法律って刑法だったら「A bill of attainder」で憲法違反みたいだよね。

15%ミニマム税の計算時には、FTCばかりでなく、R&Dやクリーンエネジー、低所得者住居を含むクレジットを加味してくれるそうだ。使用限度額とかCarryoverとか通常の法人税とは別トラッキングする必要が出てくるだろうから、面倒そう。せっかくAMTなくなったのにね。この「The Made in America Tax Plan」、会計事務所の雇用には絶大な効果かも。TCJAやCARESで既にキャパがいっぱいなので、テクノロジーの駆使もMust。

ということで今日は財務省の「The Made in America Tax Plan」補足説明でした。いろいろと資料が乱発気味で整理が大変だけど、実際の審議はまだまだこれから。

Thursday, April 8, 2021

上院財政委員会がホワイトハウス案とはチョッと異なるクロスボーダー課税改正フレームワークを公表

ここ2回のポスティングでは行政府に属するホワイトハウスの増税案「Fact Sheet」の「The Made in America Tax Plan」に触れた。昨日、今度は立法府の議会、それも上院財政委員会が独自のクロスボーダー課税の改正フレームワークを公表した。「多国籍企業にフェアシェアの税金を負担させ米国民に投資するフレームワーク」という格好いい副題付きだ。

ポリティシャンの資料はどっちの政党が作成するものも「American People」のため云々とかそれらしい枕詞が付く。実際の「People」はポリティシャンにそんなことして欲しいって思ってるかな、って考えさせられることもあるけど。

一般Peopleはもちろんのこと、一般議員さんもGILTIとかFDIIが云々と言われても内容分かってないだろうし、分かる気もないだろうから、クロスボーダー課税のあり方に関して本当の意味での政策議論には至り難い。その意味で、財政委員会フレームワークやFact Sheetが大前提として掲げている「阿漕な大手企業を懲らしめるぞ」っていう銭形平次や水戸黄門風の部分に一番インパクトがあるんじゃないかな。そこをどう「感じる」かで自ずとその前提に基づきその後展開されるGILTIとかの話しもついでにどう受け止めるか決まるんだろう。例えば、大企業はけしからん、って思ったら、その後にGILTIからQBAIカーブアウトを除外するって言われても「それではメーカーがかわいそうでは...」とか思わず、なんかよく分かんないけど「そうだそうだ」となる確率大。テクニカルな詳細とか、実際の経済的なインパクトは結局のところ多くの人にとって無意味に近い。なんだかな~、って感はあるけどね。

一般に共和党との比較で民主党は、大手企業とPeopleを対比、っていうか敵対関係にあるようなフレームワークで論じることが多いけど、企業もPeopleが作ったもので、たくさんのPeopleに給与支払ったり、健康保険を手当てしたり、街への寄付とかして頑張ってるケースも多くあり、また大手企業で働いてないPeopleにとっても、退職後の資産は多くのケースで401(k)やIRA等を通じて大手企業のマーケットキャップとリンクしている。つまり結構なケースで、実は一心同体だったりする。米国や世界を救ったワクチン開発のスピードを見ても、米国の繁栄の基盤は政府やポリティシャンの政策ではなく、民間企業の力にあるっていう現実を加味して、長期的に米国企業とPeopleが共に繁栄できる政策の策定を願いたいところ。ただ、こんなことは僕が言うまでもなくバイデン政権の重鎮たちはファンドや投資で有能に蓄財しているスマートなキャピタリストたちも多い訳だから良く理解した上での話しなんだろうけど。

TCJAで勤勉な市民は窮地に?

で、財政委員会フレームワークは、TCJAを徹底的にこき下ろし、大企業はTCJAの恩典で繁栄している一方、勤勉な一般市民は生活必需品の購買、家のレントの支払いもTCJAの弊害でままならない、いう観測から始まる。コロナで多くの州知事が経済をロックダウンさせるまで、TCJA下、2020年2月の段階で失業率は各州で史上最低を記録するに至っていた事実を考えると、TCJAが理由で勤勉な市民が以前より窮地に陥っていたというナラティブはチョッと釈然としない。

TCJAでオフショア化に拍車?

また、TCJAは、米国外所得を半分しか米国で課税しないという恩典(50%GILTI控除のこと)を多国籍企業に与えたため、ますますオフショア化が進んでしまった、って嘆いてるけど、TCJA前は米国外所得は分配されるまで0%課税だった点(したがって誰も国外所得に米国法人税を支払っていなかったに近い)、TCJAはGILTIと並行してFDIIを導入することで、米国企業の国外事業からの所得はどこから行っても13.125%の実効税率としLevel Playing Fieldとした点、を考えるとこちらの憶測もそうなのかな~、って思ってしまう。

GILTIもFDIIもフォーカスはペーパーワークひとつでどこの国にも比較的容易に持ち出せたり(実際にはそう簡単ではないんだけど物理的な財産を動かすよりは楽なはず)、米国に置くことができる無形資産およびそこからの超過利益。今日の経済の実態を良く反映している。そのため、設備とかの有形償却資産から認識されるルーティン所得はGILTIやFDIIの対象ではなく、米国でも米国外でも現地で普通に課税されればそれで終わり。GILTIやFDIIの算式上、設備等を米国外に所有する方がGILTIの弊害は下がり、FDIIの恩典は上がる。この点は、確かに財政委員会フレームワークやホワイトハウスのFact Sheetが指摘するように、設備を米国外に置くインセンティブとなる。算数的にはそうだけど、実際にはGILTIのQBAI(ルーティン所得としてGILTIから除外される金額の基となる資産簿価)を増額したり、FDIIのQBAIを減額するためにわざわざ国外に工場とか移すかな?無形資産と異なり、簡単に引っ越せないし、工場とかって市場国への近接度合い、労働力、賃金コスト、カントリーリスク等、を基にベストなロケーションを選択するケースが大半じゃないだろうか。さらの巨額の富を築いているハイテク企業の価値はほとんど無形資産なので、有形償却資産をどこに位置させるか、はGILTIやFDIIが主にフォーカスしていると思われるセクターには余り重要な検討でない気がする。逆にQBAIのカーブアウトは工場を市場国の近くに設立したりするメーカーには大事な除外金額だ。

この財政委員会フレームワーク、筆者は委員会議長のワイデン(オレゴン州)を筆頭に、ブラウン(オハイオ州)、ワーナー(バージニア州)の3名。もちろん全員民主党だ。「バイデン」のホワイトハウス案に「ワイデン」の財政委員会フレームワーク。韻を踏んでて面白いね。ワイデンは全ての資産をMark-to-Marketで毎期課税しようっていう提案をしてたことで知られている。全てMark-to-Marketで課税する制度では、Tax-Free Reorgとか意味を持たなくなってしまう。

財政委員会フレームワークの大概の方向性はホワイトハウスのFact Sheetに準じてるけど、いくつか面白い差異があり、その点を中心に簡単にまとめてみると次の通り。

GILTIはカーブアウトなしの28%?

GILTI計算時のQBAI(みなしルーティン所得除外)撤廃はFact Sheetや財務省高官の学界時代の論文と整合性がある提案だけど、財政委員会フレームワークではQBAI除外を筋の通らないインセンティブと位置付けて撤廃するとしている。QBAIリターンはテリトリアル課税の恩典にあり付ける数少ないCFCの所得だったんだけどね。これがGILTI対象となると貴重なテリトリアル課税対象の原資がまたひとつなくなってしまう。この話しはコロナ前夜の2020年前半に「絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得」っていうシリーズで特集しているので興味があったらぜひ参照して欲しい。

GILTI増税はホワイトハウス案では21%だけど、財政委員会フレームワークではナンと米国の法人税率と同じレートにアップする可能性も示唆している。でないと真のワールドワイド課税にならない、ということ。え~、いつから真のワールドワイド課税に移行することになったの?紛いなりにもテリトリアル課税に移行したのかと思ってたんでチョッとビックリ。

GILTIがグローバル・ブレンディングな点を問題視しているのは財政委員会フレームワークも同様だけど、ホワイトハウス案のようにGILTIに国別バスケットを導入するのも一案とした上で、代替案としてCFCを低税率国と高税率国に属する2つのグループに大別し、高税率国グループに属するCFCには高税率除外規定でGILTI不適用とし、低税率国に属するCFC群をひとつのGILTIバスケットにまとめてFTCを算定するような方向性を示している。財務省がGILTI高税率除外を規則と言う形で規定・公表しているけど、それとは若干異なる新高税率除外を法文で規定するようなイメージだろうか。現時点の高税率除外規則は法的に行政府に認められる権限を逸脱していると考える向きもあるので、議会がきちんと高税率除外を法文に盛り込むのはウェルカム。ただ、財政委員会フレームワークでは高税率を米国GILTI税率に合致させるような方向で、仮に21%とすると、多くの国が「低税率国」になってしまい、低税率国群内でブレンディングを認めるとなると疑似グローバルブレンディング化するんじゃないだろうか。現状ではGILTIバスケットはExcess Creditのケースが多いと思うけど、バイデン・ワイデン案のGILTIワールドではGILTI税率が高すぎるので、FTCは取り切れてExcess Limitationとなるケースが多いだろう。GILTI税率を基準に高税率除外規定を設けると、基本Excess Creditの状況にはならない。

FTCのルールも変わるのかもしれないけど、今のFTCシステムだと、GILTIの表面税率が21%になったとすると、FTCとして適用できる外国法人税は80%が上限だから、GILTIのグローバルミニマム税率は実質26.25%になる。州税入れると30%強。これってグローバルミニマム税じゃなくてグローバルマキシマム税状態。EUもそこまでして自国の企業ダメにはしないでしょ、ってWSJがこき下ろしてたけど、グローバル所得に毎期30%課税されたら米国多国籍企業の競争力はガタ落ち?どうなることでしょうか。

GILTIでトリガーされる最終税額を語る際にはFTCがキーだけど、FTCを語るには費用配賦・按分がキー。R&D費用のFTC計算時の配賦・按分法に関しては規則がアップデートされたばかりだけど、財政委員会フレームワークでは米国で行うR&Dの費用やマネージメント費用は全額米国源泉に配賦するとしている。昔からあるR&D費用のExclusive配賦法にチョッと似てるけど、それを更に強化したような感じ。マネージメント費用って何のことか明確じゃないけど、Stewardship費用のことかな。こちらもつい最近規則が最終化されているけど、当然GILTIバスケットに配賦が求められていたので、もし国内のみに配賦するのであればウェルカム。ついでに支払利息もExclusiveに米国源泉に配賦ってしてくれたらいいけどね、って言ったらバイデンやワイデンにいい加減にしろ、って笑われるね。

ちなみにホワイトハウス案で国別バスケットにする場合、各国バスケットに既存の費用配賦・按分法でFTC限度額計算するのかな。4つのバスケットでも大変な騒ぎなのに、100のバスケットとか出てきたら大変そう。支払利息とか各国のCFC株式税務簿価に基づいて按分したりするんだろうか。TCJAとCARESでコンプライアンス負荷は限界に達しつつあるけど、ダメ押しだ。

FDIIは別の姿で温存

財政委員会フレームワークは、ホワイトハウス案とは異なりFDIIは廃止していない。ただ、GILTIのミラーイメージで残る訳ではない。今のFDIIは米国法人の課税所得がルーティン所得を超える部分を「Intangible Income」とみなし、そのうち米国外の顧客に帰する部分が対象となる。財政委員会フレームワークではこの「Deemed Intangible Income」を「Deemed Innovation Income」に置き換えるとしている。Deemed Innovation Incomeっていうと何か凄そうな予感を与えてくれるけど、実は米国で生じるR&D費用や従業員トレーニング費用のこと。全然Incomeじゃないじゃん、って思うかもしれないけど、これを「みなしで」Incomeにするということらしい。なんか変だよね。同じDIIでも内容は大違い。FDIIもForeign Derived 「Innovative」 Incomeと改名し、「Intangible」への言及は抹殺。既存のFDII算定式では、DIIをDEIの全額と外国派生額で按分するけど、財政委員会フレームワーク案も最後はR&D費用等を外国派生ポーションに按分するんだろうか。でないとただのR&Dクレジットみたいだし、名前にあるForeign Derivedっていう部分の意味がなくなっちゃうよね。所得でなく費用を見るところが分かり難いFDII。

FDII適用税率はGILTIに合わせるとしている。つまり21%。これは高い方がいいからグッドニュース。財政委員会フレームワークでは、今の仕組みはGILTIは10.5%でFDIIは13.125%で国外所得を優遇しているので統一するって書かれてるけど、GILTIバスケットのFTCに使える外国法人税は80%で頭打ちだから、米国側のGILTIバスケットへの費用配賦・按分を無視するとしても、国外で13.125%の法人税を支払っていないとGILTIは消えないんで、FTCとは関係ないFDIIとはここでバランスを取ってると思うけどね。つまりFTCの規定を変更しないと、双方の表面税率を21%としてもFDIIは21%でGILTIは26.25%。ただ、新FDIIはGILTIと全然ミラーイメージじゃないんで税率だけシンクロさせてもあんまり意味がないような...。

BEAT改造

BEATも今のままでは見た目ばかりで実効性がないコケ威しだと扱き下ろし、再生可能エネルギーや低所得者住居クレジットの恩典を減額していて弊害が多いとしている。これは面白いコメント。というのはBEATミニマム税計算目的では、税額控除は認められないのが原則な中、2025年まではR&Dクレジットは全額、再生可能エネルギーおよび低所得者住居クレジットは80%までBEATミニマム税の減額目的で使用が認められているからだ。おそらく80%に減額されてる点を問題視してるんだろうけど、他のクレジット特にFTCとかは全く加味できないんで、それに比べると優遇されてるように感じていた。財政委員会フレームワークでは、米国投資を促進する目的で議会が規定しているクレジットはBEATミニマム税目的でも全額認めるべきとしている。更にFTCを認めるかどうかは、BEATから予想される歳入増次第ということ。BEATが租税条約違反ではないかという議論の主たる根拠はFTC否認、と言っても実質は21%のうち10%部分否認みたいなもんだけど、にあったのでFTCを認めれくれるのであればかなりすっきりする。

BEATミニマム税は現時点ではBase Erosion Benefitを加算調整した課税所得に10%を掛けて特定のクレジットで減額して計算されるけど、財政委員会フレームワークでは通常の所得は10%で、Base Erosion Benefit部分にはより高い税率を適用するとしている。BEAT税率を二重構造とすることで、「Base Eroder」(Day Tripperみたいな響き!)にフォーカスした制度にするということだ。

GILTI、FDII、BEAT、全部用語はTCJAのままだけど、内容は別物だね。ってそうこうしている間に今度は財務省がホワイトハウス案の補足説明を出してるので、次回はそっちを特集したい。

Friday, April 2, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(10) ホワイトハウス ・インフラ増税案「Fact Sheet」公表(2)

前回はバイデンのホワイトハウスが$2Tにのぼるインフラ投資案およびその財源としての増税案を公表したThe American Jobs Planにかかわる「Fact Sheet」に関して簡単に速報した。34ページで構成されるFact Sheetに占める増税案部分は「The Made in America Tax Plan」と別セクションになってるけど、僅か4ページの極めて大雑把なものだ。

それにしてもこれだけ派手な増税構想を打ち上げ、大企業を悪の枢軸かのごとく徹底的にやりこめた挙句に「これらのステップを通じてアメリカへの投資を促進する時がきました」って締めくくるあたり、どの世界もポリティシャンっていうのは厚顔無恥じゃないとやってけないよね。冗談みたいで思わず笑ってしまった。「The Made in America Tax Plan」ね。確かにカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税はアメリカならではのイノベーション!

法人が税法上の「Loophole」を活用していてとんでもない、っていうコメントが炸裂しているけど、「Loophole」そのものを最初から法律に盛り込まなければいいと思うんだけどね。ここで言う「Loophole」の多くって、長年掛けてポリティシャン(ロビイスト?)が、民間に従事して欲しい分野とか投資して欲しい活動を優遇するために法律化してきた規定の多くが含まれるはず。Loopholeっていうと脱法的っていう含意があるけど、実際には議会にごちそう出されて食べたら怒られるみたいな状況?その意味では、新規に規定される、または既存の恩典が延長・拡張されることが想定されるクリーンエネジーに対する優遇措置だって結局は「Loophole」の一部を構成するようになる訳で、政府やポリティシャンが経済活動にアクティブに関与しようとする限り、必然的に税法に政策的な「Loophole」が増え続ける。その「Loophole」、使ってもらうために用意されるので、当然民間に活用してもらわないと意味がないのでは。つまり議会が制定した「Loophole」を合法的に使用しておかしいことはないし、その運用に際してはこれでもか、っていう詳細かつ複雑な財務省規則が公表されるのでコンプライアンスするにはそれなりのコストも掛かる。Fact Sheetが糾弾している大企業による外部アドバイザーを起用して検討する「Loophole」の利用っていう場合の、「Loophole」のどれだけがそのような政策に基づくものなのか、または阿漕な脱法的プラニングなのか、は不明だけど、個人的な経験から法的に怪しいことは少ない気がする。法人税制度自体に限界を感じるので今の経済に即した、Base Erosion という概念すら存在しない消費地ベースの新たな課税制度の導入を検討してみるしかない。

バイデン自身だってファーストレディのジルと共に、高齢者医療の財源となるMedicare社会保障税の節税のためS法人経由で所得をBookし、$13Mに上る所得に対する社会保障税を支払っていないというLoopholeを利用したアグレッシブなプラニングに従事してる、っていう報道があったけど、それだって合法的だったらある意味仕方がないし、問題があるんだったら最終的には議会が法律を変えるしかない。

ただ、多くの「Loophole」が税法を複雑にして、コンプライアンスの負荷が上がり、勝者・敗者が出るのはその通り。また、これらの「Loophole」をサポートするため、表面税率を高く設定しないといけなくなるので、以前から税法簡素化の話しがでるたびに特定Interestに与えられる「Loophole」を撤廃して、代わりに皆に適用する税率を低くするべきという議論は出るんだけど、結局ロビイストとかの暗躍で実現困難だろうね。政府やポリティシャンが恣意的に決めるクレジットとか、結局はウォールストリートが現金化してたりして、狙った通りの効果が得られないケースも多そうだしね。

敗者と言えば化石燃料関係に従事する企業。Fact Sheetでは「汚染者」という名で糾弾した上、税法上の全ての恩典を取り上げると宣言している。もちろん環境に悪いことはよくないし空気もきれいに越したことはなく、ようやくクリーンエネジーが実用に至るテクノロジーが整ってきたんだと思うけど、今まで長年、国民に必要なエネジーを提供し、安全保障上も最重要なセクターのひとつであるが故に議会が特別な恩典を規定していたんだろうけど、用なし(?)になったとたんけちょんけちょんだ。「汚染者」ね。もう少し大人っぽい表現を使っても良かってリタイアさせてあげてもよかったんでは、って感じたけどね。自分が年取ると、ワシントンのポリティシャンや世の中全体がなんか子供っぽく見えることがあって、ジェネレーションのGapってこんななんだな~って痛感して反省(笑)。レーガン(共和党)とTip O'Neill(民主党)の2人みたいな大人の世界の米国にはもう戻ることはないのは分かるけど、オバマ(民主党)とJohn Boehner(「ベイナー」って発音します)(共和党)の2人の間柄だって、レーガンとO'Neillと比べるとかなり最近だけど、まだアダルト感が残ってたように思うけどね。Old-Fashion過ぎるって?かもね。バイデン自身はもちろん僕より更に2ジェネレーションくらい上かもしれないけど、Fact Sheet書いてるのはもちろん本人じゃないし。

で、バイデン政権の増税規模の壮大さには度肝を抜かれるけど、考えてみれば現時点ではあくまでも行政府側の提案なので、中庸民主党議員とかが抵抗を示して、若干譲歩したようなフリして、それでも結局は結構な増税という路線なのだろうか。前から何回か触れている通り、個人的には28%まで上がるとは未だに信じてないんだけど、あそこまで法人のことけちょんけちょんに言ってるからには相当近くまで引き上げられるのかな。前も触れた通り、法人税が歳入に占める割合って少ない。Fact Sheetにも、1980年以前はもっと比率が高く、税率を引き上げてその頃の比率に戻すというようなコメントがある。ただ1980年以前って、1997年から使ってるCheck-the-Boxより20年近く前だし、そもそもCTBどころか、LLCっていう主体が始めて登場したのが1977年のワイオミング州会社法だから(大自然だけど、この辺りはさすがワイオミング州だよね。LLCってニューヨーク州とかデラウェア州で生まれたものじゃないからね)、上場企業以外は基本パススルーで所得が個人にフローアップしていく環境にある今日の法人税収とは比較可能性に欠ける。当時はパススルーにするには信託をAssociationにしないように、とかのレベルで腐心するか、GPやLPで無限責任をどう最小限にするか、みたいな話しだっただろうからね。Kinter原則の6つのテストだね!懐かしい~。

前回のポスティングでも書いたけど、Fact SheetのOECDのピラー2への急接近には目を見張るものがある。アメリカは再度世界のリーダーとなり、世界的な法人税率低減傾向に断固立ち向かうそうだ。自国の法人税率が世界一レベルに復活してしまっても、相対的に競争力が落ちないよう他国にも「Race to the bottom」とかに従事することないよう釘をさしたりしてる訳だけど、他国の企業には大迷惑?ピラー2に見られるグローバルミニマム税の導入、ピラー1と比較すると、コンセンサス作りの難易度は低いかもしれないけど、Fact Sheetでは単なるグローバルミニマム税ではなく「Strong」なグローバルミニマム税の導入を促している。自国でGILTIを有形償却リターンを撤廃した上、21%に増税する提案をしているので、相対的な競争力が落ちないよう他国もより厳しいグローバルミニマム税を導入して欲しい、ということだろう。ただ、21%はFTC加味すると26.5%で、州税も要れると30%超えるからいくら「Strong」って形容しても「ミニマム税」というにはチョッと高過ぎ。米国企業と異なってもともとBase Erosion なんてしてない企業も多かったり、Check-the-BoxとかないんでCFC課税が機能している他国は面食らっているのでは。真面目にやってる他国の多国籍企業から見ると大きなお世話感は否めないだろう。BEATもUTPRみたいに生まれ変わるようなことも書いてあるし。ピラー2は俄かに息を吹き返してるね。

さらに、Fact Sheetには、Inversion規制が甘すぎるのでもっと厳しくすると記載されている。Inversion規制の強化っていうと2017年以前のオバマ政権時代末期がフラッシュバックしてくる。当時はTCJA前で、米国の税制が余りに使い勝手が悪いので、他国に引っ越してしまう法人が急増していてそれを阻止するため厳しい制限を財務省規則という形で乱発してたけど、今回も予めそんな動きを牽制する作戦。でもInversion規制って既に強固過ぎて、特にTCJA以降はInversionでトリガーされる不利益が大きく、Inversionなどほぼできないか、できたとしてもTransition Taxが大きくなったり、BEATに抵触し易くなったり、Downward Attributionもクロスボーダーで適用となってるし、恩典が限られるんじゃないかな。この期のおよんでInversion規制の強化って、これ以上どうやって強化するつもりだろうか。設立国基準を撤廃し、管理支配ベースにする案をまた浮上させるつもりかも。

Inversion対策ってまさしく太陽と北風の童話の世界で、Inversionしないでもいいように相対的に米国の税法をマシにするのが太陽アプローチ。TCJAは税率を下げ、またGILTIとFDIIをセットでLevel Playing Fieldにしたり、してたのでどちらかというと太陽。一方、これだけInversion規制が行き届いている中、北風アプローチのInversion対策強化をうたわざるを得ない辺り、増税案で米国税法がまた他国よりかなり不利なものとなり、国籍離脱を試みる企業が出没するリスクを気にしてるってことなんだろうか。

インフラ投資案+増税案、この内容では共和党からは一票も入らないだろうから、予算調整法の枠で通過させるしかない。その場合、厳格に予算調整法のスコープ内の法律でないといけないので、インフラ投資案のうちどれだけの部分が予算調整法適格となるか不明。

という訳でFact Sheet第二弾でした。バイデン政権の税制改正動向は進展あり次第触れていきたい。次のマイルストーンはグリーンブックかな。

Wednesday, March 31, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(9) ホワイトハウス ・インフラ増税案「Fact Sheet」公表

前回まで、バイデンの選挙活動中の提案、政権誕生後に任命された財務省高官新メンバーの過去の言動や文献、最近の議会ヒアリング等から想定されるバイデン政権下の増税案の方向に触れてきた。そんな中、米国時間の昨日、バイデン大統領府は「Fact Sheet」と呼ばれる資料で$2T(Bじゃないからね)に上るインフラ投資およびその財源として増税案を正式に公表した。増税提案の内容そのものは大概において前回までのポスティング通りで特筆するべき新提案はないように見えた。ただ、TCJAを、時にトランプ税とか読んで批判している論調は、その激しさが眼を引いた。財務省租税分析局長に就任しているキム・クロージングが学者時代に公表していた論文に通じるものがあり、誰がドラフトしたか計り知れる気がする。

この資料、マニフェストっていうかかなり宣伝っぽい内容だけど、ポリティシャンの公表する資料なのでそれは当然というか仕方がないとして、ポリシー提案文書を「Fact Sheet」って名付けて公開しているのはチョッと不思議。道路や橋の老齢化等の指摘をもってFact Sheetって呼んでるんだろうか?道とか老齢化が激しいのは本当で、これはどんなスタンダード下でもFactって言っても論争は起きないだろう。油断してると道路の穴とかヒットして直ぐにタイヤだめになるしその度にPep Boysとか行かないといけないし、特殊なタイヤだからって言われてわざわざTireRack.ComでオーダーしてPep Boysでサービスだけしてもらったりね。そういえば、交通インフラのアップグレードで思い出したけど、結局JFKはコロナ禍でも比較的良く行ったけど 久しぶりにLa Guardiaの方に足を運んだら、ターミナルBが見違えっててビックリ。そういえば毎日のように出張してたその昔、って言っても僅か一年前なんだけどね、改修後のターミナルBがもうすぐ誕生ってあちこちに書いてあって完成を楽しみにしてたのを思い出した。改修前のターミナルBは1940年っぽさが炸裂してたから。コロナ禍の中ひっそりと完成してたんだ~って思うと感無量(?)。でも、しばらくあんまり関係ないかもね。長距離フライトはどうしてもJFKだしね。

で、ホワイトハウスのFact Sheetだけど、今の世の中Fact CheckとかFact Sheetとか言われても、各自が思うところの都合のいいナラティブをFactって言うことが多いので、Factを辞書通り「実際に起こった事実」という本来の意味で捉える人は少ないだろう。でもよく考えてみるとFactって昔から同じように本当は掴みどころがなかったんだろうね。昔はイノセントで、僕が子供の頃はもちろんインターネットなんてなかったし、新聞やテレビのニュースで報道されることは単純にFactって勘違いしてた。そうじゃないっていう事実(Fact?)がいろいろな情報ソースにアクセスできるようになって浮き彫りになっているだけで、世界や人間の世界は昔から同じなんだろう。ローマ時代とかもね。でも、Fact Sheetってタイトルで増税案が公表されると、増税がFactになってしまってるみたいでチョッと怖い。

Fact Sheetを読んで興味深いのは、インフラにかかわる巨額歳出とか当然盛り込まれているであろう内容に加え、名指しする形で米国が中国との比較で優位なポジションを築くため、と明記されていた点。先日開催された米中会議でブリンケン国務長官が中国にお説教されて帰ってきたっていう弱腰外交イメージを払拭するためだろうか。チョッと取って付けた感は否めないけどね。また、インフラがかなり広義なんで、コロナ対策ではコロナの名前でいろんな民主党支持基盤に資金を提供したように、インフラ対策もインフラの名前であちこちにお金がばらまかれる。何と言っても先日のコロナ歳出と合わせて$4Tだからハイステークだよね。$4Tって日本やドイツの一国のGDP同等で、こんな金額がばらまかれるかと思うとその大盤振る舞いの凄さが分かる。

で、もちろんだけどFact Sheetに対する反応はまちまち。とは言えどれも想定内。「歳出が少な過ぎる」っていう左翼系民主党議員の批判、そんなことよりまずは連邦所得税算定時の州税控除の復活の方が先、という中庸民主党議員の中間選挙を見据えた現実的な反応、コロナ法案で中庸案を提示したにもかかわらず一切相手にされなかった共和党による拒絶(?)反応、法案に自己権益を盛り込んでもらおうと働きかけるロビイストとか、自分の選挙区にお金を落とそうとする議員さんたちとかね。

Fact Sheetはピラー2に極めて前向きな点が印象的だった。他国がグローバル・ミニマム税を導入するのを奨励し、OECDと共に「Race to the bottom」を封じていくそうだ。であればGILTIもぜひピラー2に準じて欲しいところ。国別FTCのところだけピラー2風にする一方、税率は21%にして有形資産リターンのカーブアウト撤廃、ではピラー2と整合性が欠ける。また親会社の所在国がIIRを採択したら、インバウンド企業が米国傘下にCFCを所有するストラクチャーでもGILTIを非適用にしてくれるとか、その手のピラー2との共存論もあれば良かったけど。そういうのは盛り込まれてない。逆にピラー2が21%でカーブアウトなし、なんてなったら世界中に大迷惑。ピラー1に全く触れてないのも興味深い。BEPS 2.0は、この夏にはピラー2に関してアクションプランみたいなものを最終化して合意をみたような形に持ち込むのでは、っていう予想を裏付けてる気がした。

米国内外における今後の審議、どうなるでしょうか。