Showing posts with label 法人税. Show all posts
Showing posts with label 法人税. Show all posts

Wednesday, March 17, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(8) CbCR開示・そして国際協調?BEPS 2.0の運命はいかに

前回は「BEAT、お前もか」ということで、既に気が重いBEATが更に強力になる可能性に触れた。前回書かなかったけど、下院歳入委員会ではBEAT適用対象法人の判断時にBase Erosion%テストを撤廃するばかりでなく、3年間平均売上基準も$500Mから$100Mに引き下げよう、っていう法案も浮上している。COGSになる金額もBase Erosion Paymentになったり、本当にこんなになったら踏んだり蹴ったり。

で、今日はCbCRの公開義務にチラッと触れて、その後、主にバイデン政権の多国主義回帰宣言とBEPS 2.0の運命について。

CbCRだけど、バイデン政権には上場企業にCbCRを開示させたらどうか、っていう米国では考え難い提案がある。投資家に有益な情報を提供できるというのが表向きの理由だけど、CbCRの見え方次第で、必ずしも全体像を良く理解してない第三者やメディアが、それだけで中傷したりするリスク大だから、むしろ本当の狙いは後者の抑止力だろう。

BEPS 2.0に関しては、バイデンの「America is back」宣言で米国が旧来の多国主義に戻ったのを機にOECDは「星々が一列に並び幸運が訪れた」と喜びを隠せない様子。財務省には初の多国主義税務官とでもいうのだろうか「Multilateral Tax Official」が任命されたりして期待は嫌でも高まっている。

ただ、以前からのポスティングで何回も触れてる通り、BEPS 2.0が暗礁に乗り上げていたのはトランプ政権のせいではなく、とてもグローバルで実現可能とは思えない超複雑な設計・規定が最大の理由じゃないだろうか。さらに、仮にあれだけ複雑かつ根本的に現状と異なるピラー1と2の双方を世界で無理やり導入としたとしても、その結果グローバルで増える税収は$50B~80Bのレンジと言われており、下限値はアップル一社の税引後利益より低い。え~、それだけために?って感があるけど、巨額の歳入が期待できないとなると参加国としても気合が入り難い。

米国がOECDに突き付けてた難題は主に2つあって、ひとつは例のピラー1の「Safe Harbor」化。結局最後までSafe Harbor化って具体的に何なのか誰も分からないままイエレン新財務長官は先日「ピラー1をSafe Harbor化することにはもうこだわりません」とすんなり撤回。そしてもう一つはピラー1の対象を元々のターゲットであるデジタルばかりでなく、広範なConsumer Facing Business(CFB)に拡大しようとした点。CFBへのこだわりはトランプ政権ではなくオバマ政権からの遺物なので、バイデン政権が引き下がるとは考え難い。CFBに関しては未だにスコープがはっきりしない。

BEPS 2.0の規定内容そのものの現状を見てみると、ブループリントは出てるけど、ピラー1の目玉であるAmount Aを算定する際の超過利益の額(逆に言えばルーティング利益の額)やそのうちどのUpper部分を市場国に配賦するのかっていう基礎的な部分すらまだ決まってない。係争解決もパネルを設置とかは提案されてるけど未だに不明。遠いところにしか存在しない別の国の多国籍企業がAmount Aを払ってくれなかったら、どうやって法的に支払いを強制するんだろうか。Amount Bのように比較的、物議を醸しそうもない金額に関しても%もスコープも未だはっきりしない。ピラー2に関しても、STTRをまず最初に適用し、それを加味してIIR、IIRが機能しないケースはバックストップでUTPR、条約次第でSOR・・・、複数のCarryforwardsで複数年平準化、人件費や償却費用でカーブアウト計算、とても世界中で執行できるような制度ではないように見える。

バイデンやイエレン長官が両手を広げてOECDのアプローチを歓迎するスピーチをしたとしても、それだけで今のブループリントのままBEPS 2.0が近々に合意されるとは考え難い。米国多国籍企業の見解もバラバラだし、米国議会どころか行政府内も必ずしも一枚岩とは思えない。議会に至ってはOECDに言われて法律を変えたり、米国モデル条約に近いものでも批准できない上院が、OECDの多国条約を批准するとは思えない。さらに、GILTIを21%にして、ルーティン所得のカーブアウトを撤廃しようと言うバイデン政権の方向性もピラー2とは全く逆で、ちぐはぐ感は否めない。

そんな中、DSTは着々と拡散モードで、米国内でもメリーランド州が国内DSTを可決している。BEPS 2.0に何らかの合意が見られるとしても、それが機能し始めるまで少なくとも5年とかの歳月が掛かるとすると、その間、各国がDSTを撤回するとは思えない。幾度となる壁にぶつかるBEPS 2.0の迷走ぶりやDSTの台頭を見ていると、法人税という制度自体がデジタル経済に合わなくなっているっていう事実を認識せざるを得ない。2017年の米国税制改正時に当初たたき台になっていたブループリント(OECDのブループリントじゃないからね)に仕向地キャッシュフロータックス(DBCFT)っていうのがあったけど、実質VATのような税制で、こっちの方が今日の経済に合ってる感じ。

ということで実現が難しいんだったら、バイデンにしてもイエレン長官にしても変なリップサービスで、OECDに一時のぬか喜びを与えない方がいいんじゃないかな、って心配になるけどね。BEPS 2.0の運命はいかに。

Saturday, March 13, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(7) 「BEAT, お前もか」

さて、前回まで3回に亘り、GILTI増税案の話しをしてきたけど。今日はBEAT。バイデン政権にはBEATも手緩いと考えている一派がいる。まさしく「BEAT、お前もか」の心境(何それ?)。

BEATも「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」で触れたGILTI立法趣旨同様、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、想定される派手なBase Erosionに網を掛けるためのものだ。ピラー2のUTPRとIIRの関係とは異なり、BEATはGILTIを補完するために規定されている訳ではなく、全く別の規定としてGILTIと共存している。例えば、米国法人がCFCにロイヤルティーを支払い、仮にそのロイヤルティー所得がCFC側でGILTI対象のTested Incomeの一部を構成するとしても、関係なくBase Erosion Paymentになる。したがって最悪のシナリオだと、まず米国側で損金算入効果がBEAT税率10%に低減され、更にまるで往復ビンタかのように、CFCからTested Incomeとしてフローアップしてくる同額に米国で10.5%(FTC前)課税される。

バイデン政権が抱いている現状のBEATが手緩いという感覚も、GILTIに対する感覚同様、米国外関連者への支払いは全て悪という前提で課税は当然、というアプローチに見え、もともとBEAT導入時の、過度に阿漕なBase Erosionに網を掛ける、というアプローチの更に先を行っているように見える。

で、まずは例によって現状のBEAT規定のおさらいから。ちなみにBEAT課税そのものに関しては2018年から何回か詳細に触れているので、細かい点は過去のポスティングを参照して欲しい。

BEATはIRCのsection 59Aに規定され、法文のタイトルは「Tax on Base Erosion Payments of Taxpayers with Substantial Gross Receipts」。これだけだと、どうして「BEAT」っていうキャッチーな略になるのか分からないと思うけど、これはもともとBEATが、両院が可決した法文のSubtitle D(国際課税部分)のPart IIで section 14401として「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」というヘッディング下に導入され、その後IRCにCodifyされる過程でも、今度は税法上のPart VIIに「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」が足され、その傘下に独立した条文として規定されることになったことによる。「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」なんでBEATなんだけど、これは予めキャッチーAcronymにするために考えて命名されている。GILTIも同様。

ただし、条文名やPartのタイトルとかが何であっても、それらが条文の規定内容や適用可能性に影響を持つことは一切ない。この点はわざわざ税法にも明記されている。「BEAT」という条文名やタイトルを見て「私はBase Erosionを通じたAbuseはしていないので、Anti-Abuse規定の対象ではありませんよ」みたいな屁理屈を封じるためだ。

で、BEATだけど、税額決定をカバーしている税法上の一部に属し、BEATミニマム税がある場合、他の税金に加えて賦課すると規定されている。TCJAで法人に関しては撤廃されたAMTが、同パートのSection 55から59に規定されてたけど、BEATは59A。BEATはAMTの代わりという議会や財政委員会の感覚通りの構成だ。「A」っていうのは、単純に付け加える番号がない場合に便宜的に使われるだけで、263A (UNICAP)、 245A (DRD), 951A (GILTI)とかいろいろあるけど、アルファベットそのものに何か意味がある訳ではない。

AMTは、将来生じる通常法人税にクレジットされるっていう規定があったんで時差だったけど、BEATには同様の規定はなく、BEATミニマム税は一旦賦課されると払い損。この点、AMTの代わりっていうのは語弊があると思うんだけどね。

還付やクレジット不可となると、何がBEATミニマム税なのか、っていう点が当然気になるよね。これはBEAT修正課税所得に10%掛けた暫定BEAT税額が通常法人税を超過する金額。BEAT税率は2026年から12.5%で、銀行や証券会社は常に1%プラス。課税年度毎の算定なので、超過額がなければそれでおしまい。Excess Limitationsを繰り越ししたりして複数年で平準化させるような規定はない。

また、ここで言う通常法人税は一部クレジットを調整して算定するよう法文では規定されてるけど、算式的には財務省規則のアプローチ、すなわち暫定BEAT税額の方を調整すると考える方が分かり易い。一次方程式の世界だから数式の右と左のどっちで調整するかは見せ方の問題で、プラスとマイナスを混同しなければどっちでも結果は同じ。財務省規則風にアプローチすると、BEATミニマム税算定時に比較対象となる通常法人税は全てのクレジットを引いた後となる一方、暫定BEAT税額はR&Dクレジットだけがフルに認められる。更にBEATミニマム税の80%を上限に「低所得者住居」「再生可能エネルギー発電」「一部のエネルギー」クレジットが認められる。超過額がない、または少ない、方がいい訳だから、通常法人税は高く、暫定BEAT税額は低い方がいい。なので、通常法人税にクレジットが全て認められたり、暫定BEAT税額にはクレジットが取れなかったりするのは不利な取り扱いとなる。特に、比較対象となる通常法人税はFTC後なので、暫定BEAT税額にFTCが認められないのは痛い。GILTI後の世界では、CFC所得を合算した後に巨額のFTCでその弊害を除去するのが米国多国籍企業の基本的な姿になるからFTCの影響は多大。しかもR&Dクレジットやその他のクレジットの恩典は2025年までの時限措置で、その後は暫定BEAT税額にクレジットは一切認められなくなる。

BEATミニマム税はBEAT適用法人のみが対象だけど、これは過去3年間の平均売上が$500M以上、そしてBase Erosion%が3%以上の法人。この2つの判断は、法人個社や連結納税グループ単位ではなく、直接間接に50%超の資本関係にある「Aggregate」グループで合算して行う。この合算法だけでも本が書けるくらい複雑だ。

で、適用対象となると、上述のBEAT計算をさせられる。これは法人個社、または連結納税している場合には、連結納税グループ単位の計算。暫定BEAT税額は修正課税所得に10%掛けた金額だけど、修正課税所得っていうのは、通常の課税所得にBase Erosion Tax Benefitおよび繰り越しや繰り戻しNOLを使用している場合にはNOLにBase Erosion%(NOL発生年度ベース)を掛けた金額を加算して計算する。

適用対象となるかどうか、またNOLのうちいくらを加算するか、の判断時に登場するBase Erosion%は、毎課税年度に計上する控除額(=Deduction)総計を分母、Base Erosion Tax Benefitを分子として算定する。Deductionは税法上定義される金額で、特筆すべき点としては棚卸資産への資産計上を経由して控除されるCOGSは含まない。Base Erosion Tax BenefitとはBase Erosion Paymentのうち、対象課税年度にDeductionとして計上されている金額。Base Erosion Paymentとは外国関連者に対する支出。棚卸資産経由のCOGSがDeductionとならないことから、外国関連者に対する支出に基づく費用でも、税法上、棚卸資産に資産計上が求められる金額は、Base Erosion PaymentにもTax Benefitにもならない点は重要。

こんな概要なんだけど、バイデン政権は現状のBEAT制度の2点を問題視している。まずは適用対象法人の決定に適用されるBase Erosion3%基準。3%行くか行かないかで取り扱いが大きく異なるので、2.999%になるよう、Deductionを自己否認することを認める財務省規則が出たりしている。売上$500M要件は多国籍企業にとって回避はできないので、3%基準が重要だけど、この3%要件を撤廃してしまうという案。となると、過去3年の平均売上が$500M以上だど、それだけをもって常にBEAT適用対象法人になることになる。

さらにBase Erosion PaymentやBase Erosion Tax Benefitに棚卸資産に資産計上される支出が含まれない点も問題視している。すなわち、現状ではInversion企業を除き、棚卸資産に資産計上される支出、例えば製造ロイヤルティー、は外国関連者に支払っていてもBase Erosion Paymentには当たらないが、これを改定しようというものだ。

Base Erosion%要件やCOGSとDeductionの関係は2つとも法文に規定されるものなので、バイデン政権得意の大統領令や、または財務省規則ではオーバーライドできない。したがって、議会による税制改正が必要となる。Base Erosion%を3%未満とするために費用を自己否認する規定は、財務省規則ベースだけど、この規則もある意味、税法上、それが可能なため、悪用されないように自己否認法をタイトに規定している側面が強く、その運命は不明。

BEATの運命はいかに。どうなることでしょうか。次回はCbCRの公開義務やバイデン政権とOECDの歩み寄り等に関して。

Sunday, March 7, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(6) GILTI増税と財務省規制強化

前回のポスティングでは、GILTIって名前のワンちゃんがバイデン農場に拾われたら、GIに名前が変わってしまった、っていう童謡を歌いながらGILTI増税案を紐解いてみた。う~ん、GIってウルトラマンメビウスみたい。あれはGIGか。キャプテンスカーレットのSIGのパクリだけどね。僕が昔見てたウルトラマンセブンのMATの方が隊の名前としてはGUYSより断然いかしてる。何と言ってもMATって「Monster Attack Team」の略だったからね(笑)。ポインター号に乗ったMAT隊員。いい時代だった感じが炸裂しています。

今回はチラッとだけど、立法府の議会ではなくバイデン政権下の行政府の規制環境について。

約一年前、すなわちトランプ政権下で財務省はGILTI高税率除外の規則を公表している。GILTIはその立法過程で、13.125%のグローバルミニマム税を設定するという趣旨が明記されている。そのメカニズムとして、CFCが現地で支払う法人税の80%をFTCとして認めるので13.125%の法人税を支払っていれば、10.5%のFTCが認められ、米国株主側でGILTI合算してもネットで追加の米国法人税はないはず、という点も明記されている。

TCJAが可決して間のない頃から、仮に10.5のGILTIバスケット所得があっても、FTCはバスケットのネット課税所得を基に制限枠を決めるので、バスケットに配賦・按分される米国株主側の費用、特に支払利息、により10.5の枠はないケースが大半という問題が指摘されていた。すなわち、このままだと、米国外で13.125%超、例えば30%とか、の法人税をCFCが支払っていても、米国で一部GILTI課税が生じることになる。この問題を解消するため、企業側はGILTIバスケットには特別に費用配賦をしないような規定を設けて欲しいとか、13.125%の法人税を国外で支払っているケースはTested Incomeをピックアップしないでもいいようにして欲しいとか、若干茶番めいたとまでは言わないまでも、行政府には権限がないであろうと思われる財務省規則による救済策を期待していた。

法的に行政府では如何ともし難いのでは、と考えられていたんだけど、驚いたことに財務省がサーカスのような理論に基づきウルトラCでGILTIに対する高税率除外規則を策定したのだ。しかし、さすがに13.125%にはならず、従来のSub Fに規定されていた高税率免除を流用するに留まっていた。これだけでも凄い逆転劇なんだけど、Sub Fに規定される高税率免除は、法人税率の90%基準なので、現行だと18.9%。以前の35%時代にはこれが31.5%だから、ほぼ適用可能性はないに近かった。18.9%で息を吹き返した感もあるけど、米国多国籍企業的にはまだ高いという感覚は否めないだろう。バイデン農場、じゃなくてバイデン政権の法人税率28%が実現すると、高税率免除は25.2%と役に立たない域に戻ることになる。高税率除外に関しては財務省規則が発表された当時のちょうど一年ほど前に「GILTI高税率免除規定」で詳細をポスティングしているんで、内容そのものはこちらを参照して欲しい。

GILTI高税率除外規則は、Sub FのFBCIやInsurance Incomeに従来から適用可能だった高税率免除規定の法文を解剖し、その一部の表現に「全ての所得項目」に高税率免除規定が適用可能とも無理すれば読めなくもない部分があり、それを最大限利用し新らたな解釈を捻出しているものだけど、かなり際どい。

財務省の中でもこんな規則を策定していいのか、とか法的な権限に関して賛否両論あったらしいけど、バイデン政権下の財務省では、行政措置でGILTIを不当に弱体化しているという論調が強まるかもしれない。その矛先は、みなしルーティン所得の計算をする際に差し引く、CFCの特定支払利息を簡便法に基づいて全利息のネット算定を認めている点にも向いている。別の規定だけど、163(j)で支払利息の損金算入枠を算定する際に使う調整後課税所得に、2021年まで棚卸資産に資産計上される償却費用の加算を認めるかどうかっていう点も財務省は納税者寄りの規則を出してるしね。

これらの規則が即取り消されるというような切羽詰まった状況ではないけど、この手の問題を指摘する者はどちらかというと学界で活躍されてきた方が多いように見え、全利息のネット算定など、逆にあれがないと実務面の対応はとてつもなく重荷となるので、ビジネス経験のある一派との議論を通じてバランスよく方向性が固まっていくことを願う。

オバマ政権とトランプ政権の比較でも分かる通り、行政府による規制環境は政権により大きく異なるから、今後の規制強化に関しては法改正と並び要注目。

課税強化の話しばかりで食欲減退してないといいけど、次回は追い打ちをかけるようにBEAT強化案について。

Friday, March 5, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(5) GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?

前回はバイデン政権によるGILTI課税強化の話しをするための舞台作りとして、元祖GILTIの概要に触れた。2分間のSingle Radio Editのつもりだったんだけど、結局いつも通り興奮して20分続くExtended Underground Versionに。GILTIはそれを取り巻くFTC、株式簿価調整、PTEP等の規定を含むと、僕も3年間考え続けて未だに不明点があるくらいだから20分でもご勘弁くださいませ。

ってことで今日はいよいよバイデン政権のGILTI増税案。

米国に「農場主がワンちゃんを飼ってて、その名はBINGO~」(「There was a farmer had a dog and Bingo was his name-o. B-I-N-G-O」文法面白いけど歌だからね)っていう童謡がある。こっちの生活が長かったり、こちらで子育てした方だったら大概知ってるんじゃないかな。この歌、基本的に同じ歌詞で1番~6番まであるんだけど、犬の名前をみんなで「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」ってスペルアウトして歌う部分が、回を重ねる毎に一文字づつ消えて、その部分は手拍子に代わる。

何言ってるか分かんないかもしれないけど、一番はBINGOのスペルを全てみんなで元気よく「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌うんだけど、2番は「ビー」の部分は何も歌わずに手拍子になる。つまり「手拍子」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌う。3番はさらに「アイ」も歌わず、「手拍子」「手拍子」「エヌ」「ジー」「オー」、4番は「手拍子」「手拍子」「手拍子」「ジー」「オー」、5番は「オー」だけが残って「手拍子」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「オー」、6番に至ってアルファベットは全て消え、全部手拍子になるって仕組み。結構楽しいんだけど、僕の説明だけじゃ楽しさ伝わんないと思うからYouTubeとかで実際に聴いてみて欲しい。どうでもいいって…?確かに。

でもバイデン政権のGILTI増税案はまさに童謡BINGOの世界なのでした。果たしてそのこころは?それは最後にね。

バイデン政権のGILTI観はTCJA立法趣旨とは大分違う。CFCの国外所得を米国で毎期課税するのは当然と考える。そんな捉え方に基づくと、GILTIの税率は低すぎるし、みなしルーティン所得のカーブアウトも米多国籍企業が享受する不当な恩典、というような結果に辿り着く。したがってこれらの不当な「恩典」は是正しないといけないということ。こんなGILTI観の背景には、米国多国籍企業が未だに大掛かりなBase Erosionに従事してるっていう前提があるんだろうけど、現時点で入手可能なデータの多くは2017年以前のものなので、TCJA、特にBEAT、GILTI、FDII、Hybrid、等が導入されている新クロスボーダー課税制度下でどのように多国籍企業の行動パターンが変わったのかを統計的に図ることはできないはず。

バイデン政権のGILTIアプローチ下では、まず、CFC有形償却資産簿価の10%というみなしルーティン所得を撤廃しようという流れとなる。この除外がなくなるってことは、すなわち毎期、CFCの所得を全額合算するということ。GILTIは「Intangible」から生じている超過利益に対するミニマム税と位置付けられている現状では、有形償却資産簿価に基づいてメカニカルに決定されるルーティン所得以外を無形資産所得って決めてしまった点が凄く斬新って前回のポスティングに書いたけど、この除外を撤廃するということは有形償却資産から生じるルーティン所得もGILTI対象にするということになってしまう。もうIntangibleとか関係ないね。

さらにGILTI税率の21%への引き上げ。現行が10.5%だから倍だ。もし通常の法人税率が21%のままと考えると、前回のポスティングで触れた50%のGILTI控除を完全撤廃するということになる。ただ、バイデン政権は選挙活動の頃から法人税率そのものを28%に引き上げる、って言ってるので、もしヘッドラインレートが28%になるんだったらGILTI控除を50%ではなく、25%に下げるっていうことになる。すなわち、100のGILTI合算から25を引いた75に28%掛けて21という仕組み。仮にGILTI制度が現状のままでも法人税率が上がると自然にGILTI税率も上昇する。仮に法人税率が28%になるとすると、GILTI制度の変更が一切なくてもGILTI税率は自然と14%になってしまう。新しいタイプやクラスの税金って、一旦法律になってしまうと、その後どんな風に進化していくか分からないから恐ろしいね。という訳でミニマム税っていうか普通の課税っぽい帯域に突入。GILTIのLow-Taxedっていう部分も意味がなくなってしまう。

そしてダメ押しのように、FTC計算時のGILTIバスケット制限枠を国別に算定させるという「Country Basket制」導入案。現行のGILTIバスケットのFTCは、繰り越しや繰り戻しがないという厳しい制限はあるものの、少なくともグローバルブレンディングベース。GILTIバスケットのFTC計算はそれだけでも面倒だけど、簡単に言うとポジティブなTested Incomeを計上しているCFCが外国で支払う法人税のうち、Tested Incomeに帰すると取り扱われる金額を米国株主側で合算し、それにGILTI合算率を掛けて更にそれに80%掛けた金額。GILTI合算率は、分母が「米国株主側でGILTI用に取り込むTested Income(Lossは加味しない)総額」で、分子は「GILTI合算額」すなわちTested IncomeとTested Lossを相殺して更にみなしルーティン所得となる有形償却資産簿価の10%をマイナスした金額として算定する。もちろん、こんな風に苦労してクレジット可能な外国法人税を算定した後、実際にFTCになるのは米国株主側の各種費用をGILTIバスケットに配賦・按分して計算されるバスケット制限枠の範囲内だ。

で、これを国別に計算しようという提案。その目的はもちろん高税率国と低税率国間のクロスクレジットを認めないってことなんだけど、もしGILTI税率が21%になったら、普通の国の税率より高いケースが多いので、結局は結構な外国の法人税がFTC対象になるかもね。しかも、FTCは外国法人税のTested Income帰属額の80%が対象だから、仮に算数が教科書のようにきれいにワークしたとしても、26.25%がグローバルミニマム税という見方もできる。そんな高税率の国、日本以外には少ないのでは。

う~ん、これではGILTIがオリジナルの制度とは異なる目的のものになってしまう。もともとGILTIっていうのは、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、少し大げさにいうとCFCの所得は国外でゼロ%、米国市場から生じる所得も合法的にCFCに移転されてしまうので結局ゼロ%、それを米国に還流してもゼロ%、という全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、BEATやHybrid規定と並び、CFC国外所得に毎期13%程度のミニマム税は世界のどこかで払ってもらわないと、っていうBase Erosion対策の一環だったはず。加えて、FDIIを同時に規定することで、米国外向け事業を米国親会社が直接行っても、CFC経由で行っても、毎期繰り延べなしに13.125%のミニマム税の対象となるというFDIIとの対のシステムだったはずだ。経済がデジタル化する中、高い収益はIP等の無形資産が生み出し、従来のクロスボーダー・プラニングでも低税率国に容易にMigrateできたのは無形資産、という認識があるんで、有形資産から生じるルーティン所得見合い部分は対象外ってしていたものだ。

バイデン政権はピラー1のSafe-Harbor化要求を撤回するなど、かなりOECDのBEPS 2.0に歩み寄りがみられるけど、想定されているピラー2の税率はせいぜい10%とか12%程度って噂されているし、現状のGILTIの有形償却資産リターンに準じる「カーブアウト」も規定されている。そんな中、お手本のはずだったGILTIが激しくピラー2から乖離してしまうと、本当にグローバルでピラー2と共存できるのかな、っていう疑問も出てくるし、米国がそんなGILTIでピラー2準拠とみなされるんだったら「うちの国も21%でカーブアウトはありませんよ~」とかっていう他国が出てきたらどうするんでしょうか。

ということで、「アメリカにはワンちゃんが居て、その名はGILTI~。ジー、アイ、エル、ティー、アイ!」ってみんなで歌ってたけど、そこにバイデン政権が登場して2番、3番、4番を作ってだんだんアルファベットなくなっちゃった感じ。まずIntangibleの2つ目のアイが手拍子に代わり、もはや21%ではLow-Taxedというのもおこがましいので、エルもティーも手拍子に代わり、「ジー」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「アイ」って、なってしまいました。「バイデン政権が来てワンちゃん改名~。その名はGI(Global Income)。ジー・アイ!」。逆にGとIはなくなってもよかったんだけど、それだけ残っちゃったね。一層のこと、6番までできて全部手拍子で廃止されたらよかったのに?

Sunday, February 21, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(4) GILTI増税 (1)

2月に入ってNYCは急に冬っぽい気候になり、数日おきにチョッとした積雪。例年だったら今朝地下鉄動いてるかな~、とか考えてる頃かも。コロナ以前からNYCの雪とか、午前8時のカリフォルニア・フリーウェイとか、オフィスに移動する時間が無駄と思われる日はLocation Freeでサクサクやってたんで、実はあんまり関係ないか。あんまり道路が凍結したりするとWhole Foods行けないかも、程度の比較的どうでもいい悩みだ。テキサス州とかの南部にも寒波、と言ってもNYC的に見ると普通の冬の気候なんだけどテキサス州だからね、が来て風力発電の風車が凍結したりして電力不足に。お陰でダラスからウェブキャストに参加するはずのメンバーが、当日インターネット使えず、電話で参加したりするハプニングがあった。

カリフォルニア州の夏の計画停電もそうだけど、再生可能エネルギーへの転換は災害時や需要ピーク時に市民に十分な電力を供給できる体制を維持しながらバランスよくアプローチしてもらわないとね。世界一の産油国になってる米国の中でもテキサス州は原油生産量で他州にかなり水をあけている存在なだけに、そこで電力不足っていうのは皮肉。21世紀の文明国で計画停電っていうのもなんだかな~って感じでした。

お天気が良くても、ミッドタウンは相変わらず平日でも閑散としてて、この閑散ぶりもついに一年近く続いてることになるけど、街のレストランも閉鎖命令が出たり解禁されたりしてオーナーは一喜一憂。バレンタインデー直前にNYCの屋内飲食が25%キャパで再開。カリフォルニア州も罷免投票を恐れた知事が2週間ほど前から屋外に限定して飲食OKとなった。カリフォルニア州では焼き鳥屋さんや焼き肉屋さん(どこのお店のことかだいたい分かるね?)が「ソフト・オープニング(?)」していて数日満喫することができたし、NYCのミッドタウンも冬なんで屋内じゃないと話しにならないけど、今週、ようやく例のイタリアンに2か月ぶりに立ち寄ることができた。レストランって好景気下でも成功率が低いはずだから何か月も閉鎖させられたり、Plaxiglass、ヒーター、高性能換気システムとかに投資させられた上、急にまた閉鎖とか、再開しても25%キャパとか、そんな環境で生き残るのは大変だろう。僕たちが属する法律、タックス、会計とかのサービス業なんて言うのは今のところWFHでも対応できる部分が多いからいいけど、レストランやネールサロンとか、In-Personのサービスが一日も早く正常に戻り、そこで働く人たちの職が安定しますように。

で、バイデンのGILTI増税案だけど、まずそれを語るにはGILTI制度の概要を知らないと、ってことでGILTIのおさらい。って言っても真面目にGILTIの話しをすると3か月とかの長編シリーズになり兼ねないし、ついつい興奮してしまいそうだから、はやる気持ちを抑えつつ、ここでは2分のスペシャルバージョン。ちなみにもっと知りたいという奇特な方は、2018年から何回も触れてるトピックなので過去のポスティングを参照して欲しい。

GILTIは、CFCが毎期得る所得を、分配のあるなしにかかわらず、米国株主が合算して米国で税金を支払うっていう制度で、設計としては1962年から存在する米国の元祖CFC所得合算制度Sub Fに通じる存在。制度のインフラは同様なんだけど、Sub Fがモビリティが高い所得とか議会や財務省がCFCの活用法やロケーション選定に関してチョッと阿漕過ぎる、って認定するタイプの活動から生じる所得を対象としているのに対し、GILTIはその辺は一切構わず、原則CFCの所得のうち、Sub Fでピックアップできない残り全額を米国株主に毎期合算させる制度。落ち着いて考えてみるとかなり過激な制度なんだけど、3年も付き合って今ではすっかり慣れて当たり前になってるのが怖い。しかも後述するバイデン増税案ポリシーは、GILTIがあるのは当たり前で、通常の法人税との比較でまだまだ手緩い、というものだから2017年以前のクロスボーダー課税制度と比較するとWhole New Worldだ。マジック・カーペットで昔に戻れればいいのにね。

また、制度設計的にもSub Fと大きく違うのは、Sub Fは一旦CFCで数字が確定されるとそれ以上米国株主側で加工されないCFCレベルの属性なのに対し、GILTIっていう金額はテクニカルにはCFCには存在せず、CFCの数字を米国株主が加工してはじき出す米国株主側の属性、っていう点。分配がないのに米国で課税が生じることから、再度課税がないようにGILTI合算時およびその後の課税済み所得の分配時には複雑な株式簿価調整メカニズムがあるけど、CFC側と米国株主側で必ずしも数字がミラーイメージではないGILTIにSub Fと同じインフラで対応しようとするとあちこちで無理が生じることになる。連結納税グループの子会社がCFCを所有してるケースも多いけど、その際に子会社側のCFCに対する株式簿価調整と連結納税グループ内の株式簿価調整、さらに100%DRDとの関係とかかなり複雑で、ULRで封印したはずだった「ミラーの息子 (Son of Mirror)」取引(懐かしい?)が息を吹き返したりして、1936年から50年続いた後に1986年に全面撤廃されたGeneral Utilities原則、連結納税規則や337、ライドエードケースとかに凝ってたオタクの身としてはついつい興奮せざるを得ない状況になっている。2分バージョンじゃなくなりつつあるって?ゴメン。ベーシックに戻らないとね。

で、CFCの課税年度終了時点でCFCを所有する米国株主が、CFCの所得・損失、Tested IncomeまたはTested Lossっていうけど、を自分の持分取り込んで合算するのがGILTI計算の第一ステップ。優先株とかあるとこの計算自体複雑だけど、今日は2分バージョンだから割愛。合算ネット額が米国株主にとってのNet Tested Incomeになる。自分が所有するCFCのTested LossとTested Incomeを相殺できるんで「Net」になる。Tested Incomeを計上しているCFCから見ると、他のCFCのTested Lossで自分の所得が米国でGILTI対象じゃなくなったりして、E&Pの管理が面倒。これが理由で以前のPTI規則案が一旦取り消され、新たなPTEP規則が発行されるはず。既にNoticeが出ていて大枠のガイダンスはあるけど、バスケット毎に毎年16種類とか管理が大変だ。PTEP規則は興味津々なんでず~っと待ってるけど、CARES Actとかで財務省も忙しかっただろうから、まだ出てない。そろそろでしょうか。2分バージョンだったね。自らを戒めるのが大変だ(苦笑)。

Net Tested Incomeがマイナスだったらそれで終わり。その場合、Net Tested Incomeはゼロと取り扱われる。つまり、Net Tested Lossで米国株主の他の所得を圧縮することは認められない。CFC間では通算OKだけど、その結果マイナスが出た場合にマイナスを米国に持ち込めないんで、GILTIってグローバル連結納税みたいだけど、あくまでCFC課税だね、っていうが分かる。もし、連結納税制度で、損失の法人はその年、連結納税グループに属してないと取り扱う、なんて規則があったら何それ~って思うだろうし、なんか釈然としないよね。しかも、Net Tested Lossは繰り越しや繰り戻しがないんで、それっきり。CFC間の通算がOKな点ではSub Fより寛大だけど(Sub Fにも超限定的にQualified Deficit規定とかあるけど)、Tested IncomeにはCurrent E&Pの上限もないし、全体にGILTIの方が厳しい。

で、めでたく(?)Net Tested Incomeがポジティブで、その名の通りNet Tested Incomeとなる場合、次にそのうちいくらが「Intangible Return」、すなわち超過利益部分かっていう認定をする。なんと言ってもGILTIの二つ目の「I」は「Intangible」の「I」だからね。ちなみに最後の「I」はIncomeです。これを「Y」ってして、GILTY課税になってBeyond a reasonable doubtの世界に入らないように。

このIntangible Returnを個々の事実関係を基に計算するようなシステムにしてしまうと、当然実務的に適用が不可能になる。そこで、GILTIはみなしルーティン所得に当たる「Net Deemed Tangible Income Return」を機械的に計算し、Net Tested Incomeのうちみなしの有形資産リターンを超える金額は全額「Intangible」に基づくもの、という事実認定を規定している。GILTI制度に斬新な部分はいくつかあるけど、Intangible Returnをこのようにバッサリ定義した点もそのひとつ。すなわちそこでゴチャゴチャと屁理屈を捏ねることを認めず、原則ほぼ所得全額をIntangible Returnとしてしまった点だ。大胆。で、何がみなし有形資産リターンかというと、所得を認識しているCFCが所有する有形償却資産の税務簿価(ADSベース)年平均残高を米国株主側で合算しそれに10%を掛け、そこからCFCが認識する特定の支払利息を差し引いた金額。Tested Incomeを計上していないCFCの有形償却資産は加味されない。このみなしルーティン所得をNet Tested Incomeから差し引いた金額がGILTIだ。しつこいけど、米国株主側で初めて算定可能な金額で、各CFCは計算の基になる金額は各種提供するものの、CFC毎にGILTIという金額は存在しない。Sub Fとの大きな違いだ。Net Tested Incomeがみなしルーティン所得より小さい場合は、それで終わり。GILTI合算額はゼロになる。

こんな風に計算されたGILTI合算額は100%まるまる米国株主のGross Incomeとなる。で、そこから50%の所得控除が認められるんで、通常の法人税率半分、現状だと21%の半分に当たる10.5%が実効税率でGILTI課税が生じるのが基本の姿。実際には基本通りにいかないことが多くて苦労が絶えないけど。正確にはGILTI合算額に、FTC計算の基となるTested Incomeに紐づくと取り扱われるCFCの外国法人税をグロスアップするんで、所得控除もグロスアップ後の金額に50%掛けて算定する。Tested Incomeは外国法人税に関して税引き後の金額だから、FTCを計上する場合には一旦税引前に戻すための作業だ。ちなみにFTCに使用できるCFCの外国法人税は、Tested Incomeに紐づく金額の80%だけど、グロスアップは100%っていうのも罠っぽい。Tested LossのCFCが支払う法人税を加味することは認められない。Tested Lossだから外国でも法人税なんか支払わないじゃん、って考えるのはあわてんぼうのサンタクロースだ。Tested IncomeとかTested Lossは、米国税法基準で算定するので現地の課税所得とは大きく異なるケースが多い。なんで米国の目から見ると「Loss」でも、現地では課税所得が発生している、または逆のケースも十分にあり得る。

10.5%とするための50%所得控除だけど、課税所得がないと取れない仕組みになってて、またFDII控除と共存しているので、損失の課税年度やNOL繰り越しや繰り戻しを適用している年度は所得控除が認められない、または部分的に減額処理の対象となったりする。50%控除が取れないとGILTI合算額は100%課税されていると同じことだから、GILTI合算額に対する実効税率は21%となる。CFCが国外でどれだけ高税率で法人税を支払っていてもだ。この点は、行政府の大英断でHigh Tax Exclusionという法文からはとても読み取れない規則が策定されているので、それで助けられた納税者は多いだろう。

このように教科書通りきれいにいけば100のGILTI合算額に対して10.5の法人税が米国で課せられることになるけど、そこからFTCを引くことができる。上でもチラッと触れたけど、Tested Incomeに紐づく外国法人税を特定し、その80%が潜在的にFTC対象となる。FTCの制限枠の算定は、課税所得総額に基づく制限枠に加え、GILTIバスケットを含む4つのバスケット、条約に基づくRe-Sourcing条項を利用している場合はそれが5つめのバスケットになるけど、毎に制限枠を計算する。その際に、米国株主側で発生している費用を各バスケットに配賦・按分することになる。この配賦・按分計算自体迷路のようで、費用の配賦・按分って一間地味に思うかもしれないけど、クロスボーダータックスプランニングの肝と言っても大げさでない部分だ。一般管理販売費をCFC株式やSub F、Tested Incomeに配賦・按分するケースは、Stewardship費用を除くと余りないって言えるけど、支払利息やR&D経費は特殊な計算を伴うので要注意。特に支払利息はお金に色なしということで、原則、資産の税務簿価で按分するので、GILTIを生み出すCFC株式にも按分される。国内外の調和を図るため、資産簿価計算時の償却費用は国内資産に対してもこの目的のみでADS使用可能。派手に加速度償却とかしてると、国内資産の簿価だけ急激に下がってFTCに限ってみると費用按分が不利になるからね。この費用配賦・按分は想定外のGILTI課税に繋がる。1ドルでもGILTIバスケットに費用が配賦・按分されると、10.5という枠が削られていくんで、外国源泉所得に費用を配賦・按分するとその金額に21%で課税されるっていう言い方もできる。この点も上で触れたHigh Tax Exclusionが公表される前は大きな問題となっていた。

って、ことで2分バージョンのはずが、20分バージョンくらいになってしまった感じはあるけど、僕なんか3年間GILTIのことを考え続けて未だに不明点があるくらいだから20分でもご勘弁を。今日はお天気いいんで、閑散としたミッドタウンか、結構混んでるSOHOに繰り出して気分を晴らそうかな。次回はバイデンのGILTI強化案。

Sunday, February 7, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(3) 財務諸表利益15%ミニマム税

前回は、今日にでも実現してしまうのでは、と戦々恐々としている法人関係者も多い法人税率引き上げの実現性およびそのタイミングに触れた。少しは安心してくれましたでしょうか。法人に対する増税としては、ヘッドライン税率の引き上げに加え、GILTI税率の21%化(現10.5%)と財務諸表税引前利益に対する15%ミニマム税の新規導入が提案されている。いずれの提案もまだまだスケッチーで、包括的かつ理路整然としたものとして公表されている訳ではないんで、最終的にどうなるかは未知の世界。

15%ミニマム税導入ポリシー

で、今日は財務諸表税引前利益に対する15%ミニマム税に触れてみるけど、趣旨的には会計上、利益が出ているにもかかわらず米国で法人税を支払っていない、または支払っていても相対的に少額と考えられるケースに網を掛けるというもの。2017年の税制改正TCJAで法人に関しては撤廃済みの代替ミニマム税(AMT)を思い出させてくれる。AMTも趣旨はほぼ同じで、経済的には儲かっているにもかかわらず税制に規定される諸々の恩典、例えば加速度償却とか、を利用して課税所得が圧縮されている課税年度は、少なくともミニマム税くらい支払いなさい、というものだった。税法には、設備投資減税に代表されるように、納税者の行動パターンを刺激したり、エネルギーや不動産など特定のセクターを優遇するような多くの恣意的なポリシーが満載されている。これらのGoodiesが一旦与えられ、それに反応して一定の商業活動に至り、合法的に恩典を受けようとしたら結局AMTで税金を支払う羽目に陥ったりする。刺激策適用時に「節度」を求めるような効果を持つけど、恩典計算時とその効果打消し時に二度、不要に複雑な計算やプラニングが必要となることから、税法複雑化の大きな原因となる。

2017年のTCJAの大本になった共和党のブループリントでは、これらのGoodiesは基本全て撤廃し、フラット20%税率とし、さらにキャッシュフローベースで消費地課税とするので実質VAT同様のボーダー調整を行うという挑戦的かつ斬新なものだった。結局その後のポリティシャンによる審議を経て、TCJAにはブループリントの跡形も残っていないけど、ブループリント通りだったら、15%ミニマム税やAMT等の複雑な規定で網を掛けるまでもなく最初からポリシー的なGoodiesが最小限だから自ずと経済実態に準じた所得に課税が生じることになる。また、ボーダー調整を通じて、クロスボーダー・プラニングの余地も激変するはずだったからSubpart F(CFC課税)も移転価格税制も無用の長物と化すという目から鱗みたいな提案だった。この手の法人税がマジョリティとなると当然、ピラー1とか2の議論の多くも不要。僕たちの仕事の内容は大きく変わってしまったと思うけどね。結局、TCJAでは法人AMTが撤廃された代わりに、BEATミニマム税が導入されて落ち着いた。AMTとBEATは全く異なる目的を持ってるけど、TCJA可決当時、上院財政委員会のスタッフと話した際に、BEATはAMTの代わりと言われ、そういう風に考えるんだ~、って感心したのを思い出す。15%ミニマム税が導入されるとBEATはそのままなんで、反ってミニマム税のタイプが増えてしまう。

15%ミニマム税適用対象法人

ということで、今回の15%ミニマム税はどちらかと言うとAMT同様の旧態依然とした小手先っぽいポリシーって感は否めないけど、現状の税法下ではしょうがないかもね。で、この15%ミニマム税の適用対象になるのは税引き前利益が$100M(1ドル100円換算で100億円)ある法人。会計上の利益を指標としたり、一定サイズ以上の法人をターゲットとしている点、OECD・ピラー2のIIRを連想させる。適用対象法人になると、税引前利益に15%掛けて、実際に支払う法人税と比較して、15%の方が高ければ超過額をミニマム税として納付する。単年で$100Mを算定するのではなく、BEATの適用判断時みたいに過去3年平均みたいな規定になる可能性もある。

どの財務諸表を参照?

米国を頂点とする米国MNCのケースは、グローバル連結財務諸表を基にするんだろうけど、日本企業のようなインバウンド企業に対する適用は不明。おそらくTangible Property Regulations (「TPR」)(なんか平和な時代を思い出すね)のSafe Harbor適用時に参照する財務諸表を「Applicable Financial Statements(「AFS」)とか定義してたけど、今回もこれらの規則を参照する、または別の定義を規定することになるんだろう。会計の利益って適用する会計原則で結構違うしね。さらに外国法人がPEやUSTOBを通じて認識するECI等の申告課税所得への対応も不明。金融機関とか支店でもサイズが大きくなることがある。

財務諸表の税引前利益は、連結ベースだから当然米国外の所得も含まれてて、自然にワールドワイド課税になっちゃうんで外国税額控除(FTC)を認めるとしている。FTCね。会計の利益を参照する以上、通常の4つのバスケット・ベースの制限枠計算はできないだろうから別計算することになるんだろうけど、まさかいくらなんでも国別バスケットとかにはなりませんように。ひとつの枠でグローバルブレンディングするのが実務的。

FTCの対象となる外国法人税は税効果会計を適用する会計上の税金費用ではなく、各期実際に生じるCurrent Taxが対象となるはず。そうなるとピラー2じゃないけど、結構なタイミング差異が想定される。GILTIバスケットと異なり、FTC余剰枠やExcess Creditの繰り戻しや繰り越しが認められ、タイミング差異の弊害を最小限とすることになるんだろう。

ちなみに15%ミニマム税は元々、普通に算定される連邦法人税の超過部分だから、その意味では連邦法人税そのものもクレジット的な位置づけだよね。AMT時代にはNOLの繰り越しがAMT目的の所得の90%に制限されていたり、FTCにも同様の制限があった時代があり、単年で所得がある程度出てると、AMTの支払いが強要されるような計算式になっていた。その意味ではNOLもクレジットもGoodies扱い。これは米国の税法大枠の考え方に準拠していて、米国税法かじった者なら誰でも一度は読んだことがある最高裁判例INDOPCO等で言及されてる通り、「そもそも控除という概念自体、立法府による「特別な計らい」なのだから、その恩典享受の要件を充足している点の立証責任は納税者にある」ので、キャンディーにあり付けるかどうかは議会のお取り計らい次第というのが制度設計の原則。15%ミニマム税もFTCで全額海外源泉所得のミニマム税をゼロにすることができないような90%制限が規定されるんだろうか。GILTIや複雑怪奇なFTCのバスケット毎の枠計算やそのための各種費用配賦・按分で既にコンプライアンス対応が限界に近いけど、更に大変そうだ。

不足所得額繰り越し

税引前利益の15%が通常の法人税に満たない場合、議会の特別なお取り計らいで(苦笑)差額を将来の追加枠として繰り越すことが認められる。ピラー1下のAmount Aで「Profits Shortfalls」の繰り越しが認められるのに類似している。また、一旦支払った15%ミニマム税は、その後、通常の法人税が15%を超える課税年度に、税額控除が取れたりする予定。

15%ミニマム税の実効性

ちなみにどれだけの米国MNCが15%ミニマム税の対象となり得るんだろうか。パブリック情報だけではFTCとか算定できないので、ザックリとしか分からないけど、元財務相エコノミストでタックスプレスに多くの記事を投稿しているマーティン・サリバンの試算によると、大手100社の3社に1社は15%ミニマム税の対象になり得るそうだ。その場合、追加税収は$20B程度としている。 面白いことに、この試算だと15%ミニマム税を一番多く支払うはめになるのはウォーレン・バフェットのバークシャー。何とバークシャーだけで$3.6Bのミニマム税。オバマ時代にバフェットが富裕層への増税を提唱し、彼の名にちなんでバフェット・タックスって呼ばれてたんで、ご本人の会社は自ら進んで多額の税金を支払っているのでは、って思うのはナイーブで、以前のM&A課税のポスティングで何回か触れた通り、バークシャーは合法的にイノベーティブな手法で課税を繰り延べるのが得意。それがこの試算結果に如実に出てしまったのかもね。バークシャーは単なる投資家の位置づけだったけど、バークシャーが関与したバーガーキングのInversionはSection 367に抵触しないようなSub Kを駆使した凄いストラクチャーだったしね。ネブラスカ州を本拠地としてるのも格好いいね(なにそれ?)。オマハってあの辺だと断然都会だけど、チョッと北にドライブするとSioux Falls。自由な雰囲気みなぎるサウスダコタ州だ。西にドライブすればデンバーにつく前に美しい宿場街North Platteがあったりしていいよね。NYとかCAとかに行ったことある人は、次はぜひあちらに旅行することをお勧めします。

この$20Bの追加税収って金額を大局的な視点から眺めてみると、米国の税収のうち法人税はザックリと$300B程度だから$20Bは結構な比重。ただ、税収に占める法人税の割合は10%未満ともともと低く、個人所得税や給与税が税収の大半を占め、この2つで計$2.3T程度で90%近い。コロナ対策で本当にバイデン案が通ると、CARES Actその他の以前の施策との合計で$10Tの負担になり兼ねず、税収との比較で将来への負の遺産が拡大することになる。ちなみにTesla Inc.のマーケットキャップは現時点で約$800B。$1Tに向かって驀進中だけど、既にP/E Ratioは2,000程度。GameStop株とは事情が異なるけど、一時Short SaleしてたファンドとかはShort Squeezeで大変だったろうね。$1Tのマーケットキャップって凄いね。$20とかと違ってゼロが多すぎて計算間違ってるかもしれないけど100円換算で100兆円?日本の国家予算みたい。

3社に1社が対象というのは、法人税そのものに変更がない場合の話しで、法人税率が25%とかに引き上げられたり、GILTI負担が高くなったりすると比較対象そのものが変動するので、15%ミニマム税の活躍の場は劇的に少なくなる。15%ミニマム税にしてもバイデンの法人税ポリシーは今ひとつチグハグな感が否めない。製造活動を米国回帰させる「Made in America」ポリシー実現には、米国の税制や米国MNCがグローバルで競争力を持つというのが大前提と考えると、法人税率引き上げや15%ミニマム税は方向が逆って気もするけど。

ということでまだまだこれからだけど、次回はGILTI増税に関して。

Sunday, January 31, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(2) 法人税率引き上げ

前回は、遅ればせながら新年早々の企画と言うこともあり、政権誕生に至る米国の混沌としたポリティクスにチョッとだけ触れた。これらの出来事はタックスと一見関係ないように見えても、今後どの程度両党歩み寄りという微塵の可能性があり得るか、とか直接・間接に今後の立法プロセスに影響を持つことになる。

法人税率28%はいつから?

1月20日以降、一番多く質問されるのが「どのタイミングで連邦法人税率が28%に引き上げられる予定ですか?」というもの。法人税率28%は、GILTIの21%化や連結財務諸表の税引前利益に対する15%ミニマム税と並び、バイデン政権の選挙公約であり、タイミングに関しては、相手によって態度の豹変が激しいCNNによる手のひらを返してフレンドリー(苦笑)なインタビューで選挙前にバイデンが「私が大統領になった暁には初日に法人税を引き上げてみせます!」って宣言したことで、トランプが初日に公約のTPP脱退や壁作りを実行したように、こちらも1月に実行されるのでは、という勘違いが生じていた。

1月や2月に税率が引き上げられると、3月決算でDTAやDTLの評価も含めて新税率を取り込まないといけなくなるので、DTLがあったりするとそれだけで決算に悪影響が出る。ただ、米国の三権分立や立法プロセスを少しでもしっていれば、税率を引き上げる権限は大統領ではなく議会にあるので、実行不可能な点は直ぐに分かり、単なるレトリックだったに過ぎない。就任後、大統領令を乱発しているバイデンだけど、さすがに税率に関しては行政府に権限がないことは間違いなく、大統領府だけでは予算教書に盛り込むくらいが関の山で独自には打つ手はない。

今後の立法・審議プロセスに見る勢力図

11月3日の選挙で、下院では民主党が議席を大きく失い、改選前、30議席以上あった差が10議席に縮小している。現状の下院総議席数は435だから、民主党から5人の造反が出ると過半数が確保できなくなる。両党内とも異なるイデオロギーが混在しており、民主党内にも過激なポリシーで議席を失ったのでは、と懸念する中庸議員とそうでない派が同調できるかどうかがキー。ただ、最近の傾向としては、下院では政策内容そのものよりも、誰が法案を出したか、すなわち民主党案なのか共和党案なのか、っていう点だけで結果が決まり兼ねないので、民主党案の税率引き上げには仕方なく全員同調となる可能性もある。両党とも政策毎にきちんと審議してくれている感がないこの点は、多額の所得税を負担している一般市民の視点からのフラストレーションのひとつ。

上院は更に複雑。上院は各州2議席で、DCはその名からも分かる通り、州ではなく連邦領土なので、計100議席。ジョージア州の上院決戦で民主党が意外にも2議席確保したので、50対50でタイ。ただし、キャスティング投票権を副大統領が持つことから実質、民主党が多数党になる。上院はFilibusterという手続き上の制約から、60議席の賛同がないと法律を通すことができない。その例外は予算調整法と言われるもので、これだと過半数で立法が可能となる。だったら、予算調整法で全部やっちゃえばいいじゃん、って思うかもしてないけど、年に一回きりのジョーカーみたいな存在なのと、予算に関係する法案でないといけなかったり、歳入と歳出の均衡、等他にも尾ひれがつくプロセス。2017年のTCJAは予算調整法内で可決されている。今回も60票確保は不可能に近いと言え、予算調整法を利用して50票で可決させるしかないのではないだろう。

予算調整法を適用して多数決でOKだとしても、50対50で全体が100議席しかないので、議員一人一人の動向が法案の運命を大きく左右することになる。僕が注目しているのは、中庸な共和党議員、中でもメイン州のSusan Collins、アラスカ州のLisa Murkowski、のお馴染みワイルドカードに加え、独自の路線を歩むユタ州のMitt Romneyの動向。絶滅寸前だけど、民主党にも未だ少数の中庸上院議員がいて、Independentって感もあるウェストバージニア州のJoe Manchin、バージニア州のMark Warner (グランドファンクみたい)などがどう動くかで、50票確保の可否が決まりそう。

タイミング

予算調整法を適用することになるとタイミング感は次の通り。米国国家会計年度は10月に始まって9月に終わることから、この会計期間毎に諸々の手続きを経てひとつの法案の可決を試みる。現在、2020年10月~9月期予算調整法内の法案審議枠は未使用の状態にあるので、早速、この枠を利用することができる。ただ、Yellen財務長官や財務省租税副次官補に任命されたばかりのMark Mazurの上院承認プロセスのヒアリングの発言等を総合すると、増税の前にまずはCARES Act顔負けの$2T(Bでははない)規模の超大型コロナ対策を可決したいそうだ。結局廃案となった(というか最初から可決するつもりはなかった?)昨秋のHEROES Actの二の舞的な感じで、民主党が夢見る巨額のGoodiesが満載なんだろう。Yellen長官は元FRB議長で経済学者としてトップだけど、「今は金利が低いので借りまくって財政出動するのが賢い」って言っていた。コロナ対策で既にGDPの40%を費やした上の$2Tなんだけど、意外に軽く使っちゃえるんだね。米国のGDPって$21Tなんだけど、太っ腹というかプロの考えることは凄いね。イヨッ、新財務長官!って感じでしょうか。

となると、2021年9月期の会計年度の予算調整法枠を適用してコロナ関係の歳出法案可決を試みることになる。次の予算調整法は2021年10月~2022年9月期にかかわるものだけど、こちらの枠内で税法改正っていう流れが順当。2017年も共和党が同じアプローチで、2017年9月期の枠はオバマケア廃案に適用し、続く2018年9月期の枠を利用し、2017年12月22日にTCJAを成立させている。ちなみに、ご存じの通り、オバマケア廃案は共和党内の調整ができず失敗。傷心Paul Ryanはその後気を取り直して税制改正に活躍したけど、結局は議員を辞めてしまった。

バイデンによる税制改正は、TCJAのように抜本的なものではないので、審議に費やす時間は少なくても済むかもしれないけど、TCJAが10月からの予算調整法枠を利用して直後の12月22日に可決しているのは、奇跡的な電光石火スピード。今回は必ずもあそこまで早いタイミングになるかどうかは不明だけど、2022年になると早くも中間選挙が視野に入るし、法案は政権設立直後に可決しないとどんどん難易度が高くなるので、2022年前半に何か起こるっていうのが相場だろうか。日本企業的には、DTAやDTLを考えると2022年3月31日までに可決するかどうかで決算動向に影響が出てくるけど、何かあるとしたらその前の可能性が高い。

法人税率は本当に28%?

個人的には28%はないと思ってる。州税足すと33%とか世界一の高税率という不名誉に返り咲くし、民主党がいくら法人嫌いだって言っても、結局のところ有権者の多くは法人が雇用主だったり、法人を持っていたり、更に401(k)とか株式に投資していることも多いだろうから、必ずしも一般市民に受けるとは限らない。28%にしたことで公約達成をアピールできる反面、政府、特に両コーストの執政官Dracon、じゃなくてNewsomeやCuomo州知事による過酷なロックダウン政策でビジネスが閉鎖に追い込まれたりしている有権者の視点からはネガティブに映るリスクもある。中間選挙でのメッセージ的に、両党歩み寄りがない形の一方的な税率引き上げには民主党中庸議員にも抵抗感が残っていると思われることから、法人税率引き上げがあるとしてもせいぜい25%が限界じゃないだろうか。

次回は法人税率引き上げ以外のトピックに移るね。

Sunday, January 24, 2021

明けましておめでとうございます!バイデン政権下のタックスポリシー

大変遅くなりましたが明けましておめでとうございます!2021年のタックス・ワールドもいろいろとありそうだけど、今年もよろしくお願いします。

2020年はCARES ActでTCJAにひとひねり

2020年後半はアメリカ大統領選挙の顛末フォローや、2020年内に公表されたクロスボーダー課税がらみの財務省規則、等のキャッチアップに明け暮れてしまい、気づいたらもう1月も後半。アマデウス・モーツァルトの誕生日が目の前だ。WFHも既に一年近くなり、曜日とか過ぎていく時の感覚とか麻痺してることもあり油断してるとすぐに月日が経ってるんでビックリ。米国タックス的には、TCJAの地殻変動インパクトが続く中、2020年はさらにCARES Actっていう「ひとひねり」があったんで、これら全てを正確に適用しないといけない日本企業米国現地法人2020年3月期の申告書作成負荷は高く、いかに至難なるかはコンプライアンスに費やす所要時間が物語る。これって愚痴、それとも言い訳(?)。

大統領選挙

数日前に究極のDCインサイダーかつ生涯ポリティシャンのバイデン政権始動。アメリカ大統領選挙はいろいろあったけど、ようやく無事にバイデン政権が始動している。選挙に関しては当初いろんな報道が交錯してたけど、チョッと変わった人物が登場してきてますます「聞きしごとまこと奇し」状態となりついつい深堀りしてしまった。古文や漢文、苦手教科だったんで、用語の使い方変だったらゴメン。要はミステリアスになった、ってこと。果たしてその人物とは誰か?

その人物の話しをするには時計の針を20年ほど戻す必要がある。今は昔、2001年10月にエンロン・スキャンダルが飛び火して、Big 5会計事務所の中でも最高のReputationを誇っていたアンダーセンが倒産してしまい、その後のBig 4体制に移行して今に至っている点は業界に身を置いてなくても覚えてる方も多いだろう。アンダーセンは司法省に「起訴された段階」で上場企業の監査業務を提供できなくなり、他の訴訟もあり即倒産してしまったんだけど、その後、一審、控訴審では起訴処分に準じて有罪判決が下されたものの、4年後の2005年、最高裁判所が9対ゼロで無罪を確定している。法的になぜ無罪だったのかは「ARTHUR ANDERSEN LLP V. UNITED STATES 544 U.S. 696 (2005)」で、当時の主席判事Rehnquist(ストライプのローブ姿が懐かしいね)が端的な判決文を書いてくれているんで、興味がある方は読んでみるといい。

エンロン、アンダーセン、そしてその後のSOXは今でもBig 4会計事務所のオペレーションに大きな影響・爪痕を残しているし、その影響でデロイトを除く3社は利益相反の観点から連邦政府の指示でコンサルティング部門を手放している。デロイトもコンサルティング部門をBraxtonってリブランディングして手放すって2002年には公表したんだけど、いろいろな理由で唯一セパレーションに失敗し、それが逆に後年功を奏し、コンサルティング部門のプレゼンスでFirmが大きくなっていくことになる。万事塞翁が馬だね。

ちなみに米国の最高裁は自らの裁量によって上訴を受理するか否か決めることができるシステムになっていて、最高裁に上訴されてくる年間ザックリ5000件のうち、100件未満のケースしか受理しない。アンダーセンのケースが受理されたのは、それだけでも珍しい展開。受理された段階で、下院の判断を追随することはないだろうって大体想像できたけど、蓋を開けてみると9対ゼロの判決だったのでチョッとビックリ。最高裁の判決って大概5対4では?、ってイメージが定着してる感があるけど、実際には今日のようなハイパーポリティカルな環境下でも半分近いケースが9対ゼロらしい。いずれにしても、9対ゼロっていうことは米国司法界の最高の知見が全員一致でシロ判断したことになる。そんな最終結果ではあるんだけど、2001年にアンダーセンが消滅してしまったことや、80,000人以上が一夜にして職を失ってしまったことに変わりはない。

このアンダーセンやその後の複数の起訴、特にエンロン絡みの事件に関して、その裏事情をを実名、しかもトップ中のトップの重鎮たち、入りですっぱ抜いた本が出版されてて、僕も会計事務所に勤務し、また米国で法律に従事する立場から、興味深く読んだことがある。こんな刊行を敢行(駄洒落?)して、正義感溢れるのは分かるけど、随分と怖いもの知らずの凄い弁護士がいるんだな、程度の感想を持ったのを覚えてる。

大統領選挙の話ししてたのに、なんでエンロンやアンダーセンの昔話してんの、って思ったかもしれないけど、選挙結果の無効を主張して各州に訴えを起こした弁護士の一人が他でもない彼女だったから。え~、またこんな物議をかもすというか無謀なことして、今度こそ命は大丈夫?って思ったけど、ご本人的には何か信念あってのことなんだろうか。で、結局、最高裁判所を含む裁判所は、こんな物議をかもすこと必至の判断を委ねられてはたまんないと考えたのだろうか、実際の審理に至らぬ前に、Standing(当事者適格)やLaw School出てから実際には聞いたことがなかったLatches(出訴遅滞)とかのいわゆる法的なTechnicalityを駆使して門前払いしている。

バイデン政権の政策

で、とりあえずそんな経緯はあったとはいえ、20日に正式誕生したバイデン政権。バイデン政権の米国税務、グローバルコンセンサスや通商に対する立ち位置はどんなものだろうか。米国のポリティクスはDeepなので話し出すときりがなくて新年早々脱線気味だったけど、次回はもう少しタックスポリシーにフォーカスしてみるからよろしく!

Sunday, October 18, 2020

ピラー1・2ブループリント完成と目から鱗のUnited Nationsデジタル課税提案

ここ数週間、ネット上で「海賊版」コピーが流出していたBEPS 2.0のピラー1・2のブループリント最終版が10月8~9日のIF会議を経て正式公開された。公式バージョンも海賊版と同じで、相変わらず未解決な問題点が残っていると同時に、とてつもなく複雑な規定に仕上がった印象を受けた。次回から何回かに分けて解析しないとね。

それにしてもインターネットがあると海賊版(Bootleg)が直ぐに出回る恐ろしい世の中。ぜひ見てみたいものに瞬時にアクセスできる、っていう立場で考えると便利だけど、秘匿性の高いマターや守秘義務があるマテリアルを取り扱う者にとっては厄介。なんでもすぐにリークされ、白日の下に晒されることになるからね。

インターネットが普及してきた1990年台後半、こんなワールドワイドのネットワークがあれば、メインストリーム・メディアを迂回することができて、もう少しニュートラルな情報収集ができるようになるのかな、と考えてたことがあった。従来からのメインストリーム・メディアはジャーナリズムとは言え、基本ビジネスだから、各ネットワークや新聞がターゲットとしている視聴者プラットフォームに受けるように情報を加工(歪曲?)してあることないことをセンセーショナルに伝えるのが彼らの本業に近い。なんで、大手新聞とかで報道される記事は基本、加工済みのナラティブ、またはチョッと大げさに言えば創作に近い、くらいに考えて読んでおくのが無難。みんなも、自分が専門にしている分野の記事を新聞で読むことがあったら、偏ったViewがそれらしく記載されてるんで驚いた経験とかあるんじゃないかな。僕も、米国税務の記事とか読むと、例えば、GILTIのGILTI控除はループホールで大企業へのGoodiesみたいな記事が記載されてたりして、それはないでしょ、って思ったりするんだけど。最高裁の判決の報道の仕方も同様。

アメリカは憲法の修正条項1条(「First Amendment」)で、言論の自由が保障されている、って言われている。でもFirst Amendmentは連邦や州政府が法律を通じて宗教や言論を制限したり検閲したりすることを禁じる条項で、個人や大衆の行動に直接制限を与えるものではない。憲法で保障される権利とはいえ、無制限じゃないんで、当然判例に基づく制限やスコープ内での話しだけど、今日のアメリカで政府がFirst Amendmentを無視して変な法律を通したり、検閲を敢行するようなリスクは想定し難い。

一方、政府ではなく、一般市民の間の自主検閲というか、法律とは関係ないPeer Pressureはより強いし、自分の思想に反する言動は徹底的に糾弾・中傷する機会はインターネットの普及で逆に増えている。そんなこんなで、自由闊達に異なるViewにかかわる意見交換する環境は逆に以前より後退している感がある。

インフラとしてのインターネット、すなわちオプティカルケーブルやラウターそのものは、当然だけど、コンテンツを選んだりしない。だけど、結局一般人はサーチエンジン、Youtube、ツイッターとか大手ハイテク企業のサービスを介して情報収集・提供することになる。インターネットでは一見、どんな情報でも入手可能なように感じるけど、検索機能のアルゴリズム設定とか、特定ユーザーのビデオコンテンツをブロックしたりする裁量は、実質大手ハイテク企業が握っている。ということはハイテク企業の価値観に基づく情報・言論統制が敷かれていると同様の状況。ハイテク企業を取り巻くいろんな議論は、僕たちが気にしているデジタル・サービス課税よりも言論の自由にかかわる部分の方が国や世界への長期的なインパクトが大きい。結局、我々情報を読解する側の情報評価・識別能力がますます問われてしまう、ということだろうか。

デジタル・サービス課税(DST)

で、何の話しだったかっていうとOECDのピラー1・2のブループリント。正式に公表されたバージョンを見たら、先に海賊版で見たものと同じだったっていうことから、海賊版やインターネットの話しになったんでした。OECDのピラー1合意が緊急課題となっているのは、複数の国が「Unilateral」、すなわち一方的にデジタル取引にDSTを規定しているからだけど、このDST、大概のケースで「グロス」ベースなんで企業がネット所得を認識しているかどうかに関係なく課税が生じる。また「Unilateral」っていう用語に内包される含意は、条約の適用対象となる租税ではない、すなわちCovered Taxではないっていうことで、条約に基づく二重課税排除メカニズムが効かない。企業側から見るとネットで儲かってるかどうかにかかわらず課税されて二重課税の排除もないと単純な追加コスト。想定していたビジネスモデルに問題を引き起こす可能性がある。

でも、DSTって結局誰が負担することになるかっていう点は興味深い。結局DSTを課す国のベンダーに転嫁される可能性が高い。アマゾンの「Seller Central Website」によると英国の2%DSTやフランス、イタリーの3%DSTはSeller Feeに上乗せチャージされると規定されている。

で、制度が各国間で整合性がなく、利益があってもなくても課税が生じ、また二重課税排除メカニズムがない、っていうDSTの弊害を新たな国際法人税課税ルールを策定して解消しようというのがピラー1だ。これらの複雑な問題に対処すると同時に、多くの参加各国の思惑をできるだけ反映させようとしている間に、とてつもなく複雑な規定に仕上がってしまった感がある。OECDやG20の国ならともかく、発展途上国はピラー1や2に対応したり、執行したりできるんだろうか。

目から鱗のUN案

この前のポスティングで触れ始めたUnited Nationsのデジタル課税。その登場のタイミングが絶妙過ぎてグローバル・ポリティクスの真髄というか、大人の世界(?)を垣間見た気がした。これらの点は前回のポスティング「「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場」を参照して欲しい。

United Nations案を見て驚愕するのがそのシンプリシティ。その気になれば即日実践可能な暫定措置を提案しているように見える。特にUnited Nationsが利益を代表している発展途上国にとっては、立派な規則でも実践可能か、また容易に税収に結びつくかどうか、っていう点が重要。

その意味でUnited Nationsのアプローチは世界のシステムをOvernightで変えようというような無謀な(?)なインセンティブは感じられず、いつかは5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向とはしながらも、当面はDSTを公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約が適用される租税となるので二重課税排除が可能となる。

なかなか賢いアプローチで、ピラー1にかかわる大量の検討を読んだ後だったので、目から鱗の提案だった。各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくと要はオンライン広告が主になる。この時点で、伝統的な事業に対するデジタル課税は緊急課題ではない、っていう認識に至っているようだ。

8月5日に実際に公開されたUnited Nationsデジタル課税案はUnited Nationsモデル条約の12A条「Fee for Technical Services」の直下に、12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「Technical Services」にかかわる対価は、所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1のAmount Aに通じる。この概念をそのまま自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般に適用することでスマートにDST対応しようとしている。

ADSにかかわる新設12B条そのものを語る前に、Technical Services Feeに対する源泉地課税を規定している12A条の先見性にチラッと触れておきたい。12A条は2017年にUnited Nationsのモデル条約に加えられている。12A条の追加の背景として、サービス収入はその受け手が支払い国にPEを持たない限り、受け手の居住地課税のみとなる点を指摘し、コミュニケーションテクノロジーの進化により、他国にPEを構築せずにハイエンドなサービスを提供することができるビジネスモデルには従来のPEに基づく課税は馴染まないとしている。まさしくOECDのオリジナルBEPSアクションプラン1やピラー1の論点だ。

Technical ServicesのFeeを無理やりロイヤルティと位置付けることができれば、従来の条約でも、条約レートに基づく源泉地課税が可能となる。ただ、現存のロイヤルティの定義ではTechnical Servicesに対する支払いをロイヤルティとして源泉地課税するのは無理なケースが多い。そこで12A条を規定して、ロイヤルティ同様にTechnical Servicesに対するFeeに源泉地課税を認めるというものだ。条約だから二国間で12Aを採択するかどうか交渉することができるし、また源泉税率を12条のロイヤルティと同じに設定することで、支払いをロイヤルティ部分とTechnical Services部分に区分けする必要もなくなる。条約内でグロスベースの源泉税を規定することで、利子や通常のロイヤルティに対する源泉税同様、外国税額控除を通じて二重課税を排除・軽減することが可能となる。

この背景で、さらに今回の12B条追加となる。12Aの延長・明確化措置としてTechnical Servicesにかかわる規定をADS Fee全般に適用している。12B条の設計は12A条のTechnical Servicesにかかわるものに類似していて、条約締結国が合意する%の源泉税を通じて源泉地課税が認められる。条約適用租税となることから外国税額控除を通じて二重課税の排除・軽減が可能な点も12A条と同様。

原則、支払いを行う主体が存在する国がADSの源泉地とみなされる。源泉地にPEが存在しない、または存在してもADSのFeeがPEに帰属しない、ケースが12B条が解決しようとしている問題となるので、源泉地にPEがありADS Feeが当PEに帰属する場合には、12B条の適用はなく、従来通り5条・7条でPE帰属事業所得として課税される。

12B条の規定が、12A条のTechnical Servicesにかかわる源泉税規定と大きく異なるのが、ネット申告課税の選択が設けられている点。United Nations言うところの「Qualified Profits」が申告課税対象になるんだけど、この算定法は注目に値する。すなわち、Qualified Profitsというのは、ADS Feeに多国籍企業グループの利益を乗じて、それにさらに30%を乗じた金額となる。ADSにかかわる信頼できるセグメント情報が存在する場合には、グループ全体の利益率の代わりにADSセグメントの利益率を適用することが認められる。いずれにしても、グループ利益率x30%が、ADS Fee源泉地に配賦される超過利益ということになる。OECDが苦労しているAmount Aの「Quantum」に相当する金額だ。簡単に30%とバッサリ決めてくれている。元々何の理論的な裏付けもないんだから、逆に30%とか決めてしまうのが正解かもね。ピラー1との比較で行くと、ピラー1は多国籍企業グループの利益が一定の利益率を超過する部分だけを参照し、さらにそこの上澄み何%かをAmount Aを通じた配賦対象利益としている。12B条ではこのような若干まどろっこしい感のあるステップは踏まずに、単純に利益の30%をグロスのADS Feeに乗じて配賦対象利益としている。良くも悪くも30%っていう数字は超過利益認定の試金石になってしまったね。

さすが発展途上国の声を代表してきたUnited Nationsの提案だけあって、シンプルだし、かつ市場国からしていると即源泉地課税できるっていうメリットがある。ということで、舞台も整ったのので次回はピラー1ブループリント。

Monday, September 28, 2020

「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場

前回のポスティングでは、ユーザー国が言うところの「Fair Share」はいくらか、っていうピラー1が解決しようとしている根本的な問題に関して、ユーザー参加の価値の有無や、もし価値がある場合にはその適切な測定法に関して合理的な議論が尽くされる前に、恣意的に一律%が独り歩きして無理なタイミングでグローバルコンセンサスを取り付けようとしている点がピラー1の停滞の原因の一つではないか、っていう点に触れた。

そんな停滞感漂う中、国際機関の大御所、国連(United Nations)が満を持して、というか絶妙のタイミングで独自のデジタル課税案を公表している。

United Nationsには「UN Economic and Social Council (ECOSOC)」(「国連経済社会理事会」)の一部に「Committee of Experts on International Cooperation in Tax Matters」っていう国際税務専門委員会があり、1968年からクロスボーダー課税に関するグローバルの調和を促進してきた。最近は参照する頻度が減ってる感はあるけど、OECDや米国モデル同様、UNも独自のモデル条約を策定している。ECOSOCにしても国際税務委員会にしても、発展途上国の多くが理事国を形成してるから、当然それらの国の意見がより強く反映され易くなる。このUN専門委員会、本来ならグローバルのデジタル課税の議論に最適なフォーラムだけど、BEPS以降、OECDがクロスボーダー課税にかかわる世界の警察みたいな存在になりつつあり面白い展開だなと思ってことの進展ぶりを見守っていた。各国が主権国家でありながら、経済のデジタル化を鑑み、課税ポリシーや税率の決定権をOECDに献上してしまってもいいと判断しているんだったら、それはそれでいいんだけどね。

6月後半に開催されたUN専門委員会のバーチャル会議を経て8月5日にUNモデル条約の12条にひとつだけ規定を加える、っていうとてつもないシンプルな一撃で当面のデジタル課税論に解決を図っている。う~ん、長編のOECDブループリント読んだ後だけにそのシンプリシティに感動。もちろんシンプルなだけに不足面もあるけど、発展途上国が複雑なピラー1や2に対応するためのリソースを用意できるとは思えず、どっちにしてもユーザー参加の価値とかにかかわる強固なテクニカルな議論なしに課税ありきで、また当面は各国独自の「Unilateral」なDSTに調和を図るっていうメカニズムを模索してるんだったら、なるほど、こういう代替案もあり得るよね、って目から鱗が落ちる感じの斬新な提案だ。

この前からチラッと触れてるけど、United Nationsはここに来て急にデジタル課税に目覚めた訳ではない。BEPSのアクション1やBEPS 2.0の議論が進む中、実行可能性やグローバル・ポリティクスの観点からその内容を辛抱強く静観していたことだろう。United Nationsとしては一枚しかないJokerをいつ切り出すか、っていうタイミングを虎視眈々と狙っていたとも言える。千軍万馬いうか飽経風霜というか、裏の裏まで知り尽くした強者かつトリッキーなプレーヤーが混在するグローバル・ポリティクスにおいて、何事もタイミングが肝心なのは百戦錬磨のUnited Nationsは百も承知。時期尚早に登場すると、OECDの議論にかき消され存在感を出せない一方で、後手に回るとルール策定に関与できないもんね。

United Nationsのアプローチは、ピラー1との比較において、クロスボーダー課税制度そのものに変革をもたらすというような大胆な意図は感じられない。そんなRevolutionは短期には達成できない、という経験に基づき、その気になれば今日から即実践可能な暫定措置を代替案として提案しているように見える。特に後進国にとって実践可能かどうかという点は実務的に重要な課題。

で、長期的には5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向としながら、当面はDST紛いの税金を公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約でカバーするんで23条を通じてFTCが取れる点も自然に明確になる。当初は2017年UNモデル条約に規定される源泉税条項12A条の「Technical Services」にオンライン広告にかかわる支払いも対象内と解釈することで文言の修正もなく、DSTに調和をもたらすことができる、みたいな議論もあった。

これは賢いアプローチで、各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくとオンライン広告が主になる。United Nationsの感覚だと、現時点で他のデジタル経済、増してや伝統的な事業に対する課税は緊急課題ではない、っていう認識があるんだろう。PEの定義変更やオンライン広告以外の取引にかかわるGame Changer的な改定は時間を掛けて要検討と位置付けている。GoogleやFacebookの収入源は言うまでもなくオンライン広告だし、Amazonの収益に占めるオンライン広告の比率も高まってるとして、Google Ireland Ltd.がフランスと係争した際に開示されているビジネスモデルをベースに、B2B部分のサービスFeeに源泉税を課せば、当面は皆落ち着くんじゃない?的なアプローチが模索されていた。

そんなアプローチ下では、既存の 12A自体はそのままで、オンライン広告のFeeはテクニカルサービスに含まれるとすればそれで済む話しと言える。面倒な売上基準やAmount AとALPの超過利益との相殺とかがないので極めてシンプルだ。このシンプルさは偶然ではなく、ピラー1の内容を精査し、発展途上国の率直な意見を取り入れた上でのアンチテーゼ的なものと考えられる。

で、8月5日に実際に公開されたドラフトは12A条「Fee for Technical Services」をそのまま使用するのではなく、その直後に12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「テクニカルサービス」にかかわる対価は、事業所得に当たると考えられるがPE規定をオーバライドして所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1に通じるかなり先進的な規定だ。新設12B条では、対象をオンライン広告に限定するのではっていう前評判とは異なり、自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般を対象としている。

次回はこの12条Bに関してもう少し。

Saturday, September 19, 2020

OECDもピラー1早期合意ギブアップ。原因はトランプそれともピラー1のコンセプト欠如?

前回、NYCの話しとかで興奮してしまい、結局BEATのAggregateグループの話しは最初の部分で終わっってしまった。そんな矢先、ピラー1でチョッとアップデートしたいニュースがあるので今回は特番。

OECDのBEPS 2.0で提案されてる2本の柱の1本となるピラー1は、デジタル経済下でのクロスボーダー課税の新基準作りっていうBEPS 2.0の目的そのものの話しで、ピラー2はどちらというとオマケで議論されてる感じで、ピラー1こそが屋台骨だ。柱が2本しかない構造で、そのうち1本の柱がなくなってしまったら普通の建物だったら骨組みにならない。なくなる柱が主たる柱だとしたらなおさらだ。

で、そんな建築の世界だったら大変な出来事が、BEPS 2.0に関しても進行中。BEPS 2.0の屋台骨ピラー1の先行きが徐々に怪しくなっていく様子、そしてついに米国が引導を渡すに至る経緯は、ここ一年くらいのポスティング「DCからのお手紙でOECDデジタル課税・ピラー1に早くも暗雲?」「BEPS 2.0ピラー1の終焉」等で触れてるんで、興味があったら時系列的にその変遷を読んでみて欲しい。

そんな逆風にめげることなく、OECDはピラー1の合意に向けてブループリント・ドラフトをIF各国に共有したり、チョッと痛々しい感じもするんだけど、自らに活を入れるかのように手綱を緩めぜずにテクニカル面での設計に驀進していた。疑ってかかるような意地悪な見方をすると、チョッとスピンがかったPRを繰り返してるようにも感じられたけど、2020年も9月後半というこのタイミングで、あんまりいつまでも非現実的なタイムラインやプランに固執していてもいつかは万事休して信用問題にも発展し兼ねず、「近々に成功する可能性は約束されてないんで、皆さん勘違いしないで下さいね~」みたいなExpectationの調整が、いずれ行われるはずと思い、状況を注視していた。特に10月8日に次のIF全体会議の開催が控えてるんで、その前後の動向は特に気になるところ。

そんな折に登場してきたのが他でもないパスカル・サンタマン氏。OECD租税政策・税務行政センター局長ご本人だ。世界中の政府がコロナ禍でロックダウンという政策を取る直前、神楽坂で開催された会食でご一緒させて頂けて身に余る光栄だったけど、BEPSをここまで世界に浸透させただけのことはあるエネルギッシュかつユーモア溢れるウォリアーだ。そんなパスカル氏が、レマン湖の畔に位置し、豊かな自然、ローマ時代からの歴史、文化の香り漂う古都ローザンヌの名門校のローザンヌ大学のクロスボーダー課税ポリシーイベントで先週9月15日に「新しいクロスボーダー課税ルールを世界で合意しようとしてるんだけど、皆さんもご存じの通り、トランプ大統領は訳わかんない輩で・・・」と切り出してExpectation制御モード。「交渉再開を米国選挙後まで待ってたら、その間にDSTが台頭してくることになるし、Bidenになったとしても交渉が進む保証もないし」とチョッと愚痴っぽいニュアンス。

え~、ピラー1の成否もトランプ大統領次第だったの?ここ4年間、米国のメインストリーム・メディアは「世の中で起こっている諸悪の根源は全てトランプ大統領」って、まるで何かに取りつかれたかのように血走った目で連呼し続けてきたけど、パスカル氏もメインストリーム・メディアの見過ぎなんだろうか(苦笑)。この手の発言は大学のオーディエンスとかには受けるだろうから、それを見越してのOvertureだったのかもしれない。実際にトランプ大統領が世界の諸悪のうち、どの悪に関して根源なのか、っていう点は各人の思想等で判断が異なるだろうけど、ピラー1に関する限りどうだろうか。確かにフランスがDSTを掛けるんだったら、チーズやワインに懲罰的関税を課すぞ、とかフランスとトランプ大統領は喧嘩が絶えないけどね。でも、ピラー1の行き詰まりは、どちらかというと政治的に早期コンセンサスをグローバルで取り付けるっていう結果を優先しようとするがあまり、現時点のピラー1にはコンセプト的な規律が欠けてて納得感がない、っていう致命的な欠点の方が大きいのでは?

米国がピラー1に乗り気でないのはトランプ大統領の気まぐれのせいではなく、ピラー1が課税しようとしている米国ハイテク企業からしてみると、自社の超過利益や企業価値に市場国のユーザー参加を源泉としている部分があるのかないのか、あるとしてもそれがいか程のものなのか、っていう根本的な前提や議論が尽くされる前に、安易に恣意的な%だけ決められてしまうのは釈然としない、っていう点が気になるのでは?このままなし崩し的にあまり意味のない%だけ決まり、超過利益を世界中にばらまくような仕組みに合意されてしまったりすると、そんな制度はSustainabilityに欠ける。

この手の話しで示唆に富んでいるのがUberがOECDに提出しているコメント。コメントを作成したUberのVP Finance Tax & AccountingであるFrancois Chadwickは専門誌への投稿とかで更に深堀したコメントを出している。Uberはピラー1ばかりでなくピラー2にも洞察に富むコメントを出しているからOECDのウェブサイトで見てみると面白い。

ピラー1に関して2019年3月に提出したコメントでUberが疑問を呈している点のひとつに、ユーザー参加が企業価値に貢献しているかどうかは意見が分かれるところだし、仮に何らかの貢献があるとしても一律の%で価値を認定してしまうのは非現実的、というものがある。確かに、デジタル企業というとインターネットで人手を介さずに安易に取引を行って濡れ手に粟みたいに簡単に莫大な利益を認識できる、っていう誤ったイメージがあるかもしれないけど、デジタル企業のビジネスモデルを可能にしている、また厳しい競争に勝ち抜くための価値のあるユニークなIPの開発とかIPを活用して事業を遂行する際の機能一般は結局は広範に人間の手に頼っている。従来、超過利益をそれらの機能を持つ場所で認識し、単なる市場国には超過利益を配賦していないのはまさにこの理由。IPの開発や事業遂行には失敗例も多く、多くのスタートアップが消えて行くけど、それらのリスクや損失を負担しているのも市場国ではない。

その後、2019年11月のコメントでは市場国に配賦される超過利益は少額(Modest)に留めるべきで、超過利益というものは主にIPのDEMPEを源泉としていることから、DEPMEの場所に主たる課税権があり続けるべき、としている。人の移動手段を根本的に変革させてしまったデジタル企業張本人Uberによるコメントだけに、「自国にFair Shareのタックスを支払え」と何がFair Shareかという点に関して理論武装が弱いまま主張し続ける市場国政府との対比で、迫力満点で重みがある。この議論、日本企業の多くも同感ではないだろうか。

Francois Chadwickが専門誌に寄稿している「デジタル時代の新クロスボーダー課税」という論文では、かなり具体的にピラー1のUnified Frameworkに代わる新クロスボーダー課税システムを提案している。基本的にはModified Residual Profit Split (MRPS) methodを適用するとしながらも、PSに付きまとう複雑性を排除し、デジタル時代に対応するようにアップグレードするというもの。そこには詳細な経済分析やUberでの実績に裏付けられた興味深い分析が満載されている。ここでその全てを解説する訳にはいかないんで残念だけど、ザックリ言うと、超過利益をProduct Intangible Profit(「PIP」)とMarketing Intangible Profit(「MIP」)に分けて、MIPをさらにDEMPEに帰する部分とユーザー参加を含む外的要因に帰する部分に分けるというもの。超過利益全体から研究開発の度合いからはじき出される%でPIPをを取り出す。そして残った部分をMIPとし、さらにそこからDEMPEを基とする金額を除き、残った金額が市場国配賦対象となる。Uberの実績からMIPのうち80%はDEMPEに帰するというデータがあるらしい。となると、超過利益からPIPを排除してMIPに分け、さらにその20%だけがAmount A同様となり市場国に配賦対象ってことになる。Amount Aが超過利益の一部のさらに上澄み部分だけになってるのに何となく似てるけどね。Uberの数字を使うべきかどうかという話しではなく、このようにユーザー参加の価値をビジネスモデル別にきちんと検証することなく、コンセンサス作りに邁進している点こそピラー1が暗礁に乗り上げてる大きな理由ではないだろうか。

これらのピラー1の展開、特にここ数か月のピラー1の弱体ぶりを冷徹に観察しているに違いないもう一つの国際機関がある。国連、United Nationsだ。以前、本来発展途上国の代弁者たるべきUNがモタモタしてる間に、OECDがIF大連合を形成し、クロスボーダー課税に関しては国連っぽいノリの機能を横取り(?)しちゃっててチョッと不思議だよね、って「BEPS 2.0ピラー1の終焉」でチラッと触れたけど、UNはここに来て急に絶妙のタイミングでデジタル課税議論にリエントリーしスパートをかけている。このタイミング、もちろん偶然ではない。グローバルのいろんな利権争いは海千山千のプレーヤーがしのぎを削っているってこと。このUNの登場は面白いので次回のポスティングでチラッと触れておきたい。

なかなかBEATのAggregateグループの話しが終わらなくゴメン。最高裁判事のNotorious RBGとして親しまれてきた法曹界の巨匠Ginsburgが選挙まで一か月強のこのタイミングで他界してしまったり、世の中いろいろあり過ぎ。

Sunday, September 13, 2020

BEAT 2020年最終規則 (3)

NYCはここ数週間でめっきり秋めいてきたけど、南カリフォルニア、特にロサンゼルスの北西部っぽいところに位置するValley辺りは相当厳しい残暑に見舞われてる、って報道されている。Valleyって、MDRから405で渋滞さえなければ15分から20分もあれば着く距離。405と101が交差するSherman Oaks辺りだったら距離は20マイルもない。ただ、午前3時とかにドライブするんだったら理論通り15分で着くかもしれないけど、日中のSepulveda Pass、特にコロナ前は、渋滞が激しく、通り抜けるのに平気で1時間以上掛かることも多い。MDRから見てそんな距離に位置するValleyだけど、MDRが海岸沿いにある一方、Valleyは内陸に位置してその名の通り盆地みたいな地形なので、普段からValleyの気温はMDRと比較して20~30度(CじゃなくてFだからね)は高い傾向にある。そんなValleyで記録的っていうのは相当暑いんだろう。

一方のNYCは朝晩はすっかり涼しくなり、早朝にEast River沿い走ったりするにはベストな気候。でもそんな気候に突入したタイミングで、ようやく州知事のお許しが出てジムがリオープン。アパートの29階にあるジムも約6か月ぶりにオープンし、NYC自宅アパートのジムでワークアウトができるようになった。3月以降、MDRその他、NYC外の場所に居る日はジムを利用した経緯はあるけど、こっちに居る間は毎朝、NYCの狭いアパートで簡単なワークアウトした後、外を走る毎日だった。普段、トレッドミルでしか走ったことなくて、最初は外に降りていくのがチョッと面倒だったんだけど、外走ってみるとトレッドミルよりMindにいいというか、心の浄化というか、日本語でベストな表現が見つからないけど、英語で言うところの「Cathartic」、つまりEmotionally Cleansingなんだなってことが実感できた。また、同じ1マイルでも外の方が体力を消耗するように感じられた。トレッドミルに戻ってみて、実は外では自然に速いスピードを出してたことに気づき、トレッドミルのスピードも0.5マイルくらいスピードアップして走れるようになった。ロックダウン中にいろいろあったけど、せめてこんな効能でも見つけないとね。

で、先週からさっそく早朝ジム三昧になったんだけど、前と違って人数制限があるんで前もってApp使って予約したり、入る前に体温測定が義務付けられたり、NY州の規定で走る時もマスク着用がMustだったり、っていう諸々の要件を充たしてようやくワークアウトに漕ぎつけることができる。ワークアウト中もマスクね。結構なスピードでトレッドミル走ったりするとチョッと息苦しくて、結構暑いんだけど、まあリオープンしてくれただけ有難いと思わないとね。物事全て相対的。NYCにあるジムのリオープンは他州よりかなり遅く、しかもキャパの33%っていう制限付き。その間に事業継続が困難になってしまったジムも多いだろう。New York Sports Clubは今週にも破産法申請って噂。

レストランも未だに屋外以外はDining禁止、っていう点からもわかるようにNYCの経済再始動は全米でも遅い。そんなこんなの数か月、ここに来て肌で感じるNYCは、街の劣化というか住みやすさの低下が著しい。市長がBloombergからDe Blasioに変わった後から、ミッドタウンでは、浮浪者が増えたりして公園とかの治安は全体に低下気味だったけど、それでもコロナ前はNYCの好調な経済に支えられて日常の生活に影響を感じることはなかった。もちろん、Bloomberg時代の整然とした感じが懐かしくはあったけど。それがここにきて最悪の状態に。コロナでオフィスが閉鎖されているので街にオフィスワーカーが不在だし、コロナ感染の懸念から囚人を刑務所から解放したり、保釈金制度を改定して逮捕された被疑者の留置が困難になりそのまま釈放されたり、マンハッタンの住宅地に位置するホテル複数を市が借り切ってドラッグ常習者や浮浪者に提供したり、略奪や暴動の爪痕があちこちに残っていたり、Public Spaceは昼間から浮浪者のたまり場になっているところもあり、道でトイレしたり、ドラッグしたり、犯罪も増えててチョッと普通の家族が安心して生活したり、オフィスワーカーが仕事しに戻って来るには程遠い環境に急変しつつある。そんな環境に耐えかねて結構な住人がNYCから脱出しているって聞くし、実際に家賃は下がり(それでも法外だけどね)、Monthlyのパーキング契約が枯渇してるっていう話し。

10月からは屋外だけでなく、IndoorのDiningも25%キャパまでOKとか、徐々に経済は始動しつつあるのはそうなんだけど、多くのビジネスにとってはチョッと遅すぎるし、その間に破綻して2度とNYCには戻ってこないビジネスも増えつつある。日本でもお馴染みのEric Kayserのパン屋Maison Kayserは、3月にNYCの全店舗をいち早くCloseしてしまい、その後も全然リオープンする気配がないのでなんか怪しいなと思ってたけど、先週、破産法を申請してNYC16店舗全店閉鎖するらしい。え~、ショック。もちろん、SOHOとかまでわざわざ出かけて行って、店の前に並んだりすれば美味しいパンにあり付けるかもしれないけど、そんなことしないでもミッドタウンの近所にたくさんあるMaison Kayserで気軽においしいBaguette、ブリオッシュ、Pullman Loafとか買えてたのに。ブリオッシュに関しては昔のポスティングで触れたけど、小さいころからの思い入れがあり、敢えて多く接種しないCarbを取るんだったらMaison Kayserのブリオッシュに優先権を持たせてたんだけどね。大ショック。ミッドタウンでどこかまともなブリオッシュとかパン売ってるとこ見つけなきゃ。Éclairのオーナーおじさんに近所のよしみでお願いして前やってたみたいに特別に焼いてもらうしかないかも。

そんなNYCの惨状を見かねて、160社以上の著名なビジネスで構成される「Partnership for NYC」がDe Blasioに書簡を送りつけた。早急にNYCのワーカーや住民の安全・住みやすさを改善しない限り、こんな状況ではNYCのオフィスには人は戻せない、事業も行えない、と警告している。De Blasioは大手ビジネスや真面目に働いて高額の市所得税を支払っている住民を敵視する傾向にあり、「あいつらの手にお金があるのはおかしい(「the money is in the wrong hands」)」とか言ってたから、対策としてはさらに多くの税金を課すことくらいが関の山だろうか。せっかく、GiulianiとBloombergが20年かけて世界でも最も安全な街にトランスフォームしてくれたのに、また80年代のNYCみたいになってしまうんだとしたら困ったこと。思想はともかく、基本的な安全や生活環境が保障されないと街の繁栄はありえないという大基本を理解して市政を司ってもらわないといけない。その点、同じ民主党でも州知事のCuomoはもう少し現実的だけどね。

実はNYCに限らず、カリフォルニアのMDRの近所も結構荒んだエリアが増えたように感じる。Mar VistaからVenice Beach方面にRoseをドライブした際、Marine Park沿いの住宅地にテントが並んでる姿はチョッと驚きだった。

そんなショックを和らげるには、財務省規則にフォーカスするのが一番(?)。前回、前々回と9月頭に公表された2020年BEAT最終規則に関して触れてきたので、今回は、中でも日本企業にも関心が高いと思われれる「Aggregateグループ合算計算」にフォーカスしたい。っていうかする予定だった。

前回のポスティングに書いた通り、Aggregateグループっていう概念は、BEATミニマム税の計算そのものというより、入り口のBEATミニマム税を計算しないといけないBEAT適用法人になるかどうかの判断時に関係してくるもの。すなわち、売上基準とBE%基準の算定を個々の法人や連結納税グループ単位ではなく、Aggregateグループ単位で行う、っていう規則。BE%に関しては、NOLのうち何%がBEAT計算時の加算額になるか、とかにも使用するので、必ずしも適用法人になるかどうかだけに限られたインパクトではないけどね。

Aggregateグループの構成自体、パートナーシップが絡んでたり、Fundだったりすると、構成メンバーの特定にかなりの検討を要するけど、ここでは日本企業向けということで、グローバルで50%超の資本関係にある法人、と敢えて簡単に定義しておく。この50%超のグループ法人のうち、米国法人と外国法人のECI(条約国のケースはPE帰属所得)部分を「単独法人」かのように取り扱って売上基準とBE%基準を算定することになる。

NYCの話しとかやたら興奮してしまったので、肝心のここからは次回。本題が短くてゴメン。

Saturday, September 5, 2020

BEAT 2020年最終規則 (2)

前回のポスティングで、先週公表された2020年のBEAT「新」最終規則に関して触れ始めた。BEATの計算にかかわる大概のルールは2019年最終規則で既にカバーされているので、今回の2020年最終規則はどちらかというと「ニッチ」っぽい数点にフォーカスされている。具体的には、グループ合算計算、損金算入自己否認、パートナーシップを介したBase Erosion Paymentの考え方の確認、特定の乱用防止規定、にかかわる詳細規定。

損金算入の自己否認に関しては以前の「BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)(2)」である程度詳しく触れた提案内容のまま最終化されているのでそちらを見て頂くとして、今回はグループ合算計算に関して少し触れてみたい。ちなみに損金算入自己否認に関して一言だけコメントしておくと、10%のBEATミニマム税を節約するために通常法人税で21%の税効果がある損金算入をなんでわざわざ否認するの?、っていう質問をたまに受ける。この点はNOLとの絡みで期せずしてBEATミニマム税が出てしまうことがあるとか、BEATミニマム税の計算時には外国税額控除が認められないって点が大きい。特に外国税額控除に関しては、TCJA後の米国クロスボーダー課税の世界では、世界中のCFC所得を合算しネットで10.5%支払う税額を、外国税額控除で減少させるっていう設計だから、外国税額控除がなくなってしまうと例え10%の税率でもBEATミニマム税が巨額になることがある。それなら多少の費用を自己否認して21%支払っても、そもそもBEAT適用法人でなくなるのであればそっちの方が断然得策、っていう話しだ。

で、今日のポスティングのテーマとなるグループ合算計算だけど、これもBEAT適用法人になるかどうかの話しに密接にリンクしてる、っていうかその話しそのもの。BEATはその立法趣旨的に、ターゲットとなる納税者のプロファイルは、外国関連者への支出に基づく費用控除がある程度あって、サイズが大きめの多国籍企業となる。このプロファイルに合致する法人を機械的に抽出するため、二つの基準値が法律に規定されていて、それらに達してしまえばBEAT適用法人だし、達していなければBEATの適用自体がない。また、BEAT適用法人になったとしても、BEATミニマム税を支払うことになるかどうかは実際の計算次第。実際に計算してマテリアルなBEATミニマム税が想定される場合には、そもそも適用法人でなくなってしまえば実害ナシということになる。なので、損金算入の自己否認とかいう通常では考え難い発想が登場する。

このテストは機械的な点に注意。BEAT、すなわちBase Erosion Anti-Abuse Taxっていう条文タイトルから、「私はBase Erosionするような意図は一切ありません」みたいなケースにBEATが適用されるのは筋違い、というようなポリシー的な理屈を捏ねたくなるケースもあるけど、納税者の意図はBEAT適用有無に一切関係ない。税法上、条文タイトルは法的効果を持たないしね。

で、誰がBEAT適用法人になるかというと、3つ条件がある。

まず「Corporation」であること。必ずしも米国法人である必要はなく、外国法人もBEAT適用法人になり得るけど、申告法人税の話しだから、ECIがあったり、日本みたいに条約締結国の法人でLOBを満たす場合には、米国PE帰属所得が存在するケースのみ潜在的にBEATとの絡みがある。また、CorporationでもRIC、REIT、S Corpは除外される。Corporationじゃないパートナーシップは直接BEAT適用納税者にはならないけど、パートナーシップの法人パートナーは、パートナーシップ内の取引の自己持分を全て加味してBEATを検討しないといけない。法人がらみの非課税取引、Section 351や332、適格組織再編に基づく資産移管は2019年の最終規則時に財務省の英断(?)でBase Erosion Paymentの定義から除外されてるけど、パートナーシップに関してはそんなカーブアウトが一切存在しない。純粋なAggregateコンセプトで考えるので、Section 721や731に基づく非課税出資や分配時にも常にBEATの影響を検討しないといけない。パートナーシップとBEATの話しはここ1年くらい、そのうちどこかで特集しなきゃ、っていうプレッシャーが夢に出てくる(?)くらいだけど、本当にそのうちね。

で、BEAT適用法人の条件だけど、次に前年までの3年間平均総収入、すなわちCOGSや費用を引く前の売上が$500Mであること、っていう売上基準。返品があったり、固定資産の譲渡があったり、すると売上額の認定自体、結構テクニカルで油断大敵だけどね。

そして3つめの条件がBase Erosion%(「BE%」)が3%以上っていうBE%基準。金融機関は特別に2%。売上基準やBE%基準のベーシックなところ、例えばBE%が何かとか、は規則案時にアップしたポスティングで結構触れているので、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)」等を見て復習していただき、ここでは本題のグループ合算計算にフォーカスする。

以前からさんざん触れてる点だけど、売上基準とBE%基準の算定は「Aggregateグループ」という50%超の資本関係にある関連者を一人の納税者としてみなして行うこと、っていう合算要件がある。ここで重要なのは、BEATの計算そのものは各納税者、または連結納税グループはグループ単位で行う点。グループ合算計算は、あくまでも売上基準とBE%の計算法のみにかかわる要件で、すなわちBEAT適用法人になるかどうかだけは、Aggregateグループ単位で決めて下さい、というものだ。自社のBase Erosion Benefitや売上が少なくても、Aggregateグループ合算で基準値に達する場合には問答無用にBEAT適用法人となり、その上で、個社レベルでBEATミニマム税を計算することになる。この合算の計算は「一人の納税者」というフィクションの適用法とか、これだけでもとてつもなく複雑だけど、ここでは50%超のグループ法人のうち、米国法人とECI(条約国のケースはPE帰属所得)を持つ外国法人の数字を合算して売上基準やBE%基準を算定するとだけ覚えておいて欲しい。

2020年最終規則では、計算方法に関して困難が生じがちな特定の事実関係複数に関して、グループ合算計算時に適用するべきルールを規定してる。大別すると、グループ内のメンバー法人が異なる課税年度を持つ場合、短期課税年度が存在する場合、グループ内メンバー法人がグループに新規加入したり、グループから離脱する場合、支出(Base Erosion Payment)のタイミングと費用控除(Base Erosion Benefit)のタイミングに差異があり、費用控除時点で支出時点とは異なるグループに属してしまっている場合、にかかわる詳細なルールが規定されている。

ここまで書いたところで、今日のNYCは南カリフォルニア顔負けの気持ちのいいお天気なので、チョッと出かけることにします。次回はグループ合算計算の各論点を順番に紐解いていく予定。

Friday, September 4, 2020

BEAT 2020年最終規則

前回のポスティングではOECDピラー1・ブループリント・ドラフトの話しに一区切り付いたので、次のテーマはGILTIの高税率控除かな、ってところで終わっていた。ところが、その後も財務省のTCJA規則攻撃が絶え間なく続き、Section 163(j)の最終規則にかかわる早期適用ルールの明確化、そしてさらに2019年にBEAT規則が最終化された際に同時公表されていた規則案が最終化された。

Section 163(j)の最終規則早期適用の文言アップデートは、もともと7月に公表された際に規則の文言が分かり難くて、2021年以前の課税年度に認められる早期適用を選択する際、2018年以降全ての課税年度に早期適用が強制されるのか、単年毎に選択ができるのか、若干クリアでなかった点の確認。全課税年度に強制適用だとすると、2020年に最終規則の早期適用を選択する場合、2018年の申告書を修正申告しないといけいないの?っていうような訳の分からない話しになっていて物議を醸していたんだけど、結局、そんな必要はなく、各課税年度毎に早期適用できるっていう普通というか、めでたい結果となった。2021年からは強制適用だけど、これらは財務省規則の規定適用タイミングの話しで、言うまでもないけどsection 163(j)の法律そのものは2018年から適用で、その点は変わらない。

次にBEAT最終規則。BEATにかかわる財務省規則の沿革はチョッと込み入ってるんでここで簡単におさらいしておく。まず、2018年12月13日に規則案が公表され、これをたたき台に2019年12月6日に最終規則が公表されている。双方の内容は各々「BEAT財務省規則案」「BEAT財務省最終規則」シリーズで触れているので、詳細はそちらを参照して欲しい。

で、BEAT計算法とか大概の部分は2019年12月の最終規則でカバーされてるんだけど、実は最終規則と同時に新たな規則案が公表されていた。この2019年規則案は、もともと2018年12月の規則案では触れられていなかった新たな検討事項を新規提案する形で構成され、納税者からコメントを募ったりしてたんだけど、この度、この2019年規則案が最終化されている。2019年最終規則と区別するために、今回最終化された規則は2020年最終規則って呼ぶことにする。日本企業的に、BEATは気になるところだろうから、GILTI高税率除外規定の前にチラッと触れておく。

BEATの仕組みは今更繰り返すまでもないけど、米国外関連者への支払い(Base Erosion Payment)に基づく費用控除(Base Erosion Benefit)を否認して再計算する修正課税所得に10%(2026年からは12.5%)という、通常の法人税率21%より低い税率をかけて、そちらが高ければ超過額をBEATミニマム税として支払うというもの。AMTに似てるけど、BEATミニマム税は一旦支払うと将来にクレジットがあったり、還付されたりしない払いきりとなる点AMTとは異なるので要注意だ。

2020年最終規則は大別して、グループ合算計算、損金算入自己否認、パートナーシップを介したBase Erosion Paymentの考え方の確認、法人組織再編や適格出資等を通じて外国関連者から受け取る資産の償却費用をBase Erosion Benefitから除外する規定を利用して直前に対象資産の税務簿価をステップアップさせたりする乱用防止規定、で構成されている。損金算入自己否認に関しては、2019年に規則案として提案された際に「BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)」で2回にわたり特集しているので、そちらをみて欲しい。損金算入自己否認は面白いコンセプトだけど大概において規則案から変更はないので、次回、グループ合算計算に関する規定にチラッと触れて、GILTIにMove onしたい。

Thursday, September 3, 2020

Newsweekにブログが載りました!

このブログではオタクな米国税務にフォーカスしてるんだけど、もう少し広範なアメリカ一般の話しに関してNewsweek日本版にオープンした「World Voice」に記事を載せて頂ける運びとなりました。興味があったらぜひ覗いてみて下さい。月に2~3回、70年代のロックミュージック考現学とかに脱線しないよう注意しながらアップしていきます。

リンクは「タックス・法律の視点から見る今のアメリカ」です。

こちらの「専門家のための・・」では今後もGILTIその他米国クロスボーダー課税をDeepに連載していきますので、こちらも引き続きよろしく。

Saturday, August 22, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (4)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」(続)

前々回、Marketing and Distribution Profits Safe Harborに関して少し詳細に触れ、結果的に余り斬新なものではない、ってところまで来ていた。で、ブループリント・ドラフトにチラッと記載されている例示に触れよう、ということで終わっていたので、今回はその例示に関して。

Marketing and Distribution Profits Safe Harbor、二重課税防止、Amount Aの原資をどの主体や国から召し上げるか、という検討は、ALPベースで超過利益が複数の国にまたがって認識されてるケースに重要な検討となる。日本企業でよく見られるように、全ての超過利益を日本だけで認識し、他国にはCPMでルーティン利益を残しているだけであれば、Amount Aが発生した場合、他に相殺する相手はないことからデフォルトで全額、日本の所得と相殺するしかない。

問題は価値のあるIPの所有または使用が複数の国にまたがってるケース。そんな状況にMarketing and Distribution Profits Safe Harborをどのように適用するか、っていうのが今回のテーマとなる例示。

多国籍グループ「X」のAmount Aは1.5%、Amount B(またはBもどき)のルーティン販売活動からの固定リターンは2%とする。したがって、物理的存在がない市場国には1.5%の所得が配賦され、物理的な存在を伴う市場国には計3.5%の所得が配賦されることになる。

Xグループは、A国でグループのIP全てを開発・所有し、市場国にあたるB、C、D、E国に存在するフルリスク販売子会社にライセンスし、ALPでサポートされる独立企業間ロイヤルティーを受け取っている。フルリスクとかFull-Fledgedの販売会社って、本格的販売会社って訳されている例を見るけど、日本語としてピンと来ない、というか響きがぎこちないのでここでは仕方ないからフルリスクってしとく。意味は分かるね?

で、B~E国のフルリスク販売子会社は、各社独自のマーケットおよび他のIPも所有していて、A国からライセンスされるIPと双方を活用し、非関連の顧客に商品を販売し、各国で超過利益(または損失)を認識している。例示では便宜的にIP所有国Aにおいては非関連の顧客に対する販売は存在しないことになっていて、B、C、D、E各国の利益率は4.6%、 3.2%、マイナス1.0%、 17.8%としている。B~E国の利益にはAmount B(またはBもどき)が含まれていると想定され、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの金額はAmount Aと合計で3.5%となる。BとE国の利益率は3.5%を上回っているので、Amount Aの配賦はない。既にAmount Aで配賦するべき恩典は物理的存在・ALPに基づき十分に認識されているということになる。D国はALPでは損失を計上しているので、3.5%のSafe Harborに当然至らず、またAmount B(またはBもどき)も認識していないので、1.5%のAmount Aがまるまる配賦される。例示には書いてないけど、この場合、Amount Bとして追加でプラスの固定リターンが認識されるんだろうか。C国においてはAmount B(またはBもどき)の固定リターンは既に認識され、また超過利益もAmount A全額には至らないが一部既に認識されている。したがって、不足分となる差額がAmount Aとして配賦される。

例示にすると算数的には簡単に聞こえるけど、実際には大変そうだよね。上の例だと、CとD両国にはALPでは認識されていないAmount Aが配賦されることになるけど、そのままでは単純にXグループとして追加の課税所得が認識され二重課税となる。したがって、CとD国に配賦されるAmount Aは、BやE国が認識する課税所得の一部から召し上げることになる。BやE国の課税所得からマイナスする方法、すなわち実質CとD国はBとE国の主体に課税しているような結果、も考えられるし、BやE国の法人税算定の際に外国税額控除を計上する方法もある。

他にもブループリント・ドラフトには、損失の繰り越し、Amount Aのスコープの話し、二重課税排除法、その他盛りだくさんだけど、キリがないので後は10月に最終版が出てからにするとして、いよいよ次のテーマに移りたい。FDII、163(j)、GILTI高税率除外、アップル・EUケースの超過利益、何がいいだろう。う~ん、迷うね。163(j)はやたら面倒な割に過度のレバレッジが余り見られない日本企業的にはそれほど大きな話題にならないので、脱落させるとして、やっぱりGILTIかもね。ピラー2にも通じるしね。

Monday, August 17, 2020

今度はピラー2ドラフト

ピラー1のブループリント・ドラフトの話しが活況を呈している (?)中、今度はピラー2、「Global Anti-Base-Erosion (GLOBE)」のデザインドラフトがワーキング・パーティー11の代表に共有されたようだ。ワーキング・パーティー11と言えば、アグレッシブなタックスプラニング対策を目的に組成された組織で、ハイブリッドミスマッチ、CFC等にかかわる勧告を策定しており、泣く子も黙るMI6のような (?)存在だ。007の話しで盛り上がりたい気持ちを抑えないと・・・。

2020年中のピラー1にかかわる合意が暗礁に乗り上げる中、OECDとしては是が非でもピラー2の合意には漕ぎつけたいところだろう。噂によるとGLOBEを構成する4つの提案に関して一定のデザイン的な進展は見ているものの、米国GILTIとの共存関係が整理できておらず、大きな検討事項として残っているそう。取り急ぎ。

Saturday, August 15, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (3)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」

前回のポスティングではOECDがIF各国に共有したブループリント・ドラフトの中でも、Amount Aの配賦額をCapしているという「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」に関して触れ始めた。原文は英国のスペリングなので「Harbour」だけど、個人的に頭に入り難いし、スペルチェックに引っかかるのでここでは「Harbor」で統一しておく。前回はいつにも増して脱線が激しかったので今回は本題にフォーカスするよう自ら戒めて(?)臨む予定だけど、予定は未定(?)。

で、ブループリント・ドラフトに記載されているMarketing and Distribution Profits Safe Harborの説明、これだけだと、何が何をCapしているのか、っていう超ベーシックな部分が分かり難い。後で触れる3つのパターン分けでようやく理解できたけどね。米国財務省規則とかに見られる「Precise」な表現、定義、法文フローに慣れているだけに、ブループリント・ドラフトは比較的フワッとした表現となっていることが多く、一読してなるほどね、って理解できるよう法律っぽく書いて欲しいな、と勝手に思って読んでた。僕のヨーロッパ発の英文に対する理解力不足が問題の可能性大だけどね。もっとロンドンでSunday Roast食べて修行しないとダメかも。ということはWyomingじゃなくて地中海の島、Minorcaか、ってまた早速脱線(笑)。

で、早々に方向修正して、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの説明を紐解いて行くとザっと次のような感じ。

ALPベースで超過利益が配賦されている市場国には、なぜその範囲でAmount Aの配賦が必要ないと考えられるか云々の背景説明、またALPベースの超過利益有無にかかわらず、まずは通常の規定通りAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲する、のは前回のポスティング後半で触れた通り。で、そこで満を持してMarketing and Distribution Profits Safe Harborが登場する。言うまでもないかもしれないけどAmount Aの話しだから、Amount Aのスコープ内の事業にかかわる議論だっていうことは常に頭の片隅に留めておいてね。スコープ内外の活動がある場合には、多国籍企業の超過利益もスコープ内に切り出して諸々の規定を適用することになる。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborではまず、ピラー1とは関係なく従来のALPベースで市場国が認識する所得を認定し、これは「Existing Marketing and Distribution Profit」と位置付ける。まさに名は体をあらわしているね。上述の通り、Amount Aスコープ外部分、また製造その他、市場国としての利益とは関係ない部分はExisting Marketing and Distribution Profitから除外する。次に通常通り算定される「Amount A」と「ルーティン販売活動に対する固定リターン」の二つの金額を足して「Safe Harbor Return」を認定する。2つ目の「ルーティン販売活動に対する固定リターン」は市場国やセクターに基づく調整(Uplift)を加味してもいいとされている。う~ん、この2つ目の金額はAmount Bそのものに見えるけど、説明文ではAmount Bという用語は一切使用されていない。Amount Bにも市場国やセクターに基づく調整を容認するコメントがあるので、なぜ単純にAmount A+BをSafe Harbor Returnと定義していないのか不思議だけど、もしかしたらブループリント・ドラフトではAmount Bの適用対象をかなり限定しているので、厳格に定義されるAmount Bにはならないルーティン販売活動固定リターンを含むということ、っていう意味で敢えてAmount Bと言っていないのだろうか。Amount Bの存在意義は、いろいろと細かい差異に基づいてごちゃごちゃ言わずにリターンを世界中で決めて簡素化、係争回避しましょうという点にあったと思うんだけど、全然シンプルにならないね。

で、この後の解説コメントはそれだけ読んでも分かり難い。「Safe Harbor ReturnをCapとし、当該金額を参照してAmount Aの金額を潜在的に調整します」といきなり来るんだけど、Safe Harbor Return自体Amount A+B(またはBもどき)で構成されているので、この金額を基に場合によってはAmount Aを調整する、っていう説明がこれだけでは良く分からない。自分で自分を調整するの?って感じの説明でチョッとCircularっぽいんだけど、ただ、その後に続く説明で何となく言おうとするところが見えてくる。すなわち、Safe Harbor ReturnとExisting Marketing and Distribution Profitの比較の結果、想定されるシナリオは3通りとしている。

まず、Existing Marketing and Distribution ProfitがAmount B(またはBもどき)より低い場合には、Amount Aは全額そのまま配賦される。このパターンは、Existing Marketing and Distribution Profit、すなわちALPベースで認識される金額がAmount B(またはBもどき)にも満たないケースだから、ALPベースでは超過利益は一切配賦されていないと認定され、結果としてAmount Aが全額そのまま温存される。Amount Aの話しなので敢えて触れられてないけど、このケースではルーティン販売活動がAmount Bの適用対象となる場合には、ALPベースの固定リターンより大きなAmount Bが認識されることになるんだろう。

次に、Existing Marketing and Distribution Profitがルーティン販売活動に対する固定リターンは超えてるけど、Safe Harbor Returnよりは低いケース。このケースではALPベースで配賦される所得で少なくともAmount B(またはBもどき)はカバーしていて、さらに幾ばくかの超過利益も認識されていると考えられる。したがって、Amount Aから既に認識されている超過利益を引いて、差額が最終的なAmount A配賦額となる。

最後にExisting Marketing and Distribution ProfitがSafe Harbor Returnを超えている場合。その場合は、ALPベースで認識される所得が、Amount AとB(またはBもどき)を超えているので、当然ながらこれ以上のAmount A配賦は行われない。ここでは語られていないけど、このケースでAmount Aを上回るALPベースの超過利益を当市場国が課税し続けられるかどうかは、超過部分が他の市場国が認識するAmount Aの原資として召し上げられるかどうかに掛かっている。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborとか大袈裟な名称だけど、こんな感じで結果そのものに余り斬新なものはない。Amount Aと従来からのALPの関係においてこれ以外の結果になったらビックリだよね。ブループリント・ドラフトにはMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用に関して簡単な、と言ってもいつかのUnified Frameworkよりは若干詳細な、例示が付いているので次回はそれを考えてみたい。

Friday, August 14, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (2)

前回のポスティングでOECDが227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有した、っていうニュース、そしてAmount AとBは健在だけどAmount Cは撤廃された等、風の噂で聞こえてくる範囲でピラー1のデザイン構想に触れた。ピラー1は、米国がSafe Harbor化という難題を突き付けている上、交渉テーブルから一旦退いてしまっているので近々に合意される現実的な見込みはないこと、今後のIF各国のインプットに基づき10月のブループリント正式発表までに更なる改定が加えられること、さらに言えば今回のドラフト自体ページ数は多いけどコンセプト的なオプションを以前より詰めている点で進歩は見られるものの具体的な規則には程遠い内容であること、など諸々の理由で、現時点で余り深掘りしても無意味と考えられ、前回のポスティングでチラッと触れて、その後はFDIIやGILTI、またはAppleのEU・アイルランド判決における超過利益の考え方、とか山積みとなる「エキサイティング(?)」なトピックの数々にMove Onするつもりだった。本業の米国税法の新規則が1,000ページ以上出ているからね。

それにしても国際課税ルールを取り巻く規則の長編化は著しい。米国財務省規則に負けず、ピラー1ブループリント・ドラフトも227ページの大作。手元に原文が届くのがチョッと怖かったけど、前回のポスティング後間もなく全容が明らかになってしまい、怖いもの見たさでチラッと読んでしまった。結果、恐れていた通り、米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読解プロジェクトとなってしまい、いよいよ冗談じゃなくInterstate 90でMontanaやSouth Dakota、またはそこから旧道に入ってWyomingで自主トレでも敢行しないと対応不能状態に陥っていると言える。Wyomingね。所得税はないしLLC法の元祖だし、税務面では魅力的な州。目を閉じてシミュレーションするだけで都会の喧騒を忘れさせてくれる。地平線まで続くInterstateに他の車が一台もいないような広大な空間、周りにはどこまでも続く平原、森、山、時々突出する湖、池、水たまり(?)、透明でどこまでも青い空が瞬く間に雷空に豹変したり。都市部とは異なるもうひとつのアメリカの魅力に触れながら財務省規則にフォーカスできたら理解力もアップ(?)で格別だろう。Local Sourceの放牧飼育、つまりグラスフェッド、のビーフやバターでクリーンエナジーゲットしながら。

旅の楽しみ方はいろいろとあるけど、実際にあちこち行く前に、どういうItineraryにしようかっていう構想をあれこれ練ったりしてる時期が実は楽しみのかなりの部分を占める。西海岸のMDRを起点とすると、どっちにしてもまずはBarstowまで行くとして、そこから40で南西に下がった後Flagstaffから旧道で一気に北に行くか、または順当にそのまま15でLas Vegas、Salt Lake City経由で一気にIdahoまで行くか、悩むところ。どっちも絶景ルートで甲乙つけ難い。何回か往復することにして、両方のルートを交互に使えば済む話しだけど。夏のグランドキャニオンエリアは暑い、というかもはや熱いという表現の方が適切なので、初秋になるまでは15のルートがベターかもね。秋になったらFlagstaff近辺でプラス寄り道してもいいし。みんなも良く知ってるSedonaとかもあるしね。FDRとか405とかと違って、あの辺のInterstateは制限速度が80マイルのセグメントも多いけど、90マイルで走ってても止まってるみたいな錯覚に陥る環境で、ましてや80マイルなんかだとバックしてるくらいにしか感じられないから(大袈裟?)、オートパイロットでスピード調整して余り超過しないように注意しないとね。

一方、NYCを起点に攻めるんだったら、肝心なところに五大湖があるから最初は取り合えず西に向かってシカゴ辺りを目指すことになるけど、そこから北西に向かいWisconsin経由というのが最初のオプション。La Crosseでミシシッピ川を超えるあたりから俄然雰囲気出まくるしね。街道沿いのBBQ屋で大盛リブ食べたり。あの辺りを通過する際に立ち寄るBBQ屋開いてるのかな、ってチェックしたらCurbside PickupだけでなくDine-InもOKってことなんで、今からどのプラターにしようか悩むところ。もうひとつのルートはシカゴの南、インディアナ付近を突き抜けてそのまま西に向かい、限りない平原を通過してWarren Buffetの本拠地Omahaまで一気に行って、そこから北上してSioux Falls(スーフォールスって読みます)で90合流。これもいいルートだね。Omahaに着く前にNorth Platteの草原とかで地産のピーチかじって一休してもいいし。なんか、余りに良すぎて財務省規則読む時間反って減っちゃうかもね。

で、ピラー1のブループリント・ドラフトだけど、OECDの英語ってヨーロッパの英語なので響きは美しいけど、ところどころ読みづらい。Amount Aの「Quantum」とか言っちゃてるけど、要はAmountのことなんだよね?米語では普通、税法の世界でQuantumって単語をこんな風に使うことはないので読むたびに奇異というか、異国情緒を感じる。Quantumなんて言われると、個人的には「007」を思い出してしまいチョッと大袈裟に感じる。Daniel CraigバーションのCasino Royaleのエンディングシーンからピックアップして始まる「Quantum of Solace」に出てくる謎のOrganizationだね。何かと世知辛い今日この頃、Quantum of Solaceっていう言葉には考えさせられる。ピラー1の政治的合意もまさしくこのQuantumがどれだけ多くの国に存在するか、っていう点にかかってるかもね。

Casino RoyaleのエンディングはMr. WhiteのゴージャスなLake Como湖畔の隠れ家だけど、Quantum of SolaceはそのLake ComoからSienaに向かう湖畔のハイウェイをボンドがAston Martin(DBS V12!)でAlfa Romeo(BMWだっけ?)の追跡を振り切る格好いいけど絶対に実世界では真似してはいけません、みたいなシーンで始まる。最近、アメリカの奥地に魅せられてる点は上述の通りだけど、考えてみたらヨーロッパの湖畔、中世の街、地中海の島とかもかなり魅力的。そのうち時間が出来たらバルセロナ沖の島のひとつ、Minorca島とかに籠って財務省規則読もうかな。Ibiza島なんかより落ち着いてるし、MinorcaだってCiutadellaに行けばMaoと並んで立派な中世の街。バルセロナのゴシックQuarterには規模で負けるけど、それでも中世の雰囲気に囲まれて潮風を肌で感じながら美味しい「ロブスターライス」とか食べられたりしたら最高。ロブスターライスってパエリャの一種みたいなスペイン料理なんでサングリアとかと食するのがいいんだろうけど、下戸の僕がそんなことしたらますます規則読解が捗らない。地中海のあの辺は島とは言え、Vuelingとかのバジットフライトでロンドンも直ぐだし日曜日はローストビーフとヨークシャープディング食べにロンドンに行ったりできるはず。Pudding、アメリカで言うところのデザート、はApple Crumbleにカスタードかけて・・・。Wyomingの湖畔とどっちが捗るだろうか。と、夢は際限なく広がっていくけど、Blondie言う通り「Dreaming is free」だから、Steven Tylorに学んで「Dream On」しないとね。

チョッと脱線が激しいので、話しを基に戻してピラー1のブループリント・ドラフト。前回のポスティングでAmount AとCの重複を嫌い、Amount Cを撤廃する代わりにAmount AにCapが云々、という部分に触れた。詳しくは原文見ないとね、って書いたけど、原文見てしまったのでアップデートしておく。

ブループリント・ドラフトで言うところの「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」っていうややこしい用語の部分だけど、Amount Aを各市場国に配賦する際、ALPベースで既に超過利益を認識している国に関しては、その額に関して追加のAmount Aは配賦しないということにようだ。Amount AはALPベースの超過利益を上限Capとするという書き方をしている部分もあるけど、ALPベースで所得が認識されている部分は重複してAmount Aは配賦しない、と言うことだろう。新たな課税権やAmount Aを分け与えるまでもなく、既に超過利益が認識されてるんだから、その分はそれでいいじゃん、みたいな案のようだ。どっちか多い方を課税できるんだったら、名称の「Cap」っていう表現がピンと来ないのと、選択制ではないのでSafe Harborっていう命名も不思議。ブループリント・ドラフトでも「いわゆるSafe Harborではないんですが・・・」っていう弁解っぽい下りがある。もしかして、これをもって米国に「ピラー1にはSafe Harborも導入しましたよ~」って言ってSafe Harbor問題に対応するつもりなのかな。まさか、そんな手が通じる訳ないけど、Safe HarborじゃないのにSafe Harborって名付けてる点、意味深だ。

で、Marketing and Distribution Profits Safe Harborで「Cap」を適用する際に参照することとなるALPベースの超過利益っていうのは、市場国に市場国として落とすべきAmount Aとの比較検討の話しだから、超過利益のうちマーケット無形資産に帰する額、すなわち同じ超過利益でもR&Dや製造ノウハウとかに帰する額は相殺対象とならないはず?この辺りの深掘りはコロナ前夜の「OECDピラー1のAmount A、B、CとALP」シリーズで特集しかかっていたので興味があったらぜひ読んでみて欲しい。

ブループリント・ドラフトではMarketing and Distribution Profits Safe Harborを、特定の市場国に既存ALPで認定される課税所得とAmount Aとして新規に配賦される課税所得の重複・二重課税を防ぐ、っていうフレームワークで論じてるけど、これはすなわちAmount Aという架空の課税所得を振り分ける際、Amount Aの原資はどこの国・主体にあると認定するのかっていう、以前のポスティングで再三触れている「どこの国・主体から召し上げるか」っていう検討と表裏一体だ。機能・リスク等に基づき事業主体毎に適正水準の課税所得を算定するALPと、グローバル連結財務諸表でグループ税引前利益を公式で割り振るAmount Aを無理やり共存させるデザイン下では必然的に生じるプレッシャーポイント。したがって2019年5月のProgramme of Work当初から最重要検討課題として認識され続けている。

実は2019年10月のUnified Frameworkには、この点に係わる例示が載ってて、とても興味深かったけど、その際もAmount AはALPで認識される超過利益と相殺している。この例示は説明に便利な想定に基づいていて、County 1にある親会社P社が全ての無形資産を所有し、Country 2の子会社Q者はベースライン販売活動のみに従事、Country 3は市場国だが何の物理的プレゼンスもない、という非現実的にシンプルな設定下のものだった。なんで実務的には余り参考にならないんだけど、ただ最初からAmount AはALPベースの超過利益と相殺せざるを得ないというデザイン上の限界と言うか、前提を垣間見ることができて面白い例示だ。複数の国でALP下の超過利益が認識されている際に、どのようにAmount A総額を各国に負担させるか、とか例示と異なる現実的なセッティングで実際にこのコンセプトをどのように適用するか、っていう点はピラー1の大きな検討事項だったけど、その解決の一部をMarketing and Distribution Profits Safe Harborっていう形で規定したことになる。

具体的なメカニズムだけど、従来から論じられているAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲した上で、追加ステップとしてMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用が登場する。Amount Aを通じた超過利益の市場国への配賦は、ALPやPE課税と言った従来の国際課税フレームワークで「おこぼれ」にあずかることができていない国に恩典を与えることが主目的なので、既にマーケット無形資産に基づく超過利益が認識されている市場国にはその金額に関して敢えてAmount Aを振り分ける必要はないとバッサリ断じている。でも、この点は必ずしもそれが唯一の解釈ではなく、異論もあり得るんじゃないかな。既存ALPで認識される超過利益はあくまでもその国に属する主体にかかわる機能・リスクに基づく取引ベースの利益であって、それ以上のユーザーを活用していることにかかわる今までは必ずしも認識されていなかった超過利益と重複しているとは限らない。ALPベースの機能・リスクがあるからと言って、その分がすなわちユーザー活用に基づくピュアな市場国としての超過利益と相殺され、その分のおこぼれがなくなってしまうというのは決め事としてはあり得るオプションだとしても、経済的に本当にそうなのかどうかは個々のケースで異なり、概念的にそこまで言い切れないんじゃないだろうか。この辺りは移転価格の専門チームや経済学の専門家のインプットをもらって行きたい。

Dreaming is freeなのをいいことにWyomingだの地中海の島だのと、期せずして長くなってしまったので、ここからは次回。

Wednesday, August 5, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成

前回、「ピラー1ついに終焉 (2)」で、米国が引導を渡したかに見え、風前の灯火のようなピラー1に関して、OECDはメゲることなくブループリントで技術的な設計を継続している点に触れた。そうこうしている間に、米国では財務省が一時のCARES Actの呪縛から解放され、TCJAガイダンス攻勢モード。ここ数週間でナンと、FDII控除を中心としたSection 250(295ページ)、GILTIのHigh-Tax Exclusion(112ページ)、Section 163(j)(575ページ)、そしてCarried Interest(162ページ)、と大物規則を乱発し、1,000ページ超の読み物にふける日々となり、そろそろ本業の米国税務絡みの詳細をポスティングしなければ、とプレッシャーを勝手に(笑)感じていた。

そんな矢先、OECDが数日前に227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有したらしいというニュースがプレスで報じられている。ブループリントは基本的にはUnified Frameworkに準じる設計を踏襲しているものの、いくつか大きな変更がなされたようだ。227ページね。未だ手元に原文ないんで、読みたくても読めないけど、間違って入手できちゃったりしたら米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読み物。しかもその辺の小説と違ってよ~く読まないと理解できないテクニカル文書なので、読解所要時間は果てしない。テレワークも5カ月近くなり、プロフェッショナル業界の集まりとかもオンラインだし、NYCとかに居ても特に意味ないので、一層のこと自然あふれるWyomingやMontana、またはSouth Dakota方面のBlack Hills辺りに籠って合宿しようかな~。Location Freeなので車であちこち行ってみるけど、あの辺りは絶景でベスト。

Tristate外のFitness Centerはとっくに開いてて、無理してNYCでEast River沿いの凸凹道とかで足をくじかないように注意して走る必要もないし。せっかく一度は開いたMDRのFitness CenterもCA州知事の命令でまたしてもClose。おかげで隠れ家のコンドのジムも外の芝生でWeightができるだけでトレッドミルとかはまたしても禁止。まあMDRは気候がいいので外のBike Pathを走ればいいんだけど。それでもジムが開いている方がベター。夜のバーとかに制限を設けるのはなんとなく分かるけど、みんながより健康に注意して抵抗力をアップさせないといけない今日この頃、人数制限してでもジムは開けてほしいところ。

となると、やっぱり合宿はWyoming、Montana、South Dakota辺りかな。90とか東海岸からでも、西海岸からでも、Interstate飛ばして行くのは道中も最高だし、敢えてたまに旧道通ってみたりするのも乙なもの。旧道ってInterstateと企画こそ異なりSurface Roadだけど、とは言え信号もめったにないし車も少ないのでスピードはInterstateと変わらない。むしろ東海道五十三次じゃないけど、要所要所に登場する宿場街みたいな数々の小さいな街とか雰囲気抜群。ルート66が有名だけど、旧道Highway 89でFlagstaff辺りから北上してYellowstoneの北ゲートから一気にLivingstonまで行き、その辺りでひっそりと財務省規則読んだら捗るかな。雪が降り始めるまでは冗談じゃなくいいかもね。

で、ピラー1のブループリントだけど、物理的な存在なしに課税権を認める大枠は従来通り。超過利益の上澄みをAmount Aとして配賦し、ALPもどきでベースラインの販売機能にAmount Bで一定の所得を認定するのはUnified Framework通りらしいけど、なんと、Amount Cは撤廃される提案という噂。Amount AとCの重複を嫌っての策らしいけど、ピラー1はALPと共存だったはず。Amount Cは従来のALPベースで計算されるほぼ唯一の重要部分だったので、これを廃止してしまってはALPから更に遠のく。ALPからの乖離を嫌ってピラー1をSafe Harborにしようと提案していた米国がどのように反応するだろうか。Amount AにCapを設けて対応するとか言われているけどね。詳細は原文見てみるまで不明。CPM的な販売会社への一方的な所得創出はコロナ禍でシステムロスに陥るグループが多く存在する環境でその限界が露呈されているだけに、Amount Bをそのまま温存しているのもチョッと意外。

デジタルサービスのほとんどがスコープ内なのは、ピラー1の目的を考えれば当然だけど、テイラーメードの専門サービス等、特定のものは除外。問題のConsumer-Facingに関してはB to Bはスコープ外で、B to Cのみが対象となるような感じ。デジタルサービスに網を掛ければ十分なので、こちらは結局はオマケみたいなものだろうか。デジタルサービスと異なり、売上があるばかりでなく追加のプレゼンスがある場合に課税権を認めるそうだ。

後はコンプライアンスだけど、親会社所在国にAmount Aを報告する申告書を提出し、それを関係諸国に共有するとか、係争処理のために8か国のパネルを設置するとか。う~ん、結構先は長そうだ。当面は米国のGILTIとか読んでる方が実益ありそうだね。