Showing posts with label BEPS 2.0. Show all posts
Showing posts with label BEPS 2.0. Show all posts

Sunday, January 2, 2022

2022年、明けましておめでとうございます!

大みそかからお正月にかけてNYCは比較的温暖で大助かり。12月後半、Vermontの山奥に自主トレ(何それ?)に行った際はさすがに冷えてたけど、NYCは日中はコートなしでもOK。SOHOのピザ・ジョイントの外で美味しいペパロニを夢見て20分とか並んで順番待つ(住んでる人はどこか分かるね?)のも全く苦にならないいい感じの年末年始となりました。

一応、お正月は自分でお雑煮とか作るんだけど、海外に居ると日本だったら当たり前の食材が手に入り難かったりして困ることがある。三つ葉は何とか手に入るけど、今年はユズの調達に出遅れてしまった。この2つなしではお雑煮にならない。例年、個別にラップされた若干色の悪いユズを12月後半に日系スーパーで調達していたけど、今年はVermont修行から戻ったら既にどこも売り切れ。そこでLexと47にあるマーケットの野菜売り場の方の貴重な助言で見つけることができたのが、冷凍のきざみ生ユズ皮。既にお雑煮にのせるサイズに刻んであって香りもまあまあで合格。しおれ気味の本当のユズより良かったかもね。日本って、ユズだけでなく、かぼす、すだち、とか柑橘系が充実してる。こっちだとレモンかライムだもんね。

2020年3月にコロナ感染の増加に伴う医療機関への負荷を抑える(「Flatten the curve」)みたいな趣旨で数週間だけ、っていう話しで始まった米国のWork from Home。突然「明日からしばらくオフィスは立ち入り禁止」ってなった日を境に、時の流れに対する感覚が麻痺して、2021年も一体全体長かったんだか、あっという間だったんだか、よく分からないSurrealな時を過ごす結果となった。Work from Homeの環境は数週間ではなく、結局2年近く続いた挙句にこのまま定着しそう。まあ、ビジネストリップ、ミーティング、会食とかが普通にできるようになってるんで、普段の時間の多くをWork from Homeで使えるのは効率的でWelcome。以前からLocation Freeだった僕的には大きな違いはないけど、そんなワークスタイルがよりオフィシャルになった感じ。オフィスに行きたい人は行ってもいいのでこのスタイルが暫く続くんだろう。

米国社会全体を見ていても、South Dakota、Florida、Texasみたいな比較的個人の判断や自由を尊重する州知事下では当初から州政府や官僚による強制的、かつ気まぐれとも言える制限は最小限だったけど、州政府や官僚が州民の箸の上げ下ろしにまで介入するCaliforniaやNew Yorkのような左翼州でも、さすがに以前よりバランス感覚のある現実的な政策にシフトしつつあり好感が持てる。あのファウチですらCDCの自主検疫期間短縮に関して、ロックダウンや長期にわたる隔離措置の弊害、すなわち経済・雇用面、国民のメンタルヘルス、コロナ以外の疾病対策、ドラッグやアルコール依存、子供たちの教育、とかへの影響も考えないといけない、と発言してた。2020年にそんな発言しようもんなら「Disinformation」として徹底糾弾されたんだろうけど、まあNever too lateだから一応評価してあげないとね。

なんだかんだ言って複数の効果的なワクチンを超スピードで開発し、なし崩し的に街もオープンし、世界の他の国との比較で行くと米国はまだ自由だったんだろうね。それもこれも「Privateセクター」の頑張りのお陰で、政府やポリティシャン、官僚が役に立っている例は少ない。ワクチン開発を後押ししたオペレーション・ワープ・スピード位だろうか。治療薬も徐々にマーケットに出てきてるし、2022年はコロナのVariantとかが次々出現してもそれほど大きなニュースにはならない世界になっているだろう。

それにしても個人の自由を尊重するFloridaの成功は、以前から民主党左翼議員、メインストリームメディア、ソーシャルメディアにとっては目の上のタンコブみたいな存在で中傷が絶えないけど、そんな左翼議員も散会になると真っ先にFloridaに飛んで(カーボン使って?)、普段糾弾しているその自由を謳歌したりするんだから、ポリティシャンたちの偽善ぶりは相変わらずで笑える。厚顔無恥じゃないと務まらないよね。

2021~22年のタックスワールド

さてさて肝心の(?)タックスはどんな感じでしょうか。半分予想通り、財政規律のないバイデン・アジェンダは暗礁に乗り上げ、Built Back Better(「BBB」)は少なくともオリジナル案は頓挫。15%の会計利益ベースのAMTとかコンプライアンス負荷は凄まじいものがあっただろうから、一回落ち着いてリセットするのがいいだろう。

BBBは、Leveragedスピン規制、無価値の株式損計上を含むGranite Trust的なプランに対する規制、Inversion規制、株式Buyback規制、とかCorporate Transactionにも結構な影響があっただろうから、これらの法制化がとりあえず一旦消えたのは複雑な検討が減って一安心。特にLeveragedスピンは、スピンする資産の税務簿価の制限を気にすることなく、スピンされる法人の長期負債を使用してスピンする側がLeverageを低下させることができるので、キャピタルストラクチャーのAlignmentには有益な手法。スピンする側が非課税で法人資産を時価現金相当を対価に法人外に出しているように見えるので、General Utilities撤廃原則に反するってことで目の敵にされることがあるけど、別の見方をすれば、もともと一つの法人内またはグループ内だった2つの事業やDivisionに関して各々の最適なキャピタルストラクチャーを採択したり、正確にDebtを配賦しているケースは少なく、単純に親会社にDebtやNoteが集中しているケースが大半だろう。

スピンの際には、各々の事業にかかわるキャピタルストラクチャーを最適化する必要があるので、スピンされる側の長期Noteでスピンする側の負債を返済したりする。IRSのルーリング・ポリシー的にも、基本的にはスピンする側とされる側のトータルでDebtが増加していなければ、スピンする側が実際にDebtをExchangeしても、投資銀行が仲介したとしても、非課税スピンの枠の中で達成できる、としていたのもまさしくキャピタルストラクチャーの最適化なのか、実質資産譲渡なのかの区別をするため。BBBではこれを禁止することになっていた。

TCJA系の財務省規則は、出る出るっていう前触ればかりで、政権の交代を機にかなり滞ってたけど、BBBの沈没でリソースに余裕が出たせいか、FTCの大型最終規則が年末ぎりぎりに公表された。ず~と待ってて今年中に最初のトランチが出ると言われてたPTEPの規則はどうなったんでしょうか。PTEP超楽しみにしてんだけどね。FTC最終規則は、規則草案でDSTを想定ターゲットとしていたJurisdictional Nexus要件をAttribution要件と名を変えて採択。

OECDもようやくピラー2のIIRとUTPRの詳細を公表するに至った。こんな複雑かつ新たな制度、どれだけの国が実際に施行できるのか不思議だけどね。その結果想定される歳入増の金額と企業側の負荷が不均衡。BBBが暗礁に乗り上げてGILTIの国別計算とかも一旦白紙撤回になっているけど、どうするんでしょうか。

ということで2022年のタックス・ワールドも目を離せない。今年もよろしくお願いします。

Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Friday, May 21, 2021

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。

相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案

米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。

そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。

米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。

ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。

で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?

米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?

Monday, May 3, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(3)

前回はBEPS 2.0の米国新提案のうち、ピラー1に触れた、米国の提案はセクターを問わず機械的に$20Bの売上、利益率のみでAmount Aの適用対象者を決めようっていう「Comprehensive Scoping」。

クロスボーダー課税新秩序を自国のルールや利益に合致させようっていう急な登場を見て、なんかホワイトアルバムに入っているSexy Sadieの歌詞を連想してしまって前回はその話しでチョッと長くなったね。ホワイトアルバムは、SGT PepperやAbbey Roadにはないライブ感というか、プロダクションっぽくないところというか、コマーシャル的な制限やプレッシャーを全く感じずにアーティストとしての可能性を好き放題追及しているっていう意味で、一番好きなアルバムっていうファンも多いのでは?個人的にはビートルズに関してはどのアルバムも全部各々味があって甲乙付け難い。UKデビューのPlease Please Meだって今聴いても斬新。

ホワイトアルバムはチョッと前に50年記念の超デラックスバージョンが出てて、大量のアウトトラックが正式公開されてるけど、アルバムバージョンとの比較においてメンバーが和気あいあいと各々の作品を形作っていっている感じが印象的だった。ホワイトアルバムセッションの直後のLet it Beセッションも含め、あの頃ってバンド内がバラバラだったイメージが定着してたけど、ホワイトアルバムのアウトトラック、50周年記念のAbbey Roadのアウトトラック、Peter Jacksonの新Let it Be (「Get Back」)等で実はそんなことはなかったっていう話しになりつつある今日この頃。確かにバラバラじゃあんな凄い作品次々できないよね。Peter JacksonのGet Backは一年遅れでこの夏8月27日公開予定。Get Back公開前に倒産して二度と開かないのでは?、って心配されたNYCの映画館もいつの間にかオープンしてるし、大きなスクリーンといい音で見るの楽しみ。何と言ってもRooftopがフルに入ってるってことだし。

ホワイトアルバムはSexy Sadieの他にも名曲満載。John Lennonの作品としてはDear Prudence、Glass Onion、Happiness is a Warm Gun、I’m so Tired、Julia、Yeah Blues、Everybody’s Got Something to Hide except Me and My Monkey (小さい頃、この曲のタイトル長すぎて覚えられなかったな)、Cry Baby Cry、Good Night(ボーカルはRingo Starr)とか緩急自在な逸作がギッシリ。Paul McCartneyももちろん絶好調でBack in the USSR、Ob-La-Di Ob-La-Da、Martha My Dear、Blackbird、I will、Mother Nature’s Sonとか全部いいね。Martha My DearはPaul McCartneyが当時飼っていた愛犬の Sheepdogを歌ったものだけど、英国っぽいいい曲だよね。ピアノのイントロ気持ちよくて、一応小さい頃バイエルの黄色本までは頑張ったんで、小学校の頃、耳で聴いて練習したもんだ。キーがE♭なんで黒鍵が多くて難しめ。Paul McCartneyがこの曲のピアノは自分の曲の中でも右手と左手が一緒じゃないから難しいって言ってたけど本当だ。ホワイトアルバム直後のLet it Beセッション前半、Twickenham StudioでPaul McCartneyがMartha My Dearのピアノを一人で延々と弾き続けてる海賊音源があるけど、その後ろでJohn Lennonが誰か、もしかしたらアシスタントのMal Evans(?)と、George Harrisonがバンドから出て行ってしまった頃みたいで(数日後に復帰)、帰ってこなかったらどうするかみたいな生々しい話しをしているのが聞こえてくる。John Lennon曰く「Georgeがバンド辞めたんだったら、辞めたんだから仕方ないじゃん」みたいなことを言い、「その時は(Eric)Claptonに入ってもらおう」とか言ってて凄い。何年も後にPaul McCartneyがソロで来日した際の武道館(?)のリハーサルの一部でMartha My Dearの前奏一部を弾いている音源もネットに出回っている。

Martha My Dearね。ピアノのイントロ途中のA♭Maj9の和音の美しいこと。その直後B♭7やA♭に続いていくところとか聴いてると明日にでもAbbey RoadのあるSt John’s Woodに引っ越してしまいたい気分。South Dakota、Florida、Texasと迷うけどね(全然違うけどね、この4か所)。でも、Martha My Dearがレコーディングされたのは実はAbbey Roadではなく、SOHO(ロンドン)のTrident Studio。当時Abbey Roadの機材は4トラックだったらしいんだけど、Trident Studioは8トラックあったのが理由。ちなみにHey Judeの録音もTrident。もちろん物好きの僕としては訪ねて行ったことあるんだけど青いマーク以外は跡形もなくてチョッとガッカリだった。まあ、Twinckenham行った時と同じでそこの空気据えただけで幸せって感じ。気のせいか独特のVibeがあるSOHOの裏道。

Martha My Dearは、ピアノ、ボーカル、ドラム、ベース全部Paul McCartneyで、真ん中に出てくるギターはA♭Maj9の裏ピックのリズム感がてっきりJohn Lennonかと思っていたらGeorge Harrisonだそう。ストリングとブラスのオーバーダブはもちろん他でもないSir. George Martinの手によるものだけど、50周年バージョンにはストリングとブラスがないNakedバージョンが入っていてそれはそれでライブっぽくていい。後からオーバーダブしたPaul McCartneyのベースも格好いいけど、Nakedバージョンはベースも入ってない、ボーカルもユニゾンのオーバーダブが加えられる前のバージョンだ。Paul McCartneyが左利きだからって訳じゃないだろうけど、ベースがなくてもピアノの低音が効いててかなり格好いい。なんかこの左手、HendrixのCrosstown Trafficのドスの効いたピアノの低音みたい。う~ん、いいね。ワクチンも打ったしロンドンは検疫とかなしで入れてくれるようになったかな。

ごめん。何の話しだっけ?Comprehensive Scopingだよね。

そして正当化は続く

イエレン長官のComprehensive Scoping自賛はその後もしばらく続いて結構しつこい。既にプレゼン済みの話しと同じだけど、別のスライドでAmount Aの適用を特定のセクターに限定するのは恣意的かつ差別的、世界トップ100社はグローバル市場から最も恩恵を受け無形資産を活用している輩たちだから課税対象として不足はなく、ピラー1対応コンプライアンス負荷に耐えうるリソースを有するので標的として申し分ないという。法を執行する各国税務当局にとっても100社にフォーカスすることで負担が減る。

そして、Comprehensive Scopingはピラー1が抱える一番の問題であるセクターの特定およびセグメント化の問題を不要にするという簡素化及び確実性を提供する。更に前回も触れた通り、歳入を同じレベルに保ちながら適用対象を100未満にできる。これらの施策で、グローバル課税システムに不要な負荷を強いる弊害を取り除き、ピラー1成功のチャンスを最大限化できる、としている。

Comprehensive Scoping対象企業とクロスボーダープラニング

Comprehensive Scopingは売上と利益率のみで機械的に上から100社選択する。まずは売上基準で「ふるい」に掛け、そのステップで引っ掛からなければその時点でGame Overだから多国籍企業がそれ以上Amount Aの心配する必要はない。売上基準の金額は明記されてないけど、口頭で$20Bを考えていると伝えたと報道されている。次に、勝者(敗者?)決定戦の利益率基準。イエレン長官曰く、この決勝戦で抽出される企業は、世界でも有数の収益力を誇る企業となることから、そのことをもって無形資産を活用しているに違いなく、阿漕なクロスボーダープラニングへの関与が最も怪しまれる対象である、と決めつけている。

バイデン政権の財務省高官は法人や富裕層に厳しい、というか憎悪すら感じられる表現が他の資料にも見られるけど、中でもトップ100社だからBase Erosionの総本山ということなのだろうか。米国企業だけの話しだったらまだしも、他国の大企業の税カルチャーとか分かってんのかな。どちらかというと、Comprehensive Scopingにしてしまうと、そもそもアクション1からの流れでピラー1のポリシー目的はなんだったのかっていう部分がより分かんなくなるけど、100社としてもそれらの企業が無形資産を駆使してクロスボーダープラニングに関与している連中だから、っていう推定事実認定をしてしまい、であればデジタル企業に対する新秩序っていう目的に適ってるね、っていう納得感を与えるためのコメントなような気がする。

Comprehensive Scopingで終わりではないAmount A設計

Comprehensive Scopingで対象100社を機械的にバッサリ抽出してもそれでAmount Aの難解ステップが終わる訳ではない。そこからも迷路は続く。プレゼンでも、誰に超過利益をばらまくのかを決めるNexus、セグメンテーション(?)、係争防止・解決、他の要素、の検討をする必要があると続いているけど、単にBullet Pointsで羅列されているだけでそれ以上の深堀はない。Nexusに関しては「プラスファクター」を設けることで不要な混乱を招いているとし、発展途上国がピラー1の課税に参加できるようなNexus定量基準に弾力的に対応する用意があるとだけしている。Comprehensive Scopingが導入されると、セグメンテーションの問題はなくなるはずなんで、なんでここでセグメンテーションの話しを蒸し返してるんだか不明だけど、セグメント計算は複雑とした上で、Comprehensive Scopingを採択したらその必要はなくなるとしつこく説いている。

係争防止・解決はピラー1合意の成果として米国は重要視しているとし、課税の確実性が担保されないピラー1はあり得ず、必然的に拘束力を持つ係争防止および解決手続きが不可欠としている。これは言うが易しで、一つの国の中での係争と異なり、最終的にどんな形で法制の効果が及ばない他国に「拘束力」を適用するのか。国内であれば理論的には法廷侮辱罪に基づく罰金・収監や判決で確定した債務の徴収にかかわる資産差し押さえ、とか策があるけど、「そんな決定は紙切れ」とかって言う国が出てきたらどうするのか。軍隊派遣する?まさかね。また、100社のために特別なパネルをセットアップしたりするんだろうか。いろんなポジションが増えて雇用にはいいかもね(苦笑)。でも、そんな大げさなパネルが必要になるってことをもってして設計に問題があるとも言えるのでは?

他にも、売上源泉地をどうやって決めるのか、税引前利益の算定、利益率基準に満たないケースの複数年度に亘る調整、超過利益配賦法、二重課税の排除、事務手続き、施行、等の問題が羅列されている。

DST

最後に、ピラー1の国際合意時に各国が取り下げることになる「関連する一方的な課税措置」の正確な定義を煮詰める必要があるとしている。それはそうで、せっかくピラー1に国際合意しても、各国のDSTと共存ではただ単に追加の税金が増えるだけ。正確に定義した上で、各国税務当局による取り下げ順守を確実にしないといけないとしている。関連する一方的な課税措置かどうかの判断基準の例として、条約と関係なく適用されるか、法的または結果として差別的な制度か、Amount Aとは別の課税権を構築しているか、を挙げている。イエレン長官のプレゼンはここで突如終わる。Abbey RoadのA面最後のI Want Youみたいに。

パラダイムシフトのピラー1

この提案を見るとAmount Aにアクション1から議論されてきたデジタル企業への課税法という色はなくなり、理由は問わず、儲かっている大手からは税金を国際的に取るという歳入フォーカスの制度に変わろうとしている。まあ、米国はずっとデジタル経済をリングフェンスしてはいけないって言ってきてたんで、Comprehensive Scopingだったら確かにリングフェンスはない。また、Amount Aのフォーカスは、物理的な存在を伴わなくても市場国から得ることができる無形資産から生じる超過利益だけど、一定サイズで利益率が高いことをもって無形資産の超過利益があるという推定事実認定になっている。もともとGILTIがそのアプローチに近かったけど、バイデン政権案では超過利益ではなく、CFCの所得は全てGILTI課税と提案されている点と不整合で皮肉。それにしてもComprehensive Scopingになると、金融はAmount A対象になるんだろうね。

Amount Bはどこに?

ところで、米国財務省が言うところのピラー1って、イコールAmount Aのことみたいなんだよね。実はイエレン長官のプレゼン自体にAmount Aって用語は一回も使用されてなくて、ピラー1って言及し続けている。その割に、内容的にはAmount Aの話ししか出てこない。Amount Bだって立派なピラー1の一部だったと思うんだけど、全く言及されてない点は興味深い。Amount Bの運命は不明だけど、米国案ではAmount Bは廃案かもね。まあ、Amount Bは所詮ALPの世界の話しに準じてるし、あんな単純な規定に関して各国がスコープで揉めたり、%にレンジを儲けるとかセクター別の%にするとか、そんなんだったら確実性を担保する目的も達成できないし、一層のことなくてもいいかもね。もともとピラー1の目的だった新たな課税権や利益配賦とは一切関係ないしね。

まだまだ残る不明点

この前のポスティングでも触れたけど、利益率基準の%は決まってない。10%っていうのは既存のOECDブループリント案だったらいくらの超過利益が認識されるか、っていうターゲット金額を算定するためだけに使われている。ブループリントに基づくインパクトアセスメントでは、10%の利益率基準だと、780社が抽出され、総計で$500Bの超過利益(Amount Aではない)を認識できると試算されてた訳だから、米国案で100社でこれを達成しようというからには一社当たりが負担するAmount A対象額は算数的にもっと大きくなるはずだよね。もしかして毎年変動するっていうか、利益率%ではなく、$500Bになるように調整するのかな。なんか変だね。お小遣いのバジット立てるときに、1000円あるからランチは700円に抑えておやつに300円回すか、っていう方向ではなく、ランチは1,200円で、おやつはお茶とケーキのセットで1,000円、ついでに帰りにアイス買うからプラス100円。ってことはお小遣いは2,300円下さい、っていう感じ?全然違うって?そうかな。

ところで、米国ピラー1提案が冒頭で宣言してる「結果として米国企業に差別的な適用となる制度には絶対反対・・」って部分だけど、ADS・CFBの代わりにComprehensive Scopingにして売上基準や利益率基準を適用しても、結局のところトップ100社は不均等に米国になるんじゃないだろうか。サイズだけ見ると中国企業も結構な数ランクインするだろうけど利益率の部分で結局大半は米国?最終的にAmount Aの対象となる企業数に米国企業が占める割合はADS・CFBのケースと大差ないんじゃないかな、ってチョッと不思議なんだけど、産業ミックスが変わり、金融とかも入ると超過利益の金額はそのままでも再配賦される金額のインパクトは小さくなるんだろうか。それくらい、チャッカリ裏で計算した上で提案してそうだよね。

それにしてもこんなの米国議会通るのかな。OECDをさんざん煽って結局議会で法律通らなかったら顰蹙。Sexy Sadieどころじゃなくて「They're going to crucify me」(?)。

Sunday, April 25, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(2)

アメリカはSexy Sadie?

前回のポスティング「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」では、自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下する懸念から世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと米国が急激にOECDにラブコール(って言うと可愛いけど実態はほとんど強要?)を送っている点、ブループリントとは若干異なる米国新提案でBEPS 2.0が息を吹き返している点、主役はピラー2になっている点、等に触れた。

最後の最後に登場して、みんなをTurn Onさせるなんて米国ってまるでSexy Sadie。Sexy Sadieはビートルズのホワイトハウス、じゃなくてホワイトアルバム(正確なタイトルは「The Beatles」)っていう2枚組アルバムの2枚目のA面(やっぱりVinyl時代のアルバム構成が頭から離れない)に入っているJohn Lennon作の名曲。ビートルズファンなら知っていると思うけど、インドのマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーっていうヒンズー教系超越瞑想(TM)の伝道師(?)というか活動家に対するJohn Lennonの幻滅を歌にしたもの。もともと無名だったマハリシは熱心に地道な活動を続けてたみたいだけど、相当な野心家だったようで世界に教えを普及させようと考え、米国に進出。サイケデリックっぽいトレンドと相性が合い、ビートルズのGeorge Harrisonの目に留まり、ストーンズその他のセレブがマハリシのカンファレンスに参加するようになる。

ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインが自宅ロンドンのChapel Streetで急死してしまった際、ビートルズが英国のウェールズでマハリシの10日集中カンファレンスに参加してる最中だったんで、このカンファレンスはより知られることになる。John Lennonの当時の配偶者であるシンシアがロンドンの(ウェールズ行だから多分)Euston駅で大勢のファンやセキュリティーに阻まれてホームに辿り着くことができず一人列車に乗り遅れたっていう話しも有名。その後、John Lennonとの当時の距離感を象徴する出来事だったとシンシアは回想している。その後も、ビートルズはヒマラヤ山脈のマハリシのカンファレンスに参加したりして、その間にたくさんの曲ができてホワイトアルバムに収められることになるけど(Dear Prudenceとか、Bangalow Billとか)、Sexy Sadieは、精神的に超越してるはずのマハリシの本性と言うか、性癖とか商業的な成功(要はお金)を追及する姿に幻滅したJohn Lennonがヒマラヤから突然帰る決定をした際に書いた曲。最初は曲のタイトルもマハリシそのものだったらしいけど、もしアルバムに入れるんだったら歌詞を変えるようにっていうGeorge Harrisonの要請で歌詞に手直しが加えられている。ただ、名前がマハリシからSexy Sadieになっているだけで言いたいことは同じ。「Sexy Sadie, what have you done? You made a fool of everyone」って始まって、「Sexy Sadie, you broke the rules. You laid it down for all to see」とか「One sunny day, the world was waiting for a lover. She came along to turn on everyone. She's the greatest of them all」って繋がっていく。世界一のペテン師というか、偽善者というレッテルを張っているようなイメージ。実際に何があったかは諸説あるけど、マハリシが相当やり手のビジネスマンだったのは確か。偽善者ね。そんなこと言ったら今の世の中、ポリティシャンの多くはSexy Sadieだよね(苦笑)。Baby You’re Rich ManとかでもみられるJohn Lennonの社会観が良く出てていいね。

で、世界がBEPS 2.0の国際合意を目指してああでもないこうでもないってさんざん時間を使っていたところ、急に登場してきたアメリカをSexy Sadieに置き換えて聴いてみるとピッタリ。最近(?)ではホワイトアルバムとか知らない人も多いだろけど。歌詞はその後も「Oh how did you know. The world was waiting just for you?」 「However big you think you are」「We gave her everything we owned just to sit at her table」「Just a smile would lighten everything」「She's the latest and the greatest of them all」とRelentlessに続いていく。

ブループリントのままでなぜピラー1は国際合意困難?

前回のポスティングで、米国新提案では、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税制度が不可欠、っていう切り口で脇役のようにピラー1が最後に登場してくる点に触れた。この位置関係は面白くて、もともとBEPS 2.0は経済のデジタル化に対応できるクロスボーダー課税の新秩序合意を主たる目的としていたと理解していて、その主人公はピラー1で、ピラー2はその後「残された課題」、それが具体的に何なのかっていう点は別としても、に対処する脇役っぽいイメージがあった。立場が逆転しているみたいで皮肉というか面白い。

米国のピラー1新提案は、ピラー2との比較で、推進というよりは牽制に近い。各論に入る前に「米国企業に不公平な結果となる制度はいかなるものでも容認しない」と太字で言い放っている。そんなこと言っても、たまたま現状ではピラー1が解決しようと試みてるデジタル化の進んだ大手ハイテク企業の利益の源泉はほとんど米国企業だから、結果として米国企業に負担が重くなるのは最初から分かっていて、そうでないようにするってことはピラー1の目的から根本的に見直す必要が生じる、ってことになる。で、その通り、根本的に見直しが必要となったと言っても過言ではない提案内容に至るんだけどね。

まず、米国によるピラー1の現状分析だけど、ブループリントでOECDもいろいろと頑張ってるのは分かるけど、設計が複雑過ぎて国際合意に漕ぎつけようとする際の大きな障害になっているとしている。これはBEPS 2.0全般にその通りだと思う。140ヵ国が皆インプリメンテーションできる制度でないと現実味がない。また、推定される歳入規模との比較で複雑さが不均等だと指摘し、ブループリントの提案内容のままでは費用対効果が悪いとしている。したがって簡素化が必要と。

複雑さの諸悪の根源は?

簡素化の必要性は、僕も以前から国際合意の大前提だと繰り返し言ってきたんで米国の言う通りだと思うけど、じゃどうすんの?ってところで登場してくるSadie、じゃなくて米国の代替案がチョッとお手盛りっぽい。すなわち、ブループリントの複雑性や困難の諸悪の根源は、「Amount Aの適用対象者をどのセクターとするのか」っていうスコープ部分としている。ADSだのCFBだの、恣意的に適用対象セクターを決めるアプローチは実践困難かつ係争の源で、またポリシー的な正当性や規律に欠けるとバッサリ。

つまり、ADSだのCFBって言う部分こそが国際合意を妨げている主原因だということ。CFBって米国、しかもバイデン政権の前身となるオバマ政権が言い始めたんじゃなかったっけ、って他国は反応するだろうけど、そこはSadieなので仕方がない。確かに企業グループの活動にスコープ内外の活動が含まれる場合、セグメンテーションとかかなり恣意的になる問題は多い。ただ、CFBは置いておくとして、もともとBEPS 2.0って、ADSに対処するために世界で新秩序合意を目指していたんじゃなかったっけ。デジタル化に伴い物理的な存在がなくてもユーザーがたくさんいれば儲けることができる、そして実際に儲けてるハイテク企業に対してユーザー国に新課税権を与えるっていうのが一番のポリシー目的だったのでは?それが無くなると単に儲かっている大手企業の利益を多くの国で分けましょう、って感じの制度になってしまうし、ADS以外のセクターはユーザー国にもともと物理的な存在があるケースが大半なんじゃないかな。

Comprehensive Scoping

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。Comprehensive Scopingでは、適用法人の判断は原則、機械的に売上と利益率のみに基づくとし、結果として選択される対象企業数を100未満に抑えるべきと定量的な適用結果数を指導基準(?)として提示している。あれだけ苦労して世界中で100社なんだね。

このアプローチだと、対象法人数が100社未満に収まるよう基準を「逆算」することになる。米国は「産業やビジネスモデルには関係なく」としつこいけど、もし(=「if any」)特定の産業を除外するんだったら、解決不能レベルの適用困難さ、根本的な政策不整合、とか規律のある規定で超例外的に判断する必要があると付け加えている。以前から言われている資源採取とかの特殊産業にかかわるもののことだろうか。

100社未満でも歳入は維持

で、Comprehensive Scopingで適用対象企業グループ数を100未満としても、ブループリントやOECDのインパクトアセスメントで想定している最低限の歳入は確保する、として中立性を強調している。要はComprehensive Scopingに変えても、ADSやCFBアプローチと比較して損得ないようにするということ。これは少なくとも超過利益額の話しのように聞こえる。対象からハイテク企業が少なくなると、再配賦の対象となる所得のうち、現時点で課税されていないNowhere所得の比率が下がるようなことはないんだろうか。

具体的には、現状のブループリント案に基づきCbCR基準の750Mユーロベースで対象企業グループを絞ると2,300社となり、そこから仮に超過利益の認定基準を10%の利益率と低めにおいても780社のみが対象で、そこから生まれる超過利益総額は$500B弱と表示している。これはインパクトアセスメントのデータに基づくんでOECDの試算。$500Bは超過利益総額だから、Amount Aはそのうちの「Upper Portion」が対象。仮に20%部分とすると$100B。これに税率、例えば20%掛けると$20B。Amount Aは再配賦なので、どこかで既に認識されてる所得。したがって$20Bまるまるプラスの歳入となる訳ではない。もちろんバミューダとかケイマン諸島に眠っている所得はまるまる歳入増に繋がるけどね。でも、こう考えていくとAmount Aの歳入効果って結構小さい話し。バイデン政権のコロナ対策やらインフラ、そして4月28日に公表予定の社会保障系の歳出案は、合わせると$5T(Bではない)超だから、だったらバイデン政権の予算に盛り込んでOECDに$20B($5T全体の僅か0.4%)渡してDST廃止してみんなで分けてもらった方が早いんじゃない、って言う規模感だ。ちなみに$5Tって日本のGDPだからね。凄い歳出規模。この国既に借金多いけど大丈夫かな。ドルが準備通貨のうちはいいのかもしれないけど。ドルも下がり気味で、インフレも実はじわじわと来てる感じ。

利益率10%

で、この10%という利益率だけど、ターゲットの歳入をどこかのレベルに仮置きして試算する際に、10%に基づく現状ブループリント案下のインパクトを流用して議論しているだけで、米国提案が10%利益率基準と言うことではない。売上基準は口頭で$20Bと表明されたと報道されている一方、利益率に対する具体的なコメントはなかったそうだ。ただ、データがあれば、$20Bの売上で、最終的に100社未満で超過利益総額を$500Bとすればターゲットとなる利益率は逆算可能。

今まで「うちはADSじゃないし」とか「多分、CFBにも当たらないだろう」とか安心していた日本企業のも再考が求められる状態だ。まあ、$20Bの売上は大きいから、それでも適用は限定的かもしれないけど、21%のグローバルミニマム税の方は適用数は圧倒的に多いだろうからピラー2は心配だろう。いずれにしても、米国曰く「Bottom Line」、すなわち結論は、Comprehensive Scopingが実行容易でかつ考え方としても最も規律があるとのことだ。CFBとか結局何だったんでしょうか。

ということで、次回はもう少しComprehensive Scopingを続けてみる。急にその気になって登場し、自分のルールで世界を席巻しようとするSadieこと米国が、思惑通りスマイル一つで世界をLightenしてくれるのかな。

Monday, April 19, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案

息を吹き返すBEPS 2.0

米国とOECDがここ一か月ほど急激に接近している。バイデン政権下で米国が多国主義に戻ろうとする動きは想定通りだけど、ブループリントで提案されているピラー1と2は共に規定が複雑過ぎてとても実行可能に見えず、米国とOECDが意気投合したくらいでは140ヵ国の国際合意は難しいのではと考えていた。ところがここに来て、ブループリントより簡素化した内容の米国新提案でBEPS 2.0は急ピッチに息を吹き返している。OECDとしては2021年10月のG20会議まで何らかの国際合意を取り付けてメンツを保ちたいところ。

世界中を増税に追い込み相対的な競争力低下を回避

バイデン増税案による法人税28%、そしてGILTI21%、しかもルーティン所得免除撤廃に加え国別バスケット導入、は米国多国籍企業にとってかなりの重荷となる。特にグローバル所得を毎期21%、さらにFTCの制度次第だけど実際には26.5%、プラス州税で30%超の課税となるとかなりのゲームチェンジャー。これを米国が単独で実行すると当然、相対的に米国企業の競争力は低下し、米国企業のM&Aで外国企業が有利になり、さらにスタートアップを米国法人として組成するデメリットが増える、など余りいいことはない。そこでBEPS 2.0のピラー2が便利な存在となる。

イエレン長官によるOECD Steering Groupへのプレゼン内容

プレスで報道されている通り、イエレン長官(おそらくキム・クロージング一派が草稿)が4月8日にOECDのSteering Group of IF Meetingというバーチャルイベントで、BEPS 2.0 にかかわるバイデン政権のスタンスに関するスライド・プレゼンテーションを行った。地味な青地の表紙に中身は白地で役所っぽさがいい。スライドの各ページの右下でマージンもなく「The Department of the Treasury」1789年と記された紋章が付いて重厚さを醸し出している。1789年というと憲法草稿から2年後だね。Founding Fathersがタイムマシーンにお願いして今の米国のガバナンスを見たらどう反応するだろうか、って考えることも多い。

ピラー2でキックオフ

で、米国のプレゼンが面白いのはピラー2から始まっている点。1と2っていうピラーがあって2つ共カバーするんだったら普通は1から始めそうなものだけど、はやる気持ちを抑えることができなかったのかも。何と言っても自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下しないよう世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと急激にOECDに接近しているからで、これはもちろんピラー2の世界の話し。

冒頭で米国は法人税率の「Race to the bottom」に終止符を打ち、各国が協力してもっと公正な成長、イノベーション、そして繁栄を達成できるようなクロスボーダー課税制度を確立したいと希望している、と宣言し、ピラー2はいいフレームワークなので、この素晴らしいプルジェクトを「強固に」実現させたいとしている。この強固という部分は、噂されている12%とか12.5%では生温い、というニュアンスが含まれていて迫力満点。

米国はピラー2で合意される「強固な」グローバルミニマム税に準じて国内法を整備する準備があるとのこと。このコメントはチョッと違和感を禁じ得ず、ピラー2に合わせる用意があるんだったら、GILTIも12%とかにして、人件費とか償却とかカーブアウト、そして更に日本企業のようなインバウンド企業に関してはIIRのストラクチャー通りGILTI対象から除外してくれたらいい。実際にはそうではなくて、米国がピラー2とか関係なくGILTI強化をうたっていて、ピラー2をそれに合致させることで、だまし船のように目を閉じて開けてみたら、米国をピラー2に引き込むはずが、ピラー2が米国に引き込まれてしまう結果となっている。アレ~、帆を持ってたと思ったら船の先っぽ!

ここでまた法人税がGDPに占める割合を21世紀に相応しい(?)レベルに戻すと、ホワイトハウス案や財務省補足説明で展開されている法人税・GDP比の論点が浮上している。パススルーが多い、米国ではこの比較は余り的を得てないように感じる点に関しては前回と前々回のポスティングを参照して欲しい。そして世界の税務当局が皆で手を繋いで大企業に対する課税を強化しましょう、と続き、そのために米国はBEATも廃案し、UTPRに準じるシステムを導入し、他国に「Strong」なミニマム税を導入するよう勧める(というかプレッシャーを掛ける?)制度に協力すると恩を売っている。Level Playing Fieldとする時が来た、と。カルテルみたいでチョッと怖いけどね。

そして、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税が不可欠、としてうまくピラー1にセグウェイ(「Segway」じゃなくて「Segue」の方だからね)。安定したクロスボーダー課税の構築には、拡散する一方的なDSTを止めて撤廃する必要がある、と何のことはないまた米国の都合が前面に出ている。ピラー1とピラー2はクロスボーダー課税の安定と言うポリティクス以上の(崇高な目的で?)リンクされているのだ、とまるで今まではピラー2の登場は1に合意させるためのポリティクスと言わんばかりだ。でも、それ一理あるっていうか、本当だったかもね。

最後にピラー1も

おまけ(?)のように付いているピラー1に関しても、ブループリントで提示されているワークを完成させないといけないという宣言から始まる。でもピラー2と比べると、チョッと勢いがなくて、設計が複雑過ぎてこのままでは国際合意は難しいという認識。で、なんのことはない、そこで登場するのが「特に対象者をどのセクターにするのかっていうスコープが複雑過ぎて・・・」となる。アレ~、デジタル課税がなんか怪しい方向。そしていきなりフォントが太字になり「米国企業に不利になるような結果を生み出す制度は絶対容認不可」と思い切り力強く告知している。さすが。来たね。ADSの終焉が。

Comprehensive ScopingでADSに引導

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。この内容は面白いので次回。

Saturday, September 19, 2020

OECDもピラー1早期合意ギブアップ。原因はトランプそれともピラー1のコンセプト欠如?

前回、NYCの話しとかで興奮してしまい、結局BEATのAggregateグループの話しは最初の部分で終わっってしまった。そんな矢先、ピラー1でチョッとアップデートしたいニュースがあるので今回は特番。

OECDのBEPS 2.0で提案されてる2本の柱の1本となるピラー1は、デジタル経済下でのクロスボーダー課税の新基準作りっていうBEPS 2.0の目的そのものの話しで、ピラー2はどちらというとオマケで議論されてる感じで、ピラー1こそが屋台骨だ。柱が2本しかない構造で、そのうち1本の柱がなくなってしまったら普通の建物だったら骨組みにならない。なくなる柱が主たる柱だとしたらなおさらだ。

で、そんな建築の世界だったら大変な出来事が、BEPS 2.0に関しても進行中。BEPS 2.0の屋台骨ピラー1の先行きが徐々に怪しくなっていく様子、そしてついに米国が引導を渡すに至る経緯は、ここ一年くらいのポスティング「DCからのお手紙でOECDデジタル課税・ピラー1に早くも暗雲?」「BEPS 2.0ピラー1の終焉」等で触れてるんで、興味があったら時系列的にその変遷を読んでみて欲しい。

そんな逆風にめげることなく、OECDはピラー1の合意に向けてブループリント・ドラフトをIF各国に共有したり、チョッと痛々しい感じもするんだけど、自らに活を入れるかのように手綱を緩めぜずにテクニカル面での設計に驀進していた。疑ってかかるような意地悪な見方をすると、チョッとスピンがかったPRを繰り返してるようにも感じられたけど、2020年も9月後半というこのタイミングで、あんまりいつまでも非現実的なタイムラインやプランに固執していてもいつかは万事休して信用問題にも発展し兼ねず、「近々に成功する可能性は約束されてないんで、皆さん勘違いしないで下さいね~」みたいなExpectationの調整が、いずれ行われるはずと思い、状況を注視していた。特に10月8日に次のIF全体会議の開催が控えてるんで、その前後の動向は特に気になるところ。

そんな折に登場してきたのが他でもないパスカル・サンタマン氏。OECD租税政策・税務行政センター局長ご本人だ。世界中の政府がコロナ禍でロックダウンという政策を取る直前、神楽坂で開催された会食でご一緒させて頂けて身に余る光栄だったけど、BEPSをここまで世界に浸透させただけのことはあるエネルギッシュかつユーモア溢れるウォリアーだ。そんなパスカル氏が、レマン湖の畔に位置し、豊かな自然、ローマ時代からの歴史、文化の香り漂う古都ローザンヌの名門校のローザンヌ大学のクロスボーダー課税ポリシーイベントで先週9月15日に「新しいクロスボーダー課税ルールを世界で合意しようとしてるんだけど、皆さんもご存じの通り、トランプ大統領は訳わかんない輩で・・・」と切り出してExpectation制御モード。「交渉再開を米国選挙後まで待ってたら、その間にDSTが台頭してくることになるし、Bidenになったとしても交渉が進む保証もないし」とチョッと愚痴っぽいニュアンス。

え~、ピラー1の成否もトランプ大統領次第だったの?ここ4年間、米国のメインストリーム・メディアは「世の中で起こっている諸悪の根源は全てトランプ大統領」って、まるで何かに取りつかれたかのように血走った目で連呼し続けてきたけど、パスカル氏もメインストリーム・メディアの見過ぎなんだろうか(苦笑)。この手の発言は大学のオーディエンスとかには受けるだろうから、それを見越してのOvertureだったのかもしれない。実際にトランプ大統領が世界の諸悪のうち、どの悪に関して根源なのか、っていう点は各人の思想等で判断が異なるだろうけど、ピラー1に関する限りどうだろうか。確かにフランスがDSTを掛けるんだったら、チーズやワインに懲罰的関税を課すぞ、とかフランスとトランプ大統領は喧嘩が絶えないけどね。でも、ピラー1の行き詰まりは、どちらかというと政治的に早期コンセンサスをグローバルで取り付けるっていう結果を優先しようとするがあまり、現時点のピラー1にはコンセプト的な規律が欠けてて納得感がない、っていう致命的な欠点の方が大きいのでは?

米国がピラー1に乗り気でないのはトランプ大統領の気まぐれのせいではなく、ピラー1が課税しようとしている米国ハイテク企業からしてみると、自社の超過利益や企業価値に市場国のユーザー参加を源泉としている部分があるのかないのか、あるとしてもそれがいか程のものなのか、っていう根本的な前提や議論が尽くされる前に、安易に恣意的な%だけ決められてしまうのは釈然としない、っていう点が気になるのでは?このままなし崩し的にあまり意味のない%だけ決まり、超過利益を世界中にばらまくような仕組みに合意されてしまったりすると、そんな制度はSustainabilityに欠ける。

この手の話しで示唆に富んでいるのがUberがOECDに提出しているコメント。コメントを作成したUberのVP Finance Tax & AccountingであるFrancois Chadwickは専門誌への投稿とかで更に深堀したコメントを出している。Uberはピラー1ばかりでなくピラー2にも洞察に富むコメントを出しているからOECDのウェブサイトで見てみると面白い。

ピラー1に関して2019年3月に提出したコメントでUberが疑問を呈している点のひとつに、ユーザー参加が企業価値に貢献しているかどうかは意見が分かれるところだし、仮に何らかの貢献があるとしても一律の%で価値を認定してしまうのは非現実的、というものがある。確かに、デジタル企業というとインターネットで人手を介さずに安易に取引を行って濡れ手に粟みたいに簡単に莫大な利益を認識できる、っていう誤ったイメージがあるかもしれないけど、デジタル企業のビジネスモデルを可能にしている、また厳しい競争に勝ち抜くための価値のあるユニークなIPの開発とかIPを活用して事業を遂行する際の機能一般は結局は広範に人間の手に頼っている。従来、超過利益をそれらの機能を持つ場所で認識し、単なる市場国には超過利益を配賦していないのはまさにこの理由。IPの開発や事業遂行には失敗例も多く、多くのスタートアップが消えて行くけど、それらのリスクや損失を負担しているのも市場国ではない。

その後、2019年11月のコメントでは市場国に配賦される超過利益は少額(Modest)に留めるべきで、超過利益というものは主にIPのDEMPEを源泉としていることから、DEPMEの場所に主たる課税権があり続けるべき、としている。人の移動手段を根本的に変革させてしまったデジタル企業張本人Uberによるコメントだけに、「自国にFair Shareのタックスを支払え」と何がFair Shareかという点に関して理論武装が弱いまま主張し続ける市場国政府との対比で、迫力満点で重みがある。この議論、日本企業の多くも同感ではないだろうか。

Francois Chadwickが専門誌に寄稿している「デジタル時代の新クロスボーダー課税」という論文では、かなり具体的にピラー1のUnified Frameworkに代わる新クロスボーダー課税システムを提案している。基本的にはModified Residual Profit Split (MRPS) methodを適用するとしながらも、PSに付きまとう複雑性を排除し、デジタル時代に対応するようにアップグレードするというもの。そこには詳細な経済分析やUberでの実績に裏付けられた興味深い分析が満載されている。ここでその全てを解説する訳にはいかないんで残念だけど、ザックリ言うと、超過利益をProduct Intangible Profit(「PIP」)とMarketing Intangible Profit(「MIP」)に分けて、MIPをさらにDEMPEに帰する部分とユーザー参加を含む外的要因に帰する部分に分けるというもの。超過利益全体から研究開発の度合いからはじき出される%でPIPをを取り出す。そして残った部分をMIPとし、さらにそこからDEMPEを基とする金額を除き、残った金額が市場国配賦対象となる。Uberの実績からMIPのうち80%はDEMPEに帰するというデータがあるらしい。となると、超過利益からPIPを排除してMIPに分け、さらにその20%だけがAmount A同様となり市場国に配賦対象ってことになる。Amount Aが超過利益の一部のさらに上澄み部分だけになってるのに何となく似てるけどね。Uberの数字を使うべきかどうかという話しではなく、このようにユーザー参加の価値をビジネスモデル別にきちんと検証することなく、コンセンサス作りに邁進している点こそピラー1が暗礁に乗り上げてる大きな理由ではないだろうか。

これらのピラー1の展開、特にここ数か月のピラー1の弱体ぶりを冷徹に観察しているに違いないもう一つの国際機関がある。国連、United Nationsだ。以前、本来発展途上国の代弁者たるべきUNがモタモタしてる間に、OECDがIF大連合を形成し、クロスボーダー課税に関しては国連っぽいノリの機能を横取り(?)しちゃっててチョッと不思議だよね、って「BEPS 2.0ピラー1の終焉」でチラッと触れたけど、UNはここに来て急に絶妙のタイミングでデジタル課税議論にリエントリーしスパートをかけている。このタイミング、もちろん偶然ではない。グローバルのいろんな利権争いは海千山千のプレーヤーがしのぎを削っているってこと。このUNの登場は面白いので次回のポスティングでチラッと触れておきたい。

なかなかBEATのAggregateグループの話しが終わらなくゴメン。最高裁判事のNotorious RBGとして親しまれてきた法曹界の巨匠Ginsburgが選挙まで一か月強のこのタイミングで他界してしまったり、世の中いろいろあり過ぎ。