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Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Sunday, March 7, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(6) GILTI増税と財務省規制強化

前回のポスティングでは、GILTIって名前のワンちゃんがバイデン農場に拾われたら、GIに名前が変わってしまった、っていう童謡を歌いながらGILTI増税案を紐解いてみた。う~ん、GIってウルトラマンメビウスみたい。あれはGIGか。キャプテンスカーレットのSIGのパクリだけどね。僕が昔見てたウルトラマンセブンのMATの方が隊の名前としてはGUYSより断然いかしてる。何と言ってもMATって「Monster Attack Team」の略だったからね(笑)。ポインター号に乗ったMAT隊員。いい時代だった感じが炸裂しています。

今回はチラッとだけど、立法府の議会ではなくバイデン政権下の行政府の規制環境について。

約一年前、すなわちトランプ政権下で財務省はGILTI高税率除外の規則を公表している。GILTIはその立法過程で、13.125%のグローバルミニマム税を設定するという趣旨が明記されている。そのメカニズムとして、CFCが現地で支払う法人税の80%をFTCとして認めるので13.125%の法人税を支払っていれば、10.5%のFTCが認められ、米国株主側でGILTI合算してもネットで追加の米国法人税はないはず、という点も明記されている。

TCJAが可決して間のない頃から、仮に10.5のGILTIバスケット所得があっても、FTCはバスケットのネット課税所得を基に制限枠を決めるので、バスケットに配賦・按分される米国株主側の費用、特に支払利息、により10.5の枠はないケースが大半という問題が指摘されていた。すなわち、このままだと、米国外で13.125%超、例えば30%とか、の法人税をCFCが支払っていても、米国で一部GILTI課税が生じることになる。この問題を解消するため、企業側はGILTIバスケットには特別に費用配賦をしないような規定を設けて欲しいとか、13.125%の法人税を国外で支払っているケースはTested Incomeをピックアップしないでもいいようにして欲しいとか、若干茶番めいたとまでは言わないまでも、行政府には権限がないであろうと思われる財務省規則による救済策を期待していた。

法的に行政府では如何ともし難いのでは、と考えられていたんだけど、驚いたことに財務省がサーカスのような理論に基づきウルトラCでGILTIに対する高税率除外規則を策定したのだ。しかし、さすがに13.125%にはならず、従来のSub Fに規定されていた高税率免除を流用するに留まっていた。これだけでも凄い逆転劇なんだけど、Sub Fに規定される高税率免除は、法人税率の90%基準なので、現行だと18.9%。以前の35%時代にはこれが31.5%だから、ほぼ適用可能性はないに近かった。18.9%で息を吹き返した感もあるけど、米国多国籍企業的にはまだ高いという感覚は否めないだろう。バイデン農場、じゃなくてバイデン政権の法人税率28%が実現すると、高税率免除は25.2%と役に立たない域に戻ることになる。高税率除外に関しては財務省規則が発表された当時のちょうど一年ほど前に「GILTI高税率免除規定」で詳細をポスティングしているんで、内容そのものはこちらを参照して欲しい。

GILTI高税率除外規則は、Sub FのFBCIやInsurance Incomeに従来から適用可能だった高税率免除規定の法文を解剖し、その一部の表現に「全ての所得項目」に高税率免除規定が適用可能とも無理すれば読めなくもない部分があり、それを最大限利用し新らたな解釈を捻出しているものだけど、かなり際どい。

財務省の中でもこんな規則を策定していいのか、とか法的な権限に関して賛否両論あったらしいけど、バイデン政権下の財務省では、行政措置でGILTIを不当に弱体化しているという論調が強まるかもしれない。その矛先は、みなしルーティン所得の計算をする際に差し引く、CFCの特定支払利息を簡便法に基づいて全利息のネット算定を認めている点にも向いている。別の規定だけど、163(j)で支払利息の損金算入枠を算定する際に使う調整後課税所得に、2021年まで棚卸資産に資産計上される償却費用の加算を認めるかどうかっていう点も財務省は納税者寄りの規則を出してるしね。

これらの規則が即取り消されるというような切羽詰まった状況ではないけど、この手の問題を指摘する者はどちらかというと学界で活躍されてきた方が多いように見え、全利息のネット算定など、逆にあれがないと実務面の対応はとてつもなく重荷となるので、ビジネス経験のある一派との議論を通じてバランスよく方向性が固まっていくことを願う。

オバマ政権とトランプ政権の比較でも分かる通り、行政府による規制環境は政権により大きく異なるから、今後の規制強化に関しては法改正と並び要注目。

課税強化の話しばかりで食欲減退してないといいけど、次回は追い打ちをかけるようにBEAT強化案について。

Friday, March 5, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(5) GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?

前回はバイデン政権によるGILTI課税強化の話しをするための舞台作りとして、元祖GILTIの概要に触れた。2分間のSingle Radio Editのつもりだったんだけど、結局いつも通り興奮して20分続くExtended Underground Versionに。GILTIはそれを取り巻くFTC、株式簿価調整、PTEP等の規定を含むと、僕も3年間考え続けて未だに不明点があるくらいだから20分でもご勘弁くださいませ。

ってことで今日はいよいよバイデン政権のGILTI増税案。

米国に「農場主がワンちゃんを飼ってて、その名はBINGO~」(「There was a farmer had a dog and Bingo was his name-o. B-I-N-G-O」文法面白いけど歌だからね)っていう童謡がある。こっちの生活が長かったり、こちらで子育てした方だったら大概知ってるんじゃないかな。この歌、基本的に同じ歌詞で1番~6番まであるんだけど、犬の名前をみんなで「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」ってスペルアウトして歌う部分が、回を重ねる毎に一文字づつ消えて、その部分は手拍子に代わる。

何言ってるか分かんないかもしれないけど、一番はBINGOのスペルを全てみんなで元気よく「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌うんだけど、2番は「ビー」の部分は何も歌わずに手拍子になる。つまり「手拍子」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌う。3番はさらに「アイ」も歌わず、「手拍子」「手拍子」「エヌ」「ジー」「オー」、4番は「手拍子」「手拍子」「手拍子」「ジー」「オー」、5番は「オー」だけが残って「手拍子」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「オー」、6番に至ってアルファベットは全て消え、全部手拍子になるって仕組み。結構楽しいんだけど、僕の説明だけじゃ楽しさ伝わんないと思うからYouTubeとかで実際に聴いてみて欲しい。どうでもいいって…?確かに。

でもバイデン政権のGILTI増税案はまさに童謡BINGOの世界なのでした。果たしてそのこころは?それは最後にね。

バイデン政権のGILTI観はTCJA立法趣旨とは大分違う。CFCの国外所得を米国で毎期課税するのは当然と考える。そんな捉え方に基づくと、GILTIの税率は低すぎるし、みなしルーティン所得のカーブアウトも米多国籍企業が享受する不当な恩典、というような結果に辿り着く。したがってこれらの不当な「恩典」は是正しないといけないということ。こんなGILTI観の背景には、米国多国籍企業が未だに大掛かりなBase Erosionに従事してるっていう前提があるんだろうけど、現時点で入手可能なデータの多くは2017年以前のものなので、TCJA、特にBEAT、GILTI、FDII、Hybrid、等が導入されている新クロスボーダー課税制度下でどのように多国籍企業の行動パターンが変わったのかを統計的に図ることはできないはず。

バイデン政権のGILTIアプローチ下では、まず、CFC有形償却資産簿価の10%というみなしルーティン所得を撤廃しようという流れとなる。この除外がなくなるってことは、すなわち毎期、CFCの所得を全額合算するということ。GILTIは「Intangible」から生じている超過利益に対するミニマム税と位置付けられている現状では、有形償却資産簿価に基づいてメカニカルに決定されるルーティン所得以外を無形資産所得って決めてしまった点が凄く斬新って前回のポスティングに書いたけど、この除外を撤廃するということは有形償却資産から生じるルーティン所得もGILTI対象にするということになってしまう。もうIntangibleとか関係ないね。

さらにGILTI税率の21%への引き上げ。現行が10.5%だから倍だ。もし通常の法人税率が21%のままと考えると、前回のポスティングで触れた50%のGILTI控除を完全撤廃するということになる。ただ、バイデン政権は選挙活動の頃から法人税率そのものを28%に引き上げる、って言ってるので、もしヘッドラインレートが28%になるんだったらGILTI控除を50%ではなく、25%に下げるっていうことになる。すなわち、100のGILTI合算から25を引いた75に28%掛けて21という仕組み。仮にGILTI制度が現状のままでも法人税率が上がると自然にGILTI税率も上昇する。仮に法人税率が28%になるとすると、GILTI制度の変更が一切なくてもGILTI税率は自然と14%になってしまう。新しいタイプやクラスの税金って、一旦法律になってしまうと、その後どんな風に進化していくか分からないから恐ろしいね。という訳でミニマム税っていうか普通の課税っぽい帯域に突入。GILTIのLow-Taxedっていう部分も意味がなくなってしまう。

そしてダメ押しのように、FTC計算時のGILTIバスケット制限枠を国別に算定させるという「Country Basket制」導入案。現行のGILTIバスケットのFTCは、繰り越しや繰り戻しがないという厳しい制限はあるものの、少なくともグローバルブレンディングベース。GILTIバスケットのFTC計算はそれだけでも面倒だけど、簡単に言うとポジティブなTested Incomeを計上しているCFCが外国で支払う法人税のうち、Tested Incomeに帰すると取り扱われる金額を米国株主側で合算し、それにGILTI合算率を掛けて更にそれに80%掛けた金額。GILTI合算率は、分母が「米国株主側でGILTI用に取り込むTested Income(Lossは加味しない)総額」で、分子は「GILTI合算額」すなわちTested IncomeとTested Lossを相殺して更にみなしルーティン所得となる有形償却資産簿価の10%をマイナスした金額として算定する。もちろん、こんな風に苦労してクレジット可能な外国法人税を算定した後、実際にFTCになるのは米国株主側の各種費用をGILTIバスケットに配賦・按分して計算されるバスケット制限枠の範囲内だ。

で、これを国別に計算しようという提案。その目的はもちろん高税率国と低税率国間のクロスクレジットを認めないってことなんだけど、もしGILTI税率が21%になったら、普通の国の税率より高いケースが多いので、結局は結構な外国の法人税がFTC対象になるかもね。しかも、FTCは外国法人税のTested Income帰属額の80%が対象だから、仮に算数が教科書のようにきれいにワークしたとしても、26.25%がグローバルミニマム税という見方もできる。そんな高税率の国、日本以外には少ないのでは。

う~ん、これではGILTIがオリジナルの制度とは異なる目的のものになってしまう。もともとGILTIっていうのは、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、少し大げさにいうとCFCの所得は国外でゼロ%、米国市場から生じる所得も合法的にCFCに移転されてしまうので結局ゼロ%、それを米国に還流してもゼロ%、という全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、BEATやHybrid規定と並び、CFC国外所得に毎期13%程度のミニマム税は世界のどこかで払ってもらわないと、っていうBase Erosion対策の一環だったはず。加えて、FDIIを同時に規定することで、米国外向け事業を米国親会社が直接行っても、CFC経由で行っても、毎期繰り延べなしに13.125%のミニマム税の対象となるというFDIIとの対のシステムだったはずだ。経済がデジタル化する中、高い収益はIP等の無形資産が生み出し、従来のクロスボーダー・プラニングでも低税率国に容易にMigrateできたのは無形資産、という認識があるんで、有形資産から生じるルーティン所得見合い部分は対象外ってしていたものだ。

バイデン政権はピラー1のSafe-Harbor化要求を撤回するなど、かなりOECDのBEPS 2.0に歩み寄りがみられるけど、想定されているピラー2の税率はせいぜい10%とか12%程度って噂されているし、現状のGILTIの有形償却資産リターンに準じる「カーブアウト」も規定されている。そんな中、お手本のはずだったGILTIが激しくピラー2から乖離してしまうと、本当にグローバルでピラー2と共存できるのかな、っていう疑問も出てくるし、米国がそんなGILTIでピラー2準拠とみなされるんだったら「うちの国も21%でカーブアウトはありませんよ~」とかっていう他国が出てきたらどうするんでしょうか。

ということで、「アメリカにはワンちゃんが居て、その名はGILTI~。ジー、アイ、エル、ティー、アイ!」ってみんなで歌ってたけど、そこにバイデン政権が登場して2番、3番、4番を作ってだんだんアルファベットなくなっちゃった感じ。まずIntangibleの2つ目のアイが手拍子に代わり、もはや21%ではLow-Taxedというのもおこがましいので、エルもティーも手拍子に代わり、「ジー」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「アイ」って、なってしまいました。「バイデン政権が来てワンちゃん改名~。その名はGI(Global Income)。ジー・アイ!」。逆にGとIはなくなってもよかったんだけど、それだけ残っちゃったね。一層のこと、6番までできて全部手拍子で廃止されたらよかったのに?

Sunday, February 21, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(4) GILTI増税 (1)

2月に入ってNYCは急に冬っぽい気候になり、数日おきにチョッとした積雪。例年だったら今朝地下鉄動いてるかな~、とか考えてる頃かも。コロナ以前からNYCの雪とか、午前8時のカリフォルニア・フリーウェイとか、オフィスに移動する時間が無駄と思われる日はLocation Freeでサクサクやってたんで、実はあんまり関係ないか。あんまり道路が凍結したりするとWhole Foods行けないかも、程度の比較的どうでもいい悩みだ。テキサス州とかの南部にも寒波、と言ってもNYC的に見ると普通の冬の気候なんだけどテキサス州だからね、が来て風力発電の風車が凍結したりして電力不足に。お陰でダラスからウェブキャストに参加するはずのメンバーが、当日インターネット使えず、電話で参加したりするハプニングがあった。

カリフォルニア州の夏の計画停電もそうだけど、再生可能エネルギーへの転換は災害時や需要ピーク時に市民に十分な電力を供給できる体制を維持しながらバランスよくアプローチしてもらわないとね。世界一の産油国になってる米国の中でもテキサス州は原油生産量で他州にかなり水をあけている存在なだけに、そこで電力不足っていうのは皮肉。21世紀の文明国で計画停電っていうのもなんだかな~って感じでした。

お天気が良くても、ミッドタウンは相変わらず平日でも閑散としてて、この閑散ぶりもついに一年近く続いてることになるけど、街のレストランも閉鎖命令が出たり解禁されたりしてオーナーは一喜一憂。バレンタインデー直前にNYCの屋内飲食が25%キャパで再開。カリフォルニア州も罷免投票を恐れた知事が2週間ほど前から屋外に限定して飲食OKとなった。カリフォルニア州では焼き鳥屋さんや焼き肉屋さん(どこのお店のことかだいたい分かるね?)が「ソフト・オープニング(?)」していて数日満喫することができたし、NYCのミッドタウンも冬なんで屋内じゃないと話しにならないけど、今週、ようやく例のイタリアンに2か月ぶりに立ち寄ることができた。レストランって好景気下でも成功率が低いはずだから何か月も閉鎖させられたり、Plaxiglass、ヒーター、高性能換気システムとかに投資させられた上、急にまた閉鎖とか、再開しても25%キャパとか、そんな環境で生き残るのは大変だろう。僕たちが属する法律、タックス、会計とかのサービス業なんて言うのは今のところWFHでも対応できる部分が多いからいいけど、レストランやネールサロンとか、In-Personのサービスが一日も早く正常に戻り、そこで働く人たちの職が安定しますように。

で、バイデンのGILTI増税案だけど、まずそれを語るにはGILTI制度の概要を知らないと、ってことでGILTIのおさらい。って言っても真面目にGILTIの話しをすると3か月とかの長編シリーズになり兼ねないし、ついつい興奮してしまいそうだから、はやる気持ちを抑えつつ、ここでは2分のスペシャルバージョン。ちなみにもっと知りたいという奇特な方は、2018年から何回も触れてるトピックなので過去のポスティングを参照して欲しい。

GILTIは、CFCが毎期得る所得を、分配のあるなしにかかわらず、米国株主が合算して米国で税金を支払うっていう制度で、設計としては1962年から存在する米国の元祖CFC所得合算制度Sub Fに通じる存在。制度のインフラは同様なんだけど、Sub Fがモビリティが高い所得とか議会や財務省がCFCの活用法やロケーション選定に関してチョッと阿漕過ぎる、って認定するタイプの活動から生じる所得を対象としているのに対し、GILTIはその辺は一切構わず、原則CFCの所得のうち、Sub Fでピックアップできない残り全額を米国株主に毎期合算させる制度。落ち着いて考えてみるとかなり過激な制度なんだけど、3年も付き合って今ではすっかり慣れて当たり前になってるのが怖い。しかも後述するバイデン増税案ポリシーは、GILTIがあるのは当たり前で、通常の法人税との比較でまだまだ手緩い、というものだから2017年以前のクロスボーダー課税制度と比較するとWhole New Worldだ。マジック・カーペットで昔に戻れればいいのにね。

また、制度設計的にもSub Fと大きく違うのは、Sub Fは一旦CFCで数字が確定されるとそれ以上米国株主側で加工されないCFCレベルの属性なのに対し、GILTIっていう金額はテクニカルにはCFCには存在せず、CFCの数字を米国株主が加工してはじき出す米国株主側の属性、っていう点。分配がないのに米国で課税が生じることから、再度課税がないようにGILTI合算時およびその後の課税済み所得の分配時には複雑な株式簿価調整メカニズムがあるけど、CFC側と米国株主側で必ずしも数字がミラーイメージではないGILTIにSub Fと同じインフラで対応しようとするとあちこちで無理が生じることになる。連結納税グループの子会社がCFCを所有してるケースも多いけど、その際に子会社側のCFCに対する株式簿価調整と連結納税グループ内の株式簿価調整、さらに100%DRDとの関係とかかなり複雑で、ULRで封印したはずだった「ミラーの息子 (Son of Mirror)」取引(懐かしい?)が息を吹き返したりして、1936年から50年続いた後に1986年に全面撤廃されたGeneral Utilities原則、連結納税規則や337、ライドエードケースとかに凝ってたオタクの身としてはついつい興奮せざるを得ない状況になっている。2分バージョンじゃなくなりつつあるって?ゴメン。ベーシックに戻らないとね。

で、CFCの課税年度終了時点でCFCを所有する米国株主が、CFCの所得・損失、Tested IncomeまたはTested Lossっていうけど、を自分の持分取り込んで合算するのがGILTI計算の第一ステップ。優先株とかあるとこの計算自体複雑だけど、今日は2分バージョンだから割愛。合算ネット額が米国株主にとってのNet Tested Incomeになる。自分が所有するCFCのTested LossとTested Incomeを相殺できるんで「Net」になる。Tested Incomeを計上しているCFCから見ると、他のCFCのTested Lossで自分の所得が米国でGILTI対象じゃなくなったりして、E&Pの管理が面倒。これが理由で以前のPTI規則案が一旦取り消され、新たなPTEP規則が発行されるはず。既にNoticeが出ていて大枠のガイダンスはあるけど、バスケット毎に毎年16種類とか管理が大変だ。PTEP規則は興味津々なんでず~っと待ってるけど、CARES Actとかで財務省も忙しかっただろうから、まだ出てない。そろそろでしょうか。2分バージョンだったね。自らを戒めるのが大変だ(苦笑)。

Net Tested Incomeがマイナスだったらそれで終わり。その場合、Net Tested Incomeはゼロと取り扱われる。つまり、Net Tested Lossで米国株主の他の所得を圧縮することは認められない。CFC間では通算OKだけど、その結果マイナスが出た場合にマイナスを米国に持ち込めないんで、GILTIってグローバル連結納税みたいだけど、あくまでCFC課税だね、っていうが分かる。もし、連結納税制度で、損失の法人はその年、連結納税グループに属してないと取り扱う、なんて規則があったら何それ~って思うだろうし、なんか釈然としないよね。しかも、Net Tested Lossは繰り越しや繰り戻しがないんで、それっきり。CFC間の通算がOKな点ではSub Fより寛大だけど(Sub Fにも超限定的にQualified Deficit規定とかあるけど)、Tested IncomeにはCurrent E&Pの上限もないし、全体にGILTIの方が厳しい。

で、めでたく(?)Net Tested Incomeがポジティブで、その名の通りNet Tested Incomeとなる場合、次にそのうちいくらが「Intangible Return」、すなわち超過利益部分かっていう認定をする。なんと言ってもGILTIの二つ目の「I」は「Intangible」の「I」だからね。ちなみに最後の「I」はIncomeです。これを「Y」ってして、GILTY課税になってBeyond a reasonable doubtの世界に入らないように。

このIntangible Returnを個々の事実関係を基に計算するようなシステムにしてしまうと、当然実務的に適用が不可能になる。そこで、GILTIはみなしルーティン所得に当たる「Net Deemed Tangible Income Return」を機械的に計算し、Net Tested Incomeのうちみなしの有形資産リターンを超える金額は全額「Intangible」に基づくもの、という事実認定を規定している。GILTI制度に斬新な部分はいくつかあるけど、Intangible Returnをこのようにバッサリ定義した点もそのひとつ。すなわちそこでゴチャゴチャと屁理屈を捏ねることを認めず、原則ほぼ所得全額をIntangible Returnとしてしまった点だ。大胆。で、何がみなし有形資産リターンかというと、所得を認識しているCFCが所有する有形償却資産の税務簿価(ADSベース)年平均残高を米国株主側で合算しそれに10%を掛け、そこからCFCが認識する特定の支払利息を差し引いた金額。Tested Incomeを計上していないCFCの有形償却資産は加味されない。このみなしルーティン所得をNet Tested Incomeから差し引いた金額がGILTIだ。しつこいけど、米国株主側で初めて算定可能な金額で、各CFCは計算の基になる金額は各種提供するものの、CFC毎にGILTIという金額は存在しない。Sub Fとの大きな違いだ。Net Tested Incomeがみなしルーティン所得より小さい場合は、それで終わり。GILTI合算額はゼロになる。

こんな風に計算されたGILTI合算額は100%まるまる米国株主のGross Incomeとなる。で、そこから50%の所得控除が認められるんで、通常の法人税率半分、現状だと21%の半分に当たる10.5%が実効税率でGILTI課税が生じるのが基本の姿。実際には基本通りにいかないことが多くて苦労が絶えないけど。正確にはGILTI合算額に、FTC計算の基となるTested Incomeに紐づくと取り扱われるCFCの外国法人税をグロスアップするんで、所得控除もグロスアップ後の金額に50%掛けて算定する。Tested Incomeは外国法人税に関して税引き後の金額だから、FTCを計上する場合には一旦税引前に戻すための作業だ。ちなみにFTCに使用できるCFCの外国法人税は、Tested Incomeに紐づく金額の80%だけど、グロスアップは100%っていうのも罠っぽい。Tested LossのCFCが支払う法人税を加味することは認められない。Tested Lossだから外国でも法人税なんか支払わないじゃん、って考えるのはあわてんぼうのサンタクロースだ。Tested IncomeとかTested Lossは、米国税法基準で算定するので現地の課税所得とは大きく異なるケースが多い。なんで米国の目から見ると「Loss」でも、現地では課税所得が発生している、または逆のケースも十分にあり得る。

10.5%とするための50%所得控除だけど、課税所得がないと取れない仕組みになってて、またFDII控除と共存しているので、損失の課税年度やNOL繰り越しや繰り戻しを適用している年度は所得控除が認められない、または部分的に減額処理の対象となったりする。50%控除が取れないとGILTI合算額は100%課税されていると同じことだから、GILTI合算額に対する実効税率は21%となる。CFCが国外でどれだけ高税率で法人税を支払っていてもだ。この点は、行政府の大英断でHigh Tax Exclusionという法文からはとても読み取れない規則が策定されているので、それで助けられた納税者は多いだろう。

このように教科書通りきれいにいけば100のGILTI合算額に対して10.5の法人税が米国で課せられることになるけど、そこからFTCを引くことができる。上でもチラッと触れたけど、Tested Incomeに紐づく外国法人税を特定し、その80%が潜在的にFTC対象となる。FTCの制限枠の算定は、課税所得総額に基づく制限枠に加え、GILTIバスケットを含む4つのバスケット、条約に基づくRe-Sourcing条項を利用している場合はそれが5つめのバスケットになるけど、毎に制限枠を計算する。その際に、米国株主側で発生している費用を各バスケットに配賦・按分することになる。この配賦・按分計算自体迷路のようで、費用の配賦・按分って一間地味に思うかもしれないけど、クロスボーダータックスプランニングの肝と言っても大げさでない部分だ。一般管理販売費をCFC株式やSub F、Tested Incomeに配賦・按分するケースは、Stewardship費用を除くと余りないって言えるけど、支払利息やR&D経費は特殊な計算を伴うので要注意。特に支払利息はお金に色なしということで、原則、資産の税務簿価で按分するので、GILTIを生み出すCFC株式にも按分される。国内外の調和を図るため、資産簿価計算時の償却費用は国内資産に対してもこの目的のみでADS使用可能。派手に加速度償却とかしてると、国内資産の簿価だけ急激に下がってFTCに限ってみると費用按分が不利になるからね。この費用配賦・按分は想定外のGILTI課税に繋がる。1ドルでもGILTIバスケットに費用が配賦・按分されると、10.5という枠が削られていくんで、外国源泉所得に費用を配賦・按分するとその金額に21%で課税されるっていう言い方もできる。この点も上で触れたHigh Tax Exclusionが公表される前は大きな問題となっていた。

って、ことで2分バージョンのはずが、20分バージョンくらいになってしまった感じはあるけど、僕なんか3年間GILTIのことを考え続けて未だに不明点があるくらいだから20分でもご勘弁を。今日はお天気いいんで、閑散としたミッドタウンか、結構混んでるSOHOに繰り出して気分を晴らそうかな。次回はバイデンのGILTI強化案。