Wednesday, May 14, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(2)

前回のポスティングで外国人が米国に投資したり、米国で事業を行ったりする際の基本的な税務上の取り扱いに関して触れた。また外国人がパススルーであるパートナーシップを介して米国にて事業を行う(または行っていると取り扱われる)際には、パートナーシップ側に四半期毎に予定納税義務が発生する点にも触れた。今回はその予定納税義務に関してこの程発表された財務省規則の内容を中心にポスティングしてみる。

*外国人によるパートナーシップ投資

外国人パートナーがパートナーシップに投資する場合、そのパートナーシップが米国で事業を行っていると各パートナーが米国にて直接事業を行っているかのように取り扱われる。したがって、外国人が直接米国で事業を行っている際に適用される税務上の規定がそのまま適用される。すなわち、事業所得であるECIに関して確定申告を提出して所得税・法人税を支払う必要がある。

この点、米国の「株式会社(税務上のCorporation)」に投資している外国人株主は、株式会社が米国で事業を行っている場合でも、単に配当という投資所得を受け取ると取り扱われるのと対照的だ。この点をうまく利用しているのがPrivate Equity Fundsのストラクチャーで頻繁に登場するBlocker Corporationであろう。Blocker Corporationに関しては2007 年9月17日の「PE FundsでBlocker Corporationが果たす役割」を参照のこと。また、パートナーシップはパススルーであるため、現金等の分配のあるなしに係らず、パートナーシップの認識するECIの各パートナーへの配賦額が課税対象となる。

*パートナーシップによる予定納税

外国人に対して「米国で確定申告して下さい」と米国が規定しても、その強制力は米国市民、居住者に対する法的なパワーと比べてどうしても弱い。また、外国人側でルールを知らずに申告書を提出していないというようなケースも十分に想定される。

そこで、税金を確実に徴収できるメカニズムとして規定されているのがパートナーシップによる四半期毎の予定納税納付義務だ。このシステムでは、パートナーシップはECIのうち外国人パートナーに配賦される金額に対して累進税率の最高税率にて税金を算定し、IRSに納付する必要がある。現時点では個人所得税も法人税も最高税率は35%となる。例えば、仮に第一四半期にパートナーシップに1,000という課税所得があり、この全額が事業所得すなわちECIだとする。パートナーシップには二人の50・50のパートナーが居たとして、一方が米国居住者、他方が外国人だとする。このシナリオではECIである1,000のうち50%相当の500が外国人パートナーに配賦されるものとなり、その35%である175をパートナーシップがIRSに納付する義務がある。さらにこの175は外国人パートナーに対するみなし現金分配となる。

従来、この予定納税を算定する際、各外国人パートナーの個別状況を取り込むことは認められず、例え外国人パートナー側に他に米国の事業損失があったり、繰越欠損金があったりしても、問答無用にECIに対して最高税率を乗じた金額を予定納税する必要があった。

*外国人パートナー側の個別損失の取り扱い

外国人パートナー側での状況を一切鑑みずに一律に予定納税をパートナーシップ側に強要するというシステムは税金徴収のメカニズムとしては一番硬い方法であるが、最終的に支払う必要のない税金を前納しなくてはいけない局面に陥るパートナー側に取ってみると何とも不都合な規定であった。これは外国人が米国不動産を売却する際に売却代金の10%を予定納税として源泉徴収される規定には納税額の減額手続きが設けられている点と極めて対照的であった。

例えば、上述の例に登場する外国人パートナーに実は過年度からの繰越欠損金4,000があったとする。第一四半期に1,000の所得があるということは年間ベースに置き換えると4,000の所得が予想されるということであるが、もし欠損金の存在を加味すると外国人パートナーの課税所得はゼロとなる。にも係らず従来はパートナーシップは四半期毎に予定納税を行うことが必要とされた。繰越欠損金が同じパートナーシップから発生したものであっても従来はこれを考慮することは認められなかった。もちろん、他にどのようなECIがあるか分からず、4,000の欠損金が未使用が残っているかどうかはパートナーシップ側では知る術もなかった。

そんな不都合な状況を改善したのが2003年のIRS Notice、それに続く2005年の暫定財務省規則、また今回発表された最終財務省規則である。

*最終規則

最終規則では2003年以降の流れを踏襲して一定の条件を満たす外国人パートナーがパートナーシップに対して一定のタイプの損失を報告し、パートナーシップはその損失額を考慮して予定納税額を算定することを認めている。

その具体的な内容はというと、今回の規則も期待を裏切ることなく詳細はかなり複雑である。規則を分かり易く理解するため次回以降のポスティングで、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容に大別して解説してみたい。

Thursday, May 8, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(1)

*外国人に対する米国課税

米国から見た外国人(非居住者および外国法人等)が米国に投資する場合には当然米国の税務関係をチェックする必要がある。外国人に対する米国の課税方法は所得が「投資所得(Non-ECI FDAP)」の場合と「事業所得(ECI)」場合に対するものに大別される。Non-ECI FDAPは30%(または租税条約の低減レート)の源泉税で課税関係が終了するが、ECIは申告書(1040NRまたは1120F)を提出し、必要経費を控除した後のネット所得に累進税率を適用して税金を処理する。

なお、FDAPとECIを対義語のように使っている参考書のようなものがあるが、それは大きな間違いだ。FDAPというのはあくまでも米国源泉の所得のタイプに係る色付けであり、FDAPでも事実関係次第ではECIとなる場合もあればNon-ECIとなる場合もある。FDAPがECIとなるかどうかは基本的に、その所得が米国事業の資産から生み出されているものか(Asset Test)、または米国事業の活動から生み出されているか(Activity Test)により決定される。一方でFDAPではない米国源泉所得は「Force of Attraction」規定に基づき、外国人が米国にて事業を営んでいる場合には自動的にECIとなる。ただし、このForce of Attraction規定は租税条約のPE規定によりOverrideされるケースがほとんどだ。

*パートナーシップ経由の米国投資

外国人が「直接」株式、債券等に投資したり、または支店のような形態で事業を営んだりするケースと同様に、上述の課税関係はパートナーシップ(税務上パートナーシップと取り扱われるLLC等を含む)を経由して外国人が受け取る所得に対しても適用される。すなわち、米国のパートナーシップが投資所得を受け取り、それがNon-ECI FDAPと取り扱われるのであれば、それらの所得の外国人パートナーに配賦される部分は30%(または租税条約の低減レート)の源泉税の対象となるし、一方でパートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーも事業に従事していると取り扱われ、事業所得のうち外国人パートナーに配賦される部分は、外国人パートナー側で申告所得として税金を納める必要がある。

*パートナーシップによる源泉徴収義務

パートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーは配賦される(実際に現金等で分配されなくても)事業所得を申告所得として認識し申告を行う必要がある。外国人に申告させて税金を支払わせる場合には、外国人が実際には何もしないのではないかという危惧が財務省に常に存在する。米国内に居住している米国居住者や市民権を持っている者と比べると、米国の法律が及ばない外国に住んでいる非居住者に対しては、申告・納税義務を無視されても米国政府が取れる対抗策はかなり限定されていることから、財務省が危惧を持つことは当然である。そこで、取り合えず税金を何らかの形で源泉徴収してしまって、後で非居住者に申告をして過不足調整(多くの場合で還付請求)をさせようとする仕組みがいろいろな局面で確立している。

パートナーシップに投資する外国人パートナーに対してもこのような仕組みができあがって久しい。すなわち、四半期毎に外国人パートナーに配賦される事業所得に対して累進税率の最高税率を適用して、税金をIRSに予納する義務がパートナーシップにある。外国人パートナーに配賦される事業所得というのは、現金分配のことではなく、パートナーシップ合意書に基づきキャピタル勘定にクレジットされる金額のことである。

*最終財務省規則

財務省はこの程、パートナーシップが外国人パートナーに配賦する事業所得に対する源泉徴収義務に係る「最終財務省規則」を発表した。以前は源泉徴収はパートナーシップの事業所得のみを基に行う必要があったが、数年前に公表された暫定規則からの流れで「外国人パートナーが認識するパートナーシップ以外の米国での活動から発生する損失」の影響を条件付きで加味してもいいという方向に最終化された。これは米国で複数の事業(複数の米国パートナーシップも含む)に投資している外国人にとっては吉報だ。

次回のポスティングではこの最終規則の内容に関して説明する。

Wednesday, May 7, 2008

どちらが優先?租税条約と内国法

2008年の4月後半にブログを始めてから1年がたった。数えてみるとこの1年間でちょうど100のポスティングをしていた。個人的趣味から再編系の内容が多いが他にもグリーンカード、パススルー、ポリシー、社会保障協定、FIN 48、その他、分野は多岐に亘っている。今日のポスティングもどちらかというとポリシー系の話だ。

*租税条約と内国法の相対的な位置づけ

米国の内国法である「Internal Revenue Code (I.R.C.)」と租税条約の相対的な位置づけは時として難しい。合衆国憲法の第VI条は「連邦内国法」と「条約」の各々を国の「最高法(Supreme Law)」と位置づけている。したがって、米国の法体系の下では「I.R.C.」と「租税条約」は国の最高法として同格であることが分かる。

しかし、単に同格で終わっては困ることがある。租税条約はI.R.C.下の税務上の取り扱いを緩和して米国非居住者、外国法人の米国での税負担を低減する目的で適用される局面がほとんどであることから、I.R.C.と租税条約の規定は当然「異なる」のである。異なる二つの法律が同格に位置するという状況で、どちらが優先されるかを決定する必要が生じることがある。裁判所はできるだけの努力をして「租税条約と内国法に矛盾はない(「Harmony」な状態にある)」という理由を見出し、一見異なる規定をうまく取りまとめようとする。しかし、どうしてもHarmonizeできない場合には「後法優先の原則(the last-in-time rule)」の考え方を適用して事態の解決を図る。すなわち、I.R.C.と租税条約では時間的に「後」で規定された方が優先となる。

とは言え、後から租税条約やI.R.C.が何の言及もなく規定され他方の規定が自然消滅というようなケースはまずない。大概その立法趣旨、条約の背景を説明する公文書等で「今回新たに合意された租税条約の何々の条項はそれと矛盾するI.R.C.に優先する」または「I.R.C.のこのSec.の改訂は現存する租税条約の矛盾する条項に優先する」等の意思表示がされているケースが多い。近年では日米新租税条約の中の米国不動産持株法人の定義がI.R.C.の定義よりも若干緩いが、租税条約を優先して考えていいと思われる点が好例であろう。

*租税条約が常に「Override」するとは限らない

一般的に考えると租税条約の規定が米国の内国法であるI.R.C.よりも常に優先されるように思われるかもしれない。しかし現実には上述の通り、租税条約に規定があっても締結のタイミング次第では、I.R.C.の方に優先権が与えられ、条約の適用が実はできなかったというような事態も十分に想定できる。そんな事態を再確認させられる判例がこの程、租税裁判所のメモランダム・ケースで言い渡された。

*Jamieson v. Commissiner

Jamiesonケースの争点は米加租税条約に基づき、カナダ居住者がI.R.C.に規定通りにAMTを支払う必要があるかどうかというものだ。AMTそのものの規定は複雑だが、その一般的コンセプトに関しては2007年9月10日にポスティングした「AMTは本当に撤廃できるのか」を参照して欲しい。

AMTを算定する際には、通常の税金の算定同様に外国税額控除(FTC)を計上することができる。ただし、AMT算定目的で使用できるFTCは、FTC控除前のAMTの90%に限定されるという法律が当時は存在した(この制限は2004年の税法改正で撤廃)。すなわち、FTCを計上したとしても常にAMTの10%は最終税額として残るような仕組みになっていた。

このケースでは、納税者が米国市民権を有しているために米国でも全世界所得を対象として確定申告している。しかし所得のほとんどがカナダ源泉であり、カナダでの税額をFTCとして計上しているというシナリオだ。通常の所得税を算定する際にはFTCにより米国の税負担はゼロとなる。しかし、AMTを算定する際には上述の90%制限があるため、AMTを完全にゼロとすることはできず、結果としてAMTは部分的に支払う必要が生じる。

これに対し、納税者は米加租税条約第24条に基づき、AMTに対しても全額FTCが認められるべきだと主張した。租税条約にある程度関与されている者であれば、まず「米国市民権を持つ者は租税条約を利用して米国の税負担を軽減してはいけない」のではないか、すなわち「Saving Clause」の適用があるのではないか、という疑問を持つであろう。確かに米加租税条約にもSaving Clauseは規定されているが、24条は敢えて「米国市民権を持っていながらカナダに居住している者」に対する米国でのFTCを規定しており、Saving Clauseから特別に免除されている。

*どちらが「後法」か

今回の判決は基本的に過去の判例である「Kappus v. Commissioner」の考え方が適用されている。これは「Stare Decisis」という米国法の基本である「先例拘束力の原則」を考えれば当然のことである。具体的には、I.R.C.と租税条約は異なる規定をしていると解釈されるとした上で、タイミング的に租税条約の規定は、AMTのFTCに対する90%制限が1986年に規定される以前から存在しており、後法は内国法であるI.R.C.であるとされた。

納税者は1986年以降に租税条約の24条に対して条項修正が両国間で合意されているため、租税条約こそが後法であると主張した。しかし、その条項修正は今回問題となっている文言以外の部分に対するものであり、1986年時点でのI.R.C.の後法としての地位を揺るがすものではないとされた。

このように単純に後法優先と言っても、どちらが後法かという基本的な認識も納税者とIRSで異なることがあるので驚きだ。

*立法趣旨

さらに、1986年にAMT FTCの90%制限を定めた際の立法趣旨に「外国で全ての所得を得ていても何らかの形で米国政府からの恩典を受けていることから最低限のAMTは支払ってもらう」と明言されている点、またその後の1988年の法律改正の際に「AMTのFTCに対する90%制限は、それと矛盾する既存の租税条約よりも優先的に取り扱われること」と述べられていること、などから立法議会がAMT FTCの90%制限を租税条約の規定に係らず適用しようとする意図を持っていたことは明確であるとされた。

Tuesday, April 22, 2008

米国のスピンオフ(9)

前回の米国のスピンオフ(8)で始めたMorris Trustケースの解説を続ける。

*「Active Trade or Business」条件

IRSの基本的な主張は「Active Trade or Business」条件が満たされておらず、したがって非課税スピンオフには適格ではないというものであった。Active Trade or Business条件に関しては「米国のスピンオフ(2)」にて解説している。もしスピンオフが非課税でないとすると課税されるのは株主ばかりではない。株主には配当益(E&Pの範囲で)が課税されるが、スピンオフとならないということは、Dによる保険業の現物出資がD型再編とならないことも意味する。したがって、保険業の含み益に対してDが課税されることになる。

Dの銀行業は合併後も第三者Pにより継続されるが、IRSの言い分はDが消滅することからDによる事業継続とは認められないというものであった。

これに対して裁判所は、Active Trade or Business条件の歴史的背景には現金等の「流動資産」をスピンオフと仮装して株主に配当するようなケースに網を掛ける目的が存在する点、また、1954年の税法改正により、Active Trade or Businessはスピンオフ「以前」に5年間という厳しい規定が設けられる一方でスピンオフ後の経緯に関してはその「直後」にActive Trade or Businessが存在していれば問題がないとされている点、等を指摘した。その上で、Morris Trustのケースでは流動資産を配当するような事実関係、また他の脱法的な取引に見られるような意味のないステップ、ダミー法人等の存在がないこと、銀行業は立派に合併後も継続していること、合併という「法人形態」のみを変更して事業を継続していくことは非課税再編の促すところであること、十分な事業目的が存在する取引であること、等の理由でActive Trade or Business条件に違反はなく、条件は満たされているという判断を下した。

IRSの指摘は合併の存続法人が「たまたま」Pであったがために発生しているものであり、もし存続法人がDであったならばIRSの主張(=Dが事業を継承していないという主張)は通り得ない。判決では、合併の存続法人の方向のみで課税関係が決定されるのは不合理だとしている。これに対してIRSは例えDが存続法人であったとして非課税とはならないというようなことを主張したようだが、そのような解釈はDが単に何らかの再編に関与する度にActive Trade or Business条件が違反されるような結果となり、法律の規定から逸脱すると判決では片付けられている。

*持分継続

裁判所の判決で面白いのは、Active Trade or Business条件が満たされているとする際に、上述の多くの理由に加えて「DとPの合併によりDの株主は存続法人株式の54%を受け取ってるために持分継続条件を満たしている」という理由も述べている点だ。Dの方がPよりも規模的に大きいために旧D株主は合併後の法人の過半数の持分を有するに至っている。「持分継続」はスピンオフのひとつの要件であるが、この点を別の条件と位置づけるのではなく、あくまでもActive Trade or Business条件を満たすための一要件かのように処理しているところが興味深い。

持分継続に関しては例え合併によりDの株主の合併後の存続法人に対する持分が大きく低下したとしても、合併対価としてEquityを受け取っているのであれば、もともとスピンオフがあった時点で持分継続が満たされていたとして、問題はないはずだ。持分継続の判断はあくまでも合併前のDの状態に照らし合わせて判断し、その後の合併時にはBoot(もしあれば)がその持分継続に影響を与えないかどうかを検討すればいいと思われる。

ただし、スピンオフ後の合併等の買収でD株主が受け取る持分が過半数に至るかどうかは後に1997年の税法改正時に最重要条件として再び浮上してくることとなる。

*Control条件

次にIRSはDが合併されたしまったために「Control」条件が満たされていないのではないかという主張もしている。Control条件に関しては「米国のスピンオフ(3)」にて解説している。しかしControl条件はあくまでもCに対する持分の問題であり、Dの持分に関しては規定されていない。したがって、Dが合併されてもCの持分には何の関係もないことから問題はないとされた。

*買収と分割再編

また、分割型再編であるスピンオフとその後の合併(=買収型再編)を一緒にすることは本質的に非課税スピンオフ法の意図に反するという主張もなされている。しかし、この点に関しても法律にそのような限定的な意図はなく、再編の後に再編という局面は他にも沢山あり、D型再編、スピンオフもその例外ではないとされた。

*結果

上の理由により、例えスピンオフ後にDが合併されていても今回の事実関係に基づく限りスピンオフは有効であり非課税であるとされた。その結果、D型再編も有効となり、株主が受け取るC株式ばかりでなく、DによるCの現物出資も非課税とされた。

Morris Trustの事実関係は保険業の兼業が法律で禁止されている等、かなりクリーンな取引であるが、この判決を基にその後の「買収のためのDivestiture手段としてのスピンオフ」という手法が確立されていき、その手の取引が一般に「Morris Trust取引」として知られていく。また、Dの代わりにCが買収される「Reverse Morris Trust取引」という用語も確立されていく。その辺りの状況、そして遂にMorris Trust(見方によってはAnti-Morris Trust)が条文法として立法化される1997年までの展開は次回のポスティングで説明する。

米国のスピンオフ(8)

買収のターゲットとなる企業に不必要な事業が存在するケースは多くある。その場合に不必要な事業を非課税でスピンオフすることができればその恩典は大きい。すなわち、Dは買収される前段階で、Dをターゲットとしている買い手が不必要とする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。言うまでもないが下のコメントは全て私見である点、この分野の検討が余りに複雑な点を鑑みて敢えて再度お断りしておく。

*Morris Trustケース

この手の取引に関して触れる際に避けて通ることができないのが1966年に下されたランドマーク・ケース「Morris Trust」だ。Morris Trustケースは最高裁の判決ではなく、4th Circuitの判決である。今回のポスティングではこのMorris Trustケースを詳しく見ていくがかなりヘビーな内容となるため、2回のポスティングに分ける。

Morris Trustでは買収ターゲットとなるDに「銀行業」と「保険業」が共存していた。規制上の問題から買い手はDの銀行業のみを必要とし、保険業をも兼業しているDをそのまま買収の対象とすることができなかった。そこでDは買収前に保険業をスピンオフしてDの株主に分配した。このスピンオフは保険業が元々D法人の一部に存在したため、第一ステップとして保険業を子会社化しており、D型再編を伴うスピンオフ、すなわちD-355である。その後、銀行業のみとなったDは合併という非課税再編を経て第三者に買収された。Morris Trustにはいくつかポイントがあるがそれらを詳しく解説すると次の通りだ。

*合併とDivestiture

Dは州の銀行法に基づき設立されている「State Bank」であったが、合併相手となるPは連邦財務省の銀行法に基づき設立されている「National Bank」であった。規模的にはDの方がPよりも大きかったが(この点は極めて重要な事実関係となる)、存続法人はNational Bank格を持っている方がよいという判断から規模的には小さいPとすることが合意された。

ここで一つの問題が生じる。National Bankとなる銀行は一部限定的な例外を除き保険業を兼業することが法律で禁じられているが、Dは長年State Bankとして保険業に従事しているという点だ。そこで合併を予定通りに実行するためにDは保険業を売却・分離(Divestiture)する必要に迫られる。ここで登場するのがスピンオフだ。

ケースの事実関係とは直接関係がないが、Dにはもちろん保険業を売却するというオプションもあったはずだ。しかし売却するとゲインに課税される。スピンオフを非課税で行うことができれば余計なタックスを支払うことなくDivestitureを実行できるために極めて有利な取り扱いとなる。「米国のスピンオフ(4)」で触れたがスピンオフする際に分配対象となる子会社CからDが配当を非課税で受け取ることがよくある。スピンオフが非課税であれば、このような取引はまさしくCの売却を非課税で実行しているに近い。

Morris Trustに話は戻るが、Dは保険業をCという新規設立100%子会社に現物出資し、その直後にC株式をDの株主にスピンオフとして分配した。

これに対するIRSの対応を次回のポスティングにて詳細に解説したい。

Friday, April 11, 2008

申告書で取れるポジションの基準は一転緩和?

*申告書作成とペナルティー

会計事務所のような申告書を作成する立場にある者に対するペナルティーが強化された点とその後の混乱に関しては2007年6月の時点で「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったか(1)」と「同(2)」で解説した。簡単におさらいしておくと、以前は申告書の税務ポジションは「Reialistic Possibility」基準を満たしていれば会計事務所に対するペナルティーはなかったものが、2007年6月の法改正でいきなり「More Likely Than Not」基準に引き上げられた。更にペナルティーの対象となる申告書の種類も拡大され、ペナルティーの金額も増額された。

この「More Likely Than Not」という基準はあくまでも申告書を作成する立場にある者に対するペナルティー有無の判断をする際に適用されることとなるが、一方で納税者そのものに対しては「Substantial Authority」基準が満たされていればペナルティーは課されないという従来からの取り扱いが続いている。

Substantial Authorityというのはザックリ言ってしまえば40%程度の確証度であることから、50%超の確証度が求められるMore Likely Than Notより低い。したがって、仮に40%程度の確証度のある税務ポジションを申告書に反映させ、後のIRS税務調査でそのポジションが問題視された場合には、納税者にはペナルティーはないが(Substantial Authorityを満たしているので)、会計事務所にはペナルティーが課されるというおかしな状況となった。会計事務所に対して従来は30%程度の確証度であるRealistic Possibility基準が適用されていたため、2007年6月の法改正の前の状態では、納税者に要求されている基準(Substantial Authority=40%)の方が会計事務所に求められる確証度よりも高かったこととなる。これを逆転させてしまった2007年6月の法律のインパクトは大きい。

*Taxpayer Assistance and Simplification Act

「Taxpayer Assistance and Simplification Act」というタイトルの法案が下院の税務委員会を通過した。それにしても米国の法律の名前はJob Creation Actとかどことなく恩着せがましいものが多い。話は逸れるが、最近話題の北京オリンピックとチベットの問題に関連して、ブッシュ大統領は開会式に出席するべきではないという法案が米国議会に提出されているが、その法案の名前が「Communist Chinese Olympic Accountability Act」という、法案の名前だけでも喧嘩を売っているかのようなものまで登場していた。いずれにしても法案・法律の名前がわざとらしいものが多い。

話は戻り、この「Taxpayer Assistance and Simplification Act」法案に盛り込まれているいくつかの規定の中で個人的に最も注目したのが、上述の会計事務所に対するペナルティー基準の「下方修正」である。ナント驚いたことに2007年6月の法律で義務付けられたMore Likely Than Not基準を一転廃止して納税者の基準と同じ「Substantial Authority」に統一しようとしている。なお、ペナルティーの対象の拡大、金額の増額、は2007年6月の規定のままとなる。

*納税者と同じ土俵に

納税者がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションと会計事務所がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションの基準が異なるというのは変な話である。それでも会計事務所は少なくとも30%の確証度を必要とし、納税者がより高い40%の確証度を必要としていた2007年6月以前は問題は少なかった。納税者のことを考えれば会計事務所も少なくとも40%の確証度を求めるのが一般的であったからだ。一方、2007年6月の法律変更以降(正確にはIRSが適用を2008年に提出される申告書からに延期)は納税者が40%の確証度でハッピーであるにも関わらず、会計事務所がより高い確証度を追い求めるという歪な構造になっている。

そんな不合理を解消するために「納税者に適用される基準=会計事務所に適用される基準」という統一を望む声が大きくなっていった。ただし、その際には、より厳しい基準となっている会計事務所基準、すなわちMore Likely Than Notに納税者の基準も統一されるのであろう、という暗黙の了解のようなものがあった。しかし、今回の下院の法案では逆に低い基準の「Substantial Authority」に統一しようとしている。これは率直に「うれしい驚き」であるといえる。

*ペナルティー基準の今後

法案は下院の審理が終了したばかりで今後このままの形で法律化される確証はない。もし認められれば、会計事務所に適用されるMore Likely Than Not基準は極めて短命に終わることとなる。その場合、納税者と会計事務所、共に通常のポジションは「Substantial Authority」、法的な取り扱いがグレーであることに関わる特別な開示が行われるポジションに関しては「Reasonable Basis」、タックスシェルターまたはReportable Transactionsに対しては「More Likely Than Not」という基準が適用されることになる。分かりやすい基準であり、ぜひとも最終法律として成立して欲しい法案だ。

Wednesday, April 9, 2008

ヤフー、Bear Stearns買収案その後

マイクロソフトによる「ヤフー買収案」、JP Morganによる「Bear Stearns買収案」に関しては過去のポスティングで触れたが、その後の展開がかなり興味深いので簡単に動向を追ってみたい。

まずヤフーだが、依然としてヤフー経営陣は買収案を拒否しているのはご存知の通りだ。株価に関しては買収案直後に$30弱に上がって以来、$20台後半で推移している。マイクロソフトが$31で買うと言っているにも関わらずそこまで株価が上がらないのは通常の買収発表時に常に見られる現象である。買収は発表されても、最終的に実現するまでには株主の承認、独禁法の問題、その他いろいろな不確実性がある。それを織り込むと買収価格までは上がらない。不確実性が大きければもちろん買収価格との差異も大きくなる。「買収が成立する」と信じているのであれば$20台後半で株式を買い、買収が$31で成立した時点でキャピタルゲインを期待することができる。ちなみにこれは現金で$31もらえる場合に有効な考え方であるが、後述の通り、対価が株式となる場合にはもう少し複雑となる。

当初はマイクロソフトが買収価格を上げるのではないかという憶測もあったが、ここに来て逆に価格を下げるのではないかという報道もある。他に救世主が現れないままだが、ヤフー経営陣が買収発表から2ヶ月間頑張っている。

買収対価が株式となる場合には「買い手」側の株価の推移が買収価格に影響を与える。AOL株式が下落してプレミアムが消滅したAOLとTime Warnerの合併がいい例であろう。今回の買収案では対価の50%相当が株式で支払われる。したがってA型非課税再編となるであろう点は前回のポスティングで触れた通りである。具体的にはヤフー一株当たりに対してマイクロソフト株式0.9509株が支給される。マイクロソフト0.9509株は買収案発表時点でこそ$31の価値があったのだが、その後株価が落ちたため今ではそれより低い。したがって、買収時点で$20代後半でヤフー株式を購入してキャピタルゲインを狙ったとしても、マイクロソフトの株価が落ちる限りキャピタルゲインの金額が確定しない。その場合にはヤフー株式を購入すると同時に、マイクロソフトの株式を空売り(Short Sale)しておけば理論的にはリスクヘッジが可能なはずだ。

一方のBear Stearnsに関しては当初の買収価格が$2であったが、株価は買収発表後も$2まで下がることはなかった。最低でも一瞬$3弱となっただけでしばらくは$4~5位でさまよっていた。上述のヤフーのケースで見られる通り、買収の発表があると買収が成立しないリスクが織り込まれて買収価格よりも若干低い株価で推移するのが一般的だが、それは買収がプレミアム価格で行われる際にしか通用しない常識のようだ。Bear Stearnsのケースではどちらかと言うと「最終的に$2ってことはないだろう」と読んだ投資家が多かったのであろうか株価は$2まで下がることはなかった。案の定、数日後にはあっさりと買収価格は$10に増額されている。それでもここ一年だけで見ても$150の株価をつけた銘柄であるだけにサブプライム問題恐るべしと言える。