Thursday, January 28, 2016

Inversion/インバージョン(4)

前回はようやく話しがInversionにおよび、一般にInversion第1号と認識されている1983年のMcDermott社のパナマ子会社を利用したInversionに触れた。

ここで再度、なぜ米国MNCがInversionをやりたがるか、という基本をもう少し突っ込んでおさらいしてみたい。簡単に言ってしまえば、米国MNCがグループの実効税率を下げるために取る作戦なんだけど、Inversionをするとどうして実効税率を低くすることができるのか、考えてみよう。

米国企業は究極の親会社が米国にある限り、全世界の所得に対していつかは米国で課税される運命にある。すなわち配当すれば配当課税、配当なしでもSubpart F(日本のタックスヘイブン税制に相当)でみなし配当課税されることもある。間接税額控除は取れるとは言え、米国法人税率は世界一だから、米国で課税が発生するのが普通で、それは低税率国からの配当であればなおさらだ。

法人税率が高いから、米国企業はできる限り所得を合法的に低税率国に移転させることとなるが(これが米国のような高税率国からみるとBase ErosionまたはEarnings Strippingと言われる)、配当すると米国で課税されるので低税率国に貯まっていく埋蔵金は米国に配当されることはない。さらに、米国から低税率国に所得を(合法的に)移転させる手法も親会社が米国にあると限定される(それでも相当やってるけど)。Base ErosionまたはEarnings Strippingの一番手っ取り早い方法は高税率国の事業は資本ではなく、グループ内借入、それも低税率国の貸し手からの借入でファイナンスすることだろう。ところが、米国親会社に対して外国子会社(CFC)から貸付を行うと、その場でみなし配当になるという致命的な規定があるので、これができない。

Inversionはこれらのデメリットを解消しようとする試みだけど、税コスト低減そのものが最終目的になっているというよりも、多くのケースで米国MNCでいることに基づく上のような足かせがあるため、米国外MNCと同じ土俵で戦えていないという事業上の理由が大きいように思う。また、最近のInversionを見ていると、将来の税負担が大きく減り、となると将来の配当原資が大きく増え、株価が上がり、更にM&Aがやり易くなり、Inversionした企業が更に米国企業を飲み込んでInversionしていくという増殖パターンも見られる。

Inversionすると、外国に究極の親会社ができるから、その後の海外投資はそこから子会社を設立する等すれば、米国法人税の対象となることはない。また既存のCFCも米国法人の下から外すことができれば(Out-From-Underとして知られる取引)、その後のCFCの所得は米国での課税がなくなるし、うまくいけば米国に配当できなかった海外の留保金が未来永劫、米国法人税の網から逃れることができる。その上で更に米国「子会社」に対してファイナンスをして徹底的なBase Erosion、Earnings Strippingを行う道も開ける。

CFCをInversion後に米国法人から外すステップは重要だが、課税ナシで達成するのは難しいかも。新しい外国親会社に株式を単純に売る場合、GainはCFCの配当原資(E&P)の範囲でみなし配当となる。みなし配当となれば間接税額控除が使え、若干痛みを和らげることは可能だ。CFCの持つ資産売却は課税となるが、コスト・シェアリングとかで将来の無形資産の税務上の所有権の一部を外国親会社が持つ外国子会社に持たせたりすることは可能。またInversion前に将来の外国親会社にあたる子会社(Inversion前)にCFC株式を現物出資して、Inversionと同時に自然にCFCでなくなるようなストラクチャーも存在した。

このようにメリットの多いInversion。前回触れたMcDermott社のInversionに対して、財務省は(McDermott社のパナマ法人に当たる)Inversion前のCFCの株式が(McDermott社に当たる)米国親会社の株式と交換される際、CFC株式は一旦、米国親会社に発行されたかのように扱い、その後、その株式で米国親会社株式を償還したものとみなし、CFCのE&Pに関して米国親会社に対してみなし配当課税(Section 1248の一環で)するという規定強化を行った。この規定強化の前にInversionを行ったMcDermott社はCFCのE&Pに課税されることなく、CFCをCFCでなくすことができたことになる。

McDermott社型のInversionに関して「でもSection 304は大丈夫?」と疑問に思った方は黒帯に近い。実際、IRSもSection 304でアタックしようとしたが、裁判所はInversionで既存の株式と交換される対価となる外国子会社(=Inversion後の外国親会社)の株式も、Section 304の対象とならない自己株式となると判断し、Section 304の適用はないとしている。旧米国親会社の株式だけでなく、子会社の株式もそのように扱っているのが面白い。

1993年のInversionとなるHelen of TroyはSection 367(非課税取引を通じて外国に資産が逃げるのを防ぐためにExit課税する趣旨の規定)を変更させた点で意義深い。Helen of Troyは新設のバミューダ法人の株式と米国親会社であったHelen of Troyの株式交換(手続き的には前回のポスティングで触れたReverse Subsidiary Merger)で単純に米国と外国をひっくり返している。このパターンの株式交換は現物出資同様で、国内の局面であれば非課税だ。または株式交換に基づく非課税再編とも考えられ、同じく国内の局面では適格組織再編としてやはり非課税だ。外国の法人に対する現物出資(または組織再編に基づく株式交換)は、当時のSection 367では、今日では外国法人株式の現物出資または再編にのみ適用されるように、5%未満の株主(=ほとんどの一般株主)には課税されず、5%以上保有の株主もGain Recognition Agreementを締結すれば非課税となった。

Helen of Troyを期に財務省はSection 367を改訂し、国内法人の株式を現物出資または非課税組織再編を通じて外国法人の株式と交換する際、出資・再編後に米国法人の旧株主が、出資・再編後に50%超の持分を持っている限り、非課税扱いを否認するというものとなった(実際の規定は5%株主の持分とか企業幹部の持分とかも検討するなどもうチョッと複雑)。すなわち、本当に実質、外国企業に買収されるのでない限り、形だけ変えてもダメということだ。今では余りに当たり前の規定だけど、改正前の法律では、国内の株式交換同様、再編相手が外国法人という局面でも非課税の適格組織再編になるのが普通というInversion規制前夜のいい時代だった。Helen of Troyのケースでは旧米国法人の株主がそのまま外国法人株式を100%受け取っているので新規則に基づくと、株主レベルでは当然課税となったことになる。この改訂はいわゆるInversionばかりでなく、事業上の理由で外国法人と合併する際にも適用があることから、その後のクロスボーダー合併に大きな影響を持つことになる。すなわち、本当に外国「他社」との合併でサイズがほぼ同じ(いわゆる「Merger of Equal」)という場合には、合併後に米国株主の持分が50%超とならないよう合併比率が合意されるケースが多くなった。いい例がクライスラーとメルセデスの合併だろう。

改訂後のSection 367がInversion Killerとなり、Inversionの魅力はなくなるか、と(財務省では)期待したのではと思うが、この法改訂はあくまでも株主レベルのみに課税するとしたものであったことから、実は期待されたほどの効果が出ない結果となる。ここから次回。

Sunday, January 24, 2016

Inversion/インバージョン(3)

さて、満を侍してInversion。これは古くて新しい温故知新系のダイナミックなプラニングだ。個人が米国市民だったり永住権を持っているとどこまで行っても高い税率の米国で全世界課税されるので、市民権とかグリーンカードを放棄しちゃおうか?っていう「Expatriation」の法人版と思えば分かり易い。今回のポスティングからこのInversionを何回かその背景、歴史、付け焼刃的に網を掛けてきた税法のInversion対策の流れ、現時点でのInversion例と議会が検討している更なるInversion対策、などをカバーしていきたい。

Inversionとは「Invertする、すなわち逆さにする」という意味だが、国際税務の世界(米国から見ると)では、従来米国の親会社を頂点とするMNCの親会社が外国企業にすり替わってしまう取引を意味する。結果として米国法人は米国外に親会社を持つMNCの「単なる1子会社」となる。一旦外国企業に生まれ変わると、従来は米国法人の下にぶら下がっていた米国外子会社を新外国親会社に付け替えたり、米国「子会社」に海外のグループ・ファイナンス会社から貸付をしたりしてBase Erosionを徹底したり、またInversionした後の海外投資は「外国親会社」から行なったりと、米国頂点のMNCグループではできないタックスプラニングを可能にする。

それにしても米国企業も米国市民も、米国で多額の税金を支払わないためには国籍を変えてしまうのだから気合いが違う。個人が市民権とかグリーンカードを放棄してしまう行為はInversionとは言わず「Expatriation」というが、こちらは基本的に非居住者となることで、株式とか債券のCapital Gainに対する米国課税から逃れる点に主眼をおいているケースが多い。現在の税法では一定金額を超える資産を持っていると、Expatriation時点に所有する個人資産をMark-to-Marketさせられて含み益に課税されるが(2008年以降の新規則)、Expatriationした後の含み益は米国課税の対象とならない(米国不動産持分を除き)。

Facebookの共同設立者の1人であるEduardo SaverinがFacebook株式上場発表前に米国籍を捨ててシンガポールにExpatriationしたことは良く知られている。彼は数%の持分を持っていたが、上場時には20~30億ドルのCapital Gainが出るとも言われていた。Capital Gainは優遇税率で課税されるとしてもGainの金額が大きいから結構なタックスとなる。Expatriationする時点でMark-to-Market課税されるので、実際のSavingはExpatriation時点の価値とIPO後の価値の差額となり、正確な金額は外部では知る術もないが、Savingは6千万ドル(100円計算でも60億円!)だったとも言われている。それだけセーブできるんだったらやっぱり考えるかもね。Expatriationした先の目的地で課税されてはもちろん意味がなく、Eduardo Saverinの場合はもちろんこの手のCapital Gainが非課税となるシンガポールに引っ越している。あそこだったら生活環境も悪くないしね。ただ、ご本人は国籍返上とタックスは一切関係がないと代理人を通じて発表している。「Yeah right」って感じ。

Mark-to-Market課税となって以来、株価等の資産価値が下落するタイミングを待っていたりするExpatriation予備軍も結構いるらしい。市民権の返上を管轄するState Departmentは四半期毎にIRSに市民権を破棄した者のリストを情報共有、公表している。上述のFacebookの共同設立者の名前も公表されたリストに名前が載っていてメディアの知るところとなり騒然となった。他省庁と情報交換することの少ないIRSとしては珍しい。例えば2008年のExpatriation人口は231人と発表されているが、2009年には742人となり、2011年にはナント1,781人となっている。金融危機で株価が下がった局面に増えているのは偶然ではないだろう。ちなみに景気が良くなってきた2012年には900人台に落ちている。後で触れるが、株価の下落はInversion実行にも好環境を提供する。

個人のExpatriationに関してはさらに面白い話しがある。Expatriationを実行する際の一番の悩みは、その後米国に長期滞在できないっていう点となることが結構多いのではないだろうか。余り頻繁に米国に滞在していると米国居住者扱いとなってしまい、元も子もない。それは結構辛いことかも。なんと言っても市民権を捨てる必要がある程リッチな人たちだから、Park Aveとかのコンドの75階にある5,000SQFT(狭いと思うかもしれないがNYCとしては格段に広い)のペントハウスからCentral Parkを見下ろし、Midtownで美味しいものを食べるのに慣れている人達だ。もちろん暖かいフロリダまたは南カリフォルニアにはもっと大きな別邸もあり、スキー用にはAspenまたはLake Tahoeとかにも別荘があるだろう。となると、タックスがなかったり少なかったりする田舎の生活には満足できない可能性が高い。

実はこの点に目を付けて、スーパーリッチ相手に賢いビジネスをしている国があるらしい。元々、投資をすれば国籍が取れる国はいくつもあるし(CBIプログラム)、米国のグリーンカードだって大きな投資をすればもらえる訳だから(EB-5)、国籍を商品化すること自体特に変なことでもないし、驚くようなことではない。ところが中には単に国籍を提供するばかりでなく、ナント「外交官ポスト」までセットで用意してくれるところがあるというからビックリだ。

国名を聞いたけどもちろん大国ではなく、小さめのタックスヘイブンの国だった。面白いことにこれらの国では大きな投資さえすれば、別にそこに住んでなくても、訪問すらしなくてもいいらしい。小さい国にExpatriationしてしまうと、米国入国にビザが必要なところも多いが国籍を破棄した記録のある者にビザが簡単に発行されるかどうかは怪しく、さらにビザ免除制度がある国でも節税のために米国籍破棄の記録が残っていると米国のボーダーで入国拒否されるケースもあり得るらしい。そこで外交官待遇が威力を発揮する。外交官となれば米国入国にビザも要らないどころか、米国に住むこともできる。外交官だと、税法上の米国居住テスト目的で日数を数えなくてもいいから非居住者となるし、米国源泉所得と考えられる外交官として米国で受け取る所得も非課税となる。ただ、株式等から発生するCapital Gainは非居住者でもTax Homeが米国にあるとされると米国課税となるような気もするけど、そこは米国にいる間は投資は長期保有としとくのだろうか。金融機関にもW-9 ではなくW-8提出となるから銀行利子を除く投資所得には源泉税とか掛かるし、外交官待遇が買える位の国だから租税条約とかなさそうだし(となると30%源泉?)、それはそれなりに考えるべきことが結構ありそう。何事も簡単ではないということだろう。

という訳でそろそろ法人の話に・・・。

法人のInversionにも歴史があり、税法改正とのいたちごっこや経済の流れ等に準じて進化を繰り返してきている。1983年のMcDermott社によるInversionで始まった初期型のInversion 1.0は実に単純なものだった。まず外国に子会社を設立し、そこの株式と親会社である米国法人の株式交換を行い、外国子会社が親会社に、米国親会社が子会社に変身するというまさしくInversionという名称にふさわしく単純に逆さにする取引だった。McDermott社のケースは既存のパナマ事業会社を使っている。元々米国親会社の株式を持っていた株主は外国親会社の株式と交換したような形となり、外国法人の株主となる。McDermott社のケースでは株式に含み損があったので敢えて適格再編の条件を満たさずに課税取引だったと言われている。また、この初期型Inversionはパナマとかタックスヘイブンの国を親会社の所在地として選択する単純な発想だった点も進化後のInversionとは異なる。

この当時の実際のInversion実行の手法だけど、基本的には株式交換となる。McDermott社の場合にはTender Offerという方法を使っているし、もしTender Offerでないならば、上場企業の株式買収に用いられるReverse Triangular Mergerとなるだろう。その場合、メカニカルには新設の外国親会社(この時点では実質的に株主はいない)がSPCであるMerger Subを設立し、そのMerger SubがReverse Triangular Mergerにて既存の米国親会社と合併する。結果として既存株主が所有していた米国親会社に対する株式は新外国親会社のものと交換され、新外国親会社が持っていたMerger Subの株式は米国(元)親会社のものとなり、蓋を開けてみると外国親会社の下に米国(元)親会社がぶら下がることとなる。要はStock Swapなんだけど、上場企業とか多数の株主がいる局面で株式を個々に交換する契約を締結することは物理的にも不可能なので、上場企業のM&A同様にReverse Triangular Mergerという手法を用いる。

InversionのVersion 1.0(ゴロが良すぎ)はこのようにデビューした。今(2016年)から実に30年以上も前の出来事だ。ちなみに誤解がないように付け加えておくとVersionだの1.0だのっていうのは僕が勝手に命名しているだけで、一般的な用語では決してない(なので公に使っても誰も分からない)。

Inversionが本格的に注目を集めるようになったのはその後、10年を経て実行され、非課税組織再編という形を取ったHelen of Troy社のケースではないだろうか?こんな単純なことが認められていた時代が懐かしいが、その後、IRSはInversionが進化するに連れて、そのテクニックに網を掛ける目的で法律を変えてはInversion自体がVersionアップしていく。次回はInversionの目的をもう少し詳しく。そして、その後にMcDermottおよびHelen of Troyに対する財務省側の法律改正について続ける。

Thursday, January 21, 2016

Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)

前回は前置きと、トピックを選択する過程にもかかわらずSub Cに興奮してしまったが、結局Inversionが勝ち残った。でもBEPSに関して一言ってところで終わっていた。なので一言・・。

OECDのBEPSレポートおよびその各国の反応に関してはクライアント等からの質問も多いんだけど、そもそも日本企業はBEPSとは世界で最も無縁な存在だった。それだけに正直、2~3年前にOEDCがBEPSを取り締まるレポートを作成するって言う話しとなり、その後徐々にAction Planが公表される過程では「エッ、BEPSやってない日本企業もOECDレポートに対応しないといけないの?」というのが率直な感想だった。

そもそも「Base Erosion」という用語・コンセプトだって、OECDがレポートを作成して対抗するっていう段階になるまで、日本企業には余り良く理解されていなっかったと思う。直接税というか法人税の世界における国際税務プラニングは、全世界の国の税法、税率が同一であれば存在し得ないので、国間の差異、特に税率、事業主体のClassification(パススルーV法人)、租税条約ネットワーク、CFC法がまちまちな状況、がある限り、多国籍企業として敢えて高税率国に所得を認識させる必要はない訳で、企業側がOptimumかつ合法的な形で全世界の所得配分を検討するのは、程度の差はあれ、当然だ。これが高税率国から見るとBase Erosionとなる訳で、欧米企業はもう何十年もシステマティックにこれを実行して国際競争力を付けてきた。直接税(=Income Tax)的な法人税が存在する限りはBase Erosionの検討を含まない国際税務プラニングは存在し得えず、一部、経済合理性を欠くレベルにまで極めてしまったのでこのようなこととなっているが、今後もスケールは変わるかもしれないけど、Post-OECD BEPSレポートの世界において合法的かつ形を変えて欧米企業はBase Erosionを続けるのは間違いない。

一方、日本企業はというと、従来からBase Erosionとか全く念頭に置いていなかったのに、いざCbCRとか作らせられて見ると実際には説明仕切れない利益率の国も当然出てくる訳で、それをDue Processや情報管理も必ずしもしっかりしないかもしれない国々に公開して、今まででは考えられない量の税務調査に対応しないといけない、というような理不尽な結果になり兼ねない。米国MNCのようにBase Erosionを国際税務プラニングの主眼と位置づけて何年も徹底して低税率国に巨額の埋蔵金を既に貯めているなら対応する側の費用対効果も十分にあるし、責任問題として対応するべきだし、おそらく企業側なりの合理性も従来の法律下であれば存在し、説明はできる部分は多い(受け入れられるかどうかは不明)とは思うのだけど、日本企業のように正直に(?)にやってきたのに、ここで対策に多くの時間を掛けさせられ、挙句の果てに税務調査対応、また場合によっては実際の税負担に多額のコストが掛かる展望を考えると、日本企業として決して歓迎できるものではない。新聞とかでOECDのBEPSレポートが日本企業にあたかも「追い風」のように書いてあることがあるけど、かなり不思議な見方だ。少なくとも企業側から見たらいいことはないだろう。

市場で競争相手となっている欧米企業とかが、これで大人しく実効税率40%になるはずもなく、その点はあまりナイーブにならず、引き続きAfter-Taxベースでの世界競争は熾烈で、市場で戦っている外国企業の多くはそういうものだという認識はきちんと持ち続ける必要がある。これをどう各企業の戦略に織り込んでいくかは日本の税カルチャー等を加味して個々の企業の判断となるが、Global Standardとは日本の考え方が通じないところも多い点は理解した上で市場で戦う必要がある。ネット所得ベースの法人税というものが存続している間はどうしても各国の仕組みの差異を利用したアービトラージはなくならないだろう。

現状の税法が存続している間、CbCRの脅威は計り知れない。米国議会が未だに財務省にそんなものを議会の法制化なく納税者に強要できないと主張しているのも(一方、財務省側は既存の移転価格規則の範囲内でCbCRも規定できるとの見解で、既にProposed Regulationsを発行済み)、CbCRが米国だけでなく、他国ににも使用されて米国MNCに理不尽な影響があり得るという懸念に基づいている。財務省としては、CbCRの濫用、または守秘義務違反、等があれば即刻、情報共有を中止すると言っているが、後から中止しても遅いかもしれないし、濫用に至らないまでも従来のArm’s-Length基準から逸脱する移転価格調整が横行した場合の企業側のダメージは大きい。

Arm’s-Lengthからの逸脱は程度の差はあるとは言え、現実的な懸念となる。これはCbCRのドラフト形式を見れば明白で、各国の税務当局が「配賦比率に基づくFormulaアプローチ」を適用したいという衝動に駆られることは想像に難くない、というか、むしろ自然の流れだろう。「僕の国に従業員の30%がいるんだから全世界所得の30%は僕のものです」とか。売り上げ、資産に関しても同様な発想が出てくる。工場とかがあって多くの従業員や資産があるが、必ずしも付加価値は高くない機能を持っているような国が一番Formulaアプローチに傾斜し易い。CbCRはハイレベルな分析のみの目的で、これだけで移転価格調整をしてはいけないということになっているので、堂々とこれだけで「Formulaで配賦した調整です!」って言ってくる国はないかもしれないけど、最初にFormulaに基づく潜在的な税額を頭で考えてしまうと、その結果ありきで、後から理論武装してくるようなケースもあり得、企業側としては対応コストを考えただけでも頭が痛い。

となると、CbCRが現実のものとなる現在、日本企業にとって最後の砦となるのは「Competent Authority」による二国間協議だろう。日本の二国間協議に国益を守ってもらうことなるけど、爆発的に増えるクロスボーダー課税の論争に対応できるだけ二国間協議のリソースがあるのか、必ずしも理論が通じない国もある現実下、長期に亘る協議に掛かるコスト、等、パンドラの箱を開けてしまったような状況が想定される。その意味でもBEPSレポートに準じてCbCRを開示させる国は一日も早く仲裁規定も取り入れるべきだ。

ただ、これらの話しは全て税法が基本的に現状の姿を原型としているという前提での話しだ。長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。となるとBase ErosionもBEPSレポートも過去の遺産となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。

という訳でBEPSに関しての「一言」でした。いよいよ本題のInversionは次のポスティングになってしまいました。昔の巨人の星(古過ぎ!)で飛雄馬が肝心の一球を投げるまで2週間も掛かるよう状況で申し訳ありません。子供の頃NetflixとかAmazonとか無かったんで・・。次こそInversionとなります。

Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)

2016年明けましておめでとうございます。ナント数年ぶりのアップデートとなります!

この間、そろそろ何か書かなくてはと夢の中では思いつつ、忙殺され続けている間に(=怠けてる間に?)ついにここまで引っ張ってしまいました。いろんな方に会うたびに「最近アップデートがないですよね・・」みたいな話題になることが多く、出張旅費の精算と並び(?)常に遅れていてチラッと考えるだけでも暗い気持ちになっていた。

ちなみに出張旅費と言えば、各社、精算には期限が設けられてると思うけど、うちは発生日から6ヶ月以内だ。オンラインでの申請がこの期限の日付を1分でも超えると問答無用で精算不可の通知がメールで届く。もちろん6ヶ月も猶予を与えられているのだから請求しない当人が悪い点に異論はないんだけど、この6ヶ月というが結構早くたってしまう。変な比較となるけど、その昔、電車通学してた時に、なぜか目が覚める時間が、乗らなくてはいけない小田急線(1時間目の授業にギリギリ間に合う最後の時刻の電車)のドアが閉まる1秒後に駅のプラットホームに着くタイミングとなりがちだったように(なぜ後2秒早く起きなかったのか、と毎日不思議だったけど)、勇気を振り絞って夜中にイントラネットの経費精算サイトに入ると、昨日で6ヶ月を超えた飛行機代とかホテル代が出てきて愕然とすることがあったりして、なんで昨日アクセスしなかったんだろう、って思うのと似てる。こんなのがかなりの金額になるようだったら未だやったことないけどReimburseされない経費として所得税の申告書で費用処理することも視野に入れないといけないかも。「でも、それってSch. AのMiscellaneous Itemized Deductionだから2% Floorでかなり減額されちゃうじゃん?」と思われた方は賢いがチョッと気が早い。僕はW-2でなくK-1なのでもし取るとしたらSch. Eで取ることになる。1040やっている人は分かるね?

というような言い訳やどうでもいい前置きはこの辺にしておいて、この数年にも本来はReal Timeで書きたいトピックは沢山あった。OECDが気合を入れた「BEPSレポート」、「FATCA(よくもこんなことを世界中に強要してるな、さすがアメリカ・・という感に堪えない)」、そして網を掛けても掛けてもホットになってくる「Inversion」(米国法人が組織再編を通じて国外脱出すること)、全く最終化の目処の立たない米国の「抜本的税法改正」、さらにますます面白くなってきたスピンオフ(濫用され気味の適格スピンオフと財務省の対応)を代表とする米国企業の「イノベーティブ」な組織再編法の適用。

そんな多岐に渡る数年の展開の中から何にフォーカスして書くかというのは結構難しい問題だ。甲乙付けがたいところだが、ここは完全に個人的な好みだけど消去法で行ってみよう。

個人的に、非金融機関には余り技術的に面白い部分が見つからないFATCAはまず脱落。というか僕の専門分野でもなく公に書くに耐えないと言うのが正直なところ。

抜本的改正は過去に何回か触れているし、議会の先生も息切れしていて立法の目処がたっていないのが現状なので脱落。オバマ政権が死に体となっている今、大きな法改正は通らないだろう。何か起こるとしたら海外子会社の留保金課税とか国際税務関係が一部改正されるぐらいのような状況でしかない。先日DCで行われたオバマ大統領の一般教書演説も(オバマ大統領が思うところの)過去の実績の宣伝のみで、任期最後の1年何をするのか伝わってこなかった。米国に暮らしている実体験として、この8年余り米国としていいことはなかったように思うので、次の4年に期待したい。抜本的改正は本当に法律が通りそうになったら触れることにしないと狼少年のようなので。

組織再編(Sub C)は今後も書き続けたいトピックだ。Sub Cの展開は常にかなり面白いのだけどチョッとオタク過ぎる部分もあるのは事実。余りに詳細になるとオーディエンス側での興味レベルに疑問が残るけど、スピンとかの組織再編の話しは人によっては好きだと思うので、補欠合格的に今後順次触れていきたい。中でもスピンオフの今後は特に注目度が高い。

例えば身近なところだと、ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を法人レベルの課税なしでDivestitureする計画だったスピンにケチが付き、IRSからのRulingの取得が無理そうなので計画変更を余儀なくされているような例がある。これは俗に「ホットドックスタンド」とか呼ばれるプランニングの検討事項で、小さすぎるATBを利用してPortfolioカンパニーの株式を合わせてスピンしてしまうというものだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだった。そのように法的には「確立済み」と考えられていた手法に暗雲が立ち込めてしまうとは、ヤフーは実にタイミングが悪い。適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに簡単には行かない。法的にはRulingなしで、法律事務所等からのOpinion Letterのみで敢行しても全然問題もないし、理論的なリスクは同じはずだけど、やはり金額が大きいので、予見可能性を高める、または確証度合いを前もって固いものにしておくにはRulingが魅力的だ(例え、一部の条件に対する限定的なRulingだとしても)。

基本的な問題は上でも触れたように適格スピンに必要な条件のひとつであるスピンする側(Yahoo)とスピンされる側(アリババ株式を出資してスピン用に組成されるNewco)の双方に過去5年従事してきたActive Trade/Business(ATB)が存在すること、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式ではATBを満たすことができないので、何か事業を一緒に出資することでATBとする必要が出てくる。従来はATBの規模は問われないというのが確立した考え方だった。しかし、潜在的に問題となるのは、現金、株式、債券などの投資資産と比べてATBの価値が「極端に」低いと適格スピンの趣旨に合っているのかどうかという問題がある。?

ちなみにヤフーがスピンするNewcoに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」って名称だと知って、最初は何かの悪いJokeかと思ったけど、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面でその名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと「大胆な」な気がする。

他にもスピン関係では、議決権と価値がかけ離れた複数のクラスの株式を利用したり(しかもスピン後直ぐにそんなクラスをUnwindしてしまったり)、スピンされる法人に借金をさせて実質、非課税で事業を現金化してしまったり、とさすが米国企業(プラスそのアドバイザーであるBig 4会計事務所、大手法律事務所、そしてウォール街のInvestment Bankersたち)と唸らせるハイテクかつイノベーティブなプランニングが盛り沢山だ。ちなみにIRSでCorporate部門のAssociate Chief CounselをしているZimbalist(彼が会計事務所に居る頃、一度だけ一緒に働いたことがある)だったと思うけど、彼がDCのBar(飲み屋でなく弁護士協会のこと)かなんかの集まりで、IRSは小さすぎるATBを利用したスピンには神経を尖らせていて内部でスタンスを見直している、という旨の発言をした。すると、その瞬間にヤフーの株価が大きく下がったのを見て、米国株式市場は何てEfficientなCapital Marketなんだろう、と感動してしまった。こんなオタクなスピンの扱いに対するIRSの、しかもBar Associationにおける発言ひとつで、市場がアリババ株式の含み益の課税可能性の現在価値を一瞬に株価に反映させてしまうとは。株式市場は情報が透明ならきちんと機能するんだな、と改めて感動。CEOのMarissa MayerもActivist系の株主からのリクエストもあり、厳しい経営環境だろう。内実は全く知らないけどもしかして「Googleにいたらな~」なんて後悔してないといいんだけど(っていうか僕には全然関係ない話しに過ぎないけど)。ちなみにActivist Shareholdersは今では決して怪しい存在ではなく、シリコンバレー企業を含む米国大手企業の株主としては完全に市民権を得て存在感は増すばかりだ。

後述のInversionにしてもそうだけど、こうなると企業側はプラニングは一日も早く実行しなきゃ、というような脅迫概念に駆られるだろう。昨日まで合法的だったものが、急に法律が変わり、何百ミリオンドル(またはヤフーのようにビリオンドル)の税負担となるというような展開があり得るからだ。去年の秋に出た海外の事業を法人化する際の海外Goodwillの扱いもいきなりProposed Regulationsが晴天の霹靂のように発行され、しかもProposed Regulationsのくせに発効日がその日という抜き打ちレグ。こんなことをしていると益々プラニングは直ぐにしないと、って考える大手企業が増えてIRSから見るとなんか逆効果なように気もするんだけどどんなんでしょうか。?

General Utilities規定が撤廃されて以降、法人税なしで資産を法人の外に出す最後の砦となっているスピンにこれ以上制限が掛かるようだと、何か別の手法を編み出す必要が出てくる。となるとやはり本当に最後の砦として浮上してくるのはSection 351(セクション番号は使いたくないけど、これはこの番号以外で表現はできないので)のイノベーティブな利用となってくるのかも。351が355に勝つとは・・。351には組織再編規定と異なり、持分継続要件が存在しないので、「緩急自在」なプラニングが可能となる。Sub Cは本当にエキサイティングな未知との遭遇だ。こんなことに興奮できる自分は何なんだろうという気持ちもなくはないけど、NYCやDCに星の数ほど居るM&AのTax Lawyerは全員同類だろう。組織再編は後日必ずもっとDeepに触れたい。

さて、残る二つのトピック候補は、話題のOECDによるBEPSレポートとInversion。どちらもITS(国際税務)に従事する者にとっては避けられない分野だ。BEPSレポートは2~3年前最初にOEDCがプロジェクトを発表した頃には想像もできなかったレベルで意外にも日本でキャッチオンしている。メディアの報道も多いが、米国に目を移すと直ぐにBEPSレポートに準じた形で法律が変わる気配は余りないので(法改正なしに実行できると財務省は信じているCbCRとか以外)、トピックとしては一旦据え置きとしたい。ということで、新聞とか日本のメディアを見ててもあまり良く理解されている感じがしないInversionが残り、これにて久しぶりにキックオフすることにしたい。

ちなみにOECD BEPSレポートに関して一言だけ付け加えておきたいが、チョッと長くなるので次回。

Sunday, April 14, 2013

連邦所得税100周年に出されたオバマ大統領2014年度予算案

余り大騒ぎされることはないが、というか全然誰も騒いでないし騒ぐ必要もないが、今年は連邦政府に法人税・所得税(Income Tax)を課すことが認められて100年となる。連邦制度の下、統治の主たる地位を占める州と異なり、憲法で規定される限定的な権限のみを行使できる連邦政府にはIncome Taxを課す権限は認められていなかった時代が長い。そのままにしておいてくれれば、と嘆く向きもあるだろうが、1913年に合衆国憲法修正16条が可決され、連邦政府は始めてIncome Taxを課すことができるようになる。それまでの連邦政府による歳入徴収法には紆余曲折あったが基本的には外形課税の関税とか、Excise Taxだけだったそうだ。今は昔だが、歳出を抑えて憲法の原点に立ち返れば、Income Taxなんてなくても実はやっていけるじゃん、とか夢を見る今日この頃だ。

記念すべき100周年となる2013年、税法は複雑化する一方で税率は世界一だし、抜本的改正も未だに方向性が見えない。1787年当時の識者の集まりである起草者たちが現在の大きな連邦政府の状況を見たらどのように思うだろうか。

そんな中、オバマ大統領は4月10日に2014年会計年度(2013年10月~14年9月)の国家予算教書を議会に提出した。年末のFiscal Cliff騒動で共和党から譲歩を引き出す形で40万ドル以上の家庭に増税を規定したばかりだというのに、更なる増税が規定されている。共和党は増税に関してはFiscal Cliff騒動の始末をもって終わりと明言しているだけに、今後の反発は必至だろう。増税方法自体、税率を上げるというよりも、控除額に複雑な損金算入制限を設けることで増税を間接的に達成する、だまし舟的な手法によるものが提案されておりギミック的なものに見える。多くの規定は前年までの提案の焼き直しで、目新しいものと言えば適格退職金プランに対する拠出額制限くらいだろうか。

予算案は今後10年で1兆8,000億ドルに上る財政赤字を削減するとしているが、その1/3は増税による歳入増を財源としている。赤字の削減に更なる増税を加味するべきかどうかは民主・共和両党の意見の食い違う部分だ。

*所得税の増税規定

一番大きな歳入増が見込まれているのが、個人所得税の「個別控除(Itemized Deduction)」を制限することで達成される増税だ。個人所得税の税率はFiscal Cliff騒動の結果、40万ドルを超える高所得者に対しては35%から39.6%に増税されているが、今回の提案は税率そのものには変更を加えずに、控除額を減らすことで実質的な増税を狙っている。

具体的には比較的裕福な層に適用される「33%、35%、39.6%」の税率ブラケットで所得税を納める納税者に対して、Sch. Aで控除される個別控除の損金算入額に上限を規定しようとするものだ。個別控除の持つ減税効果は、本来、個々の納税者の限界税率(Top Margin Rate)で効いてくるはずだが、ここに制限を加えて、減税効果の上限を28%とすることで、税金は33%~39.6%で計算されるにも係らず、個別控除は28%のみしか税額を減らしてくれないという状況を作り出す。

また、以前から話題を呼んでいる「Buffet Tax」の提案もある。寄付金控除後の年収が100万ドルを超える納税者は、最低でも30%の税率で所得税を支払ってもらいましょうというものだ。累進税率の米国で所得が100万ドルを超えるのに、なぜ税率が30%を切るか不思議に思われる方もいるかもしれないが、お金持ちほど給与所得とか普通の所得の比率は低く、その代わりに投資活動から発生するキャピタルゲインや配当所得が多いのが現実だ。キャピタルゲインも配当所得も優遇税率の対象で、2012年までは基本的に15%、2013年からはFiscal Cliff騒動の一環で高所得者に対しては20%の税率が適用されるようになっている(それでも通常所得最高税率の39.6%よりはかなり低い)。

また、さらにセコめの規定としては物価スライド調整を算定する際に利用される指標を従来使用しているものとは異なる「新型の指標」とすることで、将来的に高税率区分に属する納税者を多くする、という隠し技的な提案も盛り込まれている。

現状では、物価スライド調整(Cost of Living Adjustment)に利用されているのはアメリカ労働統計局が算定するConsumer Price Index (CPI)だが、以前から諮問機関等によりこのCPIはインフレ率を過大表示する傾向があると指摘されている。そこで労働統計局は2000年から代替の指標としてChained CPU(名づけてC-CPI)と呼ばれるより洗練されたモデルに基づく数値を公表している。

この二つの差異を語る際に頻繁に用いられる例を引用すると次のような感じだ。もし「ふじリンゴ」の値段が高くなって 「デリシャスリンゴ」の値段が低いままだと、多くの人がデリシャスリンゴに乗り換える。このような行動パターンの影響はかなりリアルタイムに現状のCPIにも反映されているようだ。だが、ふじリンゴが高くなると、リンゴを買う代わりに(値段に変動のない)別のフルーツ、例えばオレンジを買う人が増えるという現象も当然起こり得る。このような商品バスケット自体に起こる変動効果を加味するのが、現状のCPIだと2年毎の1月なのに対して、C-CPUは毎月となるそうだ。

このような差異から、C-CPIに基づく物価スライド調整は年間0.25%は低くなるとされている。累進税率の米国では高税率区分に属する最低ラインの所得額を毎年物価スライド調整している。したがって、C-CPIを導入することで将来に亘りより所得の低い納税者を高い税率区分に属させることが可能となる。さらにC-CPIを公的年金の支給に代表される歳出にも同時適用することで歳出サイドを抑えることもできる。一石二鳥の効果が期待できるという訳だ。歳出抑制の側面を持つC-CPIの適用は共和党からの支持を受け易く、他の増税案には反対の共和党もこの案には好感を持っているようだ。

次回のポスティングでは所得税以外の国際課税、遺産税その他に関して触れる。

Friday, January 25, 2013

日米租税条約8年ぶりに改正

現時点で適用されている日米租税条約は2003年に全面改正され(2003年の議定書を含む)2004年から効力を持っているものだが、今日(2013年1月24日)に新たな議定書が両政府により調印され、約8年ぶりの改正となった。改正の事実、その予想される内容はここ一年程話題にはなっていたので特に驚きではないが、正式に発表されたことで「本当になったんだな」みたいな感じだ。

内容的にはほぼ予想通りだが、FIRPTA規定の租税条約の隠れた恩典(後述)が明記されると踏んでいたところ、逆に恩典が正式に撤廃されるという方向に行っていた。これはガッガリ。後、多分入らないだろうとは思っていたが、やっぱり入っていなかったのが適格企業年金の他国での尊重(すなわち、日本の厚生年金の公的でない部分とかを米国で「402 Accrual」しなくてもいいように認めるもの)だ。現実には確定給付型の企業年金に加入している日本人の米国派遣員でこのAccrualをして申告しているケースは皆無と思われることから、逆に租税条約でお墨付きとして欲しいところだった。確か英米の条約にはそのような条項が入っていたような記憶がある。

政府間の合意が見られたが、即有効になる訳ではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要がある。批准が終わった後に実際の効力を持つこととなる。米国では条約の批准は上院のみの管轄となる。近年の租税条約、議定書の批准プロセスを見ていると簡単に数日で終わるようなプロセスではなく、早くても今年後半というところではないかと推測される。

*改訂内容

改訂そのものは14条項から成っている。重要性、スコープはまちまちだが、各項目の極ザックリとした内容は次の通り。目玉は配当、利子の源泉税免除拡充、仲裁条項の追加だろう。

I) 20条(教育・研究者の免税)撤廃による「Saving Clause」文言のアップデート。Technical Correctionで大きなインパクトはない。

II)法人のTie-Breakerルール撤廃。両国で居住者となってしまう法人は従来は協議の上、どちらかの居住者として取り扱うとされていたのが、今後はそのようなケースでは租税条約の恩典ナシとする条項。

III) 配当に対する源泉税ゼロ%の要件が若干緩和され、従来の「50%超」「12ヶ月保有期間」が各々「50%以上」「6ヶ月保有期間」となった。

IV)利子に対する源泉税が一定要件を満たすと初めてゼロ%となる。

V) 従来の租税条約では上院の批准趣旨から見て、米国のFIRPTAルールの適用時にUSRPHC(米国不動産持分法人)になるかどうかの判断を、株式売却時点のみの資産状況で決定することができるという解釈が一般的であった。これに関しては批准の文書化で明らかにされているにも係らず、条約そのものの文言が不明確で、本当にそんな解釈をしていいのかどうかという点で疑問を持つ向きもあった。今回の改正でこの疑問が解消されることを願っていたのだが、解消されたのはいいが、方向が逆で、上院の文書化に見られる批准趣旨は無視され、米国FIRPTAルールの内国法そのものが適用されることになった。すなわち通常通り、一定の例外を除き、株式売却時点が5年間遡って判断しないといけない。残念な改正だ。

VI) 日本法人の役員報酬は居住地に係わらず日本で課税できる、という実質内容に見えるが以前からどこが変わったか現時点では理解できてない。もう少し勉強します。

VII) 教育・研究者の免税撤廃。チョッと気の毒な感じ。

VIII) LOB規定の上場定義のTechnical Correction。

IX) 日本がTerritorial課税になったためのTechnical Correctionだが、現時点での解釈と変わらずのような気がする。

X) 利子の源泉税条項変更に伴うNon-Discrimination規定のTechnical Correction。

XI) Arbitration(仲裁条項)の新規追加

XII) 情報交換の拡充(条項全体一新)

XIII) 租税徴収の相互協力拡充(条項全体一新)

XIV) 2003年議定書の改訂で主たるものは相互協議関係。

という訳でJFK―>LAXの機内から取り急ぎ。今週のNYは極寒でした。

Wednesday, January 2, 2013

Fiscal Cliff騒動で明け暮れた年末・年始

あけましておめでとうございます。2013年もよろしくお願い致します。

昨年の秋頃から米国は果たしてFiscal Cliffに対応できるのか、という問題が大きく取り上げられるようになっていた。このFiscal Cliffは日本の新聞などでも取り上げられ「財政の崖」などと訳され、一年前は誰も知らなかった用語なのに、今ではまるで一般用語であるかの如く日常お茶の間の会話に登場するようになった。2012年末までには余りに一般化しずぎて「うちの家計がFiscal Cliffで・・・」のような使い方までされる始末だった。

このFiscal Cliff問題、簡単に言うと2001年・2003年に実施されたブッシュ所得税減税が2012年末で自動的に失効するのとタイミングを同じくして、2011年に可決されたBudget Control Actに基づいて米国の国家予算の大きな部分がカットされるという歳出抑制策が2013年1月1日に「Kick-In」するというダブルパンチを意味していた。景気の足元が未だに定かでない状態で、このような二重苦を強いられては経済は一気に不況に逆戻りすると皆が戦々恐々としていた。そんな中、タイムリミットとなる2012年12月31日が刻々と近づいてきたのだった。

中でもブッシュ減税の失効は大半の納税者の所得税を押し上げることからその方向性が注目されていた。ブッシュ減税は個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げると同時に、キャピタルゲイン税率を20%から15%に、そして更に従来は通常所得として課税されていた(すなわち最高39.6%だった)配当をキャピタルゲイン同様に15%課税としたのが骨子であり、基本的には富裕層に有利な税制と受け取られている。

このブッシュ減税、実は元々2010年に失効する予定であったものが、2年間延長され、2012年にまた失効の憂き目に合っているというものだ。2010年のバタバタに関しては2010年12月6日のポスティング「ブッシュ減税+AMTパッチやっと延長の方向に」で触れているのでぜひ参考にして欲しい。Fiscal Cliffの幕開け問題とも言える2010年当時のバタバタ振りが分かってもらえるだろう。

*元旦にCliff法可決

2012年後半から民主・共和両党が譲らずに何回も決裂していた法案作成だが、何と2013年1月1日にCliff法がようやく可決した。それにしても、結局は中間地点で手を打てるのなら、何もここまで引っ張らなくてもと思うところだが、議会の先生達も結構見せてくれる。12月31日終了時点ではCliff法はなかったことから、厳密に言うと米国は財政の崖から一度落ちてしまい、落ちていく過程でやっぱりこれはまずい、ということで崖の底辺にクラッシュする前に背中のジェットパックが起動して崖っぷちに押し上げられたような感じかも。Helter Skelterみたいだ。

*ブッシュ減税部分的に恒久化

注目の所得税減税の運命だが、大方の予想通り、中間地点への着地で終焉した。もともと、ブッシュ減税を全て失効させてしまうと民主党の基盤も含む全ての納税者に増税効果があることから、オバマ政権案もさすがにそこまでは増税を望まず、民主党案は年収$250,000までは増税ナシ、それ以上の年収の場合にはブッシュ減税以前(最高税率39.6%)に戻すというものであった。一方の共和党はいかなる増税も認めない、代わりに民主党の好む政府による各種補助金的な歳出を抑えるように求めていた。米国の現状は(選挙後の2013年以降も)下院が共和党、上院が民主党、ホワイトハウスは民主党という勢力図になっており、両院が別の党に支配されていることから、基本的に超党法案でないと可決されないという難しさがある。

両党による調整(主に下院とホワイトハウス)過程では、共和党が$1,000,000以上の年収であれば増税を認めるとした案を出したり、オバマ政権側が$250,000を超える年収に対する増税は必ずしも39.6%でなくてもよい(中間の37%とかでもよい)という案を出したり、綱引きが続いていた。

結局のところ落ち着いたのは年収$400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)は所得税率のアップはなし、それを超える場合にはトップ税率を35%から39.6%にアップというものになった。$250,000でないだけマシと言えるが、米国の事業オーナー的な身分だとおそらく$400,000はチョッと物足りないというのが本音ではないか。$1,000,000ならば余り文句もないレベルだったと思う。また、税率が39.6%まで一気に戻ってしまった点もショックに感じている方も多いと思う。20年ぶりに米国を襲う大きな増税となる。今回のCliff法、基本的には歳出カットは先送りし、その分を富裕層への増税で賄うという図式のものとなっている。歳入増の9割方は年収$1,000,000以上の納税者から見込まれるそうだ。

*キャピタルゲイン・配当

もうひとつの焦点であったキャピタルゲインおよび配当課税だが、こちらも折衷案的な解決が見られた。キャピタルゲインも配当も年収400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)までの納税者に関しては15%は据え置かれるが、それを超える年収の者が受け取るキャピタルゲイン、配当は20%に上昇することとなる。配当が通常所得の39.6%まで戻っていない点には安堵した投資家も多いだろう。

ちなみに、配当に対する所得税率が15%から39.6%に上がるかもしれないという懸念の中、米国上場企業の2012年第4四半期の「駆け込み」配当は例年平均の7.5倍の額に上ったという。さすがに税制に敏感な国の企業の配当ポリシーだ。もっとも、似たような現象は2010年のオリジナルの減税失効不安時にも見られたが。

*結局は国民皆増税

所得税率だけ見ていると分からないが、実際にはほぼ全員が増税の影響を受けるというのが実態のCliff法だ。まず、社会保障税の公的年金部分(日本の社会保険料に相当)の従業員負担部分が4.2%に減額されていたものが1月1日より6.2%に戻る。これは年収レベルに関係なく適用される。

また、所得税を算定する際に認められる「個別控除(Itemized Deduction)」の金額にPhase Outと呼ばれる制限が再開される。このPhase Outは増税以外の何者でもないが、税率の方だけ見ているとその効果が分からないために「隠れた」増税と揶揄されることがある。Phase Outは年収$250,000の納税者(夫婦合算申告のケースでは$300,000)から適用される。また同じレベルの高所得者が計上する扶養家族控除にも同様のPhase Out規定が再開される。つまり年収$400,000行ってなくてもかなり踏んだり蹴ったりの状況となる場合もある。

ひとつグッドニュースはここ何年もサーカスのように時限的なパッチでごまかしてきたAMTの問題が恒久的に解決された点だろう。AMT所得税を算定する際に使用される控除額が物価スライド調整されたものに置き換えられる。AMTパッチに関しては2007年12月27日のポスティング「IRSのAMTパッチ対応Update」等で何回か触れているのでそちらを参照して欲しい。

*R&Dクレジット

もうひとつ多くの日本企業にとっての関心事であったR&Dクレジットだが、こちらは2年間延長された。R&Dクレジットは2011年で失効していたため、2年と言っても2013年までの延長となる。これもAMTパッチ同様に必ず延長されると信じられているがいつまで経っても時限立法の状態にある規定だ。

チョッと気になるのはR&Dクレジットの延長が法律化されたのが1月1日となると、2012年12月末の決算書にR&Dクレジットの影響を盛り込むことができるかどうかという点だ。これは会計原則の問題なので個人的には専門外となるが、FASB 109(Codifyされる前の番号で失礼)では法律が「Enact」された日を含む期にベネフィットを認識となっていたように思うので、1月1日ではどうなるか気になった。

また、日本企業には余り関係ないかもしれないが、タックスヘイブン税制下の「Active Financing」例外規定(GEが恩典を沢山受けているもの)、「Look-through」規定なんかも仲良く2年間延長され2013年まで有効となった。

*Fiscal Cliffこれから

Cliffは一応、軟着陸で乗り越えた。だが、基本的な国家財政の問題はこれからの課題として残り続ける。1月1日の法審議の際に下院共和党では「取り合えずタックスの部分のみ解決させ、財政は今後審議しよう。でないと何の法案も通らないから」という形で最終的には合意を見たと言われている。共和党としては何とか歳出を減らしたいが、そこにこだわり続けると結局、超党の法律は通らず、タックスまでもCliffから落ちてしまうとの懸念が最後は部分的な増税を含む法案にOKを出した形となる。

財政均衡の方向を見ても、両党のイデオロギー的な違いは大きい。米国でなぜいつまでも銃規制が行われないのか、という日本的に考えると不思議な疑問も、米国建国時からのイデオロギー的な戦いの中では簡単な解決策はない。それと同じようなことが今回の年末年始に掛けてのFiscal Cliff騒動に見られた。ということは今後の財政問題も簡単には超党的な解決はないように思える。

*2013年Resolution

最後に毎年のResolutionですが、もっと頻繁にポスティングしなくては!次回は書き始めた「過小資本についてスコティッシュパワー判例から学ぶ」というタイトルに関して半年振りに着手させて頂きます。それでは皆さん良いお年をお迎え下さい。