Friday, August 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(6) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、これでもかっていう位、課税済所得の話しに終始してしまったけど、まあ、それだけ重要なポイントってことを理解頂ければ何より。従来のSubpart F規定に基づく課税済所得に加え、このポスティングのテーマとなる留保所得一括課税、そしてさらに今後はGILTIで外国法人側の留保所得の多くはますます課税済所得化するトレンドとなる。ちなみにGILTIと言えば、今日(8月31日金曜日)またはLabor DayのLong Weekend明け直ぐに待望の財務省規則案の公表が予定されている。ただ、今回の規則案はGILTI制度の中でも、メカニカルな計算にフォーカスした内容となるとIRSの高官が言ってたし、外国税額控除とか課税済所得は財務省・IRS内に別の「ワーキンググループ」があり、各々、独自の財務省規則案をドラフトしているらしい。となると、課税済所得に関しては今回のGILTI規則案には盛り込まれず、長らく最終化されていないけど、元々、従来のSubpart F規定に基づく課税済所得のルールを規定しようとしている財務省規則案を大幅に加筆・修正して、新たな課税済所得規則案が2018年中には公表されると見るのが妥当だろう。従来の国際課税制度の枠組みでは考えられない規定が多いし、その上、既存の規定も温存されているので、そこのすり合わせとか大変そう。でも、財務省とかIRSのワーキンググループに属してたら楽しそう。三権分立の考え方がしっかりしている法治国家の米国では、行政府となる財務省、IRSには、立法府である議会が制定した法文の各条文に明記してある範囲のみで規則策定権限が存在するので、どこまでの規則策定権限が与えられているかを慎重に見極め、その範囲内で規則を策定する必要がある。なので、むやみやたらに規則を策定できるものではない。この範囲をどう拡大、または狭義に解釈していくかという点ひとつ取ってみても実に興味深い法的な検討だ

で、前置きはこの辺にしておいて、今回は約束通り、特定外国法人の株式簿価にかかわる怪談。早くしないと夏も終わっちゃうしね。

まず、従来からのSubpart F規定に基づく米国株主のCFCに対する株式簿価の仕組みだけど、ここの基本部分を理解してないと留保所得一括課税時の簿価の動きも分からない、というのは当然なので、まずは、その辺りのおさらいから。

従来のSubpart F規定に基づき米国株主が課税される場合、課税対象となるCFC側のSubpart F所得は、実際には米国株主に分配された訳ではないので、まだCFCの手元に残っている。これを課税済留保所得という特殊なアカウントでトラッキングする点は前回のポスティングの通りだけど、その際、同時にCFC側で課税済所得となる金額分 米国株主の持つCFC株式簿価を増額調整させる必要がある。従来のSubpart F所得は所得自体の算定は米国課税所得算定法に準じるけど、米国株主側の要合算額がCFC課税年度のE&Pを上限としていたことから、Subpart F所得、課税済所得(E&Pコンセプト)、そして株式簿価増額、その後の分配(E&Pベース)、という一連の流れをスムースに一貫して管理できる。今後、GILTIはE&Pベースではないので、その辺り、課税済所得規則案がどうアプローチしてくるのか、2018年冬の規則案公表が待ち遠しい。

留保所得一括課税の局面で考えてみると、もし単純に米国株主がプラス留保所得を持つ特定外国法人一社しか保有してないとか、複数の特定外国法人を保有しているけど、全ての法人がプラスの留保所得というような、どちらかというと単純というか従来のSubpart F規定に近いケースでは、上述の今までの簿価調整同様の考え方をそのまま適用することが可能だ。すなわち、留保所得課税の対象となった金額がそのまま各特定外国法人側で課税済所得となり、米国株主側では同額が特定外国法人各々の株式簿価増額調整、っていう綺麗に惑星が一列に並んだような処理となる。

問題は米国株主が保有する特定外国法人にマイナスとプラスの留保所得を持つ法人が混在している場合。前回のポスティングでも触れた通り、米国株主側にプラスやマイナスの留保所得が存在する形で金額がフローアップしてくると、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺することになる。これは従来のSubpart F規定では存在しない新しい概念だ。この新概念が今後、GILTIに踏襲されていくことは以前にも触れた通り。Subpart F所得というのは、元来、各々のCFC独自の属性という位置付けだったから、米国株主側にフローアップした後に所得金額が変わったり、他のCFCが認識するSubpart Fマイナス金額と調整されてしまうということは従来では考えられない。そんなことしようもんなら、各CFC側に米国株主側の処理を加味した後の数字を反映し直す、っていう複雑な調整メカニズムが必要になる。その手のメカニズムは、個々のCFCから見ると期せずして変な調整になって納税者が困ってしまったり、または、逆にうまくその辺りをデザインすることで、賢い納税者にプラニングの機会を提供してくれたりすることとなる。今回の税制改正で導入された全く新しい国際課税規定となるGILTIは、GILTIそのものをどちらかというと米国株主側の属性としながら、課税方法はSubpart Fに規定される多くのインフラ、プラットフォームをそのまま流用するような構成となっているけど、留保所得の一括課税もプラスとマイナス相殺を規定した段階で、GILTI同様に、米国株主側の調整をCFCに投げ返すという新しいルールを導入しなくてはならず、財務省規則案によるこの辺りのアプローチ作りはいろいろと苦労がうかがえる。

他の特定外国法人のマイナス留保所得でプラスが減額された場合、減額された金額は米国株主側で課税されていないにもかかわらず、プラス留保所得を持つ特定外国法人の課税済所得となる点は前回触れてるけど、じゃあ、対応する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価が、従来の調整のように課税済所得同額に関して全額増額するか、というと単純にそうはならない。簿価調整目的では、マイナスで減額された後のネット額、すなわち実際に米国株主側で留保所得課税の対象となった金額のみが増額金額となるというのがデフォルト規定となる。

う~ん、なるほど。となると、マイナス留保所得を持つ特定外国法人を一社でも保有してて、他の特定外国法人のプラス留保所得と相殺してしまった米国株主にとって、プラス留保所得を持ってた特定外国法人の株式簿価の増額は、特定外国法人側に留保されている課税済所得の増額に満たないこととなる。課税済所得が実際に将来、分配されてくるタイミングでは、課税済所得部分は配当扱いされないので、テリトリアル課税だろうが、従来の全世界課税だろうが、通常は非課税になるけど、課税済所得分配額が株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益としてキャピタルゲインとなる。

え~、そんなだったら、他社のマイナスで減額されたプラス留保所得は、一層のこと課税済所得にしてくれない方がよかったんじゃないの、って思うけど。だって、課税済所得ではない通常の留保所得のままだったら、税制改正後は従来と異なり、分配時に245Aで特定外国法人からの配当は米国側で100%配当控除が取れるので非課税になるはず。ここは何がベストか難しいところだけど、留保所得が課税済みの扱いとなるって言うと、税制改正前の感覚で、何となく「良かったね」って安心したくなる。今後は、このような従来の概念が必ずしも通じないというところが恐ろしい。今回の税制改正後の米国クロスボーダー課税が、他国の国際課税規定との比較も含めて、全く新しい「Whole New World」に突入したんだな、っていう点を改めて認識せざるを得ない。まさに「A new fantastic point of view」で、誰かに魔法のカーペットに載せてもらって「Wonder by wonder」解説してもらわないとね(この歌詞、アラジンの映画とかブロードウェイ見た人は分かるね?)。

で、基本ルールは上の通りだけど、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる選択が規則案に規定されている。チョッと話しが既にヘビーかつメタル(?)になり過ぎてるので、ここからは次回。

Saturday, August 11, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、一人の米国株主が複数の特定外国法人を保有し、しかもその中にプラス(Deferred Foreign Income )とマイナス(Deficit E&P)の留保所得を持つ法人が混在している場合の、課税対象留保所得の算定の考え方、またプラスとマイナスが相殺される場合の各特定外国法人のE&Pの増減の考え方、すなわちプラスおよびマイナス留保所得の配賦法に関して触れた。チョッと複雑でテクニカル過ぎる話しになってしまって恐縮なんだけど、実際問題、この規定、たかが留保所得一括課税、されど留保所得一括課税、とでも言いたくなる感じで、とにかく複雑でテクニカル。

留保所得一括課税が複雑になっている理由のひとつに、留保所得はSubpart F所得として課税するというプラットフォームでアプローチしておきながら、実は大きく従来のSubpart Fシステムから逸脱している点が挙げられる。すなわち、本来、Subpar F所得は米国株主ではなく、CFCや特定外国法人側の属性のはずだ。CFC側の属性を米国株主は単純に合算するだけの話しだったはずだ。今回、プラスの留保所得、すなわちDeferred Foreign IncomeはSubpart Fとして課税という立て付けとなってるけど、CFCからその属性が米国株主にフローアップしてきた後に、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺させるという、従来のSubpart F規定では存在しない概念を導入している。一旦CFC側で独自の属性として算定されたものを、米国株主側で調整してしまうと、その調整を各CFCに反映しなおさないといけない。これは、税制改正で導入された全く新しい国際課税の規定となるGILTIに継承されていく新たな切り口だ。GILTIはCFCの属性と言うより米国株主側のものだけど、制度変更時の移行措置として規定された留保所得一括課税がGILTIを匂わせるアプローチを導入しているのはとても興味深い。ってこんなことに感動しているのは僕だけかもね。

で、今日は特定外国法人にプラスやマイナスの留保所得が配賦された後の影響に関して。

従来からのSubpart F規定に準じる話しだけど、CFCが認識している所得をSubpart F所得っていう理由で米国株主が課税される場合、まだ配当をしていない訳だから、留保所得、すなわちE&PはCFCに残っている。それを将来分配する際、二度目の課税がないように、Subpart F所得として認識された金額に関して、米国株主側でCFCの株式簿価が増額され、その後、実際に分配が起きた際は、配当所得とはならず、代わりにCFCの株式簿価が減額される仕組みになっている。しかも、分配は強制的にまず課税済み留保所得から行われたとみなされる優先順位規定がある。これはCFCからの配当が課税所得だった旧法下では、より重要なポイントだけど、税制改正後も引き続き同じ規定だし、その重要性も引き続き残る。留保所得一括課税は通常の課税よりかなり低い税率で適用されているにも関わらず、留保所得満額CFCの株式簿価が上がっている訳だから、以前よりも有利な課税関係で、CFCを譲渡したり、米国法人の下から外したりできるはず。GILTIがあるから、日本企業のような米国へのInbound企業はさっさと米国子会社の下から米国外法人を外してしまうのが得策だろう。

留保所得一括課税で2017年末(または11月2日時点)に存在する留保所得全額がSubpart Fで課税されるインパクトは単に米国株主側で大きな課税があるっていう点に終わらず、特定外国法人に巨額の課税済み留保所得をもたらす点にも見られる。優先順位的に将来の分配はまず、課税済みの留保所得から分配されることとなる。留保所得一括課税の段階で、米国株主から見た特定外国法人の株式簿価は増額してるけど、分配を受けるたびに逆に簿価が下がっていく。下がり過ぎてゼロを下回ることがあるとみなし譲渡益になっちゃうので注意。

2017年まで貯めた留保所得全額がこんな取り扱いになるっていうことは、税制改正で導入されたテリトリアル配当非課税の245Aを登場させるまでもなく、当面分配は課税済み所得のリターンだから非課税となる。さらに今後はGILTIでCFCの所得の多くが米国株主側で課税所得となり、更に多くの課税済み留保所得を生み出し続ける。すると、それらの金額に関しても、従来からのSubpart F、留保所得と並び、全て課税済み所得となる。将来の分配は全てこれらの課税済み所得から優先的に分配されていると取り扱われることから、結局、課税されてない留保所得の分配が起こることはないようなケースも想定される。となるとせっかくの「テリトリアル課税」化も名ばかり。これが前から触れている今回の国際課税にかかわる改正の神髄に当る部分だ。

このことからCFCや特定外国法人のE&Pのどの部分が「課税済」っていう位置づけになるかどうかは、かなり重要な検討事項になるけど、特定外国法人のプラスの留保所得が他の特定外国法人のマイナスE&Pにより減額された場合の取り扱いが面白い。他の特定外国法人のマイナスで一括課税対象となるプラス留保所得が減額された場合でも、プラス側の法人では減額分も含めて課税済みと取り扱う旨が規定されているからだ。実際に課税されていないのに留保所得が課税済所得扱いとなり、プラスの特定外国法人に関しては基本的には有利な取り扱いと言える。ただ、この規定に基づいて多額の留保所得が課税済みとなり、後日の分配時に、課税済み所得の分配額が米国株主から見た特定外国法人の株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益となるのでこの点は注意が必要。従来のSubpart F規定下では通常、Subpart F規定でCFC側で課税済所得に生まれ変わる留保所得額と、米国株主に認められるCFC株式簿価の上方修正がパラレルとなるので、問題は比較的少なかったように思う。一方、一括課税にかかわる規則案ではここでも驚くような複雑な取り扱い、複数の選択が待ち受けている。この点は次回以降に触れたい。

他の特定外国法人のマイナスで減額されたプラス留保所得がプラス側の特定外国法人で課税済所得と取り扱われる一方、その対応的調整として、マイナスを使用された特定外国法人のE&Pは増額させられる。E&Pの増額と言っても、もともとマイナスE&Pの法人だから、マイナスが少なくなるっていう方が分かり易いだろう。

これらのことから、前回のポスティングで触れた、どの法人のプラスがどれだけ他の法人のマイナスで減額したのかとか、どの法人のマイナスがどれだけ使われたのか、という配賦算定がどれだけ重要な意味を持ち得るか分かってもらえたと思う(願う?)。 という訳で今回は課税済所得の話しに終始したけど、留保所得一括課税とGILTIという2017年までは考えられないWhole New Worldに突入した現在、その重要性は格段に増してる。課税済所得のみに特化した規則パッケージが秋にも公表されるという噂もあり、今から楽しみ(?)。って言うと少し頭おかしく聞こえるかもね。

で、次回は課税済所得と切っても切れない縁の間柄にあると言える特定外国法人の株式簿価の話し、しかも超複雑怪奇でその仕組みを解き明かした際には背筋が寒くなるような夏の怪談に移るので、猛暑を持て余している方は楽しみにしているように。

Saturday, August 4, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税

前回は米国国際課税制度移行時の特別措置となる特定外国法人の留保所得一括課税の法的枠組みの基本的なアプローチについて触れた。すなわち、特定外国法人の留保所得をSubpart F所得と規定することで、従来のSubpart F規定の一環で米国株主側で課税所得として認識させる、心憎いアプローチだ。

従来のSubpart F規定はCFCが認識する受動的所得等の特定の所得をSubpart F所得として、米国株主が自己の課税所得と合算申告する仕組み。具体的には、外国法人が自己の課税年度内に一日でもCFCに該当する日があると、当課税年度内で法人がCFCの定義を充たしている最終日に、直接・間接にCFC株式を保有している米国株主が、CFCの課税年度終了日を含む米国株主側の課税年度に、CFCのSubpart F所得の米国株主帰属額(Pro Rata Share)を課税所得とすること、というもの。なんか回りくどい立て付けに聞こえるかもしれないけど、留保所得一括課税を理解、検討する上で、ここは絶対に理解しておかないといけないベーシックなコンセプトとなる。

で、前回のポスティングの後半に、通常のSubpart F規定には存在しない、マイナス留保所得によるプラス留保所得の相殺取り扱いに関して触れ始めた。すなわち、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ特定外国法人の持分を保有し、同時に少なくとも一社でもマイナスE&Pを持つ特定外国法人の持分を保有する場合には、米国株主側で取り込むべき留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる、っていう相殺容認規定だ。米国株主側で複数の特定外国法人の属性を通算できる点、チョッとGILTIに似てる。

で、複数の特定外国法人にプラスの「Deferred Foreign Income」があったり、マイナスE&Pがあったりすると、どの特定外国法人のマイナスを誰のプラスと相殺しているのか、っていう検討事項が発生する。「でも一括課税って一回切りだし、相殺後のネット課税所得の金額が同じだったら、別に誰のプラスが誰のマイナスで消されてても関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、それは大間違い。一括課税で各特定外国法人のE&Pが消えてしまう訳ではないので、プラスとマイナスの相殺は、一括課税後に各法人にいくらE&Pがあり、そのうちどの額が一括課税で課税済みとなり、またSubpart F所得の合算、およびその後の分配と連動する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価の算定、など広範かつ複雑なインパクトを持つ。

そこで税法では、ある米国株主に帰属すると扱われるマイナスE&Pの総額は、その米国株主が一括課税で認識するDeferred Foreign Income総額に占める各特定外国法人のDeferred Foreign Incomeの%に準じてプラスの留保所得を持つ特定外国法人に配賦、と規定している。配賦法としては予想通りだし極常識的なものと言える。さらにこの目的ではマイナスE&Pは米国株主が認識するプラスの留保所得総額、すなわちDeferred Foreign Income総額に限定される。それはそうだろう。要はプラスの留保所得と相殺するためにマイナスE&Pを配賦する訳だから、プラス総計を超えるマイナス額で、全体の一括課税額をマイナスとすることは認められない。

もし、マイナス額がプラス額より多く、プラス額を消去してもマイナス額が余ってしまう場合、マイナスE&Pはプラス留保所得の額に限定されるけど、その際、どの特定外国法人のマイナスE&Pをいくら使用したと考えるのか、すなわち、今度はマイナス額そのものの配賦法が問われることとなる。ここはフォーミュラアプローチが法文に規定されていなくて、今後公表される財務省規則に基づき、米国株主がどの特定外国法人のマイナスを使用したと取り扱かいたいか指定可能とされている。特定外国法人が全社100%保有のCFCだったら、米国株主側から見るこの辺りのメカニズムも多少容易かもしれないけど、実際にはCFCの一部は他の米国株主が保有していたり、または外国株主の持分が入っていたり、いろいろと複雑な検討が付きまとうことになる。

さらに、従来のSubpart F規定の一部に、米国株主側で合算するSubpart F所得を過年度の同じ活動から発生しているマイナス所得で相殺してもよろしいという、通常の課税所得算定時の繰越欠損金の取り扱いに似た規定がある。この適格マイナス所得に関して、一括課税で他の特定外国法人のプラス留保所得をマイナスE&Pで相殺している場合、どの活動のどの繰越適格マイナス所得に紐付けるか、という指定も米国株主側に認められる。この辺りになると従来のSubpart F規定を知ってないとチョッと難しいかもね。

ちなみに一括課税目的のマイナスE&P額の算定だけど、プラス留保所得、すなわちDeferred Foreign Income の算定法と2つの点で異なる。Deferred Foreign Income に関しては後日詳しく触れるけど、「プラス」留保所得の算定時には、1987年以降の累積E&Pから米国事業関連所得(ECI)および過去にSubpart F所得として合算され課税済みとなっている留保所得(PTI)を減額する。さらにプラス留保所得は2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい方の額を使用すること、と規定されている。

一方、面白いことに「マイナス」留保所得算定時には単純にE&Pそのものがマイナスか否かを2017年11月2日時点の一発勝負で決める。プラスとマイナスの算定法がパラレルでないことから、場合によってはひとつの特定外国法人がプラスとマイナス双方の留保所得を持つような結果があり得るという不思議な規定だ。更に、場合によっては留保所得がプラスでもマイナスでもない結果となることもあり得る。これって法文が狙ってそうしているのかどうか分からないけど、数日前に公表された財務省規則案では、そんな混乱に応えるため、特定外国法人の留保所得算定法に優先順位を設けてる。法文が複雑怪奇で、いろんな点にガイダンスを策定しないといけない財務省もさぞ疲れ気味だろう。「Christ you know it ain't easy. You know how hard it can be. The way things are going, they're going to crucify me」とか思わず口ずさんでしまう気分では?

で、規則案の優先順位に基づくと、最初にまず、特定外国法人に「プラス」留保所得があるかどうかを判断する必要がある。その結果、プラス留保所得ありという判断となる場合、「マイナス」留保所得有無の判断は行なうことはできず、「プラス」留保所得を持つ特定外国法人と確定される。一方、「プラス」留保所得なしという判断結果が出た場合、初めてそこで「マイナス」留保所得を持つかどうかを判断に移ることが許される。万一、「マイナス」留保所得も持たないと判断される場合には、特定外国法人は「プラス」留保所得も「マイナス」留保所得も持たない法人と確定される。たかが、留保所得があるかないかの判断なんだけど中々難しい。

という訳で、次回はマイナス留保所得が特定外国法人の将来のE&Pに与える影響等に関して。

Friday, August 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(3) 留保所得一括課税規則案ついに公表

前回から国際課税制度移行時の特別規定となる「留保所得一括課税」に関して触れ始めたが、ちょうど、昨日(2018年8月1日)、一括課税にかかわる財務省規則案が公表された。この規則案、今回の税制改正にかかわる財務省規則としては初のものとなる。規則案は前文113ページ、主文136ページ、計249ページ、と予想はしていたけど膨大だ。2年前の過少資本規則518ページも読めたんだから、その半分と考えれば今回も読み込めるはず、って自分に言い聞かせないとね。

で、この手の規則には、「書類作成負担軽減法」とか訳されることがある米国の「Paperwork Reduction Act」に基づいて、規則対応に各納税者がどれだけの時間を費やす必要があると推定されるか、っていう時間数が記載されている。いつも笑っちゃうけど、Section 965の一括課税対応に費やされる推定時間はナント納税者当り「5時間」だそうだ。250ページの規則を発行しておいて5時間っていうのは大胆だ。

規則案の内容そのものは過去の複数のNoticeから予想されたものが多い。一点、興味深かったのは、留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資として、後日外国法人が米国株主に分配を行い、源泉税が課せられる際の外国税額控除の取り扱い。規則案によると税額控除の対象とはなるけど(それは960があるので当然そのはず)、源泉税のうち外国税額控除の対象となる金額は、一括課税時に税額控除対象となる法人税を減額した際の「Applicable %」で同様に減額するというもの。そうなるんじゃないかな、っていう憶測はあったけど、業界の集まりに来る財務省やIRSの重鎮が全額取らせてあげてもいいんじゃないか、というような趣旨の発言をしているのを聞いたことがあったので変な期待が頭の片隅に残っていた。でも、やっぱり減額だったね。まあ、低税率で課税済みになってる留保所得を原資としているのでしょうがないね。

いきなり財務省規則案を深掘りしてもチョッと分かり難いかもしれないので、まずは一括課税規定の基礎から入って、適宜、規則案で補足されている部分に触れていきたい。

一括課税の基本的なアプローチは、留保所得をSubpart F所得と認定することで、米国株主側で課税所得として認識させるというもの。Subpart F所得とは、従来から税法に存在し、米国のCFC課税の対象となる一定の所得のことで、Subpart F所得となり例外規定の適用がないと、米国株主側で課税所得として認識しないといけない、というもの。

これはなかなかスマートなアプローチで、対象となる留保所得を明確に規定すれば、米国株主側の計算法、CFCの株式簿価の調整、その後の分配、外国税額控除などは既存の法律をそのまま流用することができる。もちろん必要に応じて既存の法律の考え方を変更もできる。したがって一括課税を規定しているSection 965では米国で課税する云々には直接触れられておらず、「Deferred Foreign Income Corporation」が認識している「Deferred Foreign Income」の2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい残高額を当外国法人のSubpart F所得とする、と規定している。米国株主側の属性となるGILTIと異なり、Subpart Fは各CFCの属性と言えるので、外国法人のDeferred Foreign Incomeを各外国法人レベルでSubpart F所得と規定し、後は通常のSubpart F規定に準じて米国株主が他の(通常の)Subpart F所得同様に合算するという仕組み。

で、この基本的なフレームワークの次にくる規定が、マイナス留保所得の扱い。通常のSubpart F所得の世界では、米国株主はプラスのSubpart F所得を持つCFCから、所得のみを合算することになるけど、留保所得課税をSubpart F所得扱いする際の特別措置として、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ外国法人を持分を有し、また少なくとも一社マイナスのE&Pを持つ外国法人を持分を有する場合には、米国株主側で取り込むべきSubpart F扱いされる留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる。

外国法人のマイナスE&Pを他の外国法人からフローしてくるSubpart F所得と、米国株主側で相対するという概念は、従来のSubpart F規定には存在しないので、この点に関しては多くの複雑な検討事項が必要となり、法律でも比較的詳細に規定されている。ここはチョッと長くなりそうなので次回、まとめて触れてみたい。

Tuesday, July 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(2)

柄にもなく2回も売上税の話しで脱線してしまったけど、元々は米国の三権分立や判例主義の部分に興味があってどうしても触れておきたかった。三権分立は米国において連邦憲法で保障されている個人の自由にかかわる権利を守るための最重要システムだ。聞こえのいい憲法を持つことは簡単だけど、独裁者が憲法を無視して暴走しないためには強固な三権分立が不可欠だからね。という訳で、それはそれなんだけど、今回からはいよいよ満を持して、税制改正の国際課税に関して。今回の税制改正で一番大きなインパクトがあるのは、何と言ってもクロスボーダー課税の部分だから嫌でも長編にならざるを得ない。

前回の「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)」で「しつこく」触れたんで、既にメッセージは伝わってると思うけど、GILTIの導入を考えると、税制改正で米国がテリトリアル課税制度に移行したというのは、ウソとまでは言わないとしても、かなりの語弊がある。従来のDeferral制度が完全撤廃されたことは間違いはないけど、問題はその撤廃の仕方。CFCを含む10%特定外国法人からの配当は非課税になったので、米国もこれでめでたくテリトリアル課税制度の仲間入り、というのは表面的な見え方で、まず先に毎期毎期、GILTIによりCFC課税所得を強制的に米国株主側で所得認識させられるため、CFCの配当原資は毎期ほぼ課税済みとなってしまう。配当非課税で真のテリトリアル制度の恩典を享受できるのは、GILTIから免除されるCFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。これはかなり地味なテリトリアル制度と言わざるえを得ない。

GILTIに関しては、少なくとも機械的な計算ルールに関して、夏の後半、日本ではツクツクボウシが鳴き始める頃に規則案が出るらしいので、その際に詳細に触れたいが、GILTIの「I」と「L」には騙されないように。GILTIはGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略で「ギルティ―」(Guiltyみたいに)と発音されるけど、米国株主側で課税所得として合算が求められるCFCの所得はIntangibleから発生するものには限定されていない。CFCの課税所得(米国税法ベースで計算!)全額(一部の例外の除き)を米国株主側で合算課税する恐ろしいシステムだ。唯一対象外となり、すなわち真のテリトリアル制度の恩典対象となるのは、CFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。この額を超過する所得はみなしでIntangibleに帰属すると扱われる。

また、Low-Taxedと命名されているので、高税率国で事業展開するCFCはGILTI合算から免除されているのでは?、と勘違いしがちだけど、それも間違い。米国の従来のCFC課税であるSubpart F制度に規定される「High-Tax Exception」のようなものはGILTI規定には存在しない。Subpart Fと異なり、GILTI合算はMobilityが高かったり、その国に存在する意味がないような怪しげな所得のみが対象となる訳ではない。償却動産簿価の10%ルーティンリターン以外は全て問答無用に合算対象だ。

ではなぜGILTIは、まことしやかに「Low-Taxed」と命名されているかというと、米国株主側で、一旦CFC所得のみなしルーティング所得以外全額を合算した上で、50%のGILTI控除があったり、外国法人税のうちGILTIに適切に対応していると扱われる金額の80%がFTCとして認められるので、算数上は13.125%を超える法人税を現地で支払っていれば、GILTIを合算しても最終的に持ち出しとなる米国法人税はないというのが理由。「なんだ、13.125%だったらLow Taxじゃん」って思うかもしれないけど、これは全てがうまくいく際の理論的な算数。GILTI控除やFTCは米国株主側で課税所得が出ていないと取れないし、また課税所得が発生していても、米国株主側の経費をFTC算定時にGILTIバスケットに配賦してしまうと、GILTIに基づく米国法人税をFTCではきれいに消しきれないという問題がある。これは米国側の枠の問題なので、CFCが外国でどれだけ巨額の法人税を支払っていても関係ない。

となるとGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略のGILTIのうち、正しいのは最初の「G」と最後の「I」だけ?という驚愕の結果となる。Global Everything High-Taxed Incomeと名称変更すると「GEHTI」となってギルティ―がゲフティーになっちゃうね(笑)。

で、米国の新たな国際課税システムを部分的なテリトリアル課税と見るにしても、待ったなしの全世界 課税と見るにしても、従来のシステムに基づくDeferral制度から脱却したことだけは確か。で、この制度移行時に今まで外国に埋蔵されていた巨額の配当原資に従来の35%より低い税率で一括課税しようというのがSection 965の留保所得一括課税となる。今週にでも税制改正に基づく初となる一括課税にかかわる財務省規則案が公表されるのではないかと固唾を飲んで見守っている(大げさ?)最中というまさに今が旬の規定だ、税制改正に基づく新規定のほとんどは2018年課税年度から影響を持つけど、一括課税だけは2017年に取り込まれることが多いので他の規定に先行してガイダンスが必要となる。という訳で、まずは「一括課税」を題材に次回から引き続きUnplugしていきたい。

Saturday, June 23, 2018

最高裁判例「オンラインショッピングと売上税」(2)

前回のポスティングで最高裁判所の判決「South Dakota v. Wayfair」に関して書き始めたけど、例によって米国の法律は複雑で、思ったより長くなってしまい、今回はその後半。

前回のポスティングで「Nexus」の話しに触れたけど、これは州による法的管轄権の行使可否を判断する基準のことで、連邦憲法のDue Process条項とかを拠り所に判断され、税金だけではなく、広範な法律適用時に重大な検討事項となる。例えば、民事裁判をどこの州で起こすことができるか、とか。自分に有利な思想の判事が多数を占めている特定の管轄区の裁判所に提訴したくても、被告人がその管轄区に何の関係も持たない場合、どこまでそれが認められるのか、というような問題。逆にこのようなForum Shoppingは裁判の戦略策定時の大きなポイントなんだけど。Civil ProcedureのPersonal JurisdictionとかSubject Matter Jurisdictionの問題で、米国でLaw School行ったり、Bar Exam受けたことある人にとっては、Evidenceと並んで気持ちが暗くなる科目のひとつだったんでは?Nexusがあるかどうかの検討は、州の法人税に関しても頻繁に行われるけど、同じ「Nexus」という用語を使っていても、その判断基準は売上税に対するケースと同じではない。

売上税に関して、今回の判決が出るまでは、販売者による売上税徴収義務は州内に「物理的な存在」を持つ納税者に対してのみ行使できる、というものだった。これは最高裁判所による1992年のランドマークケース「Quill Corp. v. North Dakota」の判例に基づく。今回その判例を覆したことになるけど、前回のポスティングの冒頭で触れた通り、先例拘束力の原則に基づく米国ではかなりの英断。ちなみに自分より上位にある裁判所による判例を覆すことは認められないので、最高裁判所の判例を覆すことができるのは最高裁判所自らのみということになる。

最高裁判所が下すケースの数と照らし合わせて見ると、Stare Decisisを踏襲せずに自らのケースを覆した件数は極めて少ない。大概、今回のケースのように元々の判断からかなりの年月が経過し、社会的な背景、状況が変わったことを受けての苦渋の判断というようなものが多い。米国は「法の支配」の国なので、判例は基本的に変わらないようにしないと法律そのものの信憑性が低下してしまう中での難しい判断だろう。

例えば、1905年に最高裁判所が下した「Lochnerケース」。パン焼きの職人さんの週当たりの労働時間を60時間までと制限したNY州労働法に対して、契約の自由、雇用の自由を侵害しているとして憲法違反とした判例だ。この最高裁判所の判例は、その後の州政府による労働法制定時の裁量を大きく制限する。例えば、1923年には、女性に対する最低賃金を保障したDCの労働法もLochnerケースを踏襲して違憲判断が下されている。

この二つの判例の法的な趣旨は全く同じ。すなわち、州が個人の労働契約に口を出すのは、雇う側、雇われる側双方に連邦憲法上保障されている自由を奪うというものだ。でも、その適用対象次第で受ける印象はチョッと異なる気がする。パン焼き職人の労働時間を制限してはいけません、と言われると、なるほど、パンを焼くのが3度の食事より好きな人に60時間超えてパンを焼いてはいけません、なんてことは国とか州に口出しされる筋合いはないよね、って思えるかもしれないけど、女性に最低賃金を規定してはいけません、って言われると、なんとなく「そうなの?」って感じの反応じゃないだろうか。

まあ、ともかく時は流れて1937年。ホテル勤務のメードさんが提訴して何と最高裁判所まで行った「West Coast Hotel v. Parrish」ケース。最高裁判所はLochner判決を覆し、最低賃金を保障するワシントン州労働法を容認している。「契約の自由は絶対的なものではなく、労働者の健康や安全を保障する目的の州法は憲法違反ではない」という趣旨に時代の流れと共に移り変わっていった。最高裁判所は上告されてくるケースの極一部を自らの裁量で取り上げるかどうか決めることが出来る点は以前も触れたけど、判例を覆す必要性を感じ始めると、それを実行する、または過去の判例を引き続き踏襲するのであればその今日における正当性を表明するのに適切なケースを選択することとなり、West Coast Hotelにしても今回のWayfairにしても、最高裁判所がこれらのケースを取り上げているのはもちろん偶然ではない。

で、今回の、「South Dakota v. Wayfair」で「Quill Corp. v. North Dakota」判例を覆すに至った背景にはもちろん経済、商取引、テクノロジーの在り方が1992年と今では全く異なるという事実関係がある。1992年当時の争点はメールオーダー等、限られた取引に関するものだ。1992年と言えばGoogleが設立される6年前。Michael Lewis (「Liar’s PokerやBig Shortの著者」)による「The New New Thing」でも取り上げられたJim Clarkのモザイク(Netscape)だって登場したのは1994年頃だ。この頃、アマゾンもオンラインの本屋として登場している。

グロサリーショッピングのオンラインデリバリーの「はしり」と言えば、何と言ってもWebvan。そう言えばあってよね!って思い出してくれる方も米国、特に西海岸辺りには結構いるんじゃないかと思うけど、1996年に設立され、時間指定のデリバリー、スーパーにあるような多くの品揃え、というチョッと考えただけで巨額の設備投資が必要となるビジネスモデルだった。カリフォルニアではニッチ的にチョッと流行っていて実際に利用したこともあるけど、時代の先を行き過ぎていた観は否めず、10都市限定とは言え、需要が投資に追いつかない状況で2001年には更生法適用となった。実はこのWebvan、実は何と現在のAmazonFreshに受け継がれている。AmazonFreshの経営陣にはWebvan出身者が複数いるし、テクノロジー、ビジネスモデルもWebvanから取り込んだものも多い。さらにWebvan.Comというドメインは現在ではアマゾンが所有しているそうだ。

このようにWebvan自体は巨額の資金を吸い上げた挙句に結局倒産しているが、VentureとかIPOというリスクマネーをインフラに投資した訳だから、国の借金が残ったり納税者のお金を使うことなくインフラやノウハウはその後に残る訳で、この頃のDot.Comバブル時代の大胆な投資はなんだかんだその後のハイテク産業成長の基礎を築いているような気がする。

という訳で、1992年にはオンラインショッピングという概念すら存在しなかったことがDot.Com系の沿革を時間軸で追うと良く分かる。今日では、電子商取引が定着し、最高裁判所自らが「Quillは適切な判断ではなく過ちであったと言える」とまで言っている。でも、当時はまさか、全ての日常品をAmazon Primeとかで2日間待てば郵送料ナシで自宅までデリバーされるような時代が来るとはさすがの賢者揃いの最高裁判所判事も含めて誰も予見できなかった訳で、Quillの判決は当時としては合理的で仕方がないこと。今から見れば「不適切」な判断と映るかもしれないけど、歴史上の出来事全て、後から今日のスタンダードで判断するのは良くない。

実務的にコンプライアンスできるのかという現実的な側面から見ると、テクノロジー進化が大きな役割を果たしていると言えるだろう。前回触れた通り、売上税は州、郡により税率、対象品目、免除規定がまちまちで、当然ペーパーワークも異なる。そんなのをマニュアルで処理しないといけないとなると、余りの負荷でやはりDue Process的に問題となる。今回のSouth Dakota州の法律が違憲とならなかった一つの要因にコンプライアンスを容易にしてくれていたことが挙げられる。

例えば、South Dakota州で限られた回数の取引とか少額の取引にしか従事していない販売主に対しては免除制度が規定されていたり、徴収義務は今後の取引のみで過去訴求しないとか、州外販売主側の事務負担軽減の目的で、州側が無償でソフトウェアを供給したり、更に、複数の州が加盟している「The Streamlined Sales Tax Project (SSTP)」にSouth Dakota州が参加して、できるだけ標準的なプロセスとなるよう尽力している。

したがって、今回の判例に基づいて、州外の販売主に対して売上税の徴収を規定する州法が憲法のテストを通過するには、州間通商に過度の負担を強いず、公正な規定内容とすることが前提となる。

今後の展開としては、各州が、最高裁判所がOKとした基準に基づいて、州外販売主に対する売上税徴収義務を規定したり、従来の憲法の制約内で限界に挑んでいた法律を既に制定しているところは、最高裁判所の見解と照らし合わせて、合憲となる可能性の高いものに微調整していく必要があるあるだろう。もうひとつ、以前から期待されている流れに、連邦議会が何らかの法律を制定するというものがある。連邦は憲法上、通商条項に基づき「Inter-State Commerce」にかかわる法律を制定することができる。したがって、連邦が制定した法律はPreemptive的に州法よりも上位に属することになる。例えば、法人税のNexusを各州が規定しているけど、一定の活動に関しては連邦法がオーバーライドする形で法人税の課税を制限しているようなもの(PL86-272)があるけど、このような形で何らかの連邦法により一定の基準設定が好ましいという声も多い。

電子取引を含む経済のあり方そのものが大きく変わっていく中、今回の判決は時間の問題だっただろう。昔は物理来な存在をもってNexusを判断していたが、電子取引の世界では、物理的な存在は重要なファクターでないことも多く、経済的な結び付き、すなわち「Economic Nexus」の台頭となる。法人税の世界でも、BEPSとかで苦労して、新しい経済の在り方に対応しないといけない直接税は余り時代にあっていないとも言え、長期トレンドとしてはVATのようなDestination Baseの課税にシフトしていくんだろう。

Destination BaseというとBlue PrintのBorder Adjustmentを盛り込んだDBCFTが懐かしい。先日、上院財政委員会のTax Counselの方と直接話しをするという好機に恵まれたけど、実は水面下ではDBCFTの法文ドラフトが完成していたようで、100ページ(と言っていたかどうか忘れたけど)とか、膨大かつ複雑な規定だったようだ。「BEATなんて数ページの規定なんだから有難く思うように」みたいなお説教もしてもらったけど、DBCFTは概念的に実にシンプルだったので、そこまで複雑にしないと法律にならないという点は意外だった。今となっては闇に封印されている法案だけど、Information Freedom Actとか使って見れるものなら見てみたいものだ。

ちなみに今回の最高裁判所の判決も例によって5-4で決定されているけど、その構成は興味深い。同じ5-4でも保守系とリベラル系がきれいにイデオロギー的に分かれていないからだ。元々レーガン大統領に任命された、したがって本来保守派に属するはずだけど実際には現在では退官したオコナーと並んでSwing Voteとなることが多いケネディーが判決の主文をデリバーしてる。それに賛同している判事にはアリート、ゴーサッチ、トーマスという保守派と並び、リベラルなギンズバーグが含まれる。逆に反対少数意見にはブライヤー、キーガン、ソトマイヨールというリベラルの牙城に加え、保守で長官のロバーツで構成されている。ロバーツの考えは最高裁が口を出す話しではなく、連邦議会が適切な規定を制定するべき、というもの。米国の法律は面白い。

という訳で柄にもなく州税、それも外形課税の話しでチョッと疲れたけど、次回こそは税制改正の国際課税。

最高裁判例「オンラインショッピングと売上税」(1)

本来、税制改正の国際課税にフォーカスしたいところなんだけど、トピックが余りに広範かつ面白すぎて、どこからキックオフしていいかチョッと途方に暮れかけたところ、2018年6月21日に連邦最高裁判所が、オンラインショッピングとかの州外販売者に対して州売上税の徴収権拡大を容認する旨の判決を下した。しかも、最高裁判所自らが過去の最高裁判所の判例を覆すという、Stare Decisis、すなわち先例拘束力の原則をベースとする判例法の米国において、異例の判断となった点で、今回の判決はかなりBig Dealと言える。という訳で、柄にもなく(?)、急遽、売上税を扱っている当判決に触れてみたい。

トランプ政権、というかトランプ大統領個人が、アマゾン、特に創業者のJeff Bezosを目の敵にしていて、アマゾンは売上税も払わずに米国の郵便システムを自社の物流システム同然に低料金でこき使って、荒稼ぎしている、というようなコメントをTwitterとかで繰り返しているのは周知の事実だけど、となるとトランプ政権にも白星的な判決かも。

ちなみに、確かにその昔は、近所のB&NとかBordersみたいな本当の(?)本屋さん(スタバとか併設されていて憩いの場として懐かしいね!)で本を買うと売上税を支払わないといけないのに、まだ怪しいスタートアップ(?)みたいな存在だったアマゾンで同じ本を買うと売上税を支払わなくてよかった時代もあった。でも、それは今は昔。現在ではアマゾンは全米を網羅する物流ハブを有していることもあり、アマゾンで買い物すると少なくとも州レベルの売上税は徴収されているように思う。アマゾンを利用している第三者のベンダーは未だに徴収していないケースもあるかもしれないけど。トランプ大統領のアマゾンやJeff Bezosに対する批判的なコメントは、売上税の話しではなく、どちらかと言うとJeff BezosがThe Washington Postっていう米国で影響力が大きい新聞社を所有してるけど、このThe Washington Postが大統領に批判的な社説を記載することが多い、ってことに起因していると見るべき。アマゾンのビジネスモデルにケチを付けているのは「八つ当たり」的な側面が強い。

で、今回の判例だけど、「South Dakota v. Wayfair」っていうケースで、South Dakota州内に物理的な存在を持たない州外の販売主が、オンライン等を通じてSouth Dakota州内の顧客に物販等を行う場合、South Dakota州の売上税を徴収しなさいって言う州法を容認する判断となった。

「そんなの当然じゃん」って思うかもしれないけど、事は法的にも実務的にもそこまで簡単な話しではない。まずはその辺りの背景に関して少し。

今回の判決の争点を再度整理すると、州内に何の存在も持たない「州外」の販売者に対して、州が「州法」で販売者による売上税の「徴収義務」を強制することができるか、っていう点。結果はイエスだったんだけど、逆に今回の判例が出るまでは、そのような法律は連邦憲法違反とされていた。ここで判例を理解する際に必要となるいくつかポイントだけど、まず、米国の売上税は州法だということ。米国には連邦ベースの売上税、VAT、消費税は存在しない。連邦法であれば、どこの州の販売業者であろうが一網打尽に対象となるけど、州法なので、今回のような問題が起こり得る。

さらに州の売上税は、有形資産(最近はこの解釈が拡大傾向)の「最終消費者に対する小売段階」で販売主が徴収するメカニズムになっていて、サプライチェーンの各ステップで付加価値に課税するVATとは異なる。州の法律なので、州によって売上税の対象、税率はまちまちで、同じ州内でも群が異なると税率が微妙に違ったり、さらにFlorida州とかNevada州(ベガス!)を含む7州ではそもそも売上税自体が存在しない。納税者が何らかの拠点を持つ州や郡で売上税を徴収するのは仕方がないし、元々やらないといけないとなっていたけど、縁もゆかりもない遠方からたまたまオーダーが入ったりして、その都度、そこの州や郡の仕組みを調べて売上税徴収の対応をさせられるのは実務上かなりのチャレンジとなる。それで、従来の判例が合理的な判断となっていた訳で、今までも例えば、South Dakota州に登記している法人とか、South Dakota州に店舗、倉庫、その他の物理的な施設を持っている販売主に対して州が売上税の徴収義務を課すことには何の問題もなかった。

これは米国の州の法的管轄権にかかわるDue Process的な問題だけど、敢えてザックリ言うと、州が何者かに対して州法を行使するには、対象となる者とその州の間に「何らかの関係」が存在しないといけない。国家主権に置き換えるとより分かり易いと思うけど、日本の法律が米国に住んでいる米国市民に適用できないのと似た話し。で、どこまでの活動や存在があれば、州に法的な管轄権が生まれるのかという点が争点となるけど、法的管轄権が生まれる「Minimum Contact(最低ライン)」を「Nexus」と言う。州の法人税でも、「そんなことするとCA州にNexusができちゃう」とか使うけど、まさしく、それも広義のNexusの具体的な適用法のひとつで、憲法上、それがないと州側に課税権が認められないことになる。同じNexusという用語でも適用対象となる法律により、考え方が異なり、今回の判決はあくまでも売上税にかかわるNexusの話しで、法人税のNexusには直接的に影響があるものではない。

州としては、当然、自州の法律を最大限に行使したい訳だけど、その歯止めをするのが連邦憲法のDue Processを中心とする条項。州が際どい法律を制定し、その被害(?)にあった者が訴訟を起こし、重要なケースだとそれが何年か掛けて最高裁判所にまで行き、運が良ければ最高裁判所がケースを取り上げ、判断が下されるという仕組み。その昔、CA州のWorldwide Unitary課税が違憲ではないかとバークレー銀行が訴えを起こしていたけど、1994年の「BARCLAYS BANK PLC v. FRANCHISE TAX BOARD OF CALIFORNIA」にて最高裁判所が合憲判断を下している。Worldwide Unitaryにかかわる背景を知るには「Must Read」な読み物だ。

更に、今回の判決はあくまでも売上税の州外「販売主」側の「徴収」義務にかかわるもので、販売そのものが最終的に売上税またはそれに見合う税金の対象となるかどうか、という税負担の話しとはチョッと異なる(ある意味、税制改正の国際課税におけるSection 864(c)(8)とSection 1446(f)のような関係)。米国の売上税は、有形資産の最終消費者に対する小売段階で販売主が徴収するメカニズムになっているけど、従来は、州側が州外販売者に売上税徴収権を行使できない場合、消費者側が自ら売上税同額を使用税として州に自主納付するシステムとなっていた。

つまり、オンラインショッピングとかオークションサイトで、個人を含む遠方の販売主から何か物を購入し、消費者が居住する州の売上税が徴収されていない場合には、買った側が売上税相当額を計算して、それを「使用税」という名前で州に自ら納付に行かないといけない。そんな義務があることを知らない一般市民も多いだろうし、企業と消費者間取引(BtoC)とか消費者間取引(CtoC)に基づく販売に関して、消費者がそんな使用税を納付しているケースは皆無に近かっただろう。

近年では州「個人所得税」の申告書に「オンラインショッピングとかで売上税が徴収されていない購入があったんじゃないですか?」みたいな質問が追加されていたり、州によってはご丁寧に「あなたの家族状況、収入レベルですと、大概、これくらいのオンラインショッピングがあったと推定されるので、使用税がこれ位発生します」という既定値まで表示して、それがイヤなら、自分の計算に基づく使用税を表示するように仕向けたり、といろいろと苦労していた。感覚的には、大多数の納税者が、既定値には「No thank you」となり、自分で計算してみたらゼロでした(苦笑)って申告していたんじゃないだろうか。唯一、使用税とか本当に支払ったり、州税務当局が本気で調査対象としてたのは、BtoB的な局面で、法人とか事業主が「最終消費者」となる設備とかを外国を含む州外から購入している際とかだろう。

さらに州側もいろいろと考えて、最高裁判所の判断に逆らうことなく、オンラインショッピングの州外販売主に売上税の徴収義務を課す理論構築をして、限界を試してきた。例えば俗にアマゾン・タックスとか言われてた近年の州の限界挑戦系の法律の中には、アマゾン等から報酬を受け取るAffiliateが州内に存在してる場合には、それをもってアマゾンのようなベンダーが物理的な存在を州内に有していると認定して、売上税徴収義務を課すと言うような類のものが含まれていた。Affiliateが州内にいるのかどうかの特定とか困難だろうし、歳入面で実務的にどれだけ有効だったのかは不明。

そんな実態だったんで、財政の厳しい各州にとって、州外販売主に対する売上税徴収強制権の行使は長年の悲願とも言え、今回の最高裁判所の判断はその動向が注視されていた。

なんか、チラッと売上税の判決を書いて終わらせるはずが、またしても期せずして長くなってきたので、一旦この辺にしておいて、次回、Nexus、最高裁判所が自ら過去の判例を覆した意味、そして判例を受けて今後どうなるのか、っていう点を簡単に整理してこの話は終らせたい。