Saturday, September 25, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(3)「Downward Attributionの再撤廃」

BEATにしようかDownward Attributionにしようか迷ってたけど、いつまで迷っててもしょうがないんでDownward Attributionを先に特集することに決定。

クロスボーダー課税の検討時のAttribution規定を理解するにはまずは国内の通常の局面におけるAttributionの基本を理解する必要がある。

みなし株式持分「Attribution」規定

株式を何%所有してるかで取引の課税関係が大きく異なることは多い。各規定毎に50%超とか80%以上とか異なるけど、さらに議決権の話しなのか価値の話しなのか、双方なのかどっちかなのか、とか複数のクラスがあったり、High Vote/Low Value株式を利用したスピンオフが珍しくない米国では、各規定で何を見るかきちんと把握しないと大変なFiascoになる。

更に、連結納税グループや適格清算みたいに本当にBeneficial Ownerとして所有している株式を見るのか、Sub FのInclusionみたいに直接・間接に所有している株式を見るのか、さらに自分は持ってないけど、自分に関係する者が持っていることをもってまるで自分が持っているかのように考えないといけない「Attribution」まで見るのか、これら全て規定毎に特定しないといけない。

通常の法人課税と「Attribution」規定の目的

分配、出資、清算、組織再編、等は300番台の条文で構成されるSub Cに規定されるけど、このSub C適用時に、みなし持分規定の適用が明文化されている範囲で、納税者は自分が所有していないにも関わらず、自分と関係の深い者が所有してるっていう理由で、それらの持分をあたかも直接所有しているかのように取り扱って課税関係を決める必要がある。これがみなし持分、Attributionだ。みなし持分は部分的に間接持分と重複することがあるけど、その際も所有していると取り扱われる%は必ずしも同額ではないので注意が必要だ。みなし持分のクラシックな適用は、株式が形式的に償還(Redemption)されるケースが税法上は分配扱いになるかどうかっていう検討時。

取引を会社法上の株式償還ってストラクチャーして、「償還なので「Exchange」として株主は簿価との差額を譲渡益としてキャピタルゲインとして認識します」って言うことがあるけど、税法上は償還後に株主の持分%に意味のある低下がみられないと実質分配と取り扱われる。機械的なものも含めていくつか代替テストがあるけど、一番分かり易いケースは100%子会社による親会社の株式一部償還。100株のうち30株「償還」したり、何株もAll-Day-Long償還したところで、結局は100%子会社のまま。実質分配と変わらないってことで、E&Pの範囲で配当所得となる。この手のストラクチャーはいろいろとあって、それに網を掛けるために304とか複雑な規定があるけどね。

で、その検討をする際に「私は持分を低下させました」って言っても例えば、配偶者と合わせると実は引き続き100%だったりするとプラニングの温床というか、悪用されがちなので、関連者が持っている株式は本人が持っているかのようにみなして取り扱うことになる。それ自体、簿価がどう動くのか、とかFamily AttributionのWaiver規定があったりそれはそれは複雑な規定だけど、趣旨は分かるね?

「Attribution」みなし持分認定メカニズム

で、通常のSub Cの世界におけるみなし持分は大別して「家族メンバー」「Upward」「Downward」の3つ。それにオプション規定があるので、3つ+Optionっていうのが正確かも。

家族メンバーAttribution

家族メンバーのAttributionはその名の通り、家族メンバーが直接・間接・(限定的に)みなし所有してる株式は自分が持っているものとみなして課税関係を決めなさいってもの。でも何でもかんでもAttributionしてくるわけではなく、法律で規定された関係にある者からのAttributionとなる。家族間の話しだから、他の2つのAttributionとは異なり、あくまで個人がどれだけの株式を所有してるかって話し。具体的には配偶者、子供、孫、そして両親が所有している株式がAttributionされる。

配偶者は別居していても法的に離別していないとAttributionがあり、法的に養子縁組された子供は実の子同様のAttributionがある。面白いのは孫からはAttributionされるけど、おじいちゃんやおばあちゃんからはAttributionがない点。必ずしも双方向とは限らない訳だ。おじいちゃんやおばあちゃんが孫に株式を持たせるプランニングはあり得ても、孫がおじいちゃんやおばあちゃんに株式を持たせる方向はあんまり想定されないってことなのかな。

Upward Attribution

で、次のUpwardのAttribution。これは下から上に行く方向なんで感覚的に一番分かり易いし、間接持分と重複することが多い。ただし結果として所有していると取り扱われる%は間接とみなしで同じとは限らないので要注意。家族メンバーAttributionと異なり、UpwardやDownward Attributionは個人および法人その他の主体や遺産の株式所有状況に影響がある。

具体的にはUpward Attributionは、その適用に基づき、パートナーシップ、遺産(Estate)、信託、法人が直接・間接・みなし所有している株式はそのオーナーが所有していると取り扱う規定。パートナーシップと遺産に関しては、パートナーや受益人が少数持分でも常に持分%相当がAttributionされる。信託も似てるけど、信託の場合、受益人はアクチュアリー計算に基づく持分%に相当する信託所有の株式がAttributionされる。計算面倒そうだよね。で、非課税の年金信託は適用対象外。また、税法上Grantor Trustと取り扱われる部分の信託資産に関しては、Attributionというより、元々税法上、Grantor等の資産として取り扱われるので、Grantor等が株式を所有していると取り扱われる。これはAttributionっていうよりもGrantor Trustにかかわる一般規定って考えてもいいだろう。

法人に関しては、50%以上の価値を直接・間接・みなし所有する株主に限定して、法人が同じく直接・間接・みなし所有する株式の価値に基づく持分%に相当する株式がAttributionされる。

Downward Attribution

3つ目のDownward Attributionだけど、これはその名の通り、上から降って来るんで感覚的に少し分かり難い。Upward同様に対象はパートナーシップ、遺産、信託、法人。

で、パートナーシップと遺産に関しては、パートナーや受益人のパートナーシップや遺産に対する持分%にかかわりなく、パートナーや受益人が直接・間接・みなし所有する株式は「全数」Attributionされる。似たように、信託の受益人が直接・間接・みなし所有する株式は信託にAttributionされるけど、受益人の信託に対する持分が「Remote Contingent」って認められるとAttributionはない。年金信託は適用対象外。で、受益人の信託にかかわるContingentな持分は、各信託契約に基づき認められる受託人の裁量内で最大限のアクチュアリー計算に基づく持分を計算し、それが5%以下の場合には「Remote」と認められる。信託資産のうち一部でもGrantor Trustに当たる場合、Grantor等、税務上資産のオーナーと取り扱われる者が直接・間接・みなし所有している株式は全数信託が所有していると取り扱われる。

法人に関しては、価値ベースで直接・間接・みなしに50%以上の持分を所有する株主が直接・間接・みなし所有する株式は全数法人にAttributionされる。50%超ではなく「以上」と規定される点、また仮に50%株主からDownward Attributionされる場合も、株主が所有する株式の50%ではなく全数Attributionされる点に注意。

オプションAttribution

株式を取得するオプションを所有している者は、行使したら取得される株式は既に所有していると取り扱われる。またオプションを取得するオプションとか、そのオプションとかも全て株式取得オプションとしてAttribution規定の適用を受ける。オプションAttributionと家族メンバーAttributionの双方で同じ株式がAttributionされるケースは、オプションAttributionの方でAttributionされるって取り扱われる。

Attributionに次ぐAttribution

ここまで読んで「結構広範じゃん・・・」って思うかもしれないけど、Attributionはまだ続く。適用ルールに基づくと、Attributionでみなしで所有しているって取り扱われる株式はDirectに所有していると同様、規定に抵触する限り、他の者に再度Attributionしていく。例外は家族メンバーのAttribution適用時。すなわち、家族メンバーが所有しているって理由で自分が持ってるって取り扱われる株式は、それが更に他の家族メンバーにAttributionされることはない。例えば、孫が実際に所有している株式はAttributionでおじいちゃんやおばあちゃんが所有してることになるけど、だからと言って、その株式がおじいちゃんやおばあちゃん当人のおじいちゃんやおばあちゃん(元々の孫から見ると高曽父母、ひいひいおじいちゃんやおばあちゃん)にはAttributionしない。おじいちゃんやおばあちゃんからその子供に再度Attributionしないけど、ただ、元々実際に株式を所有している孫の両親には別の家族Attributionがあるので、両親はみなし所有がAttributionされる。ただし、この家族メンバーの継続Attribution禁止は、家族メンバーのAttribution内の話しで、例えば、孫が実際に所有する株式をおじいちゃんやおばあちゃんが所有しているとみなしで取り扱われる場合、今度はその所有を基におじいちゃんやおばあちゃんが投資しているパートナーシップとかには再度Attributionしていく。

もう一つの継続Attributionの例外として、Downward Attributionを基にパートナーシップ、遺産、信託、法人が所有しているとみなされる株式は、そこから他の者に再度Attributionされることはない。例えば、マイノリティ持分のパートナーが実際に所有している株式はDownward Attributionで全数パートナーシップが所有しているように取り扱われるけど、その株式が別のパートナーにAttributionされることはない。

ちなみにS Corporationは原則パートナーシップ扱い。すなわち、S Corporationが所有している株式はS Corporationの株主がパートナーかのように持分に準じてAttributionされる。50%ルールの適用はない。ただ、S Corporationそのものの株式を他の者が所有している場合、S Corporationの株式は法人株式として、他の者の所有%が決まる。

国内のAttributionだけでも超込み入ってるけど、次回はクロスボーダー課税への影響に関して。

Thursday, September 23, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(2)

前回は下院歳入委員会が公表した増税案法文ドラフトの中から、いきなりオタクなポートフォリオ利子免除の条件をタイトにする法案に触れた。

研究開発費用の資産計上延期

もう一点地味目だけどインパクトがあるのは研究開発費用の資産計上の延期。2017年のTCJAで研究開発費用は2022年1月以降に開始する課税年度から、資産計上して5年償却(国外の研究開発は15年)っていう、本来、優遇されるべきと考えられていた研究開発活動相手に不躾な取り扱いが規定されてビックリだった。とは言え2022年前に議会が撤廃してくれるだろう、って一般的には楽観視されてきたけど、パンデミックや選挙とかでいつの間にか2022年が目の前に来てる。で、下院案では、これを先延ばしして2025年1月以降に開始する課税年度からとしている。またこれで2025年までには議会が撤廃してくれるだろう、って楽観視されるんだろうね。

累進税率復活

肝心の法人税ヘッドラインレートは基本26.5%って、25と28の中間値に着地させて提案されてるけど、課税所得$400Kまでは18%、$5Mまでは21%って4年ぶりに累進税率の復活。累進税率って、Controlled Groupで税率区分を配賦したり面倒なんだよね。コンプライアンス上。で、以前と同じように課税所得が$10Mを超えると低税率区分の恩典はフェイズアウト。国内法人からの配当にかかわるDRDは、DRD後の税率が現状維持されるようDRDレートが調整されるとのこと。米国企業の反応を見てると法人税率はどうでもいいから(?)、GILTIのCbC化や実効税率の引き上げはやめて欲しい、っていう感じだろう。

GILTIとFDII(Preview)

GILTIに関しては詳細を別途書かないといけないって感じだけど、歳入委員会のこのドラフトはバイデン政権の提案とチョッと違って少しマシ。国別計算になる限りマシになりようはないんだけど。具体的にはGILTI計算時に、バイデン政権は撤廃するぞ、って言ってたQBAIリターンを10%から5%に減額するとは言え温存してる。また、GILTIの実効税率がバイデン言うところの21%ではなく16.56%になったり、OECDピラー2に近づけようとする努力が見られる。ピラー2で採択されると噂される15%のグローバルミニマム税に結構近い。GILTIのピラー2化を世界に演出することで、各国を牽制してるように感じられる。

GILTIバスケットのFTC対象CFC法人税が80%から95%に増額されたんで、GILTI制度化のグローバルミニマム税率は実質、17.43%となる(16.56/95%)。

FDIIも控除額が引き下げされる、すなわちFDIIの恩典が減少する、とは言え制度はそのまま温存されて首の皮一枚で生き延びてる。GILTIのルーティン所得計算時の有形資産ルーティンリターンが5%に低減された一方、FDIIは10%のまま。今後の審議でFDII自体いつ廃案って方向になっても不思議はないけどね。GILTIのFTC対象法人税の95%化やQBAIリターンの%差異の関係で、GILTIミニマム税率とFDII実効税率が乖離してしまい、2017年のGILTI・FDIIを対で導入した際のLevel Playing Field化が壊れてしまっている。ということは「FDIIはGILTIの裏返しです」って言う理由でFDIIは輸出助成の悪法ではない、っていう主張がチョッと通り難くなるってことかもね。GILTI増税、特にGILTIのCbC化は米国多国籍企業にとって大問題なんで、別特集しないとね。

バイデン政権のグリーンブックでは、FDIIがあるから有形資産が国外に行ってしまうというような懸念が強調されてるけど、実務経験が乏しい職員室での議論みたいに聞こえ、無形資産が米国に戻って来ている一因だと思われるFDII温存はアメリカのため。実際に一旦国外に出したIPを米国に持ち帰る取引も発生していた。米国から国外にIPをMigrateさせて367(d)でみなしロイヤルティーストリームで譲渡益認識してた状況で、このIPをRe-Domesticationで米国に持ち帰ったりするとテクニカルなチャレンジが多い。みなしロイヤルティーはIPが米国に帰ってきたからって無くならない一方、対応する費用控除は米国に戻ってきたからって急に認められる仕組みにはなっていないんで、制度上の不備としか言いようがないけど、ドライ所得が出ておしまい。それはないでしょ、ってことで連結納税グループ内取引の規定に基づくIRSの裁量に訴えたり、苦労が多い。この点は367(d)のテクニカルな問題として改正、または財務省規則に基づく救済策が望まれる。その場合、Outboundさせた張本人の納税者そのものに戻ってこないといけないのかとか、同じグループだったらOKなのかとか、身元に関係なく米国に戻って来ればいいよってなるのかとか、結構面白そう。

で、具体的には、現在の37.5%のFDII控除が21.875%に引き下げられる。21.875%は元々TCJAでも2026年から自動的にそうなるはずだったので、増税と言ってもどうせそうなるものが4年前倒しになった、って考えれば諦めも付くかもね。ただし、法人税率自体が21%から26.5%に引き上げられるんで、FDIIの実効税率は13.125%から20.7%にアップ。

支払利息

GILTI増税と並んでショックをもって受け止められているのは、支払利息のグローバル・レバレッジに基づく制限。これは日本企業の視点からはなかなか想像できないほど痛い。米国多国籍企業はレバレッジをどこに国にどれだけ導入するか、っていうグループ管理を科学的に徹底してきた。2017年前は全額米国っていうのが常識で、それ以上考える必要はないくらいだったけど、2017年TCJAでモデリングに変動があった。956の意味が低下したりした点も含めて、まだまだ最適なレバレッジ場所を見直し中だった矢先の新規制。OECDアクション4に類似するグローバルEBITDAベースの平準化規制だ。でも、これ導入するんだったらATI(国内EBIT)ベースの既存Section 163(j)を撤廃すればいいのに。両方共存っていうのはやりすぎでは。

で、新規制だけど、連結財務諸表に米国外法人が含まれる多国籍企業に関して、グローバル・グループのレバレッジを基に米国における支払利息の損金算入が制限される。以前から提案され続けてる規定だけど、まず、連結財務諸表グループ全体のネット支払利息をEBITDAベースで米国に配賦。この配賦額を分子とし、米国主体が財務諸表上、計上しているネット支払利息額を分母として制限枠%を算定する。米国に配賦される金額が、実際に米国主体が計上しているネット支払利息を上回る場合には制限はない。

で、米国にレバレッジを集中させている米国企業は、分子が分母を大きく下回ると予想され、制限枠%は大概のケースで100%を大きく割り込むだろう。この制限枠%に110%を掛けた%が最終的な制限%となり、当制限前の申告書で認識される支払利息に最終制限%を掛けた金額が損金算入の上限額となる。この制限は過去3年間(当期含む)でネット支払利息が$12Mを超えるケースにのみ適用。で、損金不算入額は5年間の繰り越し可能。で、現状では繰り越し期限がなかったSection 163(j)にも同じく5年間の繰り越し期限制限が導入される。

M&A時にどこでレバレッジを認識させるかっていうのはディープな検討だけど、956が245Aの関係でなくなったようでなくなってないようでCFCによる保証とか結構今でも頭が痛い。モデリングが更に複雑化するね。

パートナーシップと163(j)

163(j)と言えば、ここからは吉報だけど、2017年の税制改正で導入された新Section 163(j)はパートナーシップそのものに適用されている。パススルー主体そのものに直接制限を加える、っていうことで、とてつもない複雑な適用規則を要してた。11ステップの計算とか。それをパートナーレベルへの適用に変更してくれるそうだ。可決されたらコンプライアンス的にはグッドニュース。5年間と繰り越し期間限定と引き換えだね。

次回はBEATまたはDownward Attribution再撤廃のどちらか。

 

Tuesday, September 14, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(1) まずはオタクな規定から

今、アメリカは9・11明けの月曜日13日だけど、同時テロから20年の月日が経ったんだね。「It was 20 years ago today・・・」(分かるね?この歌詞)。

で、そんな中ついさっき下院歳入委員会が、予算調整法に基づく増税審議のたたき台となる法案ドラフトを公表した。週末に内容の一部がDCで出回ってて、身の丈に余る巨額のお金を使うため、「法人税率は26.5%に」とかWSJ等のプレスで報道されてたけど、詳細な内容は結構面白い。グリーンブックや上院財政委員会の提案との比較で、かなり実務的というか、現実的な提案内容、っていう第一印象。大増税って点はもちろん同じ。

ちなみに憲法上、歳入に関して大きな権限を持つ下院の歳入委員会の提案とは言え、最終的な法律は今後の審議を通じてどんな形になるか全く不明だから、「こんな風になることもあり得るんだね~」程度の参考情報として捉えておく必要がある。余り一喜一憂しないようにね。2017年の時もDBCFTのボーダー調整とか(結局廃案)、下院案の輸入使用税とか(BEATに落ち着く)、結局実現しなかった画期的な改定提案にアレコレ神経を費やした苦い経験を忘れないように。

で、今日は余りメインストリームのメディアは取り上げないようなオタクだけど、米国事業や米国投資検討時に重要な提案から。

ポートフォリ利子免税の条件がタイトに

いきなりオタク過ぎる条文から入るけど、日本企業のように米国外投資家にとっては最重要な提案のひとつとなるポートフォリオ利子免税に関して。債券投資のヘッジファンドに投資を検討したことがある読者の方とかなら知ってると思うけど、国外からアメリカにポートフォリオ投資する際に万一ECIになって申告が必要になるのを嫌う外国投資家、またはDebt FinanceのUBTIを嫌う非課税団体(州のペンション以外)はブロッカーのケイマン法人フィーダー経由で投資するようにストラクチャーされている。パラレルファンドだ。

源泉税はケイマンフィーダーの敵

Trading ExceptionとかでUSTOBがないっていう前提で、その際、唯一の米国税金リークになるのが配当に対する源泉税。当然、ケイマンとアメリカには条約がないから放っておくと30%の源泉税だ。ファンドの投資戦略によってこの点は痛かったり、痛くも痒くもなかったりするけど、何年か前までこの点を気にする投資戦略を持つファンドや米国外投資家は、Notional Principal契約を利用することで実質配当相当の金額を米国外源泉所得として受け取ることで非課税として手当してきた。だけど、配当見合いのデリバティブ所得は実質配当と同じなんだから、源泉税対象っていう法律が導入されてあからさまなトータルスワップみたいな迂回策は機能しなくなってしまった。この法律自体、Cascade効果その他、結構奥深いもので有効となるタイミングは一部遅れてるけどね。Security LendingとかREPOとかも含めてエキゾチックな源泉税の話しはいつかディープに特集してみたいもの。それにしても米国のタックスは特集したいExciting(?)なトピックが多すぎて困るね。う~ん、The Beatlesが言うように一週間が8日だったりしたら1日は北欧のホテルにでも行って缶詰になってリサーチするんだけどね。何それ?

で、Notional Principal戦略に網が掛けられて30%の源泉税が痛い場合、日本のような条約国の投資家は条約を適用することを考える。日米租税条約では投資家が受け取る配当は10%源泉だし、他国の多くのケースでも15%だから、30%よりマシ。そんな理由でケイマンフィーダーを日本法令の視点から見てパススルー(FTE)になるケイマンLPSにしたり、Reverse Hybridを利用することになる訳だ。

利子の源泉税は?

で、配当の話しはよく聞くけど、利子所得の源泉はどうなっちゃうの、っていう点だけど、これは条約ではなく米国内法で源泉が免除されるのが一般的。ポートフォリオ利子免除規定だ。いくつか要件があるけど、ヘッジファンド系の債券投資だったらケイマンフィーダーの法人がW-8を債務者に提出する、またはその下にケイマンパススルーのマスターファンドが存在する場合には、そこ経由で適切なW-8を出せば大概において問題ない。

ポートフォリオ利子免除は銀行が銀行業として融資するケース、また、銀行でなくても10%の資本関係にある関係者からの利子所得には適用がない。この10%は現時点では、議決権(パートナーシップの場合はCapitalまたはProfits持分)だけで判断するんで、ケイマンフィーダーが債務者から10%以上の価値を持つEquityを受け取る場合には議決権ナシの優先株式を利用したりしてた。10%を最初から受け取るケースは分かり易いけど、Distressファンドとかがワークアウトを通じてEquityを受け取ったりするケースは要注意。また、ポートフォリオ利子免除はCFCは利用できないけど、Downward Attributionとかの影響で期せずしてケイマンフィーダーがCFCになっちゃったりする大ピンチ。Attributionを通じて自分で自分の株式は持てない、っていう部分をどう解釈するか、っていう点が大きいけどね。

クロスボーダー課税に外国人から米国人にDownward Attributionが適用されるようになったのは2017年の税制改正からだけど、立法趣旨はインバージョン後のPMIで米国CFCを米国傘下から外す阿漕なプラニングに網を掛ける、みたいな狭義なターゲットを念頭に置いてのものだった。だけど実際に可決された条文はDownward Attribution禁止を完全撤廃してしまったんで、そこから派生する影響や新たなプラニング機会の創出効果、は絶大なものだった。直後に元々の趣旨を反映した狭いターゲットとした法文修正案が出てたけど、米国議会は機能不全だから可決されることなく4年が過ぎた。今回の法案ではDownward Attributionにかかわる修正が提案されていて可決されれば無駄な苦労の多くが無くなるんだけどね。

ポートフォリオ利子免除条件厳格化

で、今回の下院歳入委員会の提案には、ポートフォリオ利子免除不適用の10%の判断に議決権だけでなく、価値も加味するっていうもの。これは「Disjunctive」、すなわち「Or」なので、優先株とかの議決権がないEquityでも価値が10%行ったらポートフォリオ利子免除の適用はできない、ってことになる。議会もいろいろ考える、っていうか納税者がやってること良く知ってるよね。感心。

次回はR&Dクレジットや163(J)とパートナーシップに関して。

Saturday, July 17, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (4)

前回は、60%ルール(60%以上80%未満)に抵触してExpatriated Entityという汚名を着せられるとどういうことが起こるか、っていう点に触れた。このExpatriated Entityだけど、なってしまうと、Section 7874で規定される元祖インバージョン規制以外にも次々と悪いことが起こる。今日は60%ルールに抵触すると、他にどんな副作用があるか、って言う点に関して。60%ルールの恐ろしさを理解した後に、60%テストそのもののメカニズムに移りたい。

BEATへの影響

BEATミニマム税の計算は通常課税所得にBase Erosion Benefitを加算するところから始まるけど、このBase Erosion BenefitっていうのはBase Erosion Paymentに基づいて計上される償却を含むDeductionだ。Base Erosion Paymentには税務上、COGSに計上される支払いは含まれないのが原則。以前のポスティング「COGSとSHIELD」で触れた通り、議会にCOGSを否認する法的な権限は憲法上存在しないと考えられるからだ。

ところが、この点に関してBase Erosion Paymentを規定しているBEATの法律には面白い特例がある。2017年11月10日以降に米国法人がインバージョンして60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人およびそのグローバルグループのメンバーに対する支出は仮にCOGS等のReductionに当たる金額でもBase Erosion Paymentとする、というものだ。え~、「COGSとSHIELD」で触れた通りドラッグディーラーにもCOGSは認めないといけないはずなんで、これを認めないってことはExpatriated Entityってドラッグディーラー以下の取り扱いってこと?凄い。

Transition Taxへの影響

また、今では8年間の割賦払いも半分ほど終わる頃なんで記憶が薄れてきている2017年税制改正時の国外子会社の留保所得一括課税、Transition Taxに関してもExpatriated Entityのみを対象とした厳しい追加措置が規定されている。Transition Taxは、2017年税制改正時に従来のワールドワイド課税制度からGILTI+Sub F+245Aの世界に移行するため、CFCの定義を拡大した10%以上基準のSpecified Foreign Corporation(「SFC」)の原則2017年12月末日に存在する1987年以降の留保所得に一括課税するというもの。旧法下での課税なんでそのままだと35%の法人税率になるんだけど、SFCの現預金の残高次第で8%~15.5%の範囲で低実効税率で課税されるようにできていた。で、GILTIが50%想定控除を通じて10.5%の実効税率になるのと同様に、Transition Tax計算も一旦留保所得を全額合算した後、35%掛けてターゲットの実効税率となるよう逆算して算定する「Participation Exemption」想定控除の計上を通じて低税率課税を達成していた。

で、Transition Taxの対象となる米国株主が2017年税制改正が可決した2017年12月22日から10年以内に60%ルールでExpatriated Entityになると、Expatriated Entityになった課税年度にもともとのTransition Tax計算時に適用したParticipation Exemption想定控除に35%掛けた金額が追加法人税として課せられ、さらに当法人税には税額控除が認められないという懲罰的に規定が設けられている。Participation Exemption想定控除に35%を掛けた金額をもともとのTransition Taxに加算すると、留保所得が計35%の実効税率で課税される結果となる。10年間の縛りだから、2027年12月21日までにインバージョンしてExpatriated Entityになるケースが対象。時は経つのは早いからもうチョッとの我慢?

適格配当除外

そしてもうひとつ、個人が法人から受け取る配当は大概においてキャピタルゲイン優遇税率で課税される。Qualified Dividend Income(「QDI」)規定だ。このQDI、外国法人から受け取る配当ばかりでなく、条約締結国の米国外法人からの配当も含まれるんだけど、2017年の税制改正が可決された2017年12月22日の翌日以降に60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人から受け取る配当はQDI非適格になってしまう。

ということで、なかなか奥が深いけど、次回はいよいよ60%テストのメカニズムに関して。

Friday, July 9, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (3)

前回は、初期「Naked」インバージョンに対抗するため、株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulationsが制定された経緯等に触れた。その後、インバージョンすると企業価値が増大するんで、株主に課税する位ではインバージョン抑止効果はないことが判明する。マーケットは正直だよね。また、株主課税を規定しても、株主グループの中には課税関係を気にしないタイプ、例えばTax-Exempt、パススルーのファンド、いずれにしても換金して課税される覚悟のArbitrager、とかも多い。さらにキャピタルゲイン税率が低くなってからは、通常の個人株主のキャピタルゲイン課税に対する抵抗も低下傾向にあったといえる。

この点はインバージョンに限らず、2000年代前半からのM&A一般に見られる面白い傾向で、2003年以降、上場企業のM&A時に敢えて課税取引としてストラクチャーするケースが多くなったように感じる。しかも買収対価が全額現金だったら課税でも当然だけど、Reverse Sub Mergerで対価の70%が株式でストラクチャーされてたりするのを見るとビックリ。80%だったら非課税なのに。もちろん80%Equityでも現金Boot部分はGainがあれば課税だけど、70%EquityだったらEquity部分も含めて全額課税だからね。課税取引にすると確かに株式の簿価はステップアップするけど、株主に税金払わせてステップアップさせるかな、って不思議。もちろん多くの株主が含み損を抱えていると予想される場合には議決権のない株式とかを利用して敢えて課税取引にするようなストラクチャーも考えられる。金融危機の際に見られたパターン。含み損をトリガーさせる作戦は異常事態が発生しているケースに限定されるんで、一般的な観測としてはマーケットにおける株主レベルの譲渡益課税に対する許容度はどんどん高くなってきたって言えるのは確か。ここに来てバイデン政権は連邦だけでキャピタルゲイン43.4%(オバマケア付加税込)に増税する提案をしてるけど、そんなことなったらディール・ストラクチャーへのインパクトは大きい。2003年以降20年弱続いたトレンドはリバースする可能性大だ。マーケットが税率とか、特別な税率に適格となる所得のタイプの変更に敏感に反応する点はキャピタルマーケットの先進性を物語っている。

インバージョンに関しては、株主課税だけでは上場企業のインバージョンに歯止めが効かないという経験から、2004年に法人レベルの課税強化を規定したSection 7874が制定される。ブッシュ政権のAJCAだ。今日ではインバージョン規制法というとまずはSection 7874を思い浮かべるケースがが多い。ちなみにグリーンブックでバイデン政権が強化しようとしているのもSection 7874だ。

60%ルール

Section 7874は、インバージョン企業(「Expatriated Entity」)の課税所得はインバージョンから10年間を含む課税年度において、「インバージョン譲渡益」額を下回ることは認められない、という規定で始まる。この規定は後述する持分テストが60%~80%となる場合に適用される。

ここで言う10年間は細かく言うと、Expatriated Entityの米国資産が初めて米国外に移管されたと取り扱われる日の翌日からカウントされ、資産移管が終了した日から10年後に終わる。で、しかもその判定で決まる10年+の期間を一日でも含む課税年度はインバージョン規制に引っ掛かるという仕組み。全資産が一発で移管される場合には期間の決定は比較的分かり易いけどね。

で、インバージョン譲渡益っていうのは、Expatriated Entityによる株式その他の資産(棚卸資産除く)を米国外関連者へ譲渡して発生する譲渡益およびライセンス所得を意味する。米国外関連者は50%超の直接・間接の資本関係にある者、また米国移転価格税制で関連者となる者、とされる。米国の移転価格税制上の関連者は必ずも資本関係だけで決定されないのはみんなも知っているよね。特にActing in Concertとかのケース。

インバージョン譲渡益に対する課税強化は、インバージョンの話しの冒頭に触れたインバージョンした後にCFCその他の資産を米国傘下から外すPMIに網を掛けようとするもので、これらの所得には繰越欠損金や同じ課税年度に生じる他の損失との相殺が認められない。また、インバージョン取引自体が資産譲渡を通じて行われる場合には、その譲渡益そのものがインバージョン譲渡益と取り扱われる。さらにインバージョン譲渡益に対する課税から生じる法人税には税額控除は認められない。例外は外国税額控除なんだけど、インバージョン譲渡益は米国内源泉所得と取り扱うとしているので枠がない。

例えば、米国企業Xが株式交換を通じて米国外企業Yに買収され、Xの旧株主が買収後Yの株式の60%以上80%未満を所有するとする。その後のPMIでX傘下にあるCFCの一社FSがYにIPを譲渡して100の譲渡益を認識して、FS所在国で20の法人税を支払ったとする。米国内外の簿価の差異や為替その他の実務的な問題はここでは一旦全て無視するとして、FSが認識する譲渡益80がSub FになってXはCFC課税に基づき80を合算するものとする。FTCを取ろうとXは80のSub Fにみなし配当グロスアップ(Section 78)の20を加算して合計100の合算が生じることになる。ここまでは普通の税法の話しと同じ。

で、インバージョン規制のSection 7874的に考えると、Expatriated EntityはX。その後の取引で実際に譲渡益を認識するのはFSだけど、FSが米国外関連者Yに対する資産譲渡から認識する譲渡益がXの手でSub F合算課税になるので、Expatriated Entityが認識するインバージョン譲渡益となり、グロスアップ20を含む100がインバージョン譲渡益と取り扱われる。結果としてXはNOLとか税額控除で100に対する課税を減額することができない。もちろんだけど、Xが直接FS株式をYに譲渡するケースも同様。

なかなか痛いところを突いてるし、多国籍企業の行動パターンを観察した上で良く考えられた規定だ。次回はどんな時に米国法人がExpatriated Entity扱いされるか、っていう話しに移りたい。

Sunday, July 4, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (2)

前回はグリーンブック増税案でインバージョン願望が再編することから、そんな動きを牽制するため、グリーンブック自体がインバージョン規制法の厳格化を提案している、っていう点に触れた。

株主課税と法人レベルの2つの異なるインバージョン規制法

以前にも何回か触れたことがあるけど、米国におけるインバージョン規制法は大別すると2つ。ひとつは90年代に制定された株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulations。インバージョンは適格組織再編を通じて実行されるんで、そのままだと当事者全員に非課税で(旧)米国親会社の上に米国外親会社を配置することができる。McDermottやHelen of Troyに代表される初期型の「Naked」インバージョンは独り芝居というか自作自演のM&Aでバミューダ法人グループに生まれ変わるっていう、第三者の外国法人を伴わないインバージョンだったから、ダブルダミーとかじゃなくて単純にReverse Sub Mergerというメカニクスを通じて実質株式交換になる。組織再編少しでもカジッたことある人だったら初級シロベルトで「… by reason of the application of (a)(2)(E)」って常套適用だな、って分かるだろうし、この手の再編に使用されるMerger SubはTransitoryだし、独りインバージョンする際にはBootは必要ないだろうから大概においてB型再編にも適格になることが多い、っていうのも中級前半のオレンジベルトで分かるはず。

インバージョン株主課税

Helen of Troyまで10年間くらいNakedインバージョンは続いたけど、これを問題視した財務省は94 年にNoticeを公表し、96年にインバージョン規制規則を最終化している。仮に適格組織再編になる場合も、米国株主が外国法人と株式交換する場合には、複数の要件を充たさないと株主レベルで含み益課税が起こる、っていう仕組みで、Helen of Troy Regulationsとして知られている規定だ。もともと、Section 367法文自体では、例外規定が適用されなければ株主課税が生じるんだけど、大本の暫定規則、87年のNoticeその他はフォーカスが5%株主で、それらも大概のケースでGRAを締結すれば課税されないような規定になっていたものを、上場企業がインバージョンしていく点に懸念を示して課税強化している。

米国法人の方が大きい再編はインバージョン?

Helen of Troy Regulationsの要件は実際には細かくて複雑で、時間があれば次回以降どこかで詳細触れてみたいけど、敢えて乱暴に言えば外国法人が少なくとも米国法人と同価値でないと株主レベルで課税が生じるというもの。財務省の感覚では米国株主が過半数の持分を受け取るってことは、インバージョン懸念大ということ。このHelen of Troy Regulationsの過半数持分に対する懸念部分は、なんと30年の時を超えて2021年のグリーンブックに繋がっていくんで覚えておいてね。

Helen of Troy Regulationsの株式持分部分テストは米国人株主だけを見るんで、単純な時価比較では答えがでないこともあるけど、別の要件となる3年間のATBテストは時価ベースだから、かなり狭義な例外を除くとこちらは外国法人が少なくとも同規模じゃないと株主課税が生じることになる。

インバージョンとスピン

結構よくあるパターンだけど、スピンした法人を同じプラン下で買収法人と合併させたりする場合、Helen of Troy Regulationsとは関係のないスピンオフ側の規定で、スピンCoの株主が50%超の持分を継続しないとスピンする側の法人レベルで法人課税が起こる。97年のAnti-Morris Trust法だ。Helen of Troy とAnti-Morris Trustでは持分テストが逆方向なんで、このスピンオフ後に米国外法人と合併とかすると、通常はどっちかの法律で課税されてしまう。Anti-Morris Trustだけなら本来法人レベルだけの課税だけど、Helen of Troy Regulationsは株主レベル。更にややこしいのは、Helen of Troy Regulationsで株主レベルで課税が生じる場合に下手するとスピンオフのDevice規定に抵触(?)するっていう懸念がある。Deviceの趣旨的には変だけどね。そんなことになろうもんなら、そもそもAnti-Morris Trust規制に至る以前にスピンオフ自体が不適格になる。ということはスピンする側の法人レベルだけでなく、株主レベルでも課税。ヤヤコシ過ぎるね。ちなみにAnti-Morris TrustはMorris Trustっていう判例にかかわるもので、独禁法(Anti-Trust)とは全然関係ないからね。一応。

でもAnti-Morris TrustとHelen of Troy Regulationsでは持分継続の数え方が異なるんで、例えば米国人だけを見るのか、とかオーバーラップをどう考えるのか、とかの規定の差異をうまくつくことで、双方で非課税にするような離れ業を見事にやってのけたケースがあるらしい。凄いね。EYのワシントン事務所のスピンオフグループとかM&A分野で著名な法律事務所とかが双方の条文を徹底的に理解し、株主の構成を丹念に分析した結果なんだろう。

クライスラー・メルセデス「対等」合併の意味

Helen of Troy Regulationsに関しては、1998年のクライスラーとメルセデスの「対等」合併への適用が有名。クライスラーとメルセデスの合併は僕が2007年当時ブログを書き始めたころに触れた。South BayのPCH沿いにあるスタバでポスティングした日がまるで昨日のことのようだ。この合併、「対応」合併って散々宣伝されていたのは、Helen of Troy Regulationsで米国株主が課税されないように、っていう意味が結構あったんだろうね。個別通達でいろいろなRepがあってなかなか生々しいけど、争点となったのは株主の持分継続ではなく、ATBの方。合併用に組成されるドイツの持株会社が、メルセデス株式の80%を取得できるのか、すなわちメルセデスが適格子会社になるか、とか、投資資産の取り扱いとかにかかわる例外規定の適用とかにかかわるルーリングで、あくまでATBのSubstantiality要件を充たすという点にお墨付きをもらったものだけど、Repを読むと組織再編全体の様子が良く分かる。

期せずしてHelen of Troy Regulationsに興奮して、株主レベルの課税にかなり入りこんでしまったけど、次回はインバージョン規制法の本丸Section 7874について。

Saturday, July 3, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン

ということで今回からインバージョン。

インバージョンに関しては多国籍企業と議会・財務省のいたちごっこの歴史を5~6年ほど前にかなり詳細に特集したことがある。インバージョンは「上下逆さにする」っていうような意味だけど、Corporate Structureのインバージョンもまさしくその通りで、米国を頂点する多国籍企業が、グループ形態をひっくり返して米国外の親会社を頂点とするグループに生まれ変わり、PMIで従来は米国傘下にあったCFCを米国から外して新米国外親会社に付け替えるという再編だ。それって日本の多国籍企業のストラクチャーじゃん、って思うかもしれないけど、まさしくその通り。人もうらやむ米国外インバウンド・ストラクチャーを生まれながらにして備えているのが日本企業だ。ただ、もちろん、日本も高税率だから米国から日本にインバージョンする法人はない。スタートアップ系の日本企業がたまに米国法人を頂点とする米国企業に生まれ変わりたい、という相談を受けることがあるんだけど、それは飛んで火にいる夏の虫だ。法人設立国を米国にしないでも、米国上場その他やりたいことはできるはず。

で、なぜ米国多国籍企業がそこまでしないといけないかっていうと、米国法人税制の使い勝手が悪く、米国親会社が頂点にあってその傘下にCFCを所有するストラクチャーが国際的に不利だからだ。2017年の税制改正前は、法人税率が連邦だけで35%にのぼり、CFCの所得は分配時(またはSub F課税時)に35%で法人税対象(FTCはあり)というワールドワイド課税だったので、米国多国籍企業のインバージョン願望は強かった。企業側がインバージョンをしたくなるのは米国を困らせようと思ってではなく、単純にグローバルでヨーロッパやアジア企業と競争して勝ち残るため。

2016年のオバマ政権末期には次々大企業がインバージョンしていくトレンドを阻止するため、複数の厳しい財務省規則が策定されている。後で詳解したいと思うけどインバージョン規制法の対象になって国籍離脱法人と認定されるかどうかの判断時には、米国法人の株主が再編後の外国法人にどれだけの持分を継続して所有しているか、っていう持分比率(「Ownership Fraction」)の算定が最重要。2016年当時の規則の多くはこの持分比率計算時に分母に加味できる持分を制限したりして、結果としてより容易に持分比率が60%とか80%になるように策定されていた。

2017年の税制改正で法人税率が21%に下がり、従来のワールドワイド課税に代わり、GILTIが導入された。Section 245Aの国外配当100%控除でテリトリアル課税になるかのように見えたんだけど、GILTI導入で10.5%の低税率とは言えDeferralが不可能という、実態としては以前よりも厳しいワールドワイド課税制度になった。とは言え、GILTIはFDIIと対で、米国多国籍企業が米国外事業を米国から直接行っても、CFC経由で行っても課税関係はニュートラルになったし、なんと言っても税率が普通(?)のレベルになったし、国籍離脱法人のレッテルを張られるとTransition Tax、BEAT等に関して悪いことが起こることもあり、大型インバージョンはすっかりと姿を消していた。インバージョン対策は、規制を厳しくするより米国法人税を国際的に普通のレベルにする方が実効性が高い、っていうのが良く分かる。

バイデン政権増税案でインバージョン願望再燃

グリーンブックは、Blow-by-Blowでこれでもかって感じの増税案パレードになってる点は以前のポスティングで触れたけど、特にGILTIに関して、税率を倍の21%にし、ルーティン所得免除を撤廃した上で国別計算っていうのはグローバル事業を展開する米国多国籍企業へのダメージは大きい。2017年以降、鳴りを潜めていたインバージョン願望が復活するのは当然で、その懸念は他でもないバイデン政権自身が一番よく認識している。米国企業に不利ってことを知った上での増税案ってことなんだろうけど、その対策として他国にも増税させて相対的な悪影響を緩和しようとOECDに近づいているし、さらにインバージョン規制法をよりタイトにしてインバージョンの達成がより困難となるような提案をしている

SHIELDのSHIはインバージョン規制

世間ではSWORD(矛)と揶揄されるSHIELD(盾)は、BEATの代わりになるUTPR部分が注目を集めがちだけど、SHIELDのSHIはStop Harmful Inversionの略。インバージョンにかかわるグリーンブック増税案を理解するには、現状のインバージョン規制法の基本メカニズムを紐解いておく必要がある。ということで次回はインバージョン規制法の基本的な考え方について。