Saturday, September 10, 2016

スピンオフとホットドッグ(3)

過去2回に亘り、大きな含み益を持つ投資資産の非課税スピンオフ、また財務省が対抗措置として奇しくも「全米ホットドッグデー」に公表した規則案の背景に触れた。この規則案は、Device要件とATB要件の双方に関してATBと投資資産の比率に対する取り締まりを厳しくしている。

Device要件とは、簡単に言うと、本来は課税配当となるべき取引を、適格スピンを利用して非課税で分配してしまう「からくり」として利用されていないか、という点を検証するもの。既存の規則にはDeviceと思われるファクター、そうでないファクターが併記されていて、そのバランスで判断するような仕組みになっている。複数のファクターが並存する場合、どのようにバランスを判断するかは個々のケースの事実関係の問題としている。このDevice有無の判断はBusiness Purpose要件と密接に関連していて、別途規定されるBusiness Purpose要件に基づき、連邦税の低減以外の法人レベルでの事業目的が強ければ、それに連動する形でDeviceでもないという判断に至る。

今回の規則案では、ATB資産とそうでない資産の比率に関する具体的な規定が盛り込まれ、またDeviceとみなすファクターと、逆にそうでないファクターの相対的な位置づけをより明確にしている。規則案によると株主が上場企業の一般株主だというDeviceとならないファクターが存在しても、投資資産の割合が極端に高いようなDeviceファクターが存在する場合には、後者が前者を負かすとしている。

Device目的ではATB規定のように5年という期間的な要件は問わず、ATBとなる事業資産のスピン時の相対的な量にフォーカスし、投資資産との比率が分配する側の法人と分配される側の法人間で大きく異なる場合にはDeviceの疑いが高いファクターとされる。事業資産にはWorking Capitalで必要とされる現金等の流動資産が含まれる。

具体的には、スピンする側とされる側の法人各々において、投資資産等の事業資産以外の資産が占める割合が20%未満の場合にはDeviceファクターにはならない。またスピンする側とされる側の法人間の比較で、投資資産等が各法人内に占める割り合いの差異が10%未満の場合にもDeviceファクターはないとされる。

Device規定と深い関係にあるBusiness Purposeに関して、投資資産を事業資産から切り離すタイプの事業目的は、事業目的があるからと言ってもDeviceではないとするファクターとは基本的に考えられないとしている。

更に財務省規則の最近の傾向とも言える「Per Seテスト」が導入される。Per SeとはコロンバスサークルのTime WarnerビルにありセレブシェフのThomas Kellerが腕を振るう高級フランチレストラン・・、ではなくて、過少資本の規則案にも見られた事実関係の推定にかかわる規定で、個々の事実関係にあり得る背景は一切無視して、一定の事実が存在すれば、それをもってそれ以上の証明なしに結論を導くという手法だ。「当然違法原則」とか訳されることもあるみたいだけど、チョッと日本語では分かり難い。

このPer Seテストに基づくと、非事業資産がスピンする側、される側各々の法人の3分の2を超え、かつ2つの法人の非事業資産の比率の差異が大きいケースではほぼ自動的にDeviceとなり、結果として適格スピンオフではなくなってしまう。どのようなケースで比率の差異が大きいとなるかは少なくともどちらの法人に占める非事業資産の割合により3つの「バンド(帯域)」に入るかどうかで決定される。まず、66.7%~80%未満のケースでは、一方の法人における非事業資産の割合が他方の割合と比較して30%未満の場合、80%~90%未満では同40%、90%以上の場合には同50%、となる。Per SeテストでDeviceとならない場合にはファクターの比較で個々の事実関係に基づく判断となる。Corporate Tax Lawyerたちには数字嫌いな人も居るけど、算数勉強しないといけない感じのちょっと難しいテスト。

次にATBに関しては、ATBのサイズは問わないという従来からの考え方を撤廃し、スピンする側、される側の双方の法人で5年間従事されているATBが最低5%は必要という新規則案が追加された。今回の強化案が明記された背景には、以前と比べると近年はSeparate Affiliated Group (SAG)とかで、グループ内でのATBとかパススルーのATBとかを数えることができるようになり、以前よりATB規定そのものが自由化されているという背景もあるだろう。グループ内のスピンは5%ルールから除外して欲しいというコメントもあったようだが、財務省は応じず全てのスピンに5%ルールを適用するとしている。

この手のルールはValuationが鍵となり、そのために不確実性を生み出し易いが、時価の算定はスピン直後の状況に基づく。したがって当然だがスピンする側の法人の時価にはスピンされる法人の時価は含まれない。

ということでかなりのGame Changerだけど、あくまでも現時点では規則案の状況で、今後コメントを受け付けた上で最終化に向けて動き出すこととなる。今回の規則案は過少資本規則案のFundingルールとかと異なり、最終化された時点以降に適用となるそうだ。

Sunday, September 4, 2016

スピンオフとホットドッグ(2)

前回のポスティングで、スピンオフを適格とすることの大きなメリット、スピンオフを利用して実質、投資資産の持つ含み益に法人課税を支払わずに分配してしまう「ホットドッグスタンド」プラニング、そして、それに対抗するため財務省が「全米ホットドッグの日」に規則案を公表した点など触れた。

ホットドッグスタンドを利用したスピンオフは、例えば大企業が巨額の含み益を持つポートフォリオ投資の債権を持っているような局面で、これを売却すると巨額のキャピタルゲイン課税の対象となるので、何とか非課税で分配してしまいたいと考える際に実行される。適格スピンオフにはActiveな事業すなわちATBを分配する(および分配する方にも残す)必要があるので、債権だけを分配しても適格スピンオフにはならない。そこで債権と一緒にホットドッグスタンド(5年間運営していたと仮定)のように極端に小規模な事業を抱き合わせてスピンして非課税とするイメージ。

もしかして日本の読者からするとホットドッグスタンドと言ってもイメージが沸き難いかもしれないけど、これはNYCとかのストリートに点在している屋台のホットドッグ屋で大抵パラソルが2本くらい屋台に差してあって、Pretzel(日本のプリッツではなく20センチくらいのハート型のでかいやつ)、アイス、チョッと不健康っぽいソフトドリンックとか一緒に売ってて、オーダーすると「ケチャップかマスタード?」とか聞いてくる感じのところ。日本的に考えると、駅前に夕方になるとどこからともなく登場してくる屋台の「たこ焼き」屋さんと考えるとよりしっくりくるかも。大企業が投資資産を分配する際に、ついでに5年間たまたま運営していた「たこ焼き」の屋台事業をセットアップにして分配することで、1,000億円単位の含み益が非課税になったりしたらやっぱり通常の感覚としては腑に落ちないだろう。そもそも大企業はホットドッグスタンドとかたこ焼き屋台とか営んでないのでもちろんこれは全て比喩の世界の話し。

ちなみにNYCのホットドッグスタンドのホットドッグは決して安くない。ツーリストの少ないエリアでは$2くらいが平均かもしれないけど、Central Parkの中とかWall街の近くとかだと$4はミニマムで、Pricingが明確でないケースも多い。いかにも観光客風を装うと$8とか言ってくるケースもある。市当局が不透明なPricing、というか簡単に言うと「ぼったくり」に目を光らせていて捕まるとそれ相当の罰金が課されるそうだ。ホットドッグだけ買う客は少ないだろうから、それに水のBottleが$3とか言われるので(近くのDuane Readeとかで買えば多分$1くらい?)、ついでにアイスも、とかいう感じで家族4~5人分買い物すると平気で$40~$50いってしまう。Shake Shackのプレーンなホットドッグが$3.25だからホットドッグスタンドの割高感は否めない。ただ、公園の中とかでお腹が空いたときにその場で直ぐに食べられるメリットは大きい。Shake Shackとかに行くと、まずはそこまで行かないといけないし、着いてからもたかがホットドッグとかのためにオーダーするのにラインに並んで10分、オーダーが完成してBeeperが光るまで更に10分、で結局座るとこなくて立ち食いとか、結局あきらめてC-Lineでシェークだけ買って帰ってきたりとか、かなり面倒。

実はNYCでホットドッグスタンドを営むにはNYCにLicense Feeという名前の「ショバ代」を支払う必要がある。他のビジネス同様「Location、Location、Location」なので、場所によりLicense Feeは大きく異なる。Central Park内のようなPrime Locationに屋台を出すにはナンと年間$200,000を超える金額のFeeを支払う必要があるらしい。一方で人通りが少なめな地味目の場所だったら$2,000程度で済むそうだ。古くからの法律で、復員軍人の方はこのLicense Feeが免除されているケースがあったりと、ホットドッグスタンド業界もグローバル経済同様に熾烈なCompetitionに晒されている。

で、スピンオフだけど、この手の取引はここ数年注目を浴びてはいたが、フロントページで報道されるようになったのはYahooによるアリババ株式のスピンオフからだろう。ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を適格スピンオフしてしまおうというプランだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだっただけに、法的にはポジションは「確立済み」と考えられていたが、適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに注目度は抜群だった。

基本的な問題は上でも触れた通り、Yahooとスピンされる側となるNew Co(アリババ株式を出資してスピン用に組成される新設法人)の双方に過去5年従事してきたATBが存在しないといけない、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式では当然ATB条件を充たすことはできない。そこで、何らかの事業を一緒に出資することで「ATBもちゃんとありますよ」って言う状況を整える必要が出てくる。そこで、ATBの規模は問われないというのが従来からの確立した考え方だったので、アリババ株式と比べて価値が「極端に」低いATBを抱き合わせて適格スピンにする予定だった。昔のポスティングでも触れたと思うけど、YahooがスピンするNew Coに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」という名称だったと知って、最初は何かの悪いJokeかと思った。でも、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面で「Small Business」っていう名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと大胆。せめて商号だけでもYahoo Startupとか何かに変えれば・・?と思ってしまう。

このスピン、結局IRSがRulingを出さないこととなり、法律事務所のオピニオンだけで実行する度胸はさすがになかったのか中止となってしまった。IRS高官がこの手の取引を問題視している旨を弁護士協会の集まりで公言した直後にYahooの株価が大きく下落したことから、このプランがそれ以前は株価にまで織り込まれていたことが分かる。

次は財務省が対抗策として全米ホットドッグの日に公表した規則案に関して。

Saturday, September 3, 2016

スピンオフとホットドッグ

スピンオフが適格となり非課税となる場合の納税者側の恩典は大きい。1986年のTax Reform Actに基づく税法改正で「General Utilities(1935年の最高裁判例で法人レベルの課税なく資産を株主に分配してステップアップできた考え方)」が撤廃されて以来、含み益を持つ資産を法人レベルの課税なしで法人外に出してしまうプラニングは適格スピンオフ、またはInnovativeなSection 351 を利用した取引等、かなり限定されている。正確にはスピンオフという用語は、既存株主の持分%に応じて均等に分割対象となる法人株式を分配する取引で、一部の株主の持分を償還する形で分割法人を渡す形態(Split-Off)、分配する法人が複数の法人株式を分配して清算されてしまうもの(Split-Up)というバリエーションがあるけど、ここでは一括してスピンオフと呼んでおく。

スピンオフの規定は1924年という連邦税が憲法で認められるようになった1913年から比較的直ぐに誕生している。その後1934年には一旦廃案になったりと紆余曲折があり1954年に現在の規定に近いものとなった。ただ、General Utilitiesが撤廃される1986年まではそもそも法人側で分配の際の含み益に課税がなかった訳なので、長らくフォーカスは分配を受け取る株主側の扱いのみだったことになる。なので、今日の税法Section 355を見ると、分配する法人側の扱いがSection 355(c)という後から付け足されたような変な場所にあるのは、本当に後から付け足されたからだ。

スピンオフが適格となると、法人レベルばかりでなく分割される法人の株式を受け取る株主レベルでも非課税という恩典が得られる。このダブルベネフィットはかなりのメリットとなるが、それだけに通常の買収型の適格組織再編と比べても更に厳しい要件が規定されている。要件のひとつに「Active Trade or Business(「ATB」)」規定というものがあり、スピンオフを行う際には、分割の対象となる法人および分割をする側の法人の双方に過去5年従事していたATBが存在しないといけないとされる。分割の対象となる法人は新規設立のケース(D+355)も多いが、その場合も、新設法人にスピンのために現物出資される資産が過去5年ATBであったものが含まれる必要がある。過去5年に課税取引で取得されたATBは数えてもらえないので付け焼刃的にATBを他から買ってくることは基本できない。

Activeに従事している異なる事業を分割するという取引には事業目的が存在することが考えられ、タイトな条件を充たすケースでは適格スピンオフとして非課税とする措置にも正当性が認められる一方、単に含み益を持つポートフォリオ投資の株式とか債券とかの投資資産を株主に分配する取引を非課税とする理由は余りなく、ATBも、他のスピンオフの条件、例えばDeviceとかBusiness Purposeとかと並び、どのような分割が適格スピンオフに相応しいかどうかの判断のために規定されているものだ。

ATBが存在する法人にも余剰資金とかの運用で投資資産を結構持っているケースもある。また、Split-Offの局面では各株主の相対的な持分%に分配株式の価値を調整する目的で事業資産以外の投資資産を盛り込む必要もあるケースがある。でも、ほとんどの資産が投資資産でATBがとても小さい場合は適格スピンオフになり得るだろうか?面白いことに従来はATBとなる事業のサイズにかかわる要件はなく、他の適格要件を充たせば、どんなに小さな比率の事業でもATBとなることができると考えられていた。この点を利用し、巨額の投資資産にチョッとした事業をミックスしてスピンしてしまうプランが横行しており、その究極となるはずだったのが、アリババ株式を持つYahooによるスピンオフだ。結局IRSが問題視して中止になってしまったけど。この手のプランを実行する場合に、スピンされる法人(または逆にスピンする側の法人)に形式的に付される小さな事業は、米国税務業界では小さな事業の代名詞に使われる「ホットドッグ・スタンド」と揶揄されていた。

不思議なことに実はBusiness Purposeと並んで適格スピンオフ要件の要となる「Device」要件(正確には配当課税を回避するためのDeviceではいけないという要件)には、ATBの比率が低い場合にはDeviceと認定するひとつのファクターとすると明記されている。IRSはなぜここを利用してYahoo的な取引を取り締まらないのかチョッと不思議だけど、多分、上場株式の一般株主に対する分配はDeviceとはなり難いファクターのひとつとされており、そのせいかもしれない。

IRSは近年、この手の取引に不快感を持っており、弁護士業界の集まり等でIRS准主任弁護人とかが「スピンオフの趣旨にそぐわない分配が適格となっており、何らかの対策を練る」といった趣旨の発言を繰り返してきた。2015年にはRev. Proc.とかNoticeとかが発表され、IRSがこの点を見直していることが知らされ、そして遂に財務省規則案が2016年7月14日に公表された。

ナンと公表されたその日が米国「全米ホットドッグの日(National Hot Dog Day)」だったのは偶然だろうけど、なかなか洒落になっていて笑えてしまう。ホットドッグはしばらく食べてないし今更あんまり敢えて食べに行く気もしないけどこれを機にたまには食べてみてもいいかも。みんなどこで食べてるんだろう?NYCだったら月並みだけどBrooklyn発祥のNathan’sとか、Lower EastのKatz’sとかなんだろうか。それともそんなのはOld Schoolで今ではShake ShackとかホットドッグとしてはHigh-Endなところに行ってるのかもね。Los Angelesのダウンダウンの西のBeverly BoulevardにあったチリバーガーのTommy’sとか、Sunset Boulevardの列車の形してたCarney’sとか、今でもあるのかな。なんか考えただけで胸焼けがしてきた。やっぱり夕食は違うものにしておいた方が無難かもね。

次回はこの規則案とYahoo取引に関してもう少し触れてみたい。

Saturday, August 27, 2016

トランプの申告書に皆何を期待してるんだろう?

2016年11月8日に実施される第45代米国大統領選出の選挙まで残すところ2ヶ月強。不人気な2人のうちどちらが「マシ」か、という苦渋の選択を国民に迫る異例の選挙戦となっているが、候補者間では相変わらずの中傷合戦が続いている。この際、米国建国の趣旨に近い「最小限の連邦政府、最大限の個人の自由」を党是とするLibertarianの人たちにでも頑張ってもらうしかないかな、と夢見る今日この頃だ。

その中傷合戦のひとつに、共和党指名候補のトランプが未だに個人所得税申告書(Form 1040)を一般公開していないというものがあるのはご案内の通りだ。言うまでもなく個人の申告書は「Private」な文書であり、誰も公開を強要されることはない。IRSだって、当人、または当人から正式に委任状(POA)をもらった代理人以外には情報は一切公開しない。なので一義的には大統領でも、指名候補者でも、一般市民同様に申告書を誰にも見せる必要は無い。なので大統領による申告書の一般公開はあくまでも「自主的に」行われるもので、そのような慣習は1970年代から始まったと言われている。公開された申告書は今でもArchiveされているので自由に閲覧できる。所得レベル1つとっても各々の大統領のカラーが出ていてなかなか面白い。大統領になる前と後の所得の開きも興味深い。

トランプはIRSの税務調査が入っているので公開できない、としているが、その理由に説得力はない。法的に自分の申告書は公開したければ税務調査が入っていようといまいと関係なく公開できるはず。いろいろと理由を付けて公開を拒めば拒む程、見てみたくなるのが一般庶民の人情だろう。ただ、皆、申告書からどんな情報を得ようと期待しているんだろう?

「自慢してるほど資産ないのがバレるのがやなんじゃない?」とかっていう話しがたまに聞かれる。$10BのNet Worthがあり「I’m rich!」っていうのがハッタリじゃないかっていう疑惑だ。$10Bを100円換算すると1兆円だから凄い。でも、個人所得税の申告書を見てもNet Worthは一切分からない。開示Formとか、添付のStatementだの全て開示してくれると多少様子は分かるかもしれないけど、「申告書を公開してます!」って言ってる立派な歴代大統領も実は申告書の最初の2ページ、すなわちForm 1040の本体そのものしか公開していないケースが少なくない。この2ページからはほぼ何も分からない。

Net Worthは分からないまでも「実は年収が自慢してるほど多くないんじゃない?」という説もよく聞かれるが、これも申告書では分からない。トランプ程の経営者となれば、当然合法的な範囲でアグレッシブなタックスプラニングを駆使してると想定されるし、また全て本人個人の名義で所得が認識されているとも限らない。むしろ、課税所得はかなり圧縮されていると考えるのが普通だろう。となるとForm 1040のAGIとか見ても本当の実力は全く分からないだろう。

また「慈善団体に対する寄付金が少なすぎて格好悪いんじゃない?」という説も有力だ。これはどうだろう?Form 1040の本体2ページが公開されれば、2ページ目(2015年版だとLine 40)に少なくとも個別控除(Itemized Deduction)の総額は見ることができる。でも総額だし、Schedule Aそのものが公開されない限りその内訳は分からない。まあ、総額が少なければ自ずと寄付金も少ないね、っていう結論にはなるけど。Standard Deductionとかだったら大笑い。NYCに住んでれば州税・市税の控除だけでもそれはあり得ないけど。

「実効税率がどうせ低いんじゃない・・?」という推測もあるが、これは一応、申告書に記載される総所得と税金を比較すれば機械的に%そのものは出てくる。所得の多くが配当とかキャピタルゲインで構成されていれば、今の税法に基づくと実効税率はかなり低くなるのは当然で、それ自体疚しいことでもなんでもないが、そんな状況が申告書から露呈されると民主党的には「やっぱりとんでもない」となり、その切り口で攻撃されるだろう。以前の選挙で共和党候補ミット・ロムニーの申告書上の実効税率が14%だった点が派手に攻撃された例を見れば明らかだ。ロムニーの敗戦の理由をこの点に帰する向きもある程だ。これは投資所得に優遇税率を規定している法律が原因で、確かにCarried Interestまでキャピタルゲインという現行法はチョッと不公平とは言え、合法的に申告している訳で、更に言えばこれらの所得にこれ以上の税金を支払うこと自体法律で認められない訳だから、実効税率だけを見て非難するのはUnfairな中傷のように思う。そのうち大統領候補はスタバが英国でしたみたいに、法的には不要な税金を自ら納めるようなパフォーマンスまで求められるのだろうか。変な話しだ。

ロムニーと言えば、フロリダのWest Palm Beachに近い高級リゾートのボカ・ラタンで「有権者の47%はそもそも所得税を支払っておらず(低所得のため)、その層は金持ちから税金を取り、連邦政府を巨大化させて福祉で生きていこうとしており、その47%は何があっても民主党を支持するだろう」的な本当の発言をして大顰蹙を買ったものだ。でも考えてみれば有権者の多くが税金を支払っていないんだったら、議会が決めた法律に基づいて実効税率が低い大統領候補が非国民のように言われるのは変な感じ。

トランプに話しを戻すけど、挙句の果てには「ロシアのプーチンとか、チョッと怪しい連中から所得を得ているので公開できないんじゃない?」という話しまで真しやかにささやかれる始末。Form 1040見ても所得の源泉は分からない。ましてやプーチンの名前なんかが出てる訳ないじゃん、って思うけど、この手の話しは尽きないようだ。

ちなみにその昔、アトランティックシティーのプロジェクトの関係でカジノの許認可を得る際の手順の一環としてトランプが申告書のコピーを担当庁に提出したことがあるらしいけど、その際の申告書では、実効税率が低いどころか、税金はゼロだったそうだ。1970年代後半の話し。また、1990年代前半の申告書でもアトランティックシティーの巨額損失でゼロの年があったそうだ。その頃はたまたまビジネス調子悪かったのかも。でも今でもアトランティックシティーって行っても全然盛り上がっている感じを受けない。となると最近の申告書もまさか税金ゼロ・・?申告書が公開されないままこんな風にアレコレ勝手に空想している方が楽しいかもね。

Sunday, July 17, 2016

完全に「肩透かし」だった過少資本税制公聴会

ここ数ヶ月、注視が続く財務省による過少資本税制規則案。その挑発的かつ過激な内容から動向が注目されているが、7月7日に規則案に対する納税者側からのコメント提出が締め切られ、7月14日にはついに待望の財務省による「公聴会」がDCで開催された。規則案に対しては納税者ばかりでなく議会の強い反発もあり、最終化するのかしないのか、するのであればそれがいつなのか、規則案の内容がどれ程緩められるか等、公聴会には少しでも現状を確認したいという専門家集団が集結した。

DCの会場は200名近い参加者があり、会場は満員御礼状態。会場には納税者側の代表ばかりでなく、財務省、IRSの重鎮も紛れていたとされる。しかし、3時間に及ぶ質疑応答は実質、質問のみで財務省側からの意味のあるコメント一切なかったと伝えられ、参加者は公聴会直後に一同に失望感を表明している。

基本的な公聴会のダイナミクスとしては、参加者より、このような越権行為とも思われかつ経済的なインパクトの大きい規則は即刻廃案とするべき、またはどうしても最終化したいのであれば、大幅な改訂をした上で十分な準備期間を与えるべき、という趣旨のコメントが殺到し、それに対して財務省はノーコメントを決め込むというものであった。

参加者のコメントおよびメディアレポートによると、IRS法人税部門の准主任弁護士のAustin M. Diamond-Jonesによる極めて事務手続き的な開会宣言の後、財務省による発言はたったの3回、そのうち2回は納税者の質問に対して「あなたの質問は文書によるコメントに含まれてますか?」というようなしょうもないものだったということ。残る1回は規則の適用開始が一部(いわゆるFunding規定の部分)、規則案が最終化される以前の2016年4月4日(規則案の公表日)に遡る点が法律違反ではないかという趣旨で突っ込まれた際に、財務省側が「Funding規定が嫌なら最終化の後90日以内にグループ内ローン形態を補正する機会があるのだから十分な猶予期間が設けられている」と反論したものだけであった。

今回の規則案の内容がSection 385下で財務省に与えられた権限を逸脱するものであるという主張に関しては以前のポスティングで散々触れているが、公聴会でもこの点に対するアタックは再三行われた。規則案は全120ページだが、そのうち80ページが前文で、その前文の多くがなぜ財務省にこのような規則を規定する法的権限があるかという点が延々とSection 385の立法趣旨に基づいて説明されているものだ。80ページ使って法的権限を説明する必要があるという事実関係1つとってもその権限は怪しいと見るのが妥当だろう。その際に拠り所となるはずの立法趣旨だが、前文に記載されている議会の立法趣旨部分に都合の悪い部分が引用されていないと公聴会で納税者側からの質問で指摘されている。ますます怪しい感じだけど、この点を訴訟で争うには以前にも書いた通り、まず納税者側で追徴等の被害にあって当事者適格(Standing)を得、その後、訴訟に持ち込む必要がある。Appeal等のプロセスを考えると10年単位の気の長いプロセスだ。

また、別の切り口として、財務省がいかにInversionを敵視しているかは理解できるとしても、過去3年間にInversionした米国法人の数はたかが67社にしか満たない一方で、今回の規則案で影響を受ける法人の数は米国企業で2,000社以上、元々米国外のMNCに所有される米国法人に至ってはナンと27,000社、と財務省側の受けるダメージとその対策の与える負担間の不合理なミスマッチが指摘され、その付帯的な損害の大きさが白日の下に晒されることとなった。また、商務省が懸命に米国へのDFIを誘致している戦略に真っ向から対立するである点も指摘され、省庁間の連携の悪さも示唆された(これはどこの国も同じだけど・・)。

公聴会で唯一見えた実質的な規定にかかわる方向性は、以前から改訂が予想されているCurrent E&Pの例外が前年度のE&PまたはEBITDAベースとなる点、またCash Poolingの文書化が若干軟化される点、に加えてFunding規定にかかわる反証不可の推定事実認定期間が72ヶ月から24ヶ月に短縮されるような可能性がある点だろう。

公聴会が終ってみると、結局何も新しい情報は明らかにならず、9月前後の最終化を何が何でも目指す現財務省の頑なな態度だけが印象付けられるものとなった。規則案の公表と同じように最終規則も抜き打ちでいきなり発表して、みんなをビックリさせるのを狙ってるのかもね。

Sunday, July 10, 2016

過少資本財務省規則を巡る議会と財務省「Showdown」

Inversion財務省規則の一環として制定されながら、実はInversionなどしていない企業にとてつもない負荷を課す結果となるSection 385(過少資本税制)の規則案が公表されてから早くも3ヶ月半。ちょうどInversionに関して延々とポスティングしていた最中に絶妙のタイミングで発表されたこともあり、規則案の内容そのものに関してはそこで何回か速報的に触れた。この規則案、その物議を醸すというか、挑発的というか、過激な内容からその後の展開も期待を裏切らないドタバタ劇となっている。

今後の公式なタイムラインとして分かっているのは、納税者側が七夕様の7月7日を期限として規則案に対するコメントを財務省に提出、7月14日には財務省主催の公聴会が行われるという2点。規則案の広範かつ複雑な内容から、公聴会の日程自体に無理があるとして延期を求める声もあったが、何としても早期に規則を最終化したい財務省により予定通り決行となった。

その間、規則案の内容また財務省の強引なやり口に対しては、納税者だけでなく米国議会からも強い批判の声が上がっている。米国議会は基本的にInversionには反対の立場なのだが、2004年のAJCAにてSection 7874を制定して以来、この分野に新たな規制は導入していない。今回、財務省が越権行為とも言える、しかもInversionだけに対象が限定されない規則案を電撃的に出したことに不快感は隠せず、特に共和党議員からは強い反発が起こっている。米国議会は不思議なもので、BEPSに関して財務省がCbCRとかを進めた際も財務省に余計なことはするな、的な叱責をしていた。今回も公式な書簡を送りつけて抗議している。納税者から見ると頼もしい限りだが、だったらアップルの社長を呼び出して公聴会で攻め立てたりしているのは単なる劇なのか、チョッと何をしたいのか分からないところがある。

議会の反発は強く、ついに共和党議員の中にはSection 385財務省規則を法的な措置で無効にするという勢いも出てくる始末だ。これは実際に三権分立的には十分に可能な措置で、現に以前にも議会の意思に反する形で財務省が規則を策定しようとする際に「Moratorium」という形で、議会が規則の効果を停止することがあった。今回もテクニカルには不可能ではないが、議会でMoratoriumのような法案を通すこと自体時間が掛かるプロセスなので、規則最終化・施行への秒読みに入っている現段階では実務的には難しいのではという見方もある。

一方、現財務省の味方であるはずの民主党議員からも今回の規則案を財務省の言う通りの内容、タイミングで最終化するのは「さすがにチョッと・・」的な感覚もあり、せめて施行を遅らせる、または施行後の適用に移行期を設けてはどうか、という提案もある。また、Inversionとは関係ない通常の納税者、また一定の業種、に予期せぬ悪影響が予想されるので、規則の適用例外を拡大するべきだという意見も民主党からも出されている。ただ、基本的に、両党の反応は極めてParty Lineというか党派色が強く、民主党的には新しい大統領となる前に改訂を加えてもう少し現実的な内容とした上で最終化したく、共和党的には潰したいというものだろう。

7月6日に、議会と財務長官がミーティングを持ち、意見調整を行ったが、財務省のスタンスは微動だにしない状態が続いたようだ。財務省は議会からの不満の声にも耳を貸さず、7月7日までに受け取るコメントを粛々と「Hard Look」で検討するという対応のみで、9月初旬のLabor Day前後の施行を本気で目指している感じだ。財務省のお馴染み国際税務副次官補のRobert Stackは「規則案は特に複雑な規定ではない」とか「そもそも納税者に金利を自由に損金算入できる権利でもあると勘違いしている方がおかしい」とか言い放っているし。

納税者から見ると大変な負担を強いられるので戦々恐々としている状況だが、規則案にはチョッと笑ってしまう統計が記載されている。省庁による余計な規制を牽制するための「Paperwork Reduction Act」という法律が米国には規定されている。これは財務省を含む省庁が一般市民に申告書を出させたり、情報提供を強要する際に、どれだけの負担が米国市民、納税者に課せられるかを行政予算管理局が管理するというような法律だ。この法律自体がPaperworkを増やしているような気がしないでもないが、趣旨は立派なもの。このPaperwork Reduction Actの一部に、省庁による規制によりどれだけの負担が米国市民(IRSの場合には納税者)に課せられるのかを推定すること、という規定がある。この推定はなかなかいつも非現実的で楽しめるんだけど、今回のは凄い。

財務省の推定によると、規則案は21,000社に影響があるとし、納税者側で使う対応時間はナンと年間でたった35時間、計735,000時間としている。何と言う過少評価。

規則案の内容は、発表当初から従来の過少資本税制のアプローチを大きく逸脱している(特に1.385-3の規定が)という意味で世間を騒がせてくれているが、規則案を吟味すればする程、いろいろな問題点が浮き彫りになりつつある。

指摘されている代表的な疑問点、問題点に、Leveraged Dividend等、財務省が気に入らない取引、すなわちそのような取引を手形で行ったり、関連者間ローンでFundingしていると、ローンがEquityになるという規定の例外として、そのような取引が「Current E&P」の範囲だったらOKというものがある。米国でCorporate Distributionが配当となるかどうかの検証に携わったことのある人なら分かると思うけど、Current E&Pという金額は期中に決定することはできず、分配がいつ行われるかにかかわらず必ず期末まで待ち、年間の数字を基に決めなくてはいけない。となるとCurrent E&Pの例外が使えるかどうかは分配、組織再編時点では不明となる。そんな状態ではこの例外はほぼ役に立たない。草案時点で普通気付かない?って思うけど、この点に関しては財務省も「確かにそうだ・・」的な感覚はあるようで、前年度のE&PまたはEBITDAに変更が予想されている。ただ、どちらのケースでも後から移転価格などの調整で数字が大きく変わる可能性もあり、納税者としては使い勝手の悪い例外規定となる。

また規則案が適用されるローンは「Extended Group(EG)」内のものとなるが、このEGが連結納税グループを規定するSection 1504を拠り所に、それに外国法人、Non-Profit、S法人などを定義に加え、かつみなし持分を適用する形で、定義されているのも分かり難い。一層のこと、Section 1504ではなく、Section 1563のControlled Groupを拠り所にした方が元々の条文に対する変更が少なく済むのではないか、と思われる。EGの規定にS法人が入っているので多くの同族会社が対象になり兼ねない。また1つのローンを一部だけEquityとみなすBifurcation目的ではEGグループの定義が80%ベースではなく、50%ベースに引き下げられているが、それにS法人の絡みも考えると数限りない同族会社、私企業がこのルールに抵触することとなる。

それにしてもムキになっている財務省と議会。果たしてどのようなLabor Dayを迎えることになるか。その様子は7月14日の公聴会で少し明らかになるかも。

Saturday, June 25, 2016

パナマ文書と「タックスヘイブン」

法律事務所の「タックスヘイブン(租税回避地)」にかかわる機密文書が大量にリークされた「パナマ文書」は、そんなことだろうな、と思っていたことがやっぱり現実だったことが確認・露呈され、各国で話題だけど、パナマ文書に秘められたメッセージはどう解読するべきなんだろう。

今日のポスティングは米国税法のテクニカルな話しではないのであくまで私見というか個人的な感想に過ぎないけど、まず気になるのはこの「タックスヘイブン」という用語。この用語はパナマ文書が暴露している事の真相を捉える上で紛らわしいというか余り適切な表現ではないように思う。タックスヘイブンというと、「タックス」という表現から、課税逃れのために裕福な個人の資産がオフショアに逃避しているのが主たる問題かのように聞こえがちだけど(当然それも問題のひとつではあるけど)、オフショアの世界はもっとディープだ。オフショアはあらゆる法律から逃れようとする資産に隠れ家を提供しているというもっとズッと広範な問題だ。インサイダートレーディング、相続、贈収賄、他の犯罪等にかかわるありとあらゆる法律の適用を回避するために、お金がアンダーグランドに隠れて行き、真のオーナーどころか資産の存在そのものが他の世界からは分からないように仕組まれている。資産の存在そのものが分からなければ、課税など当然できるはずもない。

オフショアは、個人が蓄財目的で、秘匿性の高い場所にこっそり貯蓄しているという程度の問題ではなく(これはこれでもちろん問題だけど)、国家の中枢、軍、諜報機関などの一般人のレベルを超越した大物達が巨額な利益を得たり、世界の政治を有利に動かすために利用しているもっと凄いものだ。

このような観点からは「タックスヘイブン」という用語よりも「オフショア」という方が、問題がタックスに限定されない感じが良く出ていて適切なように思う。オフショアという用語には広範な秘匿性が暗示されているように感じるし、その意味でタックスヘイブンというよりも問題の実態をより直感的に伝えているように思う。

オフショアというと、英国から札束の入ったアタッシュケース片手に船に乗ってチャンネル諸島のジャージーとかに行き、文字通り陸から離れた遠方に出向かないといけないイメージが強いけど、物理的にオフショアに位置するエキゾチックな島を利用する必要は無く、秘匿性が高ければ「オン」ショアのスイスでもルクセンブルグでも、また米国内の州でも立派にオフショアの役を果たすことができる。

米国内のオフショアの話しをする際に、タックスヘイブンという切り口でDelaware州かNevada州に法人を設立するとまるで全然課税されないかのようなニュアンスの記事とかを見ることがあるけど、実際にはそんなことはない。Delaware州にしてもNevada州にしてもそれらの州の法人は当然、米国法人なのでフルに連邦法人税の対象になるし、Delaware州とかNevada州に法人を設立しても、実際に事業を行っているのがCalifornia州とかNew York州であれば設立州には一切関係なく、各州内活動の比率に準じて各州で課税対象となる。もし、Nevada州の関連法人に合法的に他州(しかもユニタリー課税を採択していないところ)の法人の所得を移転させることができれば確かに節税には繋がる。もちろんNevada州にある法人で真のオーナーが分からなければいろいろと悪用されることは十分に想定され、その意味で、不公正な環境を提供している点は否めない。

Delaware州にいくつペーパーカンパニーがあってとか、グーグルとかアップルまでもがDelaware州に登記されているとか、「South DakotaのTrustがな・・・」とかいう切り口で話していても余りオフショアの問題の真髄に切り込んでいる感じはしない。米国の上場企業は合法的な節税こそ最大限に探求しているとは言え、オフショアに隠れ法人とか口座を持って脱税しているようなことは考えられない。でも上場企業のほとんどがデラウェア州で設立されている、または上場の際にデラウェア法人に生まれ変わるのは、節税ではなく、株主訴訟等に関して会社よりの判例が充実していたり、会社法が弾力的な理由により、特に疚しいことは何もない。NYCの会社法とかM&A専門の弁護士が基本的にデラウェア法を扱っているのもこの理由。何か問題があるとしたら、グーグルとかアップルではなく、デラウェア法の秘匿性を利用したシェルカンパニーを通じて脱税その他の違法行為をしているようなケースに限定されるはず。これはケイマン島とかの本当のオフショアに関しても同じことだ。この点は報道を読む際に良く理解しておかないと玉石混淆で問題の本質が分からなくなってしまう可能性が高い。

このように、オフショアは、その秘匿性、すなわちタックスに限定されない広範な法律から逃避できる環境を提供している点が一番問題だと言えるけど、更にその利用が実質、スーパーリッチな一部の者に限られている点も大きな特徴であり、更なる問題だろう。スーパーリッチというと、有名スポーツ選手、芸能人、個人経営者を想像しがちかもしれないが(もちろんこれらのジャンルでも利用している方もいるだろうけど)、オフショアの更なるディープな問題・本質はそのレベルを超えて、巨大な利権も持つ政治家とかいろんな国の国家主権の中枢までもが絡み、とてつもなく富が偏るシステマチックに不公平な世の中を形成する強力な土台となっている点ではないだろうか。

そのような大枠の話しからすると、僕達が毎日格闘しているタックスヘイブンの世界は、「これはCFC課税だな・・」とか「ここはPFICも考えないといけなかったか・・」とか「ちゃんとFBARとか8938ファイルした?」とか「英国が19%の税率になると日本のCFC課税も気にしないとまずいな・・」とか、かなり真面目と言うか比較的イノセントな世界での話しだ。OECDのBEPSとかもあくまでも法律にきちんと準拠する人たちを念頭においての話しだし。情報の透明性を確保するためFATCAとか、またもっと大きなスケールではCRSとかが徐々に浸透してきて、どの程度、オフショアの本質的な問題が解決していくのかはまだまだ未知の世界と言える。

巨大な利権とか国家主権の中枢とかの真の大物が登場してきてしまうと、毎日地道に暮らしている一般庶民にはオフショアの存在そのものが遠い世界の話しだし、大手メディアの報道も腰が引けてるのかもしれないし、オフショアの本質的な問題はなかなか肌で感じられないものとなっている。なので、実は知らず知らずのうちに高税率とかを通じてオフショアの被害者になっていたり、民主主義にあるべき基本的な公正さが欠如していても中々気が付かなかったりする。すなわち無力感すら理解できていなかったのが現実かも。その意味で、パナマ文書は一般庶民に恐ろしくパワフルなオフショアの世界を垣間見せてくれて、その結果、少なくとも無力感だけは認識、共有できたという大きな意味(?)を提供してくれたのかもしれない。