Thursday, November 10, 2016

トランプ政権と米国タックス

11月8日の米国大統領選挙は結局、保守派の勝利でトランプ政権が誕生した。日本のメディアなんか見ると全くの予想外な結果で、しかも世の中終わってしまうかのような勢いの報道もあったりして実際の米国での感覚とは少し温度差がある感じ。

米国のメディアも直前までクリントン有利って報道し続けていたけど、実際のお茶の間感覚では必ずしもそうではなかったと思う。トランプが有利とまでは言わないまでも、どっちが当選しても失望するタイプの選択だっただけに投票してみるまで国民の真意は分からなかった。まさしく良くも悪くも民主主義。ちなみに米国大統領選挙の実施日は11月最初の月曜日の次の火曜日って決められているので算数的に11月8日っていうのは可能な日程では一番遅い。それだけ余計にサスペンスが多かったということになる。

選挙結果を目の前に各自の反応はまちまちだけど、これで世の中終わってしまうかと言うともちろんそんなことはなくて、人間の社会は放っておくと独裁者や暴政の手に落ちることが歴史上明らかなので、米国の憲法にはそうならないようできるだけの知恵・安全策が反映されている。なんと言っても徹底した三権分立。日本も一応三権分立だけど、実態として米国では本当により機能していて、行政機関が議会から権限を委譲されることなく法律を策定するようなことはない。なので、大統領府にいるトランプ政権が特定の宗教の人を入国させないとかいう法律を策定できる訳でもなく、仮に議会がそのような法律を制定しても裁判所が憲法に照らし合わせて合法性を判断する。なので候補者として行っていた過激な演出も法の前には実行困難なものも多いことになる。ただ、そんなことはトランプ陣営だって聞いている方だって最初から百も承知の上でのパフォーマンスだったと言える。

米国の大統領選挙の仕組みは他の国の選挙制度と比べるとチョッと分かり難い。知ってる人も多いと思うけど、憲法上はElectoral Collegeと呼ばれる僅か538人の「選挙人グループ」が大統領を選ぶと規定されており、国民全員に憲法上投票権がある訳ではない。この538人の選挙人は下院議員数(ザックリと州の人口に基いて配賦された数)と上院議員数(人口にかかわらず各州2名)の人数分各州に割り当てられている。で、この選挙人がどう投票するかは各州の法律(連邦憲法ではない)に規定されていて、原則は各州の得票数に準じて勝った政党にその州の全選挙人が投票するとされている。ただ、これも絶対的なものではなく、2州は州単位ではなくより小さな地区(District)の結果に基いたり、歴史的に稀ではあるけど、州の結果に背いた投票をした選挙人も居る。これらの複雑な規定も基本的には三権分立と同じ目的で、権力の集中、暴政の誕生を防ぐのが元々の狙いだろう。

なのでニュースとかで得票数ではクリントンが勝っていたと言っても制度上意味がない。ゴアとブッシュ(JR)の最初のShowdownでも、得票数ではゴア、選挙人数ではブッシュと、同じことが起こっていた。米国大統領選挙に関しては選挙人の得票こそが全てとなる。選挙人による投票は11月の国民投票とは別のもので、来年の1月6日に実施される。

米国でもリベラルなNYCとかではかなりガッカリしている人たちも多い。小学校のようなレベルでも朝礼で心配しないようにみたいな話しが先生からあったり、中高校生だと学校で泣き出す子がいたり、精神的にショックなケースに備えて精神科のカウンセラーが学校にしばらく常駐したり、と確かに米国でも従来の大統領選挙では考えられない反応が見られる。

ではどうしてこういうことになったんだろうか。米国ではこの8年間、「連邦」政府がヘルスケア等にまで手を出して(おそらく本来は違憲)ますます巨大化、それに伴って増税という建国・憲法の趣旨から遠ざかり、サンダースのような社会主義者に近い候補まで台頭していた。で、そんなトレンドをリバースしたいと願っている保守層は僕の回りにも実際には結構いた。Taxed Enough Alreadyとボストン茶会をかけた「Tea Party」とかが有名だ。投票とは余り関係ないと思うけど、Section 385の財務省規則にしてもかなり乱暴だ。

そんな保守層は結構居るなとは肌で感じていた、とは言えやはり共和党候補がトランプというのは抵抗も大きかったと思う。一方でクリントンも人格的な意味での信用・人望はおそらく日本で感じられるよりも相当低く、結局のところ候補者個人のレベルだとどっちが当選してもガッカリという前代未聞の厳しい選択となっていた。

で、候補者が2人ともダメなら、せめて党是的なイデオロギーで「Minimum Federal Government」「Maximum Individual Freedom」の実現に少しでも近い共和党にかけようと思った保守的な市民は少なからず居たのではないだろうか。マスメディアで報道されがちな「無知で貧しい白人」の票もあったのは数字的にそうなんだろうけど、それだけだったらメディアの予想があそこまで外れるのもおかしいし、またあれだけの得票、Sweepは説明し難い。

隠れトランプ、すなわち政策的には減税、小さな連邦政府を達成したいが人前でトランプ支持と公言するのはちょっと憚れるみないな層が相当居たのではないだろうか。それはアメリカに住んでいて税金を支払っていれば良く分かる。NYC税とかSE Taxとか入れるとオバマ政権下では実効税率が50%を超えているような状況もあり得るので「Taxed Enough Already」は本当にその通り。にもかかわらずクリントン政権になって、もっと課税しないと不公平みないな流れは本来の米国的、すなわち自己責任の「Live Free or Die」的なパイオニア精神とは程遠いように感じている人は多い。

今回の選挙結果、両院も共和党が制したことからねじれ状態から開放され、ようやく抜本的な税法改正、減税の実現が現実のものとなる可能性が大だ。トランプ案は法人税(というかビジネスに対する課税でパススルーも含む?)はナンと15%とタックスヘイブンの域に突入する超低税率を提案しているし、個人所得税トップレートも現行の39.6%から33%に低減しさらに累進税率区分(Bracket)を単純な3つのブラケットにまとめるとしている。かなり大胆。いくらSupply Side Economicsとは言え、余りの歳入減となりそうで財政大丈夫?って思うけど現実のものとなったら凄い。特に15%の法人税は低い。繰延税金資産とか持ってるところは資産が目減りするので戦々恐々かも?

また、小さい連邦政府の標的#1で違憲に近いオバマケアの撤廃はどうだろうか。余りに複雑な法律なので即撤廃は難しいようにも思えて、トランプが公約している「初日に即廃案」は現実的には難しいだろう。でも大きな改正が入ることはまず間違いない。

懸念の外交、通商等は不明な点が多いけど回りにブレーンが付いて何とか現実的な方向に行くことを願いたい。Global Economyを反転することもできないし、させたところで米国の製造業の競争力が増す訳でもないとう点は誰かが猫ちゃんの首に鈴を付ける覚悟で進言してあげないとね。

Friday, October 14, 2016

米国過少資本税制規則とうとう最終化

結局みんなが言ってた通りだった。とても最終化に耐え得るとは思えない挑発的かつ越権行為的な規定満載の過少資本税制規則案が、緩和措置は追加されたとは言え、Funding規定とか入ったまま骨子的には規則案を踏襲する形で10月13日に最終化された。規則「案」と異なり最終規則なので規定される発効日より法的な効果を持つ。

まず驚かされるのがそのボリューム。規則案は前文含めて120ページで、あれも読むのに時間掛かったけど、今回はナント実に518ページ!その辺の小説より長い。

それにしてもこれだけ最終化が待たれていた規則も近年珍しいだろう。まるでBeatlesとかの超一流アーティストの熱狂的ファンが次のアルバム発売を待っているように、税務業界一同、財務省高官の発言に一喜一憂して、その内容を垣間見ようと必死だった。 Beatlesは僕が幼少の頃には解散してしまったが、友達のお兄さんが詳しくて、最後のLPが出るらしいとズッと騒いでいたのを覚えている。お兄さん曰く、BeatlesのJohn LennonがYokoって日本人に騙されてBeatlesが解散してしまうってことだった。未だそんなに物事シンプルでないと理解する前の歳だったので、確かにちょっと魔女みたいなYokoが悪者に見えていた。で、待ったあげくにLet It BeというLPが発売された。そのお兄さんが手にした新品のレコードのジャケットからはなんとも言えないいい匂いがしてたのがまるで昨日のよう。昔のLPには必ずジャケットにタスキみたいなのが付いてて変な日本語タイトルみたいなのが書いてあったけど、そこに「さようならビートルズ。最後の云々・・」みたいに書いてあったのを今でも鮮明に覚えている。ちなみにBeatlesと言えば、バンド前期にツアーしてた時代のドキュメンタリーフィルムが最近公開されている。映像はほぼ見たことあるもののコレクションだけど、音質が格段に改善されていて結構良かった。マイナーな劇場でしかやってなくて、Audienceの年齢が高いけど(自分も・・)、好きな人にはお勧め。それにしても彼らはいつ見ても格好いい。

最終規則発行の「X-Day」は最後まで極秘扱いだった。当初はLabor Day(9月前半)と言われ、それが過ぎると10月1日と言われていた。でも10月1日って土曜日だけど・・、って不思議だった。案の定10月1日もHoaxで、そのまま何もなく過ぎそうだったんだけど、その時点で規則は財務省から大統領府にある行政管理予算局(OMB)の内部局であるOffice of Information and Regulatory Affairs(OIRA)に回されるという新局面を向えていた。

このOIRA(オイラ?)、情報規制局とでも訳すのがいいかもしれないけど、各省庁が発行する規則をレビューして場合によっては差し戻したりするところ。基本的に90日以内にレビューを終えるということになっている。OIRAに規則が回されたということは財務省側としては規則を最終化したという意味を持ち、その時点で規則は90日以内に最終化される、または差し戻されて長期化、等の可能性があり、いろんな展開を深読みする者が後を絶たず戦々恐々な状況となった。

でも結果としてはOIRAは数日でレビューを完了したことになる。518ページの長編を。OMBとかOIRAとか言っても所詮ホワイトハウスに属するということから最終的に民主党として選挙前に何が何でも最終規則を発行するというポリシーに影響されたのかも。

で、最終規則だけど、挑戦的な規則案の内容に対して納税者側から数多くの「Thoughtful」なコメントが寄せられました、と財務省は言っている。そして、こららのコメントに対しては「CarefullyにConsider」したとのこと。メジャーなコメントに対しては財務省側の反応・対応が記されている。余りに読み応えがある長編力作なので今後時間を掛けて解析していかないといけないけど、まずは規則案からの代表的な変更点に関して取り急ぎ触れてみたい。他にも細かい変更等あるのであくまでも速報的に理解して頂きたく。

まず一番目に付いたのは文書化要件の適用開始時期の延期。規則案では規則最終化時点以降のローンが対象とされていたけど、これが最終規則では2018年1月1日に延期。更に規則案では融資時点から30日以内に同時文書化することが義務付けられていたけど、最終規則では申告書提出までに用意されていれば同時文書化の要件を満たすとされる。まるで移転価格の文書化だけど、申告タイミングになるとどうしても申告期限ギリギリに用意されるような慣習となり、Busy Seasonの負荷がますます高まりそうでチョッと心配。

また、規則案では文書化がないと問答無用にローンがEquityになると規定されていたが、ここも若干緩和され、グループが一般的に文書化要件を守っているのであれば、個々のローンに文書化がされてなくても、即Equityとなるのではなく、反証可能な推定事実としてEquity扱いとされる。すなわち、推定事実は納税者がConvincingな文書以外の事実関係をもって反証可能ということだ。ただ、これは文書化を無視しても大丈夫ということではなく、あくまでも通常は文書化要件を守っている納税者にのみ与えられるBreakとなる。

次に、最終規則では規則の対象となるローンが米国の事業主体が借り手となるケースに限定された。規則案では80%の資本または議決権で結ばれる全世界グループの事業体間の全てのローンが対象とされていたが、これは例えば、UKとオランダとか、シンガポールからマレーシア、とか米国の支払利息とは一切関係ない局面にも厳密に言えば規則が適用されることを意味していた。となると、これらのローンに関して米国規則に基づく文書化をする者はいないと思われることから、それらのローンは全て米国税法の目から見るとEquityとなる。「米国の納税者じゃないから関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、実はFunding規定等の適用において局面によってはとんでもない結果となることがあり得た。ほぼ実務的に対応不可能と考えられていただけに正式に対応しなくて良くなったのは一安心。

また、意外だったのはひとつのローンを部分的にEquity、部分的に借入れと扱う権利を明確にしていた規則案は撤廃され、その権限は将来の検討に委ねるとしていること。このBifurcation(二分化)規定はかなりその意味が詳細に説明されていたので、あっさりと撤回されてしまったのは、やはり、例えば$100Mのローンのどの部分をIRSがEquityと認定するのかっていうのは余りに議論のあり過ぎる事実認定だということだろう。

規則案の中でも一番評判が悪く、かつSection 385で議会が財務省に与えている権限を超えていると考えられるFunding規定はそのまま最終規則でも生き延びている。ただ、配当に関しては2016年4月4日(規則案が公表された日)以降かつEGグループの一員であった期間のE&Pを超えなければ、それを借入れでファイナンスしていても問題がないとされる。規則案に規定されていたFunding規定の考え方をまともに適用すると、ひとつのローンがFunding規定に基づきEquityとなる局面で、そのローンの返済がRedemption(株式償還)となり、グループ間のRedemptionは基本Distributionとなることから、それが他のローンをEquityに変える、というドミノ効果があると批判されていた。最終規則ではFunding規定下でこのドミノ効果は反復的な適用はない点が明確にされている(一度はドミノ的となるがそれが終了したらその後はない)。

これらの緩和策を講じたことで、規則の適用対象となる納税者、取引は「Significant」に減りました、と財務省は胸を張るが、真偽のほどは「Only time will Tell」。

という訳で、ここ5ヶ月のローラーコースター的な展開は終わり、今後は最終規則の分析、対応アクションという新フェーズに移行していく。

ちなみに規則案が出た後の日本企業と外国企業の反応の温度差も興味深かった。日本企業以外のMNCの反応は新規則下で今後どのようにアーニングス・ストリッピングをしていこうか、というものだったが、従来から「きちんと?」科学的にアーニングス・ストリッピングを実行していない日本企業は文書化にどう対応するかという点が主たるフォーカスだった。Base ErosionしていないのにBEPS対応に追われる日本企業の構図とそっくり。日本では財務省がCFC課税を強化すると言ってるけど、米国企業と比べるとCFCを悪用しているケースは極端に少ないように思う。ただでさえ国際税務室のリソース確保に苦労している日本のMNC。今後どのように国際課税を管理していくかは大きなチャレンジだろう。

Saturday, September 10, 2016

スピンオフとホットドッグ(3)

過去2回に亘り、大きな含み益を持つ投資資産の非課税スピンオフ、また財務省が対抗措置として奇しくも「全米ホットドッグデー」に公表した規則案の背景に触れた。この規則案は、Device要件とATB要件の双方に関してATBと投資資産の比率に対する取り締まりを厳しくしている。

Device要件とは、簡単に言うと、本来は課税配当となるべき取引を、適格スピンを利用して非課税で分配してしまう「からくり」として利用されていないか、という点を検証するもの。既存の規則にはDeviceと思われるファクター、そうでないファクターが併記されていて、そのバランスで判断するような仕組みになっている。複数のファクターが並存する場合、どのようにバランスを判断するかは個々のケースの事実関係の問題としている。このDevice有無の判断はBusiness Purpose要件と密接に関連していて、別途規定されるBusiness Purpose要件に基づき、連邦税の低減以外の法人レベルでの事業目的が強ければ、それに連動する形でDeviceでもないという判断に至る。

今回の規則案では、ATB資産とそうでない資産の比率に関する具体的な規定が盛り込まれ、またDeviceとみなすファクターと、逆にそうでないファクターの相対的な位置づけをより明確にしている。規則案によると株主が上場企業の一般株主だというDeviceとならないファクターが存在しても、投資資産の割合が極端に高いようなDeviceファクターが存在する場合には、後者が前者を負かすとしている。

Device目的ではATB規定のように5年という期間的な要件は問わず、ATBとなる事業資産のスピン時の相対的な量にフォーカスし、投資資産との比率が分配する側の法人と分配される側の法人間で大きく異なる場合にはDeviceの疑いが高いファクターとされる。事業資産にはWorking Capitalで必要とされる現金等の流動資産が含まれる。

具体的には、スピンする側とされる側の法人各々において、投資資産等の事業資産以外の資産が占める割合が20%未満の場合にはDeviceファクターにはならない。またスピンする側とされる側の法人間の比較で、投資資産等が各法人内に占める割り合いの差異が10%未満の場合にもDeviceファクターはないとされる。

Device規定と深い関係にあるBusiness Purposeに関して、投資資産を事業資産から切り離すタイプの事業目的は、事業目的があるからと言ってもDeviceではないとするファクターとは基本的に考えられないとしている。

更に財務省規則の最近の傾向とも言える「Per Seテスト」が導入される。Per SeとはコロンバスサークルのTime WarnerビルにありセレブシェフのThomas Kellerが腕を振るう高級フランチレストラン・・、ではなくて、過少資本の規則案にも見られた事実関係の推定にかかわる規定で、個々の事実関係にあり得る背景は一切無視して、一定の事実が存在すれば、それをもってそれ以上の証明なしに結論を導くという手法だ。「当然違法原則」とか訳されることもあるみたいだけど、チョッと日本語では分かり難い。

このPer Seテストに基づくと、非事業資産がスピンする側、される側各々の法人の3分の2を超え、かつ2つの法人の非事業資産の比率の差異が大きいケースではほぼ自動的にDeviceとなり、結果として適格スピンオフではなくなってしまう。どのようなケースで比率の差異が大きいとなるかは少なくともどちらの法人に占める非事業資産の割合により3つの「バンド(帯域)」に入るかどうかで決定される。まず、66.7%~80%未満のケースでは、一方の法人における非事業資産の割合が他方の割合と比較して30%未満の場合、80%~90%未満では同40%、90%以上の場合には同50%、となる。Per SeテストでDeviceとならない場合にはファクターの比較で個々の事実関係に基づく判断となる。Corporate Tax Lawyerたちには数字嫌いな人も居るけど、算数勉強しないといけない感じのちょっと難しいテスト。

次にATBに関しては、ATBのサイズは問わないという従来からの考え方を撤廃し、スピンする側、される側の双方の法人で5年間従事されているATBが最低5%は必要という新規則案が追加された。今回の強化案が明記された背景には、以前と比べると近年はSeparate Affiliated Group (SAG)とかで、グループ内でのATBとかパススルーのATBとかを数えることができるようになり、以前よりATB規定そのものが自由化されているという背景もあるだろう。グループ内のスピンは5%ルールから除外して欲しいというコメントもあったようだが、財務省は応じず全てのスピンに5%ルールを適用するとしている。

この手のルールはValuationが鍵となり、そのために不確実性を生み出し易いが、時価の算定はスピン直後の状況に基づく。したがって当然だがスピンする側の法人の時価にはスピンされる法人の時価は含まれない。

ということでかなりのGame Changerだけど、あくまでも現時点では規則案の状況で、今後コメントを受け付けた上で最終化に向けて動き出すこととなる。今回の規則案は過少資本規則案のFundingルールとかと異なり、最終化された時点以降に適用となるそうだ。

Sunday, September 4, 2016

スピンオフとホットドッグ(2)

前回のポスティングで、スピンオフを適格とすることの大きなメリット、スピンオフを利用して実質、投資資産の持つ含み益に法人課税を支払わずに分配してしまう「ホットドッグスタンド」プラニング、そして、それに対抗するため財務省が「全米ホットドッグの日」に規則案を公表した点など触れた。

ホットドッグスタンドを利用したスピンオフは、例えば大企業が巨額の含み益を持つポートフォリオ投資の債権を持っているような局面で、これを売却すると巨額のキャピタルゲイン課税の対象となるので、何とか非課税で分配してしまいたいと考える際に実行される。適格スピンオフにはActiveな事業すなわちATBを分配する(および分配する方にも残す)必要があるので、債権だけを分配しても適格スピンオフにはならない。そこで債権と一緒にホットドッグスタンド(5年間運営していたと仮定)のように極端に小規模な事業を抱き合わせてスピンして非課税とするイメージ。

もしかして日本の読者からするとホットドッグスタンドと言ってもイメージが沸き難いかもしれないけど、これはNYCとかのストリートに点在している屋台のホットドッグ屋で大抵パラソルが2本くらい屋台に差してあって、Pretzel(日本のプリッツではなく20センチくらいのハート型のでかいやつ)、アイス、チョッと不健康っぽいソフトドリンックとか一緒に売ってて、オーダーすると「ケチャップかマスタード?」とか聞いてくる感じのところ。日本的に考えると、駅前に夕方になるとどこからともなく登場してくる屋台の「たこ焼き」屋さんと考えるとよりしっくりくるかも。大企業が投資資産を分配する際に、ついでに5年間たまたま運営していた「たこ焼き」の屋台事業をセットアップにして分配することで、1,000億円単位の含み益が非課税になったりしたらやっぱり通常の感覚としては腑に落ちないだろう。そもそも大企業はホットドッグスタンドとかたこ焼き屋台とか営んでないのでもちろんこれは全て比喩の世界の話し。

ちなみにNYCのホットドッグスタンドのホットドッグは決して安くない。ツーリストの少ないエリアでは$2くらいが平均かもしれないけど、Central Parkの中とかWall街の近くとかだと$4はミニマムで、Pricingが明確でないケースも多い。いかにも観光客風を装うと$8とか言ってくるケースもある。市当局が不透明なPricing、というか簡単に言うと「ぼったくり」に目を光らせていて捕まるとそれ相当の罰金が課されるそうだ。ホットドッグだけ買う客は少ないだろうから、それに水のBottleが$3とか言われるので(近くのDuane Readeとかで買えば多分$1くらい?)、ついでにアイスも、とかいう感じで家族4~5人分買い物すると平気で$40~$50いってしまう。Shake Shackのプレーンなホットドッグが$3.25だからホットドッグスタンドの割高感は否めない。ただ、公園の中とかでお腹が空いたときにその場で直ぐに食べられるメリットは大きい。Shake Shackとかに行くと、まずはそこまで行かないといけないし、着いてからもたかがホットドッグとかのためにオーダーするのにラインに並んで10分、オーダーが完成してBeeperが光るまで更に10分、で結局座るとこなくて立ち食いとか、結局あきらめてC-Lineでシェークだけ買って帰ってきたりとか、かなり面倒。

実はNYCでホットドッグスタンドを営むにはNYCにLicense Feeという名前の「ショバ代」を支払う必要がある。他のビジネス同様「Location、Location、Location」なので、場所によりLicense Feeは大きく異なる。Central Park内のようなPrime Locationに屋台を出すにはナンと年間$200,000を超える金額のFeeを支払う必要があるらしい。一方で人通りが少なめな地味目の場所だったら$2,000程度で済むそうだ。古くからの法律で、復員軍人の方はこのLicense Feeが免除されているケースがあったりと、ホットドッグスタンド業界もグローバル経済同様に熾烈なCompetitionに晒されている。

で、スピンオフだけど、この手の取引はここ数年注目を浴びてはいたが、フロントページで報道されるようになったのはYahooによるアリババ株式のスピンオフからだろう。ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を適格スピンオフしてしまおうというプランだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだっただけに、法的にはポジションは「確立済み」と考えられていたが、適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに注目度は抜群だった。

基本的な問題は上でも触れた通り、Yahooとスピンされる側となるNew Co(アリババ株式を出資してスピン用に組成される新設法人)の双方に過去5年従事してきたATBが存在しないといけない、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式では当然ATB条件を充たすことはできない。そこで、何らかの事業を一緒に出資することで「ATBもちゃんとありますよ」って言う状況を整える必要が出てくる。そこで、ATBの規模は問われないというのが従来からの確立した考え方だったので、アリババ株式と比べて価値が「極端に」低いATBを抱き合わせて適格スピンにする予定だった。昔のポスティングでも触れたと思うけど、YahooがスピンするNew Coに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」という名称だったと知って、最初は何かの悪いJokeかと思った。でも、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面で「Small Business」っていう名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと大胆。せめて商号だけでもYahoo Startupとか何かに変えれば・・?と思ってしまう。

このスピン、結局IRSがRulingを出さないこととなり、法律事務所のオピニオンだけで実行する度胸はさすがになかったのか中止となってしまった。IRS高官がこの手の取引を問題視している旨を弁護士協会の集まりで公言した直後にYahooの株価が大きく下落したことから、このプランがそれ以前は株価にまで織り込まれていたことが分かる。

次は財務省が対抗策として全米ホットドッグの日に公表した規則案に関して。

Saturday, September 3, 2016

スピンオフとホットドッグ

スピンオフが適格となり非課税となる場合の納税者側の恩典は大きい。1986年のTax Reform Actに基づく税法改正で「General Utilities(1935年の最高裁判例で法人レベルの課税なく資産を株主に分配してステップアップできた考え方)」が撤廃されて以来、含み益を持つ資産を法人レベルの課税なしで法人外に出してしまうプラニングは適格スピンオフ、またはInnovativeなSection 351 を利用した取引等、かなり限定されている。正確にはスピンオフという用語は、既存株主の持分%に応じて均等に分割対象となる法人株式を分配する取引で、一部の株主の持分を償還する形で分割法人を渡す形態(Split-Off)、分配する法人が複数の法人株式を分配して清算されてしまうもの(Split-Up)というバリエーションがあるけど、ここでは一括してスピンオフと呼んでおく。

スピンオフの規定は1924年という連邦税が憲法で認められるようになった1913年から比較的直ぐに誕生している。その後1934年には一旦廃案になったりと紆余曲折があり1954年に現在の規定に近いものとなった。ただ、General Utilitiesが撤廃される1986年まではそもそも法人側で分配の際の含み益に課税がなかった訳なので、長らくフォーカスは分配を受け取る株主側の扱いのみだったことになる。なので、今日の税法Section 355を見ると、分配する法人側の扱いがSection 355(c)という後から付け足されたような変な場所にあるのは、本当に後から付け足されたからだ。

スピンオフが適格となると、法人レベルばかりでなく分割される法人の株式を受け取る株主レベルでも非課税という恩典が得られる。このダブルベネフィットはかなりのメリットとなるが、それだけに通常の買収型の適格組織再編と比べても更に厳しい要件が規定されている。要件のひとつに「Active Trade or Business(「ATB」)」規定というものがあり、スピンオフを行う際には、分割の対象となる法人および分割をする側の法人の双方に過去5年従事していたATBが存在しないといけないとされる。分割の対象となる法人は新規設立のケース(D+355)も多いが、その場合も、新設法人にスピンのために現物出資される資産が過去5年ATBであったものが含まれる必要がある。過去5年に課税取引で取得されたATBは数えてもらえないので付け焼刃的にATBを他から買ってくることは基本できない。

Activeに従事している異なる事業を分割するという取引には事業目的が存在することが考えられ、タイトな条件を充たすケースでは適格スピンオフとして非課税とする措置にも正当性が認められる一方、単に含み益を持つポートフォリオ投資の株式とか債券とかの投資資産を株主に分配する取引を非課税とする理由は余りなく、ATBも、他のスピンオフの条件、例えばDeviceとかBusiness Purposeとかと並び、どのような分割が適格スピンオフに相応しいかどうかの判断のために規定されているものだ。

ATBが存在する法人にも余剰資金とかの運用で投資資産を結構持っているケースもある。また、Split-Offの局面では各株主の相対的な持分%に分配株式の価値を調整する目的で事業資産以外の投資資産を盛り込む必要もあるケースがある。でも、ほとんどの資産が投資資産でATBがとても小さい場合は適格スピンオフになり得るだろうか?面白いことに従来はATBとなる事業のサイズにかかわる要件はなく、他の適格要件を充たせば、どんなに小さな比率の事業でもATBとなることができると考えられていた。この点を利用し、巨額の投資資産にチョッとした事業をミックスしてスピンしてしまうプランが横行しており、その究極となるはずだったのが、アリババ株式を持つYahooによるスピンオフだ。結局IRSが問題視して中止になってしまったけど。この手のプランを実行する場合に、スピンされる法人(または逆にスピンする側の法人)に形式的に付される小さな事業は、米国税務業界では小さな事業の代名詞に使われる「ホットドッグ・スタンド」と揶揄されていた。

不思議なことに実はBusiness Purposeと並んで適格スピンオフ要件の要となる「Device」要件(正確には配当課税を回避するためのDeviceではいけないという要件)には、ATBの比率が低い場合にはDeviceと認定するひとつのファクターとすると明記されている。IRSはなぜここを利用してYahoo的な取引を取り締まらないのかチョッと不思議だけど、多分、上場株式の一般株主に対する分配はDeviceとはなり難いファクターのひとつとされており、そのせいかもしれない。

IRSは近年、この手の取引に不快感を持っており、弁護士業界の集まり等でIRS准主任弁護人とかが「スピンオフの趣旨にそぐわない分配が適格となっており、何らかの対策を練る」といった趣旨の発言を繰り返してきた。2015年にはRev. Proc.とかNoticeとかが発表され、IRSがこの点を見直していることが知らされ、そして遂に財務省規則案が2016年7月14日に公表された。

ナンと公表されたその日が米国「全米ホットドッグの日(National Hot Dog Day)」だったのは偶然だろうけど、なかなか洒落になっていて笑えてしまう。ホットドッグはしばらく食べてないし今更あんまり敢えて食べに行く気もしないけどこれを機にたまには食べてみてもいいかも。みんなどこで食べてるんだろう?NYCだったら月並みだけどBrooklyn発祥のNathan’sとか、Lower EastのKatz’sとかなんだろうか。それともそんなのはOld Schoolで今ではShake ShackとかホットドッグとしてはHigh-Endなところに行ってるのかもね。Los Angelesのダウンダウンの西のBeverly BoulevardにあったチリバーガーのTommy’sとか、Sunset Boulevardの列車の形してたCarney’sとか、今でもあるのかな。なんか考えただけで胸焼けがしてきた。やっぱり夕食は違うものにしておいた方が無難かもね。

次回はこの規則案とYahoo取引に関してもう少し触れてみたい。

Saturday, August 27, 2016

トランプの申告書に皆何を期待してるんだろう?

2016年11月8日に実施される第45代米国大統領選出の選挙まで残すところ2ヶ月強。不人気な2人のうちどちらが「マシ」か、という苦渋の選択を国民に迫る異例の選挙戦となっているが、候補者間では相変わらずの中傷合戦が続いている。この際、米国建国の趣旨に近い「最小限の連邦政府、最大限の個人の自由」を党是とするLibertarianの人たちにでも頑張ってもらうしかないかな、と夢見る今日この頃だ。

その中傷合戦のひとつに、共和党指名候補のトランプが未だに個人所得税申告書(Form 1040)を一般公開していないというものがあるのはご案内の通りだ。言うまでもなく個人の申告書は「Private」な文書であり、誰も公開を強要されることはない。IRSだって、当人、または当人から正式に委任状(POA)をもらった代理人以外には情報は一切公開しない。なので一義的には大統領でも、指名候補者でも、一般市民同様に申告書を誰にも見せる必要は無い。なので大統領による申告書の一般公開はあくまでも「自主的に」行われるもので、そのような慣習は1970年代から始まったと言われている。公開された申告書は今でもArchiveされているので自由に閲覧できる。所得レベル1つとっても各々の大統領のカラーが出ていてなかなか面白い。大統領になる前と後の所得の開きも興味深い。

トランプはIRSの税務調査が入っているので公開できない、としているが、その理由に説得力はない。法的に自分の申告書は公開したければ税務調査が入っていようといまいと関係なく公開できるはず。いろいろと理由を付けて公開を拒めば拒む程、見てみたくなるのが一般庶民の人情だろう。ただ、皆、申告書からどんな情報を得ようと期待しているんだろう?

「自慢してるほど資産ないのがバレるのがやなんじゃない?」とかっていう話しがたまに聞かれる。$10BのNet Worthがあり「I’m rich!」っていうのがハッタリじゃないかっていう疑惑だ。$10Bを100円換算すると1兆円だから凄い。でも、個人所得税の申告書を見てもNet Worthは一切分からない。開示Formとか、添付のStatementだの全て開示してくれると多少様子は分かるかもしれないけど、「申告書を公開してます!」って言ってる立派な歴代大統領も実は申告書の最初の2ページ、すなわちForm 1040の本体そのものしか公開していないケースが少なくない。この2ページからはほぼ何も分からない。

Net Worthは分からないまでも「実は年収が自慢してるほど多くないんじゃない?」という説もよく聞かれるが、これも申告書では分からない。トランプ程の経営者となれば、当然合法的な範囲でアグレッシブなタックスプラニングを駆使してると想定されるし、また全て本人個人の名義で所得が認識されているとも限らない。むしろ、課税所得はかなり圧縮されていると考えるのが普通だろう。となるとForm 1040のAGIとか見ても本当の実力は全く分からないだろう。

また「慈善団体に対する寄付金が少なすぎて格好悪いんじゃない?」という説も有力だ。これはどうだろう?Form 1040の本体2ページが公開されれば、2ページ目(2015年版だとLine 40)に少なくとも個別控除(Itemized Deduction)の総額は見ることができる。でも総額だし、Schedule Aそのものが公開されない限りその内訳は分からない。まあ、総額が少なければ自ずと寄付金も少ないね、っていう結論にはなるけど。Standard Deductionとかだったら大笑い。NYCに住んでれば州税・市税の控除だけでもそれはあり得ないけど。

「実効税率がどうせ低いんじゃない・・?」という推測もあるが、これは一応、申告書に記載される総所得と税金を比較すれば機械的に%そのものは出てくる。所得の多くが配当とかキャピタルゲインで構成されていれば、今の税法に基づくと実効税率はかなり低くなるのは当然で、それ自体疚しいことでもなんでもないが、そんな状況が申告書から露呈されると民主党的には「やっぱりとんでもない」となり、その切り口で攻撃されるだろう。以前の選挙で共和党候補ミット・ロムニーの申告書上の実効税率が14%だった点が派手に攻撃された例を見れば明らかだ。ロムニーの敗戦の理由をこの点に帰する向きもある程だ。これは投資所得に優遇税率を規定している法律が原因で、確かにCarried Interestまでキャピタルゲインという現行法はチョッと不公平とは言え、合法的に申告している訳で、更に言えばこれらの所得にこれ以上の税金を支払うこと自体法律で認められない訳だから、実効税率だけを見て非難するのはUnfairな中傷のように思う。そのうち大統領候補はスタバが英国でしたみたいに、法的には不要な税金を自ら納めるようなパフォーマンスまで求められるのだろうか。変な話しだ。

ロムニーと言えば、フロリダのWest Palm Beachに近い高級リゾートのボカ・ラタンで「有権者の47%はそもそも所得税を支払っておらず(低所得のため)、その層は金持ちから税金を取り、連邦政府を巨大化させて福祉で生きていこうとしており、その47%は何があっても民主党を支持するだろう」的な本当の発言をして大顰蹙を買ったものだ。でも考えてみれば有権者の多くが税金を支払っていないんだったら、議会が決めた法律に基づいて実効税率が低い大統領候補が非国民のように言われるのは変な感じ。

トランプに話しを戻すけど、挙句の果てには「ロシアのプーチンとか、チョッと怪しい連中から所得を得ているので公開できないんじゃない?」という話しまで真しやかにささやかれる始末。Form 1040見ても所得の源泉は分からない。ましてやプーチンの名前なんかが出てる訳ないじゃん、って思うけど、この手の話しは尽きないようだ。

ちなみにその昔、アトランティックシティーのプロジェクトの関係でカジノの許認可を得る際の手順の一環としてトランプが申告書のコピーを担当庁に提出したことがあるらしいけど、その際の申告書では、実効税率が低いどころか、税金はゼロだったそうだ。1970年代後半の話し。また、1990年代前半の申告書でもアトランティックシティーの巨額損失でゼロの年があったそうだ。その頃はたまたまビジネス調子悪かったのかも。でも今でもアトランティックシティーって行っても全然盛り上がっている感じを受けない。となると最近の申告書もまさか税金ゼロ・・?申告書が公開されないままこんな風にアレコレ勝手に空想している方が楽しいかもね。

Sunday, July 17, 2016

完全に「肩透かし」だった過少資本税制公聴会

ここ数ヶ月、注視が続く財務省による過少資本税制規則案。その挑発的かつ過激な内容から動向が注目されているが、7月7日に規則案に対する納税者側からのコメント提出が締め切られ、7月14日にはついに待望の財務省による「公聴会」がDCで開催された。規則案に対しては納税者ばかりでなく議会の強い反発もあり、最終化するのかしないのか、するのであればそれがいつなのか、規則案の内容がどれ程緩められるか等、公聴会には少しでも現状を確認したいという専門家集団が集結した。

DCの会場は200名近い参加者があり、会場は満員御礼状態。会場には納税者側の代表ばかりでなく、財務省、IRSの重鎮も紛れていたとされる。しかし、3時間に及ぶ質疑応答は実質、質問のみで財務省側からの意味のあるコメント一切なかったと伝えられ、参加者は公聴会直後に一同に失望感を表明している。

基本的な公聴会のダイナミクスとしては、参加者より、このような越権行為とも思われかつ経済的なインパクトの大きい規則は即刻廃案とするべき、またはどうしても最終化したいのであれば、大幅な改訂をした上で十分な準備期間を与えるべき、という趣旨のコメントが殺到し、それに対して財務省はノーコメントを決め込むというものであった。

参加者のコメントおよびメディアレポートによると、IRS法人税部門の准主任弁護士のAustin M. Diamond-Jonesによる極めて事務手続き的な開会宣言の後、財務省による発言はたったの3回、そのうち2回は納税者の質問に対して「あなたの質問は文書によるコメントに含まれてますか?」というようなしょうもないものだったということ。残る1回は規則の適用開始が一部(いわゆるFunding規定の部分)、規則案が最終化される以前の2016年4月4日(規則案の公表日)に遡る点が法律違反ではないかという趣旨で突っ込まれた際に、財務省側が「Funding規定が嫌なら最終化の後90日以内にグループ内ローン形態を補正する機会があるのだから十分な猶予期間が設けられている」と反論したものだけであった。

今回の規則案の内容がSection 385下で財務省に与えられた権限を逸脱するものであるという主張に関しては以前のポスティングで散々触れているが、公聴会でもこの点に対するアタックは再三行われた。規則案は全120ページだが、そのうち80ページが前文で、その前文の多くがなぜ財務省にこのような規則を規定する法的権限があるかという点が延々とSection 385の立法趣旨に基づいて説明されているものだ。80ページ使って法的権限を説明する必要があるという事実関係1つとってもその権限は怪しいと見るのが妥当だろう。その際に拠り所となるはずの立法趣旨だが、前文に記載されている議会の立法趣旨部分に都合の悪い部分が引用されていないと公聴会で納税者側からの質問で指摘されている。ますます怪しい感じだけど、この点を訴訟で争うには以前にも書いた通り、まず納税者側で追徴等の被害にあって当事者適格(Standing)を得、その後、訴訟に持ち込む必要がある。Appeal等のプロセスを考えると10年単位の気の長いプロセスだ。

また、別の切り口として、財務省がいかにInversionを敵視しているかは理解できるとしても、過去3年間にInversionした米国法人の数はたかが67社にしか満たない一方で、今回の規則案で影響を受ける法人の数は米国企業で2,000社以上、元々米国外のMNCに所有される米国法人に至ってはナンと27,000社、と財務省側の受けるダメージとその対策の与える負担間の不合理なミスマッチが指摘され、その付帯的な損害の大きさが白日の下に晒されることとなった。また、商務省が懸命に米国へのDFIを誘致している戦略に真っ向から対立するである点も指摘され、省庁間の連携の悪さも示唆された(これはどこの国も同じだけど・・)。

公聴会で唯一見えた実質的な規定にかかわる方向性は、以前から改訂が予想されているCurrent E&Pの例外が前年度のE&PまたはEBITDAベースとなる点、またCash Poolingの文書化が若干軟化される点、に加えてFunding規定にかかわる反証不可の推定事実認定期間が72ヶ月から24ヶ月に短縮されるような可能性がある点だろう。

公聴会が終ってみると、結局何も新しい情報は明らかにならず、9月前後の最終化を何が何でも目指す現財務省の頑なな態度だけが印象付けられるものとなった。規則案の公表と同じように最終規則も抜き打ちでいきなり発表して、みんなをビックリさせるのを狙ってるのかもね。