Wednesday, June 23, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD(続)

前回は合衆国憲法とCOGSの複雑な間柄を100年以上の歴史を紐解いて解説した。議会がCOGSを否認する税法を可決できないことから、BEAT適用時には重要な検討になってるけど、今回はそんな制限下、財務省がどんな裏技でSHIELDをCOGSに適用しようとしているかに関して。

って、週末にアップさせる予定だったんだけど、ここまで書いたところでショッキングなニュースを聞いて考え込んでしまってて、チョッと遅くなってしまった。そのニュースとは他でもない、Peter Jacksonの新Let It Beこと「Get Back」の映画の話し。Seville Rowのアップルビル屋上の40分に上るフルライブを含む新映像が8月末に劇場公開ということで2年以上前にこの企画の話しを聞いた時は、生きててよかった!ってブログに書いた位、僕がず~っと待ち焦がれているアレだ。

もともと2020年に劇場公開されるはずだったんだけど、Peter Jackson本人がロックダウン制約が激しい国の一つニュージーランドに居たので、おそらく本人身動きが取れず、公開は2021年8月に延期になっていた。まあ、2020年はどこも映画館クローズしてたんで、まあいいか、って思ってとりあえず、ロビンソン・クルーソーのように日記を付けて日にちを数えて待っていた(何それ?)。ところが週末のニュースでは、結局8月の公開が11月に遅れるばかりでなく、公開は劇場ではなくディズニープラスでストリーミングされるってことになったらしい。大きなスクリーン、しかも今日日の質の高い音響でアップルビル屋上のフルライブというイメージだっただけに大ショック。唯一グッドニュースと言えば、3日間使って計6時間の映像を見せてくれるそうだ。6時間のExtended Versionはディズニープラスでもなんでもいいんだけど、希望としては平行して劇場版も用意して欲しかった。プラス・マイナスで考えるとどうしてもネットマイナス。それにしてもPeter JacksonのGet Back、紆余曲折あり過ぎ。同時に公開されるって言ってた元祖Let It Beのリマスター・バージョンの話しもどうなっちゃたんだろうね。酷い話し。

酷い話しと言えば、今日の本題のSHIELD。前回のポスティングで触れた通り、合衆国憲法上、連邦政府はCOGSを否認することは認められないと考えられている。それでは、ってことでSHIELDはこの点に関して、大胆な迂回策を提案している。

グリーンブックの説明によると、米国法人、米国事業に従事する支店、の米国外関連者への支出は全額SHIELDの対象にする!って力強く宣言し、そのような支出が税法上、DeductionとなるケースではDeductionは当然全額否認するとし、他のケース、例えばCOGS、に関しては、他のDeductionを代わりに否認するとしている。しかも、代わりに生贄となるDeductionは必ずしも関連者に対して支払うものに限定しないそうだ。

何それ?って感じだけど、グリーンブックの説明を鵜呑みにするのであれば、米国外関連者への支出が税務上、COGSに区分される場合、そのCOGSでGross Incomeを算定する課税年度において、同額のDeductionを代わりに否認する、ってことのよう。COGSに入って来るんで対象となる可能性のある支出は、仕入ればかりでなく、製造ノウハウ等のロイヤルティとか他の間接費用のうち税法上、Section 471で、COGSに区分されるものを含む。

代わりにDeductionを差し出しなさい、って言われても、たくさんのDeductionがある中、何を否認するんだろうか。クロスボーダー支出である必要はないように見え、国内で普通に大家さんに払ってるオフィスの賃貸とかがSHIELDで否認されてしまうのかな。それともPro-Rataで全項目に配賦するのかな、それともコントラDeductionとして一本で加算調整とか。どんな方法にしても妙な話しだ。実態はCOGSを否認しているんで、こんな子供だましみたいな迂回策で本来違憲な行為を合憲にすり替えられるのかな。実に不思議。

このSHIELD、15%とか21%のミニマム税を課していない国に対する懲罰的な規定なんで、SHIELD(盾)とは名ばかりでSWORD(矛)という名前にした方がいいんじゃない、って揶揄されている。

ちなみについさっき(NYC時間23日夕方)、両党議員の中庸路線の超党派議員が調整していたインフラ法案の大枠にホワイトアルバム、じゃなくてホワイトハウスが合意したっていうニュースを聞いた。それが本当だったら増税はないはず。または、あっても最小限で済むはず。となると、違憲紛いのCOGS否認SHIELDもお蔵入りかもね。米国にそそのかされてOECDとかG7も21%だの15%だのと散々かき回され、結局、米国議会が何もしなかったらピラー2とかどうなっちゃんだろうね。

次回はインバージョン!楽しみにしててね。

Sunday, June 6, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD

前回は、米国法人から支払いを受ける側の実効税率が高くても、財務諸表連結グループ内のどこかに実効税率がミニマム税率より低い主体があると、その主体の税引前利益がグループ全体の利益に占める%分、米国法人の支払いは損金不算入になるっていうグリーンブックのSHIELD提案に触れた。直観的にピンと来ない規則だ。SHIELD恐るべし。

今日は、もうひとつグリーンブックのSHIELD提案で興味深いCOGSの取り扱いについて。BEATでもCOGSに計上できればBase Erosion Benefitにはならなかった。一見単純な話しなんだけど、その背景は複雑だ。

税法上のCOGS

COGSの話しをする際、最初に理解しておかないといけない最重要ポイントは、税法上、総収入から差し引くCOGSという金額は、物を再販したり、製造したりする棚卸資産のみに関係するっていう点。経済的にCOGS同様と思われる項目でも、税法上の要件を充たさないとCOGSにならない。例えば、実質、販売と同じだけど、棚卸資産をリースっていう形で買い手に提供して売上を計上しているとする。税務上、リース扱いされているとすると、資産の再販ではないから、資産の償却費用とか経済的にはCOGSみたいなもんだけど、税法上はCOGSではなく、Below-the-Lineの費用(Deduction)になる。

で、ここからはCOGSにまつわるDeepな話し。普段だったらDeep Purpleが云々って話しで思い切り脱線する場面だけど、COGSの話し長くなりそうなんで、今日はいきなり本題に入りたい。みんな安心した?

COGSとアメリカ合衆国憲法

アメリカ合衆国憲法上、1913年に修正第16条が追加されるまで連邦政府にはIncome Taxを徴収する権利はなかった。わずか百年ちょっと前の話しだ。変な修正入れないでいておいてくれれば良かったのに、って思っても後の祭り。連邦政府は肥大化し、国民の生活の細部に亘り干渉が激しい。

で、この修正第16条だけど、原文は「The Congress shall have power to lay and collect taxes on incomes, from whatever source derived, without apportionment among the several States, and without regard to any census or enumeration.」というもので、今日の話しのキーとなる部分は「taxes on incomes」の部分。修正第16条で議会に課税権が与えられているのは「Income」に対するもので、Gross Receipt、すなわち総収入ではない。

ここからがややこしいけど、ここで言う「Income」は、法体系的に税法上の「Gross Income」を意味すると解釈されている。Gross Incomeの税法上の定義は総収入からCOGSを差し引いた金額。通常のTaxable Income、すなわち課税所得、はGross Incomeから更にDeductionをマイナスして計算する。このことからも、COGSはDeductionではないことが分かる。COGS以外にも保険会社が支払う再保険料は、グロスの保険料収入から差し引いてGross Incomeに至るんでテクニカルにはDeductionではない。BEATで再保険料に関して特記されてるのはこの理由。

Deductionは議会の思いやり?

修正第16条に基づく議会の課税権はIncomeに対するものだけど、このIncomeはGross Incomeを意味するんで、Deductionはなくても憲法違反ではない。言い換えると、納税者がDeductionを取る内在的な権利は憲法的に存在せず、あくまでも、議会の「善意」「思いやり」に基づき、税法上認められる項目のみがDeductionとなる。この点は100年以上の数多い判例から明らか。ということは多くの費用をマイナスできてるのは議会の思いやりなんだね。ありがとう議会さん!って感謝して申告書作らないといけない。

Deductionは議会の思いやりに基づく裁量だとすると、Deductionをそもそも最初から認めなかったり、政策的に特定の活動に関して、他の活動だったら認められるDeductionを否認したりすることができる。もちろん憲法の他の条項、Equal Protection等に準拠する範囲でだけど。

分かり易い例は、ドラッグディーラーが得る所得に対する課税。修正第16条の「・・・from whatever source derived」っていう表現からも分かる通り、課税所得が合法的に稼得されたのかどうかは税務上は関係なく、不法行為から得る所得も含まれる。連邦議会がドラッグの濫用を規制するために制定しているControlled Substance Act(規制物質法)は、各ドラッグの濫用リスクや医学的な効用とかに基づき各ドラッグをダメなものから順にスケジュール IからVまで分類している。まるでsection 1060のPPAみたい。

Billion Dollar WhaleのJho LowがIMDBスキャンダルで横領した$5Bの一部でプロダクションがファイナンスされてたことが分かって後からチョッとケチがついたけど、デカプリオのThe Wolf of Wall Streetの中で、NYC郊外のLong IslandかどこかのJordan Belfortの豪邸ビーチハウスのパーティーシーン、映画ではJordanが初めてNaomiに会ったシーンで、ドラッグでハイになってるJordanやDannyたちがシューズメーカーのSteven MaddenのIPOをアンダーライトする計画を話すシーンがある。その中で、彼ら愛用のドラッグ「Quaaludes (methaqualone)はスケジュール Iになってる」って言う下りがあるけど、あれは連邦Controlled Substance Actに基づく分類の話しだ。スケジュール Iだからもちろん連邦合法のドラッグではない。

で、税法ではスケジュールIとIIに区分されるドラッグを取り扱う事業からの課税所得算定時には、Deductionは一切認めない、っていう懲罰的条文がある。ちなみに大麻はスケジュールIに分類される。近年、州法で大麻が解禁されていってるけど、ここの連邦法とのかかわりはそれだけでも専門家として食べていけるくらい複雑な領域。

で、ドラッグ・ディーラーに対してDeductionを認めない、って言う際に、議会が否認できるのは上の修正第16条の縛りの関係で、あくまでもBelow-the-LineのDeduction止まり。ドラッグを仕入れるコスト、すなわちCOGSを否認する権限は憲法的に議会にはないと考えられていて、議会の立法過程の記録条も、そのためDeductionのみを否認すると明記されている。仮にCOGSを否認するような条文を可決しても、それで過大な税金を払うようにな立場に追い込まれるドラッグディーラーに訴えられて裁判で負ける可能性大。憲法上、連邦政府が所得税・法人税として課税できるのはあくまでも「Income」であって、総収入ではないからだ。Schedule IやIIドラッグディーラーの申告書上、議会が好むと好まざるにかかわらず、COGSは堂々と計上可能だ。

でも、ドラッグディーラーなんてそもそも申告なんてしないじゃん、って思うかもしれないけど、必ずしもそうではない。州が大麻の「医学的な」使用を認め始め、近年のトレンドとしては娯楽目的でもOKっていう州が続出する中、正式なビジネスとして運営されている大麻業者も多くあり、それらの業者は申告書を提出しているし、法務や税務のアドバイザーもしっかり雇ってる。ドラッグディーラーにかかわる連邦法と州税のかかわり、司法省の管轄範囲とかと混ざって、ドラッグディーラーの課税関係に関しても訴訟があったりする。そこで開示されている情報を見ると、年商$25M(100円換算で25億円)規模で、複数年で売り上げが$100Mを超えてるそれなりの規模の事業活動だったりする。まあ、訴訟で公になっている記録を見るまでもなく、ロビイストやポリティシャンたちがあれだけハッスルしているっていうことは、結構なお金が絡んでるってことは想像に難くないはず。

また、更にドラッグを不法に取り扱ってる、っていう犯罪を立証するより、税法で攻めた方が容易に犯罪を立証できるケースもあるんで、そういう意味で厳しい規定が設けられてる側面もある。禁酒法時代のアル・カポネだね。スカーフェイス。

COGSがラッキーなケース

ちなみに通常の納税者にとっては、COGSよりもDeductionの方がありがたい。Deductionは期間費用だからAll-Eventテストさえクリアできれば、発生した課税年度に費用化できる一方、COGSになって、期末在庫に資産計上された状態で残ってると、税効果・換金メリットが遅くなる。

ドラッグディーラーの場合は逆で、Deductionになると何も取れない一方、支出をCOGSって名付ければ時間差はあるかもしれないけど控除が認められる。だったら、なんでもかんでもCOGSにしちゃえばいいじゃん、って思うだろうし、極限までCOGSにして法廷で争うケースもある。ただ、どの支出を棚卸資産に計上できるか、っていうのはオプションではなく、税法の規定に基づかないといけないんで自ずと限界がある。その際、税法上は2つの重要な条文が関係してくる。従来から存在するsection 471と1986年の税制改正で追加されたsection 263Aだ。263Aだけでもそればっかりやっている専門チームがDCに居るほどの複雑な分野で、UNICAPは僕の専門エリアではないんで、深くコメントするつもりはないけど、471はどちらかというとGAAPっぽい規定。263Aはプラスで、GAAP上は期間費用としてBelow-the-Lineで処理することが求められるタイプの間接費用を資産計上させようとする条文。

COGSに関して、憲法上、議会が認めないといけない控除は471部分と考えていいだろう。263Aは、そもそも控除が認められない費用に関して棚卸資産への資産計上という名を借りて間接的に控除するようなアプローチをその条文の中で禁じている。分かり易い例は接待交際費。接待交際費は原則50%しか損金算入できないけど、仕入業者を接待したので、仕入れにかかわる間接費用とか言って、263Aで資産計上した上、COGSとして100%費用化することは認められない。263Aで資産計上できるのは50%部分だけだ。一方、471でカバーされる項目は全額マイナスを認めないといけない。例えば工場の製造現場の電気代とかは263Aを使用するまでもなく元々471でCOGSだから、仮に何らかの理由で電気代を否認する条文があったとしても、認めないといけない。ドラッグディーラーとsection 263AのUNICAPとかあんまり似合わないっていうか、イメージ的にピンと来ないかもしれないけど、当事者にとっては重要な区別。

BEATを恐れる多国籍企業はドラッグディーラー?

で、BEATの算定をする際に加算が求められる項目を、議会がわざわざDeductionに限定しているのは上のような憲法上の懸念が大きい。BEATでは、例外的にDeductionではないにもかかわらず再保険料はBase Erosion Benefitと取り扱うと規定している。この特記がなければ、再保険料はDeductionではないので、Base Erosion Benefitにはなり得ないからだ。

また、BEATでは、外国法人傘下になった米国法人に関して、インバージョン規制法に抵触するケースでは、インバージョン後に米国外グループ関連者に行う支払いに関しては、Deductionでなくても、すなわちCOGSを含むGross Incomeを算定する前の控除でも、Base Erosion Benefitとして取り扱うと規定している。インバージョン規定で米国資産を取得したと取り扱われる外国法人が米国法人と取り扱われるケースはこの限りではない。インバージョンしたことにならないからそれはそうだよね、って感じ。

再保険にしても、インバージョンにしても、COGSとかGross Incomeを算定する前の支出を否認するアプローチは、憲法違反ではっていう論点はあり得るだろう。この点に関して法廷でチャレンジがあったという話しは聞いていない。インバージョンはTCJA以降SPAC以外の局面ではあんまり聞かなかったしね。

で、保険業やインバージョン企業でないケースで、米国外関連者への支出はDeductionだとBase Erosion Benefitになるけど、COGSだったらそうならないってことだったら、納税者としてはドラッグディーラーと同じで、どれだけ多くの米国外関連者への支出を税法上COGSと取り扱うことが可能か、っていう極限を追及することになる。ドラッグディーラーと同じで471だったら問題ないだろうけど、263Aのコストはどうなんだろうね。

このCOGSを否認できない、っていう憲法上の制約はBEATを語る際の過小包括問題のPoster Child的な存在。そこで登場するのがSHIELD。たかがCOGS、されでCOGSで超長くなってきたし、慣れないAccounting Method系の話しだったんでここで休憩。SHIELDによる驚くべきCOGSの取り扱いは次回。

Saturday, June 5, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(3) モーニング・アフター・恐るべきSHIELD

前回と前々回、グリーンブックの中でも圧倒的に関心が高い2つの規定、SHIELDとGILTIに触れた。早くインバージョンの話しに移りたい衝動を抑えて、SHIELDとGILTIに関して一夜明けた感想を共有しておきたい。

Blow-by-Blowの増税案

グリーンブックは増税案に次ぐ増税案で、どれだけ法人や富裕層からもっと税金を取らないといかないか、っていうナラティブをBlow by Blowで炸裂させてくれていて気絶するほど悩ましい。

Blow by Blowって言でばJeff Beck。BBA解散後、間違えてストーンズに加入かって言われたものの、どう考えてもサウンド的に和合しないって気づいたみたいで、Blow by Blowっていう歌なしのAll Instrumentalアルバム作成に至る。旧友Max Middletonと組みなおし、「あの」George Martinがプロデュース。Jeff BeckとMax Middletonって、チャーと佐藤準みたい。BBAは二枚組のライブが傑作だけど、あれってLive in Japanで実は日本だけで発売されてたんだってね。あんないいアルバムを聴くことができて僕たち日本の子供はラッキーでした。

BBAのライブでJeff’s Boogieを初めて知ってコピーした人とか、オープニングのSuperstition聴いてトーキング・モジュレーター欲しくなった人は多いのでは。僕はお小遣いが限られてたんで、他にもっと優先順位の高いフランジャーとか欲しかったからさすがにトーキング・モデュレーターには投資できなかったけどね。トーキング・モジュレーターは使いすぎると頭おかしくなるとか都市伝説もあったし。Jeff’s Boogieは周りの子たちもみんな競ってコピーしてて、前半の6連符が8回続く速弾き(当時の中学生的な感覚では)の部分の弾き方に関して僕たちの間では意見が割れていた。一弦から始まって開放弦を利用している派(僕でした)、とわざわざ3弦だか4弦だかから開放弦を使わない根性派、の2つのキャンプがあり喧々囂々だった。当時は動画がないから音から推測するしかなかったからね。それが反って上達を早めたり微妙な音色に注意を払うクセをつけてくれたと思うけどね。

で、BBA解散後のBlow by Blowは一転してフュージョン。最初の曲だった「You Know What I Mean」の9thで始まるイントロ格好よかったよね。難しくないけど、あれ弾けるとただのロックギタリストでは終わらずに(何それ?)フュージョンも知っているような感じを醸し出せたし。Blow by Blowに続いて発売されたWiredも同じ路線。Led BootsとかBlue Windとか、WiredってJan HammerのMoogの貢献が大きい。その後、何回か武道館にJeff Beck見に行ったけど、Jan Hammerが居た記憶はない。多分。ということはFreeway Jamのライブじゃなかった、ってことなんだよね。初めて動くJeff Beckを見て最初に感じたのはピッキングの際に右手があんまり動かないというか、凄くソフトに速弾きするんだな、っていう点。ギターってネックの弦を抑える左手に目が行きがちだけど(もちろんヘンドリックスみたいな左利きの人は逆)、上手なギタリストは実は右手のピッキングのテクニックで差を付けてることが多い。Jan Hammerはいなかったけど、一回はベースのStanley Clarkeと一緒だった。彼のアルバムからもSchool Daysとかやってくれたりして、最高だったね。School Daysって、NYCやMDRとか、South DakotaのI90とか、どこで聴こうと今でもなぜか第三京浜がフラッシュバックしてくるんだよね。懐かしいね。港北インターとか。

Blow-by-Blow攻撃後のモーニング・アフターと財務省のフォロー説明

で、また脱線してるけど、グリーンブックでBlow by Blowの攻撃を受け、頭がくらくらして、そんなモーニング・アフターな状態で再度、SHIELDとGILTIにかかわる部分を読み直したりしていた。特にSHIELDは前回の特集時に触れた通り、説明の一部がシックリ来てなかった。そんな中、タイムリーに財務省の国際租税副次官補のホセが複数の業界団体の会合で財務省の考えを補足説明してくれて、不明だった点が少し明らかになると同時にまだまだ不確実な部分が多い点を再認識。

ホセは数か月前までEYのNational Taxで同僚(って言うと格好いいけど、彼は重鎮)で、東京にも一緒に来てくれて銀座で串揚げ食べたりしてたんで懐かしい。ちなみに串揚げ食べるために出張したんではなく、ミーティング等に数日明け暮れてA Hard Day’s Night的に最後打ち上げたという経緯なので念の為(笑)。ホセはクロスボーダー課税の表裏の全てを知り尽くしているような人。もともと以前もEYから財務省に転籍し、その後、EYの国際税務に戻ってきてた経緯がある。その意味ではマージー・ロリンソンみたいな経歴で、ホセはマージーの弟子だ。

ホセは、EY在籍中、クロスボーダー課税に関して比較的アグレッシブなポジションをサポートしてくれてたけど、グリーンブックの説明をしているホセは、財務省のキャパでの発言なんで、立ち位置が逆になってて面白い。米国財務省、AgencyであるIRSのChief Counsel Office、また議会の歳入委員会や財政委員会のスタッフ、たちは結構な比率で法律事務所、Big 4会計事務所の経験者だったり、官民を行ったり来たりしてる人たち。なんで、お互いに手の内は見え見えで、それが逆に実務レベルに即した規則や法律の策定、合法的なプラニングの構築に繋がってる。こういうキャリアパスは日本では余り一般的ではない、って聞くけど、政府・民間の双方に有益なストラクチャーなんで、もっとあってもいいんじゃないかな。

で、モーニング・アフター的なクラクラした状態でSHIELDとGILTIに関していくつか追加コメント。

BEATの反省から生まれた(?)SHIELD

BEATはそのメカニカルな適用から、BEATって言う名称から想定される効果を十分に発揮していないし、BEATに基づく歳入も期待外れっていう反省があるそうだ。仕入れや、ロイヤルティー等の費用が棚卸資産に資産計上されるとBEAT対象でなくなるという過小包摂、支払い相手国が高税率でもBEATになる過大包摂、ミニマム税という計算メカニズムを採択していることから低収益の納税者や課税年度に被害が大きいという弊害、などの問題が指摘されている。

さらにBEATの負担はインバウンド企業ではなく、米国多国籍企業に重い点も問題視されているそう。でも、これは要は広範なBase Erosionプラニングに(合法的に)従事してるのが米国多国籍企業だから、デザイン的にそうならざるを得ないだろう。さらに、TCJAで法人税率が下がり、親会社所在国との税率差が少なくなって、Section 163(j)とかも変更され、インバウンド企業的に派手に米国からBase Erosionするニーズが低下したし、そもそも日本企業みたいに米国の法人税率が高いからイコールBase Erosion、っていう風に考えない国の企業もあるからね。ただ、財務省的にはもっとインバウンド企業を取り締まらないといけない、ってことなんだろうか。法人税率のアップも負担は外国株主みたいな下りもあったし、選挙権のない者たちを懲らしめるっていうナラティブが受け入れやすいのは分かるけど。ふと思い出してみると、確かにBEATって2017年のTCJAが可決された際のCodifyされる前の法文では「Inbound Transaction」っていうタイトル下に存在してたね。

SHIELD下の損金不算入

SHIELDは財務諸表の連結グループに含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバルミニマム税率、例えば15%、に至らない場合、その関連者に対する支払いを損金不算入にするというもの。仮に特定グローバルミニマム税を15%と仮定して、実効税率が14.9%だったら、その国への支払いは全額損金不算入になる。0.1%だけ違反しているんで、支払いの150分の1が損金不算入になる訳ではない。一方、実効税率が15%だったら全額損金OK。典型的なCliff Effect。

これだけ読むとSHIELDの世界では、支払い先となる関連者がグローバルミニマム税率に至る実効税率になっていればそれでセーフに聞こえる。「だったら日本親会社へのロイヤルティーはOKだな・・・」と。ここは実は「ところがどっこい」で、SHIELDの酷さが炸裂する部分。

高税率国に支払っても一部損金不算入?

グリーンブックのSHIELDの説明には一読しただけでは「はっ?」って思う部分が二か所ある。COGSにかかわる部分(後述)と財務諸表連結グループ内に低税率国に属するメンバーが存在するケースにかかわる部分だ。

グリーンブックでは、米国法人がグループ内の低税率国にある関連者に支払いを行ってる「全額アウト」なケースに加え、仮に支払いの受け手が高税率国にある関連者の場合でも、グループ内の他の関連者が低税率の場合には、支払いの一部を損金不算入すると規定している。最初意味が分かんない感はあったんだけど、直接の受け手がどれだけ高税率でも、グループ内に低税率の主体が世界のどこかに存在する場合、グループの税引前利益に占める低税率国の割合相当部分を損金不算入にするとしている。

え~、何それ、間違いじゃないの、って思うけど、そうではなく、そのような設計らしい。財務省としては、グループ全体の税引前利益およびグループ内に存在する低税率対象利益を各々合算プールとして捉え、米国外への支払いは直接的には高税率国に支払っていても、グループ内に低税率関連者が存在する限り、その分は損金不算入にするという理解で間違いないらしい。そんなんだったらグループ全体の実効税率がミニマム税率かどうかで判断してくれたらいいと思うんだけど、そうではなく低税率の主体が一つでもあれば、そこで認識される税引前利益が全体に占める%分は、間接的なBase Erosionとなるらしい。受け手で30%とかで課税されていても。不思議なアプローチだけど税金取る側っていうのはそんな風に考えるんだね。

例えば日本企業の米国子会社が日本親会社から商品を仕入れたり、ロイヤルティーを支払ったりして、日本親会社は余裕で15%を超えてるとする。米国子会社とは一切取引がない香港子会社の実効税率が14%だったとして、香港子会社で計上される税引前利益が連結グループの5%を占めてるとすると、仕入代金およびロイヤルティーのうち5%が損金不算入(?)になるということらしい。

ということは申告時には、直接的な支払いのあるなしにかかわらず財務諸表連結グループ内に存在する関連者所在国の実効税率を全て特定しないといけないってことだよね。日本がIIRを導入して、IIRに基づくトップアップ課税も、CFCの税率に加味してくれるんだったら大概において低税率に抵触するケースはなくなるはずだけど、ピラー2と米国の規則の法人税の特定の仕方とかに差異があるとややこしさこの上なさそう。ピラー2ではUTPRはIIRのバックストップだけど、SHIELDも明確にそうしてくれないとコンプライアンスが立ちいかない。

SHIELD目的の各国実効税率

SHIELD目的の実効税率は各国の表面税率ではないから、いろんな国でその国の税法上のNOLがあったり、R&Dクレジットがあったりその他の事情で期せずして実効税率がグローバルミニマム税率を下回ることもあるだろう。そもそも、どうやって実効税率を算定するのか、っていうメカニズム次第だけど、実効税率を単年で判断する場合、ある課税年度の支払いは全額損金不算入、翌年は全額損金OK、というような状況が十分にあり得る。過去には全く別の件で、60か月平均して実効税率を計算してはどうか、という平準化策が盛り込まれてた提案もあったけど実現してない。

米国税法のSHIELD目的で、外国の財務諸表ベースの所得と外国法人税を基に実効税率を算定する作業は複雑で負担は大きい。外国法人税は、既にFTC目的で各所得にどうやって紐付けるのか、2020年に規則が最終化されてるけど、その規則は珍しく外国現地の税法を加味して各所得項目に法人税を紐付けて行く手法を取っているので、50か国にCFCや関連会社があると、50の税法にある程度明るくないと法人税の配賦もできないことになる。

SHIELDとCOGS

そしてもう一つ、グリーンブックでは複雑怪奇な表現で説明されているCOGSに区分される関連者への支払いのSHIELD上の取り扱いに関しては次のポスティングで。ここは面白いので楽しみにね!

Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Saturday, May 29, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(1) SHIELD

米国財務省は予想通り、2021年5月28日、メモリアルデーWeekendだって言うのに$6Tに上る歳出を披露したホワイトハウス予算案と同時に、バイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」を公表した。グリーンブックって言うとリサイクルした紙を使った本みたいだけど、米国税務の世界では行政府が議会に「こんな税制改正はどう?」って提案する目的で作成する資料のこと。正式には「General Explanation of the Administration's Revenue Proposals」と呼ばれる。ちなみにブルーブックって言うと、一般的には中古車の価格査定資料に聞こえるけど、米国税務の世界では可決された法案にかかわる議会の説明資料。こちらの正式名称は単に「General Explanation」で Joint Committee on Taxationが作成する。ブルーブックは立法の背景を知る貴重な資料ではあるけど、立法された直後に作成されるので正確には議会の立法過程の意図を反映しているとは言えない。

で、バイデン増税案はまだまだ今後どのような議論を経ることになるか不明なので、グリーンブックはあくまでもバイデン政権の「夢リスト(Wish List)」の状態。ただ、議会の民主党議員も方向的にはバイデン政権と同調しているので、参考になる面白い読み物だ。

これでもか、って感じの増税案攻め

グリーンブックで解説されている増税案そのものは既に「Made in America Tax Plan」とか「American Families Plan」で公開されているものと同じ。別に高を括ってたつもりはないんだけど、こうして改めてまとめて解説されると、次々に議論される増税案に圧倒される。キャピタルゲイン増税に至っては駆け込みで資産譲渡とかされないように、American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用って提案されていたり、左翼政権が樹立されるというのはこういうことなんだな、って再認識。

法人税に関しては、2022年1月1日以降に開始する課税年度から28%への引き上げ、という既定路線で驚きはない。暦年以外のFiscal Yearの法人に関しては混合税率を適用、って明記されてる。Section 15、昔のSection 21、があるから言うまでもないだろうけど、わざわざ言っているところがしつこい。日本企業は3月決算が多いけど、ということは2022年3月期は21%と28%を加重平均して22.73%の税率となる。これは所得認識が12月以前でも1月以降でも関係ない。つまりもしかしたら知らないうちに既に増税になってるかもしれないってことだ。知らない間にキャピタルゲインが23.8%から40.8%(グリーンブックではオバマケア付加税の3.8%を考慮してか、キャピタルゲイン税率を所得税最高税率の39.7%ではなく37%としている)になってたよりマシだけどね。5月に株式譲渡してしまった納税者は手取りがいきない20%も減っちゃうんだろうか。

法人税増税に関しては、なぜか実際に最終的に重荷を負担するのは主に外国人投資家で、米国人には負担は少ない、と。しかも外国人投資家は株式譲渡時の不動産持分法人株式でなければ、キャピタルゲインに課税されないんで当然、というような説明だ。どう考えても、米国法人税率引き上げの影響は企業そのもの、従業員、そして米国人株主に与えるインパクトの方が大きいように思われ、なんか巧みな弁舌で人を煙に巻いてる感じがある。

増税案の詳細で面白い点はいくつかあるけど、やはりSHIELDとGILTIが筆頭にくるかな。っていうことで今日はまずSHIELDから。

SHIELD全容初登場!

SHIELDに関しては財務省が既にMade in America Tax Planにかかわる詳細説明をした際に概要を公開しているけど、グリーンブックでは更に深堀りされている。結構複雑。前回公開されている内容に関しては「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」を参照して欲しい。ちなみにSHIELDは「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments 」の略。無理やりSHIELDになるように作った感じが炸裂しててダサい名前。「Low-Tax Developments」ね。

で、SHIELDは「効果のない」BEATに代わって鳴り物入りで登場しているBase Erosion対策規定の一つだけど、概念的にはOECDのピラー2で提案されているUndertaxed Payment Rule(UTPR)そのものだ。BEATは、米国Aggregateグループベースで計算される過去3年間の売上が$500M以上でBase Erosion%が3%以上の法人が適用対象だったけど、SHIELDは連結財務諸表の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップが対象。米国税法の判断時には、法的な定義がカチッとしている税務上の金額を元にすることが多いけど、財務諸表ベースっていうのがOECDチックだ。

SHIELDでは、連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率がグローバルミニマム税率より低い場合に、この米国外関連者に対する支払いを損金不算入にするっていうもの。グローバルミニマム税率はOECDのピラー2で国際合意される税率に合わせるってことだけど、ピラー2合意前にSHIELDを導入される場合には、ピラー2合意が成立するまではGILTI税率を代用するとしている。ということは当面21%。

BEATと違って支払全額が損金不算入?

グリーンブックのSHIELD部分は表現が分かり難く、一読しただけではどの金額をいつ加算処理させられるのかピンと来ない。途中からCostがどうのこうのとか、税法で規定されていない一般用語で説明されてたり、急にunrelated partyに対する支払いも対象とか書かれていたりして混乱するんだけど、読み直してみてビックリ。

SHIELDで損金算入が制限される金額はBEATの「Deduction」を元に判断する「Base Erosion Benefit」とは大きく異なるようだ。すなわち損金不算入の対象は「支払い」そのもののように説明されている。すなわちSHIELDに抵触する支払いは発生時に「全額」損金不算入になるっていうこと。例えば、発生時に全額費用処理される項目がSHIELDに抵触する場合は分かり易くて、支払い=費用=損金を加算調整する。これは分かり易い一方、COGS等で一部でも損金処理が繰り延べられたり資産計上される項目に関する取り扱いは難しい。

グリーンブックの説明は、損金処理が支出より遅れて認識されるようなケースでも、支払いが発生した課税年度に、支払全額を加算調整する、と読めなくもない。例えば、低税率国の関連会社から100仕入れして、70は期中の売上原価となり、30は期末在庫に資産計上されている場合、SHIELDではその期に費用化されている70だけでなく、30も加えた100全額を加算処理するようなシステムとしたいのかも。結果として、その期だけ見ると30は非関連者への支出も損金不算入となる。翌期以降に2回目のSHIELDの影響はないから、長期的には100が否認されているという意味で調整されるんだけど、各期の費用計上とリンクしないとなるとチョッと変な規定。または、単にCOGSとかに計上される金額はテクニカルにはDeductionじゃないけど、他のDeductionを減額する、すなわち結果として第三者への支払いを減額するという意味なんだろうか。書き方が悪過ぎて分かり難い。また、支払いにはBEAT同様、Deduction項目だけでなく、テクニカルにはReductionに当たる再保険料を含むとされている。ただ、COGSにも適用があるのだから対象がDeductionに限定されてないことは言うまでもなく明らか。

さらに、支払い先の米国外関連者の実効税率が全体でグローバルミニマム税率以上でも、他の関連者にミニマム税率に至らない実効税率の対象となっている法人なんかがあると、支出のうち相当部分を損金不算入にするって書いてあるように見える。何それって感じで計算や事実確認の負担が高そう。

う~ん、結構 凄いね。次回はグリーンブックに見るGILTI増税に関して。

Monday, May 24, 2021

バイデン政権キャピタルゲイン増税案

前々回「バイデン政権増税案: 今度は個人所得税」でAmerican Families Planで提案されている個人に対する諸々の恩典拡充に触れた。

今日はそのAmerican Families Planの個人所得税増税案に関して。他のプラン同様、バイデン政権の提案は富裕層がフェアなシェアの所得税を支払っていないというナラティブから始まる。米国ハイテク企業が多くの市場国でフェアなシェアの法人税を支払っていないっていうことでOECDのBEPS 2.0が議論されてきたけど、何がフェアと感じるかは客観的な尺度がないので、結局どれだけ払ってもフェアなシェアに至ってない、って言われるとそれまで。Can’t Get Enoughの世界だよね。

Can’t Get EnoughっていえばBad Company! Bad CompanyはPaul Rodgers率いるシンプルだけどいい感じのブリティッシュロックバンドだった。マネージャーはZeppelinと同じPeter Grant。Peter GrantはZeppelinのMSGライブ映画「The Song Remains the Same」の最初にギャングみたいな役で登場してて凄い迫力だったから覚えてる人も多いのでは。Bad Companyのギター、Mick Ralphsは、いかにもギブソン・レスポールって感じの甘く歪んだ音でロックギターの王道を行く存在だった。ブラックモアとかに比べるとはるかにコピーし易かったけど、それでも格好よく汎用性が高いフレーズを学ぶことができた。Can’t Get EnoughはデビューアルバムのA面(ビニールのA面です)一曲目。ドラマーのSimon Kirkがドラムスティックで「One Two, One Two Three」ってカウントして「Four」のところは「ドタ」ってバスドラとスネアで入り、コードC、B♭、Fってなんてことない単純なイントロなんだけど、やたら格好いいんだよね。バッキングではFの部分にSus4でB♭の音がちらついてて、これ以上単純にならないよね、っていうくらいストレートなロックだ。

日本の学校で英語習い始めの頃だったんで、「Bad Company」ってどういう意味?とか友達と話してて、Badは分かったんだけど英和辞典(笑)とか引いてCompanyは会社とか出てきて、「ダメな会社っていう意味なんだぜ」とか言ってた時代が懐かしい。今、Bad Companyって聞いたらもちろん「悪い仲間」っていうか、逆に言えば一緒につるみたくなるようなチョッと不良っぽい奴ら、みたいなイメージが伝わってくるけどね。ロックバンドだからさすがに会社じゃないよね(苦笑)。デビューアルバムのジャケットは「Bad Co」ってデザインされてて、そんなことから僕たちは「バッドコ」って呼んでた。う~ん、いいね。久しぶりにバッドコのGood Lovin' Gone Badでもブラストしたくなってきました。

で、どこまで払っても所得税が「Can’t Get Enough」なのは取る側の感覚だと思うけど、ニューヨーク州、特にNYC、とかカリフォルニア州とか大きな政府の民主党が君臨している地域に住んでて収入が増えてくると実効税率が平気で50%程度になったりする。それでもフェアではないんだろうか。データによると、米国は所得額トップ1%の人が総所得の20%程度を稼いでいるそうだけど、その同じ1%層が連邦所得税全体の実に40%を負担しているそうだ。かなりの負担率だけど、これを更に増やそうというもの。バイデン政権的には1%で40%を負担していても未だ足りないっていうことで、バイデン自ら「法人や所得額トップ1%にそろそろフェアなシェアを支払わせる時が来た」と議会に演説していた。

で、個人所得税の増税は具体的にはまず2017年のTCJAで37%に引き下げられたトップ累進課税を元の39.6%に戻すというもの。選挙活動中の公約通り年収40万ドル未満の家族には増税はないっていう点を強調するため、バイデンがプレスで「年収が40万ドルない家族は1セントも税金は支払う必要はない!」って宣言してしまい、チョッと意味違うんじゃないとか話題になってた。この39.6%って純粋に所得税部分で、自営業とかだとプラスで15%以上の自営業税(SECA)が課せられる。従業員のFICAに当たるけど自営業の場合は雇用者負担分も自己負担なんで倍額となる。すなわち連邦だけで軽く50%を超えることになる。

ちなみにTCJAで税率そのものは確かに少し引き下げられたものの、州税その他の控除が厳しく制限されることになったので、結局増税に近いケースも多かった。地方税が高いカリフォルニア州やニューヨーク州、特にNYCなんかの居住者はその悪影響で実質減税効果は帳消しになっていた。このBase Broadening部分はそのままで税率だけ元に戻されると以前よりももっと負担が重くなる。

次にキャピタルゲイン課税。キャピタルゲインは給与等の通常所得と異なり最高20%の特別税率の対象となる。正確にはオバマケア税が3.8%加算されるんで23.8%だ。この税率は長期キャピタルゲインと大概の配当に適用される。で、バイデン政権増税案では、$1M超の所得がある納税者(夫婦は合算ベース)に適用されるキャピタルゲインおよび適格配当税率を20%(オバマケア付加税+3.8%)から通常税率の39.6%(同じく+3.8%)に引き上げるというもの。通常の所得と異なり、投資所得は3.8%のオバマケア付加税の対象となる点はそのままなんで、実質43.4%と割高になる。

フロリダ、テキサス、サウスダコタとか所得税がないハッピーな州に住んでれば43.4%で勘弁してもらえるけど、ニューヨーク州とかカリフォルニア州に住んでると凄いことになる。カリフォルニア州は12.3%がトップ税率と公表されているけど、実は所得が$1Mを超えると1%付加税がキックインしてくるので13.3%。ニューヨーク州もマンハッタンとかブルックリンを含む5つのBorough(行政区)内だと同じく13%近い。ということは連邦と合算で実に56%程度の税金となる。いよいよBlack Hillsに拠点を移さないと(?)。夏は最高だけど冬寒そうだからやっぱりフロリダのビーチシティかテキサスのオースティンとかが普通のチョイスかな。Musk大先生も居るしね。

キャピタルゲインは通常、リスクマネーを投じた結果得られる所得なんで、得られるかどうか分からないし、投資が紙くずになることもある。キャピタルロスは、通常事業からの損失と異なり、個人に与えられる$3,000という「ささやか」な規模の損失計上枠を除き、キャピタルゲインとしか相殺できない。そんな果実が50%超の課税に晒されるとなると、リスクが恩典との比較で合わないケースもあるだろう。所得が$1Mの部分も曲者で、通常は$1Mレベルの所得に至らない個人事業主とかが、事業を譲渡したりするとその課税年度だけ所得が$1Mを超えて長年の蓄積に基づく手取りが大きく減額することもあり得る。上場企業の株式じゃないんで、分割払いに基づく譲渡益認識は可能だけど、税金以外の面で余り好まれないだろう。

キャピタルゲイン増税案は今後の審議でどうなるか分かんないけど、増税リスクがある限り、早めにキャピタルゲインを実現させて益出しを試みる納税者が増えるだろう。また仮に法制化されると、簡単にはキャピタルゲインは実現させたくないので、Deferral戦略の検討が重要視される。例えば、上場企業がForward Cash Mergerなんてしようもんなら、法人レベルでバイデン税率の28%に加え州税が掛かる。仮に州実効税率を5%とするとそこで既に33%だから、個人株主にみなし分配される金額は67。そこに56%とかのキャピタルゲイン税率が適用されると手取りは30弱という惨状。100の価値がある事業を譲渡して30の手取り、すなわち実に70%の実効税率となる。これは税金と言う名の大きな政府による資産没収に近い(?)。ウォールストリートジャーナルは、米国のキャピタルゲイン税は中国との比較でも倍以上になり、今後のリスクマネーに基づく自由な投資やイノベーションの障害になるのでは、と警鐘を鳴らしていた。バイデンは「America is back」って言うけど、実は「America is gone?」。

2003年以降のM&AのDealストラクチャーはキャピタルゲインや配当の税率が下がったことで以前とは大きく変わっていて、課税取引に対する抵抗が下がってたけど、それが逆行し、適格組織再編を通じたDealが好まれるようになることが考えられる。ただ、これはケースバイケースかもしれない。というのも、株主の多くが州の退職基金や、その他通常の非課税組織だったりすると税率は関係ない。PEファンドとかも基本パススルーなんで、税金は投資家レベルの話しでファンドの成績に税負担は影響しない。それどころか税金を支払うためのDistributionはキャッシュフロー的には投資家に対するリターンになるから、タイミング的にIRRが上がったりする。またアービトラージみたいな戦略を取る株主は、短期的にキャッシュ化するのでどっちにしても通常所得税率で課税される。ファンド経由で影響力のある個人株主たちが存在すると、課税取引は難しいかもね。いずれにしても、2003年以降定着していた、個人投資家が課税されても気にしないような戦略は取り難くなる状況が出てくるのは間違いないだろう。

また$1Mという所得レベルで明暗が分かれるとすると、際どいケースでは何とか全体の所得を$999,999にしよう、っていう分かり易いプランも横行することになる。BEATの3%みたいだね。$1Mいくかいかないかで大違いだからね。ちなみに$1Mをどこで判断するのか、すなわち、Gross Receiptなのか、Gross Incomeなのか、AGIなのか、課税所得なのか、等は現時点では不明。

また、キャピタルゲイン増税案と関連する提案に、含み益が$1M超の被相続人が死亡時に所有する資産に税務簿価の時価ステップアップを認めないというものがある。相続人が過去の簿価を引き継ぐっていう手法もあり得るけど、有力視されているのは、死亡時にみなし譲渡益をキャピタルゲインとして課税するという方法。被相続人は死亡しているので、Estate(遺産)が所得を認識するんだろうけど、このキャピタルゲインに対して56%とかで課税され、場合によっては更に遺産税の対象となったりすると、流動性の低い個人事業主の事業を相続するようなケースでは壊滅的な影響があり得る。一層のこと、事業を引き継がずに慈善団体に寄付する?

次回もキャピタルゲイン増税案絡みの話しの続きで、ファンド・スポンサーが得るキャリーの取り扱い、および$50万を超える事業用不動産譲渡益に対する買替え特例の撤廃に関して。

Friday, May 21, 2021

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。

相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案

米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。

そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。

米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。

ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。

で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?

米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?