睡眠を考える──睡眠力の向上が期待できるグッズ6選!

枕、ガジェット、アロマ、スキンケアなど、睡眠力の向上が期待できるアイテムを厳選紹介!
睡眠を考える──睡眠力の向上が期待できるグッズ6選!
Tara Moore

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▶︎第4回:睡眠力向上が期待できるグッズ6選!

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▶︎第3回:ショートスリーパーに警告!

▶︎第2回:質の良い眠りと朝のタンパク質

▶︎第1回:アスリートに学ぶ睡眠


▶︎第4回:睡眠力向上が期待できるグッズ6選!

連日のように睡眠に関するトピックスがメディアを賑わせ、「睡眠の質を向上」とうたう食品や飲料も続々登場するなど、「より良い眠り」への意識が高まっている。睡眠環境を見直したいと思っている人も多いのではないだろうか。

そこで、ぐっすり眠れてすっきり目覚められる寝具、睡眠計測デバイス、心地よい眠りへといざなうアロマ、翌朝の肌が楽しみになるスキンケアなど、「睡眠力の向上」が期待できるアイテムを紹介する。

ブレインスリープ ピロー
3万3000円(カバー付き) 
https://brain-sleep.com/


睡眠の質を高める新感覚の枕

抜群の通気性で熱がこもらず脳を冷やし、睡眠の質を高める新感覚の枕。まるで網の目のように張り巡らされた無数の繊維がスプリングの役割をし、適度な反発力がありながら、ふんわりと頭を包み込む感覚に、最初はきっと驚くはず。100%再生可能なポリエチレン素材を使用。眠るたびに頭の大きさや寝方に合わせて細部までフィットしていくので、自分好みの枕に育てよう。

ブレインスリープ コイン 
8800円
https://brain-sleep.com/


睡眠をデータ分析!

自分ではわからない睡眠のリズムやいびきの録音・解析、睡眠時の寝姿勢など、眠っているときのすべてがわかる睡眠計測デバイス。無料のスマホアプリと連動することで、より高性能な睡眠分析が可能に。しっかりはさめるクリップタイプなので、パジャマのウェスト部分にはさむだけで寝ている最中も気にならず、しっかり計測してくれる。ボタン電池1つで約6カ月持つ省エネ設計。

アヴェダ スカルプ ソリューション オーバーナイト セラム
7370円(50ml)
www.aveda.jp


Robert August Olding
寝ている間に頭皮にうるおいを与えるトリートメント

汗や皮脂汚れ、紫外線など、肌だけではなく頭皮への刺激も気になる季節。蓄積すると、頭皮の老化を早める原因になるので、毎日ケアしたい。植物由来成分が寝ている間に頭皮にうるおいを与えるアヴェダの洗い流さないトリートメントは、就寝前に頭皮に直接塗布してやさしくマッサージすることで、健やかでクリーンな状態に整えてくれる。ラベンダーやカモミールなど、心地よいアロマとすっきりした頭皮で、より深い眠りにつけそうだ。

サンタ・マリア・ノヴェッラ ボディミルク ポプリ 
9900円(250ml)
TEL:03-6384-5188


Samuele Mancini Photographer all rights reserved 2020
シェア使いにも好適なボディミルク

シアバターと植物精油がベースのボディミルクは、サンタ・マリア・ノヴェッラの伝統的なポプリの香り。トップにローレルの爽やかさに柑橘系の香りが加わり、ミドルでラベンダーやローズマリーが、ベースではシダーウッドやパチュリが香り、幸せな気持ちで眠りにつけるはず。全身うるおいに満ちたやわらかな肌に整え、甘すぎず深い香りはパートナーとのシェア使いにもおすすめだ。

ロアリブ マインドセンス ディフューザー ホワイトフォグ
5500円(100ml)
www.roaliv.jp


上質な眠りを誘うディフューザー

クリーンで真新しいシーツに包まれるような、清潔感あふれる香りが続くディフューザーをベッドサイドに。トップのベルガモット、ミドルのジャスミン、ローズに続き、ラストはムスクやシダーウッドなど、真っ白なリネンを思わせる深い香りへと変化。寝室が洗練されたホテルのベッドのような、静かな高揚感に包まれながら上質な眠りへ。

バウム アロマティックスリーピングマスク  
7700円(80g)
www.baumjapan.com


睡眠中の肌を整えるジェル状マスク

「樹木との共生」をテーマに掲げ、世界中の樹木や植物由来原料に関する研究を続けるスキンケアブランド「BAUM(バウム)」。みずみずしいウォータージェルを肌になじませると、アロマオイルカプセルがくずれ、シダーウッドやユーカリなど、深い森に誘うような心地よい樹木由来の香りが広がる。ひと晩中、肌のすみずみまでうるおいのヴェールで包み込み、翌朝はいきいきと明るく、疲れ知らずのすこやかな肌に。

文・梅津有希子
編集・神谷 晃(GQ)


第3回:ショートスリーパーに警告!

Bettmann
寝る前に水を飲んではダメ?

「睡眠の質を向上」とうたう飲料や食品が増え、メディアでも頻繁に特集が組まれるなど、睡眠への関心が年々高まっている。

睡眠の質を科学的に診断する「スリープラボ」や、ポッド型の非日常空間で脳を休める「瞑想ポッド」、-120℃以下で急速冷却し、睡眠の質や筋肉の疲労回復をサポートする冷却療法「クライオバス」など、「よい眠り」を追求しているのが、パーソナルウェルネスクリニック丸の内だ。

こちらは食事療法、運動療法に加えて「睡眠の質の改善」に早くから注目し、睡眠時無呼吸症候群の診断・治療に取り組んだ数少ない医療法人が運営するクリニックで、科学的に睡眠を診断してくれるという。今回、体験取材する機会に恵まれた。

問診票に記入後、脳波や呼吸、酸素飽和度などを記録する機器を、頭部や顔に装着。痛みや不快感などはない。検査の所要時間は約90分。N1(浅睡眠)、N2(浅睡眠)、N3(深睡眠)、レム睡眠の4つの基準値で評価される。

事前に予約した14時頃、4畳ほどの広さの個室に通され、真っ暗な部屋でベッドに横たわると、あっという間に眠りに落ちる。

約80分が経過して目が覚める。浅い睡眠のN1が48%、N2が52%、深い睡眠であるN3とレム睡眠はゼロ、という結果が出た。

「睡眠の深度はN1、N2、N3と下がって、その後N2、N1と戻ってレム睡眠になるのですが、これを一晩にだいたい5サイクル繰り返します。N3が一番いい睡眠という基準になります。今回はN1とN2が大半で、あまり深い睡眠ではなかったですけれど、睡眠時無呼吸はないですね。血液中の酸素濃度の最低値も96.6%あるので、正常です。『眠りは浅かった』、という結果になります。寝付くまでの『入眠潜時』は2分。わりと寝つきはいいほうですね」

医学博士で、同クリニックを運営する「医療法人みなとみらい」の田中俊一理事長は、診察結果を見ながら、筆者がここ数カ月自覚していた眠りの浅さをズバリと指摘する。

──最近、夜中に目が覚めることが続いて気になっています。睡眠が浅いということなのでしょうか。

「何時頃起きますか?」

──入眠3時間後くらいに一度目が覚めます。

「人間の睡眠は、普通3時間くらいで一度浅くなります。その時にいろいろな刺激があると、目が覚めてしまうんです。まず、寝る前に水を飲んではダメです」

──『就寝中もコップ1杯分の汗をかくので、寝る前に水を1杯飲みましょう』という専門家の意見をよく見かけますが。

「胃の中にものを入れるのは寝る3時間前までと言いますが、『寝る前に水を飲みましょう』というのは言葉足らず。正しくは、寝る3時間前までに水を飲む、です。普通に寝ると、1時間半から3時間くらいまでの間に血中成長ホルモン濃度がピークになります。睡眠深度はN1、N2、N3と下がっていきますが、N3に下がった時に成長ホルモンがピークに。睡眠深度と逆のリズムになる訳です。成長ホルモンがピークになったところで、臓器の再生が起こる。胃の細胞が入れ替わる時に胃の中にものが入っていると、胃が稼働してしまうので細胞が入れ替われなくなってしまう。胃が空っぽになるまで3時間くらいかかるので、とにかく寝る3時間前は胃に何も入れないことです」

近年の猛暑で、「熱中症予防のため、寝る前に水を1杯飲みましょう」とあちこちで耳にしていたこともあり、季節問わず毎晩寝る前に水を飲むのが習慣になっていたが、「寝る前」を「ベッドに入る直前」と解釈している人も多いのではないだろうか。「たった水1杯」が胃の刺激となり、眠りの質の低下につながるとは思いもしなかった。

ショートスリーパーは要注意?

ところで、ショートスリーパーとは、6時間未満の睡眠でも十分に健康を維持できる人、というのが一般的な定義だが、「3時間睡眠で平気」など、ショートスリーパーを公言するビジネスパーソンは少なくない。田中理事長はこれをきっぱりと否定した。

「ただの盲信です。たくさんの患者さんを診ている医師としては、『何時間寝ると血圧がどう適正化するか』といったデータで判断するわけですから、科学的にも健康への影響は証明できるのです。30歳前後の若い人は、まだ持って生まれてきた体力で生きているので、身体に不具合が出ない。心理学では、自分が持っている先入観を肯定するために、自分に都合の良い情報ばかり集める『確証バイアス』という心理作用が昔からありますけど、ヒトはどうしても楽観的になってしまうものです。残念ながら、20年後くらいに睡眠不足の影響を痛感することになります」

──若いので、ただ「無理がきいている」ということですね。

「盲信してしまっている若い人に『将来的に差がつきますよ』と説明しても、なかなか聞き入れてはくれませんよね。実感するようになるまでは……。でも手遅れということはない。そこから睡眠を含めたライフスタイルを変えれば、修正がきくんです」

実は、以前通っていた呼吸器内科で、自宅で睡眠時無呼吸症候群の簡易検査をしたことがあるのだが、鼻や指先に装着するセンサーが気になり、睡眠中無意識のうちに外してしまい、きちんと計測できなかった経験がある。今回の検査では、万が一寝ている間に外れてしまっても、スタッフがチェックしてくれるという安心感があり、気にせずに眠ることができた。このような点や、真っ暗で安眠できる睡眠環境が、自宅での簡易検査とは大きく異なると感じた。

Harold M. Lambert
一番多い患者は同業者? 医師が頼る睡眠クリニック

パーソナルウェルネスクリニック丸の内は、「睡眠、食事、運動」を、医師や栄養士がデータとともに指導するサービスを提供しており、「病気にならないために来る」という方が多いのが一般的な病院と大きく違うところ。田中理事長が、2019年に銀座、2023年に丸の内でのクリニックを開設した背景には、糖尿専門医としての経歴が関係している。

「近年、睡眠呼吸障害が糖尿病や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病と密接に関わっており、放置しておくと心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがわかってきています。今でこそ睡眠の重要性が周知されてきましたが、僕が睡眠時無呼吸専門のみなとみらいクリニックを作った2008年頃は、睡眠呼吸障害が糖尿病の原因になると提唱している人は日本にはほとんどいませんでした。

睡眠を見直すと、血圧も脈拍も血糖も下がるし、コレステロールや尿酸も下がる。そういうことをきちんと診断・指導しなくてはなりません。でも、睡眠時無呼吸症候群が保険適用になったのが1998年頃。まだ歴史が浅い分野なのです。僕らはその頃から『睡眠障害と糖尿病の関連性』に関する研究を進め、横浜のみなとみらいに睡眠と糖尿病の専門クリニックを作りました。

このクリニックで睡眠を専門的に診るようになると、次は『病気でない人たちを診る』、要するに『睡眠から健康度を上げるクリニックが必要』と思うようになりました。医師としての経験から、『糖尿病を薬で治すのではなく、睡眠や食事、運動などの生活習慣で治したほうがいい』という考えに行き着いたのです。経験と言っても、感覚ではなく、あくまでデータに基づいた専門医としての睡眠指導です」

──クリニックの患者はどのような方が多いのでしょうか。

「丸の内は40〜50代、銀座は50〜60代の男性が多いですね。職業でいうと、経営者、弁護士、政治家など。プロのスポーツ選手もいらっしゃいます。最近は、『上場するにあたり、体調管理をしたい』という30代半ばのスタートアップ経営者もいます」

──健康に関心が出てくるのは、自分が病気をしたり、親の病気に直面した40代以降が多いのではと思っていましたが、健康意識が高い若い人も増えているんですね。

「特に20代で起業するような人たちは、ライフスタイルの充実が仕事のパフォーマンスを向上させ、それがビジネスとしての成功、つまり収入につながるということを理解しています。自分が酔っ払えば、認知機能は落ちるし、転びやすくなるし、記憶力も低下するので、『お酒を飲んで何がいいんですか?』という考え方になる」

──銀座のクリニックで一番多い患者は、どういう職種なのでしょうか?

「医師です。心臓年齢、肺年齢、ワーキングメモリーを含めた認知年齢、肌年齢など、特殊な方法で測ったデータをもとに、診察や治療をする医療機関はなかなかないのが理由でしょうね。医師ってやっぱり忙しいですし、自分ではこういった特殊な検査が出来ない。休診日に遠くから毎月来られる方も多いですね」

──医師はちゃんと寝られない、激務のイメージです。

「当然、十分寝られないですね。うちに来ている医師を診ていても、多くの方が不健康だと感じます。忙しいので睡眠が悪くてもなかなか病院に行けない」

──医師も、睡眠の大切さは当然わかっているはずですが。

「睡眠も食事も大切なのはよくわかっているけれど、いい先生ほど患者が増えます。そうすると、日常生活でどこを削るかというと、睡眠時間もそうですが、食事がおろそかになったり、食べる時間が遅くなる。これほど忙しすぎて楽しみがないと、ついお酒を飲んでしまうという悪循環です」

──身体に悪いとわかっていても飲む人が多いです。

「患者には『やめなさい』と言っているのに、自分は飲んでしまう(笑)。なぜうちのクリニックに多くの先生が来ているのかというと、僕がサンプルとして健康を証明しているからなんです。酒もやめたし、運動は週3回、睡眠もデータ化していますから、説得力はあるはずです。45年ほぼ毎日ビールを3本飲む生活でしたが、それを改めました。ベジタリアンに近い食生活に変えて、腸内環境もガラリと変わりましたね」

睡眠、食事、運動のすべてが大事!

──非常に説得力があります。先生は、肉や魚は食べないのでしょうか?

「少しは食べますが、野菜が中心で、米は1回の食事で300gくらい。朝昼晩必ず野菜を食べ、1日1kg摂取を目指しています」

──厚生労働省は1日350gの野菜摂取を推奨していますが、1kgとはとても多いですね。

「1日最低600gは野菜を食べます。多い日で900gくらい。蒸し野菜や温野菜、煮物など加熱して食べることが多いです。これだけ食べると、腸内環境もまったく変わりますから。それもちゃんと腸内細菌のDNAデータで確認できるので、体の変化を実感しています」

──発酵食品はとっていますか?

「意識して食べています。納豆、味噌、漬物はほぼ毎日。ヴィーガンやベジタリアンは生活しにくいので僕はやりませんが、健康のためにはベジタリアンライクな生活を心がけたほうがいいですね。旬の野菜にはパワーがあります。

とにかく、睡眠、食事、運動。若いうちから気をつけていると、医師にかかっても診察が軽く済みますし、経済的な負担も抑えられます。ギリギリになってから駆け込まれては、戻せるものも戻せなくなる場合があります。睡眠も食事も運動も日々の積み重ね。『自分は大丈夫』、という人ほど要注意です」

パーソナルウェルネスクリニック丸の内

東京都千代田区丸の内2丁目7-3 東京ビルディング3F
https://personalwellnessclinic.com/

田中俊一

医学博士。横浜市立大学大学院客員教授。医療法人みなとみらい理事長。東京都生まれ。早稲田大学理工学部数学科を経て横浜市立大学医学部卒業後、同大講師を経て1997年に金沢内科クリニック(現医療法人みなとみらい)を設立、その後渡米しニューヨーク市立大学Mt.Sinai School of Medicine, Assistant Professor、国際医療福祉大学大学院教授、横浜市立大学大学院教授を歴任。2019年に銀座クリニック、2023年にパーソナルウェルネスクリニック丸の内を開院。毎月1万名の生活習慣病の治療に睡眠から取り組む、睡眠と糖尿病のスペシャリスト。

文・梅津有希子
編集・神谷 晃(GQ)


第2回:質の良い眠りと朝のタンパク質

Paramount Pictures
一番大切なのは朝食をしっかり摂ること

「日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、先進国で最下位」という衝撃的な事実が経済協力開発機構(OECD)の調査で明らかになり、慢性的な睡眠不足に悩む人も多いだろう。2024年2月に策定・公表された、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、「食生活や運動等の生活習慣や寝室の睡眠環境等を見直して、睡眠休養間を高める」ことが推奨されているが、ずばり「これを食べればよく眠れる」という食べ物なんてあるのだろうか。睡眠改善インストラクターで、管理栄養士の篠原絵里佳氏に訊いた。

──ここ数年、「睡眠の質を高める」とパッケージに書かれた食品を多数見かけるようになり、眠りに関する意識が高まっていることを感じます。良い眠りのために、食生活で意識したほうがいいことはあるのでしょうか。

良い睡眠のために一番大切なのは、まずは「朝食をしっかり摂ること」です。

──「健康のためにも、朝ごはんを食べましょう」とは子どもの頃からずっといわれていますが、そもそも朝ごはんを食べることと睡眠は、直接関係があるのでしょうか。

大いに関係があります。まず「良い眠り」とは、①睡眠時間を十分確保できていること、②レム睡眠とノンレム睡眠がバランス良く繰り返されるなど、質が良いこと、③生体リズムが整っていること、が条件となります。この「時間・質・リズム」の3つがとても大切で、どれか1つでも欠けると良い眠りにはつながりません。食事は「質」と「リズム」に関わっています。質の良い眠りのためには、夜になって分泌されるメラトニンというホルモンとの関わりが深いです。

Lisa Wiltse
朝食は、赤身魚、納豆、乳製品、卵を!

──具体的に、「これを食べればホルモンが良く出る」といった、良い眠りにつながる食べ物はあるのでしょうか。

朝食でタンパク質をしっかり摂ることが大切です。なぜ朝食で摂ることが大切か説明しましょう。そもそもタンパク質はアミノ酸が集まってできていて、アミノ酸のひとつであるトリプトファンを朝摂ると、お昼にセロトニンに変わります。セロトニンはよく「幸せホルモン」ともいわれますが、心を安定させたりする効果があります。そのセロトニンを材料にして、今度は夜、メラトニンというホルモンを作って分泌させます。このメラトニンが生体リズムを整えるホルモンなのですが、「夜になりましたよ」と身体に教えてくれたり、血圧を下げたり、眠る準備を整えてくれるのです。

──メラトニンが分泌されることで、入眠しやすくなるのですね。

その通りです。寝ている間に成長ホルモンがしっかり分泌されることで質が良くなるのですが、メラトニンがしっかり分泌されると、夜もこの成長ホルモンが出やすくなります。なので、いかにメラトニンをしっかり分泌させるかが大切になってきます。

──朝食べるタンパク質の中でも、特におすすめの食材はありますか。

良質なタンパク質=トリプトファンが豊富な食品、つまり、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品です。日頃から肉を食べることは多いと思います。ですので、中でもおすすめしたいのがカツオやマグロなどの赤身の魚です。赤身の魚には、日中セロトニンを作るときに必要な鉄やビタミンB6も豊富に含まれているからです。厚労省の国民健康・栄養調査でも、鉄分やビタミンB6は日本人に不足している栄養素なので、トリプトファンと鉄分、ビタミンB6が一緒に摂れるツナ缶やサバ缶はとてもおすすめです。

──たしかに、唐揚げや生姜焼き、ラーメンのチャーシューなど、肉を使った料理は和洋中問わず多くの店で食べられますが、赤身魚は、和食店や定食屋に入らないとなかなか食べないかもしれません。

そうなんです。意識しないと選ばない人が多いと思います。肉・魚以外だと、朝ごはんの定番である納豆や乳製品、卵も積極的に摂りたい食材です。

──卵は「1日1個まで」とも聞きますが。

卵にはコレステロールが含まれているので、昔はそのようにいわれていましたが、コレステロールの数値が高い方でなければ、2、3個食べても問題ありません。健康診断でコレステロール値を指摘されている方は気をつけたほうがいいですね。卵かけごはんにかつお節をトッピングすれば、卵とかつおのタンパク質や栄養素が一度に摂れるのでおすすめです。

──プロテインを飲むのはどうでしょう。

朝ごはんを食べる習慣がなくて、「これから始めよう」という方はまずはプロテインドリンクや豆乳などを飲むのもいいと思います。でも、できれば食事を摂ってほしいですね。なぜかというと、糖質があることでタンパク質本来の働きをすることができるのですが、タンパク質は身体の中でタンパク質単体では働けないのです。プロテインドリンクにも糖は含まれているのですが、しっかり糖質を摂るという意味ではごはんやパンを食べる習慣がつくといいと思います。また、糖質をしっかり摂ることで、24時間より少し長めの体内時計がリセットされるため、良い眠りに就きやすくなります。

REDA&CO
朝食が重要なもう一つの理由とは?

──なるほど。朝にタンパク質を摂ることの大切さがよくわかりました。

朝食の重要な役割はもう1つあります。朝ごはんを食べると日中の体温が上がり、そして、夜は体温が下がることで眠くなる。良い眠りのためにも、体温のメリハリをつけることが重要なのです。日中は活発に活動して、できればウォーキングなどで体を動かせるとさらにいいですね。

──1日2食の人も、3食にしたほうが良いのですか?

健康を維持するためには、3食食べることが大切です。例えば、たんぱく質は食べ溜めが出来ない栄養素です。朝食を抜くとタンパク質不足になり、筋肉量が減るという報告もあります。1日2食では、1日に必要な栄養素が摂れなかったり、血糖値も乱高下してしまいます。糖尿病や脂肪肝のリスクも高まってしまうのです。

「帰りが遅く、夕食を食べるのが深夜なので、朝お腹が減らない」「朝起きれない」など、朝ごはんを食べない理由はいろいろ考えられます。ですが、朝ごはん抜きが習慣化してしまうと、胃腸が動きにくくなるので、急に食事を摂るとお腹の調子が悪くなったりします。そういった人は、朝はまず豆乳やプロテインなどで、毎日同じ時間に胃に何か入れるようにすると良いでしょう。だんだん胃腸が動き始めるので、次第に朝からお腹がすくようになってきます。

──「これを食べればすぐ寝られる」という、魔法のような食べ物があるわけではないんですね。

人間の身体は複雑なので、バランスの良い食生活をコツコツ続けることが大事です。この記事を読んで「朝タンパク質を摂ろう。トリプトファンを摂ろう!」と急に食べ始めても、その日の夜にすぐにメラトニン分泌につながるわけではありません。継続することでメラトニンが作られやすくなるので、長いスパンで続けることが重要です。また、夜は寝る3時間前に食事を終わらせておくことも、良い眠りのためには欠かせません。お腹ぺこぺこじゃ寝られないですけど、消化吸収には3時間くらいかかるので、寝る3時間前には食べ終えて、「なんかお腹空いたかな?」くらいの状態で寝るのがベストです。

──「あー、お腹いっぱい!」と、食後すぐに寝るのは最悪なんですね。

そうですね(笑)。眠っている間にも胃が活発に動き続けると、睡眠の質が下がってしまいます。たまに飲みに行くのは良いと思いますが、大切なのは、回数の多い食事のほう。週に1回飲みに行くのを「どうしよう」と思うのではなく、それ以外の週6の食事をきちんと整えることのほうが大切です。

お酒やコーヒーと睡眠の関係

──アルコールや、コーヒーなどのカフェインは、眠りにどのような影響がありますか。

「寝る前にアルコールを飲むとすぐに寝られる」という人もいますが、例外なく眠りが浅くなります。カフェインも同じで、眠りは浅くなります。ある程度寝ているのに疲れがとれない、朝スッキリ起きられない、昼食後に強い眠気が起こる、通勤電車でウトウト寝てしまうという人は、アルコールやカフェインの摂取を見直すことも大切です。

──最近は、健康のために、お酒は飲めるけれどあえて飲まない「ソバーキュリアス」というライフスタイルや、カフェインレスの飲み物も増えています。

カフェインは身体に悪いものではありませんが、何事も摂り過ぎはいけません。良い眠りのためにも、1日2、3杯にとどめておいたほうがいいと思います。

篠原絵里佳(しのはら・えりか)

管理栄養士、睡眠改善インストラクター、睡眠健康指導士。総合病院、腎臓・内科クリニックを経て独立。長年の臨床経験とアンチエイジング(抗加齢)医学の活動を通して、体の中から健康と美を作る食生活を見出し、分かりやすく発信することを得意とする。また、チーム医療に邁進する中で睡眠の重要性に気づき、睡眠改善インストラクター、睡眠健康指導士を取得。食事と睡眠の観点から健康と美容にアプローチする「睡食健美」を提唱している。
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公式サイト
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文・梅津有希子
編集・神谷 晃(GQ)


第1回:「大谷翔平に学ぶ睡眠力。良い眠りは運動技能の向上を促す!」

Christian Petersen
睡眠を最優先する大谷翔平

テレビや新聞などのニュースで見ない日はない、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。その活躍ぶりはいわずもがな、愛犬デコピンとの暮らしぶりや、結婚したことが速報で流れるなど、あらゆることがニュースになる日々だ。

Rob Tringali

なかでも、昨年5月、ワールド・ベースボール・クラシックWBC)の日本代表でともに戦った、セントルイス・カージナルスのラーズ・ヌートバーと対戦することになった前日、ヌートバーから食事に誘われた大谷が、「(その時間は)寝ている」と断ったことが大きく報じられたことを覚えている人も多いことだろう。「友人との食事より、翌日の試合のことを考えて寝ることを最優先させるとは、何とストイックなんだろう」とニュースを見ていた筆者は思ったものだが、とかく彼は「よく寝る」という印象が強い。

なぜ大谷はそんなに眠るのか。なぜこれほどまで睡眠を大切にしているのだろうか。なぜ寝ることで疲れが取れ、身体は回復するのだろうか。睡眠に特化したクリニックやサロンなどを経営し、プロ野球選手やJリーガーなどにマンツーマンでスリープコーチングを行う、一般社団法人オルソスリープアカデミー代表理事・矢野達人氏に訊いた。

運動技能の向上を促す睡眠

──寝ることで身体はどのように変化するのでしょうか。

深い睡眠をとることで、成長ホルモンが分泌してケガが治る、疲れがとれるといったことはもちろんですが、脳をコンディショニングするという大事な役割もあります。人間の身体は、どれだけ筋力をつけても、動かす指示を出しているのは脳であって、まずは脳を休ませないといけません。それが出来るのが睡眠なので、睡眠をおろそかにするとどれだけトレーニングをしても思うように身体が動かない、ということはあります。

──脳が休まらないと、試合でもよいパフォーマンスが発揮できない?

その通りです。一晩7.5時間寝るとして、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しますが、起きる直前の浅い睡眠が運動技能の向上を促す時間といわれています。2002年にカリフォルニア大学バークレー校の研究グループが、「楽器や運動などの技能の習得や向上には、目が覚める2時間前の最後の比較的浅い眠りが重要」という研究結果を発表しています。たとえばシュートやドリブル、トス、サーブなどの技術が向上したり、子どもが自転車に乗れるようになったり、字がきれいに書けるようになっていくのもこの時間次第といわれています。

なので、この起きる直前のノンレム睡眠がきちんととれていないと、どれだけ努力してもうまくならない。6時間以下の睡眠ですとこの時間が十分にとれていないことになるので、運動機能が向上しない。だから睡眠はリズムや時間が大事といわれているのです。いわゆる「質の良い睡眠」とは、このノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返され、朝すっきりと気持ちよく目覚められること。具体的には人それぞれ異なるため、単純に「何時間寝ればいい」というものではありません。

──昔のプロ野球選手は、試合が終わると夜の街に繰り出し、寝ないで翌日の試合に臨んでいたという武勇伝を話していたイメージがあります。

昔の話というよりも、わりと最近までひどかったですね(笑)。お金を持っている1軍選手の生活は派手ですし、「いい車に乗りたい、いい時計をしたい、きれいな女性と遊びたい」など、後輩たちも先輩の姿を見て育ちますので。ただ、プロ野球選手たちの生活パターンも、コロナ禍でずいぶん変わりました。夜遊びをしたくても出来なくなってしまった。コロナ禍と大谷選手の発言などの影響もあって、スポーツ選手における睡眠を取り巻く環境もずいぶんと変わってきたと思います。

大谷の睡眠と強靭なメンタルの関係

──大谷選手は「誘惑に負けず、意志が強い」ということでしょうか。

彼は目標達成の技術を持っています。花巻東高校時代の恩師・佐々木洋監督の教えで「目標達成シート」を作っていたことが知られていますが、「マンダラチャート」などを使って「世界一の選手になる」と決めている。そのために「今何をするべきなのか」という逆算が出来る人なので、現状の自分に必要なことや、優先すべきことが判断出来るのです。睡眠時間の確保もその一環でしょう。その技術を高校時代に監督から教わっているのが、彼の最大の資産なんじゃないかなと思います。

──スポーツ選手だけではなく、一般の人にも同じことがいえそうです。

ビジネスマンにもまったく同じことがいえます。ですので、大谷選手が学んだスキルはビジネスシーンの研修でも人気です。ただ、大谷選手は睡眠時間を10時間以上確保しているといわれていますが、一般の人やスポーツ少年たちが真似をしても、大谷選手のようにはなれません。あれは大谷選手の「勝ちパターン」であって、普段8時間寝ればOKの人が10時間寝ようと努力してしまうと、睡眠の質が2時間分薄まって、全体の睡眠クオリティやパフォーマンスまでも下がってしまう。眠れないことに悩むようになると、今度はサプリメントや薬などにどんどん投資していくようになって、これらに頼らないと結果的に眠れないという状態を作り出してしまう。僕はそれを懸念しています。サプリメントや薬に頼らないと寝られないということは、経済的な負担もありますし、依存することで不安な気持ちにもなってしまいますので。

──「勝ちパターン」は人によって違うんですね。

大谷選手は10時間以上寝ることで最大限のパフォーマンスを発揮できる。長い時間をかけて自分で見つけた大谷選手のパターンです。でも、生活リズムは人それぞれ異なるので、「自分なりの勝ちパターンがある」ということを彼から学ぶことが一番大事だと思います。

──大谷選手の強靭なメンタルも、睡眠が関係しているのでしょうか。

睡眠の重要な働きに「記憶の固定」があり、日中に覚えたことを忘れないように脳に定着させたり、深い睡眠には嫌な記憶を消去してくれることもわかっています。たとえば、ミスをした、怒られた、負けたといった嫌な記憶は反省して次に生かしていかないといけないと思いますが、しっかり深い睡眠をとれていないと嫌な記憶が残り、メンタルが弱い選手になってしまうんです。「昨日先輩にパスミスして怒られたから、今日は置きにいくパスを出してしまう」といった具合で、それで「遅い!」と怒られる。深い睡眠がとれていないと、そういうことが起こりますね。

眠たい時の昼寝はNG?

──嫌な記憶を思い出して、消極的なプレイになってしまいそうです。

深い睡眠でネガティブな記憶を精算しておかないと、ミスして嫌だった記憶が定着してし、考える力が低下してしまいます。冷静さやクリエイティブな発想、アイデアなども出にくくなってしまうので、クレバーな選手になるためには、レム睡眠をきっちりリズムよくとれているかということがとても大事になってくるわけです。

──大谷選手のように睡眠時間を多くとれない場合、たとえば昼間、眠い時に寝てもよいのでしょうか。

私のスリープコーチングでは、「眠たい時に昼寝をする」といったランダムな休息はよくないとお伝えしています。決められたルーティンを作ると、眠たくなるリズムもだいたい決まってきますし、そのリズムに合わせて「この時間帯に15分の仮眠をとる」など計画に入ってきます。ですから、「はいはい、きたきた、いつも通りこの時間に眠たくなってきた」と、計画通り仮眠をとるのはいいのですが、「なんか眠いな。ちょっと寝ようかな」と欲求のままに寝てしまうと、眠りのポイントがバラバラになってリズムが崩れてしまう。アデノシンという睡眠物質の蓄積量に影響が出てきてしまい、夜の睡眠が浅くなってしまうので、仮眠をとるなら計画的にとるようにと伝えています。

日本人特有の“寝てないアピール”

──日本人の平均睡眠時間は世界のほかの国に比べても少ないという調査結果※が出ていますが、なぜだと思われますか。

※2021年の経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、各国平均の8時間28分より1時間以上短く、33カ国の中で最低。

海外では、「私は毎朝決まった時間に起きて、何時間睡眠を確保しているからこのパフォーマンスが保てる」という意識がはっきりしている。一方、日本は「寝る間も惜しんで仕事をしている」という、いかに睡眠時間を削っているかを比べる「寝てないアピール」が主流です。他の国とは価値観がまったく逆ですから、「なんでそんなに睡眠時間を削っていることが評価されているのかわからない」と言われます。

今は、小学校でも睡眠のことを学ぶようになってきています。「睡眠をとらなきゃいけない」ということが当たり前と育ってきたこの世代が社会に出た時に、その時の経営者層がまだ根性論を主張していると、ギャップが今以上にひどくなると思うんです。そうなった時に、起業する若者がますます増えてくる。そうすると人材確保がさらに難しくなるので、”睡眠観”の差を今埋めておかないと危険だと思います。その価値観を変えていかないと、日本の将来がダメになると思い、睡眠の大切さをコツコツと発信しています。

矢野達人(やの・たつと)

アスリートスリープコーチとしてプロ選手から学生アスリートまで幅広く睡眠改善を指導。その他、快眠サロンや睡眠クリニック、快眠温泉旅館や寝具メーカーの運営に携わりながら、睡眠を改善に導くスキルを指導する『一般社団法人オルソスリープアカデミー』の代表理事・講師も務めている。

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文・梅津有希子
編集・神谷 晃(GQ)