コラム

住む家を追われ、食糧支援で飢えをしのぐ...ロンドンの小学校では大半が「ホームレス児童」という英国の異常事態

2023年10月24日(火)19時35分
イギリスの小学生たち

写真はイメージです James Jiao/Shutterstock

<「生活費の危機」のさなかにあるイギリスでは、住宅問題だけでなく飢えに苦しむ人々による万引きの急増など社会不安が強まっている>

[ロンドン発]英BBC放送によると、ロンドン南部の小学校ハリス・プライマリー・アカデミー・ペッカム・パークは全児童約300人に無償で制服、遠足、給食を提供している。一部の家庭には食料小包も配っている。児童の家庭が困窮しているためだ。その大半が友人宅のソファや宿泊施設のベッド・アンド・ブレックファスト(B&B)、ホステルで暮らす。

児童のほとんどが「ホームレス」ということだ。イングランドの地方自治体では昨年4月から1年間にホームレスが雨露をしのげるように民間宿泊施設、B&B、ホステルや避難所に対前年比約9%増の合計17.4億ポンド(約3200億円)を費やした。地方自治体はホームレスになった人々に家賃や光熱費を請求したり、住まいを売却したりすることもある。

英政府の統計では、イングランドでホームレスと認定された子どものいる世帯は今年1~3月、対前年同期比で12.1%増加し、1万1250世帯。ホームレスの子どもの数は2004年の記録開始以来、最も多い水準の13万1370人に達している。ホームレスと新たに認定されたのは4万1950世帯で、前年同期から10.7%も増加した。

ハリス・プライマリー・アカデミー・ペッカム・パークのマリー・コルベット校長は「首都ロンドンでこれほどの貧困と困窮があるのを目の当たりにするのは本当にショッキングなことです。今、学校で困難に直面していない家庭を見つける方が難しい状況です」とBBCに打ち明けている。

半年に10回の引っ越しを強いられるホームレスの児童

英政府によると、ホームレスとは(1)屋根のない場所で寝ている(ルーフレスネス)(2)施設や避難所で一時的に寝ている(ハウスレス)(3)不安定な賃貸契約が原因で退去を迫られたり、家庭内暴力から逃れたりするため友人宅のソファを転々としている(4)不適切な住宅や違法キャンプ場のキャラバン、極端に過密な状態で暮らしている――状態を指す。

英民放ITVニュースによると、ハリス・プライマリー・アカデミー・ペッカム・パークに通う5歳のメアリーと6歳のテミの家族は安全上の懸念から今年3月、公営の賃貸住宅を退去せざるを得なくなり、現在はイーストロンドンのホテルで暮らしている。メアリー、テミ、両親、10代の兄姉2人はホームレスになって半年の間に10カ所の宿泊施設を転々とした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
[email protected]
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

半導体株、アジア市場で売り優勢 米中貿易摩擦の激化

ワールド

バイデン氏撤退論拡大、民主上院トップら重鎮が圧力強

ビジネス

中国BYD、ベトナムでさらに3車種発売へ 東南アジ

ビジネス

仏サノフィ、印バックオフィス拠点に4.37億ドル投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50
特集:まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50
2024年7月16日/2024年7月23日号(7/ 9発売)

日本の報道が伝えない世界の仰天事実。世界の今が見えるニュースクイズ50

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ミサイル迎撃の「劇的瞬間」と祝福の雄叫び...「普段着」のウクライナ兵がMANPADSで敵の攻撃を一蹴する衝撃映像
  • 2
    トランプが銃撃を語る電話音声が流出「バイデンは親切だった」「世界最大の蚊かと思ったら弾丸」
  • 3
    最重要は「2度洗い」⁈ SNSで話題のヘアケア「本当の効果」を専門家に聞く
  • 4
    米半導体大手エヌビディア株のジレンマ...投資集中で…
  • 5
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 6
    ロシアとの戦争で、米軍を含む80万人を即座に前線に…
  • 7
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
  • 8
    トランプを「バカ」と揶揄した副大統領候補...「39歳…
  • 9
    韓国でLINEユーザーが急増した理由 日本への反発?
  • 10
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 1
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 2
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過ぎ」で話題に
  • 3
    ロシアの巡航ミサイルが「超低空飛行」で頭上スレスレを通過...カスピ海で漁師が撮影した衝撃シーン
  • 4
    着陸する瞬間の旅客機を襲った「後方乱気流」...突然…
  • 5
    北朝鮮の「女子アナ」がショック死 「内臓がはみ出し…
  • 6
    ドイツ倒産件数が前年同期比で41%増加...予想大幅に…
  • 7
    ミサイル迎撃の「劇的瞬間」と祝福の雄叫び...「普段…
  • 8
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」…
  • 9
    シャーロット王女の的確なアドバイス...「ボスの風格…
  • 10
    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 5
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 6
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
  • 7
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 8
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 9
    「何様のつもり?」 ウクライナ選手の握手拒否にロシ…
  • 10
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story