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40年の時を超えて見つかった、ダイアナ元妃の“羊セーター”──デザイナー二人が語る、オークション出品までのストーリー

今から40年ほど前、当時19歳だったダイアナ元妃がポロの観戦で纏った、羊モチーフの赤いセーター。白い羊の群れの中に一頭の黒い羊がいるアイコニックなデザインは、イギリス発ニットウェアブランドのウォーム&ワンダフル(WARM & WONDERFUL)によるもの。共同設立者の二人が今明かす、イギリス王室から送られた手紙の内容や、屋根裏部屋で見つけたときのエピソードとは?

1981年、オリジナルの“羊セーター”を纏ったダイアナ元妃。

Photo: Getty Images

今年3月、ニットウェアブランドのウォーム&ワンダフル(WARM & WONDERFUL)を手がけるジョアンナ・オズボーンは、何十年もの間ずっと先延ばしにしていた屋根裏部屋の片付けに取りかかった。そこはベビー服、生地見本、おもちゃ、そしてアーカイブスケッチがいっぱいだった。彼女の子どもたちはすっかり大きくなり、休止していたブランドがニューヨークのローイング・ブレイザーズ社によって再始動したこともあって、色々と整理する時が来たのだ。

それから1時間もしないうちのことだった。コットンのベッドスプレッドが入った箱を開けると、一枚の赤いセーターが彼女の目に飛び込んできた。白い羊の群れの中に紛れ込んだ一頭の黒い羊──はっとしたオズボーンはすぐに共同設立者のサリー・ミュアーに電話をかけ、「あのセーター」と一言だけ伝えたという。

ダイアナ元妃が自己表現として纏った、羊のセーター

1983年、二枚目のセーターをホワイトのパンツと合わせて。

Photo: Getty Images

この“羊セーター”が一躍有名になったのは、今から42年前。チャールズ皇太子との婚約を発表してから4カ月後の1981年6月、当時19歳だったダイアナ元妃ことダイアナ・スペンサーはこのセーターを着てポロを観戦し、大勢のカメラマンたちは未来のプリンセスの姿を一枚でも多く捉えようとシャッターを切っていた。翌日にはその写真が世界中の新聞の一面を飾り、ウォーム&ワンダフルは設立からたった2年で脚光を浴びることになったのだ。

「私たちはニューヨークへと飛び、ファッション・ウィークで発表するようになったんです。そんなことが私たちにできるとは思ってもいませんでした」とミュアーは回想する。「とても小さな家内工業だったのが、歴としたビジネスになったんです」。その反響は凄まじく、二人宛にあまりにたくさんの郵便物が届いたため、友人の子どもたちの助けを借りて仕分けをしたそうだ。

その後20年間にわたり、ダイアナ元妃は何千もの公務で何千着もの服を着こなしたが、このセーターは最もアイコニックな一着として人々の記憶に焼き付けられている。特に1983年に彼女がそれを再び着用してからはなおさらだ。マスコミにしばしば「シャイ・ダイ(恥ずかしがり屋のダイアナ)」と呼ばれる中で、“群れ”から逸脱した黒い羊がいるセーターを選んだというのは、彼女のユーモアのセンスと反抗心の表れだとも言えるだろう。そして王室を離脱した1990年代頃から、彼女のファッションはより大きな意味を持つものとなり、自己表現のためのツールとなっていった。

「あのセーターは、ダイアナ妃が自分自身を表現し始めたことをほのめかすものだったと思います」とミュアーも振り返る。その魅力は色褪せることはなく、ドラマ「ザ・クラウン」のシーズン4で俳優のエマ・コリンがレプリカを着用したことによって再び注目を集めたのも記憶に新しい。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館には1985年に制作されたものが永久所蔵されており、その解説パネルには「デヴィッド・ボウイとペネロペ・キースも同じデザインを色違いで持っていた」と記されている。また、ローイング・ブレイザーズ社が再販したデザインも人気が高く、現在はメンズとウィメンズの両方が展開されるまでになった。

バッキンガム宮殿から届いた1通の手紙

ダイアナ元妃の秘書からセーターとともに送られた手紙。

Photo: Anadolu Agency/Getty Images

実は、このセーターについて知られていなかったひとつの事実がある。それは、ダイアナ元妃が同じデザインを二着所有していたことだ。

ポロの試合から数週間後、オズボーンとミューアはバッキンガム宮殿から1通の手紙を受け取った。ダイアナ元妃がセーターを破損してしまったというのだ。そこには「ダイアナ妃はこのセーターをとても気に入っており、修繕または交換いただけたら」と綴られている。二人はそれを読んだ瞬間に「震え上がった」と言う。

オズボーンとミューアの元に実物が届き、袖口が破れていることを確認すると、二人は何も言わずに新品を送ることにした。新しい一枚では黒い羊の位置が変わっているにもかかわらず、王室から届いたお礼の手紙には「お直しいただき、ダイアナ妃はさぞお喜びになることでしょう」とだけあり、誰一人として二つのデザインの違いに気づかなかったそうだ。

その後、二人はオリジナルを倉庫にしまい、何十年もその存在を忘れていたという。それから何度も引っ越しを繰り返しているうちにどこかで紛失したに違いないと思っていたため、実際に屋根裏部屋でそれを見つけたときも、最初はさほど気にも留めなかった。50年近くも羊のセーターに囲まれていたのだから、昔のデザインが一枚や二枚が眠っていても不思議ではなかったのだ。

しかし、その袖口が彼女の目に留まった。「ダイアナ妃のセーターと同じ袖口だったので、これは本物じゃないかと思ったんです。時々仕上がりに問題があったこともありましたが、袖口が破れることはありませんでした。そんなことが起こったのは、ダイアナ妃の一枚が最初で最後です」

オークションに出品された理由

もしコットンのベッドスプレッドで保護していなければ、虫食いによるダメージは避けられなかったことからも、このセーターが良い状態で残っていったのは奇跡に近い。発見の驚きが和らいだ後、オズボーンは「(こんな貴重な衣服を)きちんと保管し続ける責任を背負いたくない」と思ったそうで、ミュアーもまた、「手もとにあるだけでもおっかない」という理由で誰かに譲るべきだと判断した。そこで二人はオークションハウスのサザビーズに電話をかけ、ある春の朝、電車でロンドンへと向かった。

バッキンガム宮殿からの手紙とともにセーターを提出すると、厳密な鑑定が行われた。サザビーズのファッションとアクセサリーのグローバル責任者であるシンシア・ホールトンは、第三者の企業の協力を経て、1981年の画像と屋根裏部屋で発見された一枚の綿密な照合を進めたという。一致点が複数見つかり、同一のものであることが証明されると、契約はすぐに結ばれたそうだ。

エキシビジョンではセーターと王室からの手紙が展示されている。

Photo: Anadolu Agency/Getty Images

このセーターは現在、バッキンガム宮殿からの手紙とともにロンドンのサザビーズ・ギャラリーで展示中だ。9月にはサザビーズが主催する「ファッション・アイコンズ・セール」に出品され、5万ドルから8万ドル(日本円にして1千万円以上)の値がつくとも予想されている。

セーターは一人の買い手に渡ることになるが、オークションが世界的に注目されることで、この物語は新しい世代にも受け継がれることになるだろう。ホールトンはその価値を確信しており、「この愛すべきセーターとデザインは、ノスタルジアと記憶を呼び起こすユニークな魅力を持っています」と語っている。

Text: Elise Taylor Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.COM

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