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第36回世界遺産委員会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

第36回世界遺産委員会は、2012年6月24日から7月6日の間、ロシアサンクトペテルブルクで開催された。会場は世界遺産「サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群」に含まれるタヴリーダ宮殿である[1]。2012年はUNESCO世界遺産条約が採択されてから40周年にあたる。

委員国

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書記はメキシコの旗 メキシコが務めた[1][2]

新規推薦物件とその審議結果

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新規の世界遺産として、文化遺産20件、自然遺産5件、複合遺産1件の計26件が登録された。以下に推薦物件と審議結果の表を示す。物件名に * 印が付いているものは既に登録されている物件の拡大登録など。太字は正式登録(既存物件の拡大などについては申請用件が承認)された物件[3]

自然遺産

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画像 登録名(日本語は仮称) 推薦国 事前勧告 決議 備考
ウニアンガ湖群[4] チャドの旗 チャド 登録 登録 チャド初の世界遺産。
Lakes of Ounianga
Lacs d’Ounianga
澄江の化石産地[4] 中華人民共和国の旗 中国 登録 登録
Chengjiang Fossil Site
Site fossilifère de Chengjiang
サンガ川流域の3か国保護地域[4] コンゴ共和国の旗 コンゴ共和国カメルーンの旗 カメルーン中央アフリカ共和国の旗 中央アフリカ 登録 登録 前年に情報照会決議。コンゴ共和国にとっては初の世界遺産。
Sangha Trinational
Trinational de la Sangha
西ガーツ山脈[4] インドの旗 インド 登録延期 登録 以前に情報照会決議。
Western Ghats
Ghâts occidentaux
レナ石柱自然公園[5] ロシアの旗 ロシア 登録延期 登録
Lena Pillars Nature Park
Parc naturel des colonnes de la Lena

このほか、推薦されたものの、勧告前に取り下げられた案件として、タンザニアの「東弧部山地林」(Eastern Arc Mountains Forests) があった[6]

複合遺産

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画像 登録名(日本語は仮称) 推薦国 事前勧告 決議 備考
人類の進化を示すカルメル山の遺跡群:ナハル・メアロット(ワディ・エル=ムガーラ)の洞窟群[7] イスラエルの旗 イスラエル 文化遺産として「登録」、自然遺産として「不登録」 文化遺産として登録。
Sites of Human Evolution at Mount Carmel: The Nahal Me’arot / Wadi el-Mughara Caves
Sites de l’évolution humaine du mont Carmel : les grottes de Nahal Me’arot / Wadi el-Mughara
バンコ・チンチョロ英語版生物圏保護区 メキシコの旗 メキシコ 文化、自然とも「不登録」 審議前に取り下げ。
Banco Chinchorro Biosphere Reserve
Réserve de Biosphère du Banco Chinchorro
ロックアイランド群と南ラグーン[7] パラオの旗 パラオ 文化が「情報照会」、自然が「登録」 複合遺産として登録 パラオ初の世界遺産。
Rock Islands Southern Lagoon
Lagon sud des îles Chelbacheb
プラセンシアモンフラグエトルヒーリョ : 地中海の景観 スペインの旗 スペイン 文化、自然とも「不登録」 審議前に取り下げ。
Plasencia-Monfrague-Trujillo: Mediterranean Landscape
Plasencia-Monfrague-Trujillo : Paysage méditerranéen

文化遺産

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画像 登録名(日本語は仮称) 推薦国 事前勧告 決議 備考
真珠採り、島の経済を物語るもの[8] バーレーンの旗 バーレーン 登録 登録 以前に情報照会決議。
Pearling, testimony of an island economy
Activités perlières, témoignage d’une économie insulaire
ワロン地方の主要な鉱山遺跡群[4] ベルギーの旗 ベルギー 登録 登録 以前に登録延期決議。
Major Mining Sites of Wallonia
Sites miniers majeurs de Wallonie
リオデジャネイロ:山と海との間のカリオカの景観群[4] ブラジルの旗 ブラジル 情報照会 登録 以前に登録延期決議。
Rio de Janeiro, Carioca Landscapes between the Mountain and the Sea
Rio de Janeiro, paysages cariocas entre les montagnes et la mer
グラン=プレの景観[9] カナダの旗 カナダ 登録 登録
Landscape of Grand Pré
Le Paysage de Grand Pré
上都の遺跡[10] 中華人民共和国の旗 中国 登録 登録
Site of Xanadu
Site de Xanadu
グラン・バッサムの歴史都市[10] コートジボワールの旗 コートジボワール 情報照会 登録 文化遺産の登録はコートジボワール初。
Historic Town of Grand-Bassam
Ville Historique de Grand-Bassam
ザダルの古代ローマ時代のフォルム遺跡群にある宗教建造物群 クロアチアの旗 クロアチア 登録延期 情報照会
Sacral Complex on the remains of the Roman Forum in Zadar
Ensemble religieux sur les vestiges du forum romain de Zadar
ノール=パ・ド・カレーの鉱業盆地[9] フランスの旗 フランス 登録 登録
Nord-Pas de Calais Mining Basin
Bassin minier du Nord-Pas de Calais
バイロイト辺境伯歌劇場[9] ドイツの旗 ドイツ 登録 登録
Margravial Opera House Bayreuth
Opéra margravial de Bayreuth
シュヴェツィンゲンの選帝侯の夏離宮 ドイツの旗 ドイツ 不登録 登録延期
Schwetzingen: a Prince Elector’s Summer Residence
Schwetzingen : une résidence d’été du prince électeur
ラージャスターンの丘陵城塞群 インドの旗 インド 不登録 情報照会 翌年の第37回世界遺産委員会で登録された。
Hill Forts of Rajasthan
Forts de colline du Rajasthan
バリ州の文化的景観 : トリ・ヒタ・カラナ哲学を表現したスバック・システム[7] インドネシアの旗 インドネシア 登録 登録
Cultural Landscape of Bali Province: the Subak System as a Manifestation of the Tri Hita Karana Philosophy
Paysage culturel de la province de Bali : le système des subak en tant que manifestation de la philosophie du Tri Hita Karana
エスファハーンのジャーメ・モスク[8] イランの旗 イラン 登録延期 登録
Masjed-e Jāmé of Isfahan
Masjed-e Jāme’ d’Ispahan
ゴンバデ・カーブース[9] イランの旗 イラン 登録 登録
Gonbad-e Qābus
Gonbad-e Qābus
ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエーロとモンフェッラート イタリアの旗 イタリア 登録延期 登録延期 第38回世界遺産委員会で登録されることになる。
Vineyard Landscape of Piedmont: Langhe-Roero and Monferrato
Paysage des vignobles du Piémont : Langhe-Roero et Monferrato
レンゴン渓谷の考古遺産[9] マレーシアの旗 マレーシア 登録延期 登録
Archaeological Heritage of the Lenggong Valley
Patrimoine archéologique de la vallée de Lenggong
近代的首都と歴史的都市の共有遺産ラバト[7] モロッコの旗 モロッコ 登録 登録
Rabat, modern capital and historic city: a shared heritage
Rabat, capitale moderne et ville historique : un patrimoine en partage
国境防衛都市エルヴァスとその要塞群[9] ポルトガルの旗 ポルトガル 情報照会 登録
Garrison Border Town of Elvas and its Fortifications
Ville de garnison frontalière d’Elvas et ses fortifications
アル・ズバラの考古遺跡 カタールの旗 カタール 登録延期 情報照会 翌年の第37回世界遺産委員会で登録。
Al Zubarah Archaeological Site
Site archéologique d’Al Zubarah
ロシアのクレムリ ロシアの旗 ロシア 不登録 情報照会
Russian Kremlins
Kremlins russes
バサリ地方 : バサリ、フラ、ベディクの文化的景観[10] セネガルの旗 セネガル 情報照会 登録
Bassari Country: Bassari, Fula and Bedik Cultural Landscapes
Pays Bassari : paysages culturels Bassari, Peul et Bédik
水銀の遺産アルマデンとイドリヤ[9] スロベニアの旗 スロベニアスペインの旗 スペイン 登録 登録
Heritage of Mercury. Almadén and Idrija
Patrimoine du mercure. Almadén et Idrija
ヘルシングランドの装飾農家群[4]  スウェーデン 情報照会 登録
Decorated Farmhouses of Hälsingland
Fermes décorées de Hälsingland
コキノの考古・天文遺跡 北マケドニア共和国の旗 マケドニア共和国 不登録 審議前に取り下げ。
Archaeo-astronomical Site - Kokino
Site d’archéo-astronomie de Kokino
チャタル・ヒュユクの新石器時代遺跡[4] トルコの旗 トルコ 情報照会 登録
Neolithic Site of Çatalhöyük
Site néolithique de Çatal Höyük
キエフの聖ソフィア大聖堂 と関連する修道院群、聖キリル聖堂と聖アンドリーイ聖堂、キエフ・ペチェールシク大修道院*  ウクライナ 登録延期 登録延期 キエフの聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群及びキエフ・ペチェールシク大修道院の拡大申請。2年前の第34回委員会でも登録延期決議。
Kyiv: Saint-Sophia Cathedral with Related Monastic Buildings, St. Cyril’s and St. Andrew’s Churches, Kyiv-Pechersk Lavra (extension)
Kiev : cathédrale Sainte-Sophie et ensemble des bâtiments monastiques, les églises Saint-Cyril et Saint André, laure de Kievo Petchersk
ウェアマウスとジャロウの二重修道院英語版 イギリスの旗 イギリス 不登録 審議前に取り下げ。
Twin Monastery of Wearmouth-Jarrow
Monastères jumeaux de Wearmouth-Jarrow

緊急案件

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緊急案件は、通常の手続きを踏まずに推薦・審議が行われる案件である。今回は以下の2件が緊急案件として推薦された。いずれも文化遺産である。

画像 登録名(日本語は仮称) 推薦国 事前勧告 決議 備考
イエス生誕の地 : ベツレヘムにある聖誕教会と巡礼路[7] パレスチナ国の旗 パレスチナ 不登録 登録 2012年1月18日受理。パレスチナ初の世界遺産。
Birthplace of Jesus: Church of the Nativity and the Pilgrimage Route, Bethlehem
Lieu de naissance de Jésus : l’église de la Nativité et la route de pèlerinage, Bethléem
ショーヴェ=ポン・ダルクの装飾洞窟 フランスの旗 フランス 不登録 2012年4月12日受理。審議前に取り下げ。第38回世界遺産委員会で通常の案件として審議され、登録されることになる。
The Chauvet - Pont d'Arc decorated cave
Grotte ornée Chauvet-Pont d’Arc

危機遺産

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リストからの除去

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リストへの新規登録・再登録

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なお、マリ北部紛争に関しては、トンブクトゥの破壊行為に対する非難などの決議も行われた[1]。また、すでに危機遺産リストに登録されているオカピ野生生物保護区コンゴ民主共和国の世界遺産)でレンジャー7人の殺害事件などが起きたことを踏まえ、それに対する緊急アピールの採択も行われた[1]

注目すべき議題

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パナマ

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パナマの世界遺産のひとつであるパナマ・ビエホとパナマ歴史地区は、歴史地区周辺の海上道路建設などを理由として、危機遺産登録が妥当という勧告が出されていた。それにもかかわらず、パナマ当局の積極的な働きかけの結果、危機遺産登録を回避しただけでなく、決議文の内容も、当初存在していた世界遺産リストからの削除の可能性からは、大きく後退させられてしまった[14]。この一件に対しては、パナマ政府の姿勢を疑問視する見解もある[14]

ラージャスターンの丘陵城塞群

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この推薦物件は上記リストの通り、諮問機関の「不登録」の勧告を覆して「情報照会」決議が出されたが、付帯する決議として、諮問機関が現地調査の専門員とは別に、助言を目的とする専門員の派遣が約束された[18]。従来、諮問機関が推薦書を提出した国と接触の場を持つことは認められていなかった。今回の決定は、そうした従来の審査プロセスに変化をもたらしうるものである[18]

世界遺産基金

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パレスチナのUNESCO加盟(2011年)の結果、アメリカは国内法に基づいて、UNESCOおよび世界遺産条約の分担金の拠出を停止している[17]。アメリカは世界遺産条約分担金の最大の拠出国であるため、世界遺産委員会にとっても深刻な財源不足をもたらしており、限られた予算の効率的なやりくりについても議論された[17][19]

脚注

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  1. ^ a b c d 古田 (2012) p.58
  2. ^ 西 (2012) pp.47-48
  3. ^ 諮問機関の事前勧告と決議内容についての日本語でのまとめは、西 (2012) p.49、古田 (2012) pp.59-60などにある。
  4. ^ a b c d e f g h Four natural and four cultural properties added to UNESCO’s World Heritage List on Sunday”. UNESCO. 2012年7月2日閲覧。
  5. ^ Twenty-six new sites inscribed on UNESCO World Heritage List this year”. UNESCO. 2012年7月3日閲覧。
  6. ^ 西 (2012) p.49
  7. ^ a b c d e f Church of the Nativity and the Pilgrimage Route in Bethlehem, Palestine, inscribed on UNESCO World Heritage List along with sites from Israel, Palau, Indonesia and Morocco”. UNESCO. 2012年7月1日閲覧。
  8. ^ a b Bahraini pearling site and the Mosque of Isfahan inscribed on UNESCO’s World Heritage List”. UNESCO. 2012年7月1日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g Sites in Iran, Malaysia, Canada, Slovenia, Spain, Germany, Portugal and France on UNESCO’s World Heritage List”. UNESCO. 2012年7月1日閲覧。
  10. ^ a b c Xanadu (China), Bassari Country (Senegal) and Grand Bassam (Côte d’Ivoire) added to UNESCO’s World Heritage List”. UNESCO. 2012年7月1日閲覧。
  11. ^ a b Better conservation in Pakistan and the Philippines allow Committee to remove two sites from World Heritage List in Danger”. UNESCO. 2012年7月3日閲覧。
  12. ^ a b 稲葉 (2013b) p.25
  13. ^ World Heritage Committee places Liverpool on List of World Heritage in Danger”. UNESCO. 2012年7月3日閲覧。
  14. ^ a b c d e f 稲葉 (2013b) p.24
  15. ^ Panamanian fortifications inscribed on List of World Heritage in Danger”. UNESCO. 2012年7月3日閲覧。
  16. ^ a b Heritage sites in northern Mali placed on List of World Heritage in Danger”. UNESCO. 2012年7月3日閲覧。
  17. ^ a b c 稲葉 (2013a) p.22
  18. ^ a b 稲葉 (2013) p.23
  19. ^ 西 (2012) p.51

参考文献

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  • 稲葉信子 (2013) 「第36回世界遺産委員会報告」「危機遺産の現状」(日本ユネスコ協会連盟監修『世界遺産年報2013』朝日新聞出版、pp.22-25)
  • 西和彦 (2012) 「第三六回世界遺産委員会の概要」(『月刊文化財』2012年11月号、pp.47-51)
  • 古田陽久 古田真美監修 (2012) 『世界遺産ガイド - 世界遺産条約採択40周年記念特集』シンクタンクせとうち総合研究機構

外部リンク

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