4月、東北大(仙台市青葉区)に設置された巨大顕微鏡「ナノテラス」が稼働し、日本のハイテク素材開発に弾みがつくと期待が集まっている。国の予算だけに頼らず、総工費400億円を集めて実現にこぎつけた。どういう経緯でナノテラスはできたのか。ジャーナリストの安井孝之さんが取材した――。
上空から見たナノテラス
写真提供=東北大学
直径約170m、全周約500mのナノテラスではすでに成果が出始めた。

「巨大顕微鏡」を生み出したユニークな枠組み

仙台市内の東北大学・青葉山新キャンパスでこの4月に稼働した「巨大な顕微鏡」と呼ばれる「Nano Terasu(ナノテラス)」が早くも産学連携の成果を出している。

ナノテラスは国、地方自治体、産業界、東北大学が「コアリション(Coalition、有志連合)」というユニークな枠組みで運営しており、多くのステークホルダーが関わり合う。まとめるのが難しいと思えるプロジェクトだが、スケジュール通りに稼働を始め、成果を出した。「ナノテラス」の成功の要因は何かを探った。

4月に稼働したナノテラスで住友ゴム工業の研究グループと東北大学とが共同研究した成果が、応用物理学会の学術誌に論文となり掲載された。稼働から約1カ月後の5月7日のことだ。20ナノメートル未満(ナノメートルは10億分の1メートル)という微細な空間の内部構造を知ることができたという。

ゴムの劣化のメカニズムの解析などに活用でき、エコタイヤの開発などに役立つそうだ。プラント向け製品や自動車向け部品をつくるニチアス、コンタクトレンズメーカーのメニコン、宮城県の地元企業などがすでにナノテラスで研究開発を進めており、産学連携の機運が盛り上がっている。

日本のハイテク素材開発に弾み

ナノテラスは世界最高水準の第4世代の放射光施設。太陽光の10億倍以上も明るい「放射光」を使って原子レベルの構造を知ることができる。

小学校、中学校で顕微鏡を覗いたことがある方ならわかるだろうが、倍率を大きくすると顕微鏡の視野はしだいに暗くなっていく。ナノレベルのモノを見ようとすると、とても暗くて見えない道理である。そのため非常に明るい光を当てて、ナノレベルの世界を可視化するのが放射光施設なのだ。

放射光施設は世界には約50あり、日本ではナノテラスが10カ所目の施設。世界的な規模の施設としては「スプリング8」(兵庫県佐用町)がある。ナノテラスはスプリング8の放射光とは違う種類の「軟X線」を使うが、軟X線を使う他の国内施設に比べると光の明るさは100倍程度向上した。それに伴いナノレベルの解像度は大きく改善した。

ナノテラス内部
筆者撮影
稼働前に3月末、ナノテラスの内部ではすでに研究者らが機器の調整をしていた。