カスタマーレビュー

2024年7月17日に日本でレビュー済み
興味深く読みました。「刑事コロンボ」のように先に犯行の内容を見せる「倒叙」の形式なので、前半は興味深く、後半はサスペンスの部分が面白くなってると思います。フィクションとはいえ、映画版をつくるとなれば一悶着ありそうな内容でした。以下に雑感を書いてみます。

【令和およびカルト】
「令和」の年号が「引き鉄」になるのだけど、物語に出てくる実在のエアライフル「鋭和BBB」の「鋭和」も「令和」を想起させて、ネーミングのセンスが似てる? と思った瞬間、恐ろしさが増した。

教祖の妻が「金英子(キム・ヨンジャ)」。金英子は、韓国の政治家として実在していた人物。あと、キム・ヨンジャは有名歌手の名前(こちらの漢字は「金蓮子」)。なぜこの名前を選んだのかは引っかかるところ。

「令和」にまつわる、秋田市の市外局番「018」、郵便番号「010」の語呂合わせの怪は語られることはなかった。

【右翼について】
黒幕が「楯の会」を引き継いだという設定が面白い。
それにしても、皇紀とか年号とか使ってる人たちって、不便じゃないかと思う。「えーと、今年何年だっけ? ってなってそう」

【サスペンス】
前半に出てくる「マエダ」は脇役ながら、色々な可能性を残す奇妙な存在で、これから読む人、または読んだけど何となく忘れてしまった人は、おそらく注目しておいたほうがいい。

個人的には、重要だと思われる次のような描写がなかったのが残念。
「6月26日、テレビの画面に信じられない光景が映し出されていた。どこかの政党の幹事長と名告る男がカルトや諸外国による「サイレントインベージョン」を語っていたかと思うと、突然振りつきで歌い出したのだ。〝田布施のせ〜いだ〜、田布施のせ〜いだ〜、おじいちゃんの代からCIA、おじいちゃんの代からCIA、おじいちゃんの代からCIA……〟そしてカメラがスタジオ全体を映すアングルに切り替わったのと同時に男は「エージェント!」と締めた。この男も〝組織〟に関係しているのだろうか?
〝事件〟発生まで、あと12日──。」

【ツッコミどころ】
〈最初の計画が2021年秋の衆議院選挙だったこと〉
いやいや、衆議院選挙は解散で時期が前倒しになるくらいいくらでもあるのだから、どう考えても選挙時期がずれない2022年夏の参議院選挙一択。

〈シャドウの心のつぶやき=作者のつぶやき?〉
キョウワタウンでの「このビルは、終わっている……。」という、シャドウの心の内を語ったように見せかけて、実は現地に行った作者のつぶやきだろうと思われる全く不必要な一文に、つい笑ってしまった。

〈犯人の雄叫び〉
犯人が銃を完成させ試し撃ちした後「うおぉぉぉぉ……!」と叫ぶのだが、この描写、よく叫びだす日本のドラマに毒されてる気がする。それより「仁義なき戦い 広島死闘編」のように、静かに口笛でメロディーを吹いてくれるとよかったかな。曲はもちろん「Yeah!めっちゃホリディ」、はい、スゲェ、スゲェ、♪

〈記者がガリウム弾をwikipediaで調べるところ〉
いやいや、そんなに歴史的なものなら、記者であれば記事が各国語で書かれているかどうかをまず確認しようよ! アンサイクロペディアでも見てたのか! そのあたりで読書やめた人、偽情報を信じたままだったりして。

〈逆セクハラ?〉
女性記者「私を……好きにしていいです……(以下略)」
お〜い! 言われた人も読んでるこっちも恥ずかしくなるやつ!

〈とりあえずビール〉
犯人も記者も、飲む時は「とりあえずビール」から酎ハイに移行するところが、現代日本の飲み文化の特徴を捉えてる。

くだらないけど、「田布施ノマスク」も、経緯のどこかに入れてほしかった。犯人が踏みつけるとか。的の空き缶に付けて試し撃ちするとか。

最後に、作者の出世作は『下山事件 最後の証言』だが、「下山」から「山上」への流れがある。今後「山中」か「中山」が絡むストーリーを書いたら面白いと思い調べたら「山中事件」という小説の題材になりそうな冤罪事件があった。この後どうでしょう。
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