カスタマーレビュー

2022年6月15日に日本でレビュー済み
本書を読んで、ロシアがいつまでも近代になりきれず、未来の希望を失った国になり果ててしまった歴史的いきさつがよく分かったような気がします。十九世紀末まで二百年続いた農奴制の経験に起因するロシアの大衆とエリートの間の深い断絶、根深い相互不信がロシア社会の近代化を阻むトラウマになっているという。古来からの土地共有制度=ミールの影響もあるのだろう、大衆は財閥エリートが自分たちの共有であるはずの財産を盗んで私腹を肥やしていると非難する。だから財閥を懲らしめるプーチンに大衆は喝采を送る。

財産は社会の共有なのだから国家が自分たちの生活の面倒を見るべきだという大衆に染み付いた国家への依存体質はソビエト共産党の支配の結果なのでなく、実は共産化する以前からロシア社会にまとわりついていたもので、大衆は国家からの扶養を期待してロシア革命時に資本家から奪った工場などを国家に供出したほどだった。レーニンはそうした大衆の依存体質を前に、これでは国家が破産してしまうと頭を抱えていたらしい。ロシア社会の後進性はそれほどまでに深刻だった。

かくして共産党支配になっても、地主貴族層が共産党エリート層にすげ替わっただけで大衆とエリートの関係性は何ら変わることなく、ソ連崩壊後も国家エリートと一体化した財閥が支配し、国民の三分の二は公務員とその家族で、国家管理されたエネルギー資源輸出に大幅に依存した歪んだ経済構造の中において大衆の依存体質は変わらなかった。国営企業の民営化が生み出した財閥エリートへの大衆の憎しみの感情はプーチンによる財閥トップの追放と財閥企業の再国有化政策を喝采で迎え、プーチンの独裁体制を磐石のものとした。

有力者や利権につながる人物との個人的つながりだけで動くソ連時代から変わらない、既得権でがんじがらめになって閉塞した社会の中で、人口の半分を占めるソ連時代を知らない若者たちは鬱屈し、親や教師の権威も失われたことで人生の意味をも見失った。そこに旧西側諸国のロシア敵視政策への反発感情が加わったことでナショナリズムを刺激され、西側との対決姿勢をアピールするプーチンに強く共感する。祖国を捨てる以外にはもはや出口がない感じ。ロシアがまっとうな国に生まれ変わるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
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