マイケル・B・ジョーダンが、次のステップに踏み出した。2015年から主演してきたシリーズの3作目『クリード 過去の逆襲』で、監督デビューを果たしたのだ。
いつか監督に挑戦したいという願いは、以前から語っていたこと。共演のテッサ・トンプソンも、「やるのかどうかではなく、いつやるのかと楽しみにしていました。子役時代からこの世界で仕事をしてきているし、自然な流れだと思います」と語っている。アクションシーンの多い映画で主演と監督を兼任するのは大変なことだが、シルヴェスター・スタローンも『ロッキー2』(1979)で初めて監督に挑んでおり、ある意味、そのDNAを引き継いでいるとも言える。
「たしかに、彼がやったことに重なっているように思いますね。それはさておき、監督デビューをするのに、これ以上ふさわしい作品はないと僕は思ったのです。過去に2度演じてきて、僕はこのキャラクターを知り尽くしていますから。主演と監督を兼任するのはもちろん楽ではありませんでしたが、すべての面で自分のビジョンを貫けるという醍醐味がありました」
1作目『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)で、アドニス(ジョーダン)は、亡き父アポロ・クリードの友人だったロッキー(スタローン)に指導を求め、ボクサーを目指す。2作目『クリード 炎の宿敵』(2018)では、『ロッキー4/炎の友情』(1985)で父を殺したロシア人ボクサー、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子と対戦した。
今作の冒頭、アドニスは現役を引退し、ロサンゼルスで妻と娘と一緒に幸せな生活を送っている。だが、ある日、子ども時代の友人デイミアン(ジョナサン・メジャース)が突然彼のもとを訪れた。この古い友人の存在は、妻ビアンカ(トンプソン)にも話したことはない。それはアドニスにとって、忘れたい過去を思い出させるからだ。
今回出演はしないが、プロデューサーとして関わっているスタローンは、この方向に話を持っていくのは「暗すぎる」として反対だったと語っている。しかし、ジョーダンは怯まなかった。
「僕たちのヒーローについて何か新しいことを知るために、これをオリジンストーリーにしなければいけないと思ったのです。子ども時代のトラウマに立ち戻るべきだ、と。良いことであれ、悪いことであれ、僕たちは子ども時代に起きたことを引きずるものです。でも、とりわけ男性は、間違った男らしさを教え込まれてきたせいで、自分の感情に向かい合うことができません。男が感情を見せると弱いと思われるから。この映画でアドニスは感情を表現することを学びます。それは彼をより良い人間にするのです」
耳が聞こえないアドニスの娘、アマーラを演じる子役には、実際に耳が聞こえない新人女優ミラ・デイヴィス=ケントが抜擢された。撮影現場では、やはり聴覚に障がいを持つトンプソンの弟も仕事をしている。多様性のある、開けた現場だったということだ。それは進化を意味する。
ハリウッドで多様化への努力が本格的に始まったのは、2年連続でオスカーの演技部門の候補者20人全員が白人だった2016年のこと。『クリード チャンプを継ぐ男』から候補入りしたのも白人のスタローンだけだったとあり、ジョーダンやトンプソンは名指しをされ、「なぜこの人たちが入らなかったのか」と言われたものだ。
「あの時、必要だった会話が始まりました。その話は前にも聞かれていたけれども、あの時ようやく本気で取り組まなければならないとみんなが思ったのです。僕自身が発言することはしませんでしたが、あの時、自分はその会話に関わっていると感じていました。僕はどんな仕事を選ぶのかを通じて、その努力を推し進めてきたつもり。だから僕は、これまで出てきたような映画に出てきたのです」
そうして本業で十分忙しいジョーダンは、最近、イギリスのプロサッカーチーム、ボーンマスのオーナーのひとりにもなっている。
「子どもの頃少しやったので、サッカーは知っていました。それに、スポーツチームのオーナーになってみたいという気持ちもありました。僕は負けず嫌いな性格ですしね。だから、このチャンスが訪れた時、すごく興奮しました。この文化や、この街を知りたいし、自分もその会話の一部でありたいと。このチームは、これからの3年か5年ほどの間にプレミアリーグのトップになれる潜在性を持っていると思います。ボーンマスの人たちも、僕のことをとても温かく迎え入れてくれました。この世界に関わっていけることを、すごく嬉しく思っています」
違った分野でも、ポジティブな形でジョーダンは世の中を変えていこうとしている。
5月26日(金)全国公開!(IMAX®/Dolby Cinema®/4D同時公開)
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配給:ワーナー・ブラザース
公式サイト:creedmovie.jp
取材と文・猿渡由紀、編集・横山芙美