フライト中は「何もしない」──TikTokの新トレンドが広まっている理由

長距離フライトで何もせず、リアルタイムのフライトマップをただ眺め続ける──。このような瞑想とも“チャレンジ”とも捉えられる機内での過ごし方が、一部の男性の間で広がりを見せているという。
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Photograph: Everett Collection; Collage: Gabe Conte

長距離フライトでは、暇な時間をやり過ごす工夫が必要だ。聴きたいポッドキャストのエピソードを大量に準備しておく、機内エンタメを網羅するなど、何かしらやることがないと長すぎるからだ。

フライト中ずっと何もせず、リアルタイムのフライトマップをただ眺めている人などいないように思えるが、実際には存在している。さらに、「フライト中に何もしない」過ごし方は、一部の男性たちの間でトレンドになりつつあるのだ。

7時間フライトマップを見続ける

ロンドン在住の26歳であるウェスト(ファーストネームのみ公開)は、7時間かかるフライト中にすべてのエンタメを拒否してフライトマップのみを見続けるTikTok動画を、今年5月に投稿して話題になった。動画のキャプションでは「フライト中に何もしない人、他にもいる?」と質問を投げかけた。

フライト中に何もしないというコンセプトは、「rawdogging(ロウドッギング)」「flying raw(フライングロウ)」「bareback(ベアバック)」などと呼ばれている。ウェストのTikTokアカウントには、「今週、ロンドンからマイアミのフライトで、食べ物も飲み物もなしで完全にベアバックした」と書き込む人や、「ベアバックで飛行機に乗ると、絶対に時間が短く感じる」という人などがいる。「Instagramで『ベアバックフライトのやり方を教えるべきだ』というDMをもらったこともありますよ」。US版『GQ』の取材に、ウェストはこう応えてくれた。

ウェブメディア『Slate』に所属する33歳のライター、ルーク・ウィンキーは、「フライト中は緊張するたちなので、映画もテレビ番組も本も雑誌も、なんであれ飛行機の中だと集中できません」と話す。彼はもう何年も、フライトマップを唯一の機内エンタメとして使用しているという。「飛行機で飛んでいる間は、新しい情報を処理するのが苦手です。予測可能で安心できるものに集中したいのです」

ある種の“チャレンジ”として捉える人も

フライト中に何もしない“ロウフライト”動画を最初に投稿して以来、ウェストはさらに数本の動画を投稿している(そこには、ロンドンからオーストラリアのパースまで21時間のフライトも含まれる)。ウェストが何もしないフライトを続ける理由は、単純に出張が多いからだ。彼は音楽業界で働いている。「同じ映画ばかり見ていると気分が悪くなるんですよ」と話すウェストは、何もしないフライトを瞑想になぞらえてこう語る。「(機内は)視覚的に制限があります。前のシートか、右か左、窓際なら窓を見つめるしかありません。聞こえるのはエンジン音のみで、これはホワイトノイズです」

瞑想にたとえる一方で、ないもしないフライトを実践する人々は、これをある種の“チャレンジ”として捉える傾向もある。機内で配られる無料のスナックや飲み物を拒否し、トイレの回数まで減らす。目的は、どこまで自分を追い込めるかだ。フライトで何もしない人は、機内の楽しみにも溺れないようだ。

ウェストいわく、彼の何もしないフライトの動画にコメントする女性たちは、ただただ驚きを伝えてくるという。何もしないフライトは“男性らしさ”に関係するらしいと、ウェストは考えている。「格好をつけたい、それがすべてかもしれません。(ロウフライトを実践する)多くの人は、ジョークでやっているか、または『俺はこんなにハードコアだ。(アスリートの)デイビット・ゴギンズにさえ弱みを見せないレベルだ!』という気持ちもあるかもしれません」

ウィンキーもこの意見には賛成だ。「男性には、女性のような“ご褒美カルチャー”がないと思います。それって残念なことですよね。女性にとって長時間のフライトは、ご褒美である旅の予定を組むのに最適な時間です。一方、男性は楽しんでいいはずの場所に対しても、ストイックなこだわりを持ってしまうのかもしれません」

誰からも邪魔されなくなる?

インドネシアのバリからロンドンへの20時間のフライトを通じて、ウェストは何もしないフライトの新たな利点を見つけたという。機内でフライトマップを見つめていたら、非常にいいアイデアが浮かんだというのだ。「(フライトマップを見ながら)今アフガニスタン上空を飛んでいるな。今は高度3万7000フィートじゃなくて、3万6000フィートなんだな」「これはTikTokの新シリーズとして面白いアイデアだな」というように、なかなかリフレッシュできる体験だったのだそうだ。「着陸して母と顔を合わせたら、『とても元気そうだね』って言われたんです。実際、充電完了した気分で元気でした。自分だけの時間を持てたという実感がありました」

何もしないフライトの最後かつ最大のメリットを教えよう。それは、フライト中に何もしていない状態でいると、誰からも邪魔されなくなるということだ。ウェストいわく、4人がけで彼の横に座っていた男性は、ウェスト1人が座る側ではなく、逆側の2人の前を通って席を立っていたという。「きっと、『この人の邪魔をしてはいけなさそうだ』と思ったのでしょうね。今の飛行高度にロックされている状態なのかも、って」ウェストはそう言って笑った。

From: GQ.COM
By Kate Lindsay
Translated and adapted by Soko


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