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ディオール、古代神話が着想源に。私的な歓びのラグジュアリーを表現【2023-24年秋冬クチュール 速報】

マリア・グラツィア・キウリ率いるディオール(DIOR)が2023-24年秋冬オートクチュールコレクションで表現したのは、古典的なシンプリシティ。控えめでありながら荘厳さが宿ったルックは、クワイエット・ラグジュアリーと共鳴する。

7月3日(現地時間)に発表されたディオール(DIOR)のランウェイには、女神のようなオーラをまとった66人のモデルが登場した。ショーは、白の明らかに上質だとわかるロングドレスとそれに合わせたケープで幕を開け、古代神話の彫像や神殿の円柱を思わせるプリーツや構築的なシルエットが続いた。

一方で、金メッキのレースやきらびやかなビーズといった繊細な装飾が施されたルックも。刺繍には純潔の象徴であるパールがふんだんにあしらわれ、シルバーの糸に織り込まれている。

従来のオートクチュールで見慣れていた複雑なボリューミーなシルエットは一切見当たらない。全てはディテールに複雑さが込められているのだ。

今シーズン、マリア・グラツィア・キウリは、イタリアの政治哲学者、アドリアーナ・カヴァレーロの研究にインスピレーションを得たという。古代の神話と哲学を女性の視点から研究した著書のひとつから、シンプルこそが最も複雑な創造である、と悟ったキウリは、古代グレコローマンがファッションにもたらした引き算の美学を探求したようだ。

そういうことから、メゾンの代表作であるバージャケットまた、特徴的な形状を崩さずにシンプルで軽かな表情に。どれも一見シンプルだが、ディテールを間近で見たり、実際に着たりすることでメゾンが誇るクラフツマンシップさが理解できるように計算されている。

さらに、キウリが力を入れているインドのチャーナキヤ工芸学校とチャーナキヤ工房とのパートナーシップは、イタリアのアーティスト、マルタ・ロベルティがデザインした巨大な刺繍作品に昇華された。ロダン美術館の特別会場の壁に飾られたこれらには、女神やそれに関連する動物が浮かび上がり、壮麗なコレクションのムードを引き立てていた。

控えめでありながら、複雑な贅沢さが宿る「クワイエットラグジュアリー」が最近浸透しているが、このコレクションにはその美学を愛する女性の心に響いたことだろう。身につける女性それぞれの美しさを引き出すことにこだわり続けているキウリとディオールにとって、今回のコレクションは静かにその真髄を示すものだ。

※ディオール 2023-24年秋冬オートクチュールコレクションをすべて見る。

Photos: GoRunway.com Text: Maki Saijo